2012年1月の日本初公演から3年、話題が話題を呼んで東京公演千秋楽には立見客も続出した大ヒットギャグ・ミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT featuring SPAM(R)』が2015年2月から再演される。そこで、稽古真っ最中の稽古場にお邪魔して、企画・脚色・演出の福田雄一とランスロット卿役の池田成志に直撃インタビューを行ってきた。
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――まずは、再演おめでとうございます。
池田:本当におめでたいかどうか分かりませんけどね(笑)
福田:あの演劇界のアレ何ですかね、初日おめでとうございますって楽屋に来るのは。
池田:大キライな習慣(笑)歌舞伎とかから来てるんじゃないですか?
福田:俺、ホントあれ凄くイライラするんするんですよ。めでたくないから(笑)
池田:一番忙しい時間にね(笑)
福田:お客さんにウケたかどうか、千秋楽にちゃんと終われたかどうかで、おめでたいじゃないですか。
――インタビュー初めからいきなり地雷を踏んでしまいました(笑)
池田:しない人も最近は増えてますよ。昔『マクベス』をやった時にみんなそういう事が嫌いだからって他の人はやらなかったのね。主役のマクベスが松本幸四郎さんだったんだけど、幸四郎さんだけ楽屋回りして、悪いことしちゃったなぁって(笑)
――では、今回の再演では楽屋回りはナシということで(笑)
福田:まぁ、めでたいことは何も無いですし(笑)
池田:基本、偉い人は誰も出てないしね(笑)
――それでは仕切り直しということで(笑)再演決定の経緯やご感想を。
福田:もともとは、僕が再演したいって言ってまして。前回の公演が終わった後に奇跡的に「黒字になりました」と言われて、じゃあ再演できるなって思ったんですよ(笑)
――前回の公演が2012年なので、それから3年ですね。
福田:そうですね。結構、早い段階から再演したいと言ってましたよ。3年かかってますけど、割と黒字になりましたって言われてからすぐ再演しようと思ってたから。一番最初に再演しましょうって言いに行ったのが、成志さんなんです。成志さんが受けてくれたら、もう俺的にはGOだったんですよ。あとは野となれ山となれで(笑)
池田:本当に楽しかったんですけど、体力的にというか、祭りみたいにアホなことを2週間やっていると、物凄く疲弊するんですね(笑)そうすると、福田さんが「次もやりますから」って言っていたのはだいぶ前から知ってたんですけど、なるべく耳をスルーさせようと思って。「あ~なるほどね。やるんだぁ」みたいに言って(笑)
福田:その期間に映像のお仕事とかで成志さんとご一緒した時にすっごいつれなくて(笑)最終的に半ギレ的に「俺、その時に何歳だと思ってるんだよ!」て言われて(笑)
――再演の製作会見でも、他の出演者の方々も「池田さんが出演されるから、出演を決めました」とおっしゃられてました。
福田:わりと出演者間のコミュニケーションはあったみたいです。
池田:僕も「皆川(猿時)が出るなら出るというのが絶対条件です」と。皆川も「成志さんが出るなら出る」って(笑)あとムロ(ツヨシ)とか色々あって。誰かが抜けちゃうと「俺一人でやんなきゃいけないの?」って寂しさもあるじゃないですか。今再び稽古してみて、また同じネタをやる恥ずかしさがあるじゃないですか。
福田:そこは避けて通りたいですね。
池田:だからって、やっぱりセリフは覚えなきゃいけない。ネタはネタで新しいのを考えなきゃいけないということで、ハードルは高いだろうなと想像していたんですが、案の定そうだったけどね(笑)
――今回の再演でネタを変えていくようなこともあるんでしょうか?
福田:原作があるものなので、そうそう派手に変えられないんですよね。ただ、やっぱり僕が終わった直後から再演を望んだのは、僕も出し切るほうなので悔いは残さないんですけど。これに関しては珍しく、もうちょっと出来たんじゃないかなぁという所で終わって、それで悔しい所もあって。結局、その悔しいと思っている部分を補完していくという思いで台本を書かせてもらっている感じですね。
――池田さんとしては再演版の台本を頂いて、その点はどう思われましたか?
池田:みなさんが期待されているような大袈裟にいっぱい変わるということは無いと思うんですよ。むしろファンタジーというかRPGみたいな中世の世界観をどーんとやっておいて、実はふざけるみたいな。設定だけはスゴイけど内容は自由という、世界観を出さなきゃいけないんだけど、あんだけやりきっちゃうと、最初からグズグズでやろうとするから、そこは難しいなぁと思うのが、台本は楽しいこと前提で書かれているんで、その空気感みたいなものをまずやらなければいけないんだろうなと。
――“空気感”というと?
福田:いつどのタイミングでお客さんの“壁”を崩していくかということだと思うんですよ。それでいうと、今回一番意識したのはそこかもしれなくて、前回の演者さんには何も言ってないんですが、前回の一番の悔いは一幕をミュージカルとして成立させるということだけで、割とイッパイイッパイになっちゃったなというのがあるんですよ。で、二幕は本当に設定自体をドリフ化していくから凄く笑いやすいんですけど。SPAMALOT自体がそういう構成になっていて、一幕は歌とダンスが多めなんですよ。ちゃんとミュージカルとして成立していて、それを上手いことに1時間で切り上げやがるんですよ。それで二幕はめっちゃお笑いを堪能できるシステムになってるんです。でもやっぱり一幕をもうちょっとコメディのものとして堪能してもらいたいなというのがあって。僕の中に悔いとしてあったので、そこを今回の再演で重点的にやっていきたいなというのはあります。
池田:福田さんの狙いのためには“フック”をかけておかないといけないね。騙しというか、これが中世の冒険物語ですってかけておかないと。
福田:“フリ”ですよね。
池田:そう、いかに“フリ”を効かせておかないといけないんだってことを、この前もマギーとかと話してたんだ。
福田:結局、設定を崩すだけじゃいけないんですよ。ちゃんと大仰にフリをしっかり作って、そこを如何に節度ある状態で崩していくかということだと思うんですよね。成志さんの言葉を借りて言うと、ちょっとこの前は“フリ”に負けていたというか、振るだけで精一杯になっていたなと。この前に『THE 39 STEPS』というヒッチコックの舞台をやっていたんですけど。ずっとプロデューサーと話していたのは、ヒッチコックの作品なのでお客さんにはサスペンスということをちゃんと振って、サスペンスなのかなという思いをもってもらうことで、それが一つのお客さんとの壁になるんだと思うんですけど。ちゃんとその“フリ”は存分に作ってあるんですよ。チラシとかも全然コメディとかを匂わせない完全なサスペンスの作りになっていたんですよ。
(『THE 39 STEPS』のチラシを出す)
福田:そうコレ。これはどう見てもコメディとは思えないチラシなんですよね。一応「コメディ化」とは書いてあるものの、完全にサスペンスであるかのように“フリ”を作りたいとしていたんですよ。成志さんが今言っていた“フック”という状態は、僕にとっては『THE 39 STEPS』のチラシだったんですよね。結局、『THE 39 STEPS』ではお客さんが客席に座って一番最初に観るシーンが渡辺篤郎さんが一人座って長いセリフを言う結構シリアスなシーンなんですけど。そのシーンで、観客に身構えてもらったところに佐藤二朗が出てきてペヤングの話をする(笑)そこで一つ壁を崩すと、壁ってちょっと崩れると割と簡単に崩れていくので。そこをちゃんと“フリ”としてスパマロットでは中世の物語として世界観をしっかり作ったところで、崩していきたいんですよね。崩し方を間違えてしまうと本当に成志さんが言ったようにグダグダになってしまう。
池田:俺たちもちゃんと戻さないといけないんだよね。
福田:キレイに崩していきたいんですよ。パズドラみたいに(笑)上手いこと部分部分を崩していくみたいに。
池田:これRPGみたいなもんだって言うと、モンティ・パイソンのファンであるパイソニアみたいな人たちがさ、モンティ・パイソンはもっと社会性があってブラックなものだって反論されるかもしれないけど。もともとのミュージカルのSPAMALOTの方にはあまりそういう要素は無いので、それはあんまりしないんですけど。
――たしかにSPAMALOTには関してはモンティ・パイソンの他の作品と比べても社会性が強いという感じはしませんね。
福田:そうですよね。エリック・アイドルだってバカじゃないんだし。アメリカでミュージカルにしてやろうとした時に、モンティ・パイソンが持っている独特のブラックさ加減みたいなものがミュージカルとして求められるのかといったら、求められないだろとエリックなりの考えがあって作られていて。僕も最初ブロードウェイにSPAMALOTを観に行って、そこがモンティ・パイソン色が濃かったら日本でやろうとは思わなかったと思うんですよ。そこがエリックによって凄くエンターテイメント化されていて、僕らが観ていたドリフターズのような冒険コントになっていたから、これは日本で絶対出来るなと思ってやろうとしたんです。そこが日本のミュージカルとしては珍しいエンターテイメントだと思ってるんですよね。
池田:しかも、そこを福田さんはエリックから書き変えてイイよって言われたんでしょ?
福田:そうなんです。
――エリック・アイドルのお墨付きですね。
福田:エリックは笑いで生きている人なんで、分かるはずじゃないですか。いわゆるブロードウェイのコメディ・ミュージカルみたいなものを日本で公演するときに外国人に演出させることあるでしょ。ありえないと思うんですよ。外国人が日本の笑いを理解することなんて絶対ないでしょ。逆も言えると思うんですけど、僕がドイツに行ってドイツのミュージカルを演出しろと言われても、ドイツのお客さんを笑わせられないんですよ。それでいうと、エリックは笑いのことを良くわかっているので、「日本には日本の笑いがあるから、日本のお客さんが笑えるようにセリフを書き変えないとダメだよ」と逆に言われたぐらいなんですよね。そこはやっぱりエリック・アイドルは素晴らしいなと純粋に思いました。
――モンティ・パイソンも日本のテレビで放送された時は、日本向けに演出家や声優さんによってセリフはアレンジされていましたね。
福田:僕は大学生の頃ですけどモンティ・パイソンを最初に観た時は、何が面白いのかさっぱり分からなかったなぁ。当時、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが「劇団健康」をやっている時期で、ケラさんが「モンティパイソンが面白い」と言っていたんですよ。それで、僕も学生で演劇を始めた頃だったからモンティ・パイソンを観なきゃいけないのかなと思って観たんですけど、さっぱり理解できなくて「何じゃこりゃ!? 何が面白いの?」って感じでしたね。それで全然僕の笑いの範疇じゃないなと一回モンティ・パイソンは捨てたんですよ。それで凄く憶えているのが30歳ぐらいのときですね、もう一回見直したんですよ。そうしたら、えらいベタだなと思えたんですよね。そこまでに僕の中に何があったかというと、その中に挟まっている笑いがダウンタウンなんですよ。多分、ダウンタウンって日本のお笑いを革命的に変えた人達で、あの人達によって今までの日本のお笑いの構図が崩されて新しい物が入ってきたんでね。そのダウンタウンのコントをたくさん観た後にモンティ・パイソンを観ると、えらいベタなんですよね(笑)そこで初めてベタだし、モンティ・パイソンが言わんとしている面白味みたいなものを初めて受け取ることが出来たんですよ。
――モンティ・パイソンはイギリス以外の他の国からだと高尚で社会風刺な作品だと捉えられていると思うんですけど、意外とモンティ・パイソンもイギリスで放送されているTV番組のパロディとかベタな話もあるんですよね。
福田:そうなんですよね。イギリス人にとっては非常に分かりやすいベタな内容なんでしょうし。やっぱり、いわゆるインテリ階級の笑いもあって。それで、ツッコミという文化が無いですよね。アメリカの笑いもそうなんですけど「xxやろ!」ってツッコミが無いことで、当時の僕には理解できない範疇だったんじゃないかなぁと。
――そうすると、そういうところが日本版SPAMALOTとしてアレンジされているんでしょうか?
福田:でも笑いのシステム自体は別に笑いやすいようにしようとそこまで考えてはいないですね。
――そこはオリジナルのSPAMALOTを踏襲しているのでしょうか?
福田:踏襲していたかなぁ…。
池田:そこまで踏襲はしていないですよ。
福田:原作の台本がどうだったか、ちょっと忘れましたね。一つ言えるのは原作を最初に直訳した台本は全然面白くなかった(笑)「アイツら、こんなつまらないセリフで笑ってたのかよ」って思いましたよ(笑)
池田:内容はそんなに無いからね(笑)聖杯を探して、見つかったってだけだから。
――その合間に、バカバカしい笑いを詰め込んでいけるかってことですか。
福田:そうですね。コメディってストーリーが簡単じゃないとダメだと思うんですよ。笑いを詰め込むときに、説明セリフを如何に少なくするかというのが勝負ですし。そこは大前提じゃないですかね。「アーサー王と円卓の騎士が聖杯を探す話」と一言で言える話だから、その間に笑いをガッと詰められるわけで。
――なるほど。そこでドリフ的な日本の笑いを詰め込んでいくんですね。
(後編につづく)
撮影:高橋将志