8月10日(日)、東京・シアタークリエでミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が開幕した。2016年に同劇場で日本初演を迎えた本作は、再演を重ねられているが、今回は2022年日生劇場公演以来の公演となり、4チーム編成で約2ヶ月にわたって上演される。本記事では、「Team BLACK」と「Team YELLOW」について、ゲネプロの模様をレポートする。

数々の名曲で綴る、栄光と挫折の物語が“聖地凱旋”!

Team BLACK
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、2005年にブロードウェイで初演を迎えた。ザ・フォー・シーズンズのメンバー自身がプロデューサーとして参加し、彼らの実話に基づいた物語とヒット曲「シェリー(Sherry)」「恋はヤセがまん(Big Girls Don’t Cry)」「恋のハリキリ・ボーイ(Walk Like A Man)」、そしてフランキー・ヴァリのソロとして発表され世界的ヒットとなった「君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)」で構成されたジュークボックスミュージカルとして誕生。翌年のトニー賞で最優秀ミュージカル作品賞を含む4部門を受賞し、その後ロングランを記録する歴史的な大ヒット作となった。

Team BLACK
日本人キャストによる日本初演は2016年。藤田俊太郎が演出を手掛け、読売演劇大賞、菊田一夫演劇賞など、数々の演劇賞に輝いた。コンサート版も交えながら再演を重ねており、今回は2022年日生劇場公演以来の再演。日本初演の劇場でもあるシアタークリエでの”聖地凱旋”公演となった。

Team YELLOW
本年は、初演から本作を引っ張る中川晃教らの「Team BLACK」、初参加の小林唯らを擁する「Team YELLOW」に加え、Team YELLOWの配役をベースにフランキー・ヴァリ役のみ花村想太が演じる「Team GREEN」、さらにフレッシュなキャストで贈る「New Generation Team」の4チームが組まれた。

Team YELLOW
物語の舞台はアメリカ・ニュージャージー州の貧しい片田舎。“天使の歌声”を持つフランキー・ヴァリが、鳴かず飛ばずのバンドグループを組むトミー・デヴィートとニック・マッシと出会うところから始まる。トリオで音楽活動を始めるもなかなか上手くいかない3人だが、そこに抜きん出た作曲の才を持つボブ・ゴーディオが加わりグループはカルテットに。

Team BLACK
やがて4人のハーモニーとボブの楽曲は、大物プロデューサーの目にとまり、ついに「ザ・フォー・シーズンズ」は、楽曲が次々と全米No.1を獲得する人気グループとなるが・・・ 。

Team YELLOW
“天使の歌声”を持つリードボーカルのフランキー、グループの中心的存在・破天荒なフロントマンでもあるトミー、都会的で天才的な作曲センスを有するボブ、類まれなハーモニーの才で原石だったフランキーの歌声を磨き上げるニック。

Team YELLOW
4人の栄光、挫折、友情、裏切りといったバンドを取り巻く人間ドラマをリアルに描きながら、全米を熱狂させた楽曲たちが物語とリンクし、「ジャージー・ボーイズ」たちが駆け抜ける激動の季節を鮮やかに彩っていく。
積み重ねた時間が深みを増す「Team BLACK」

Team BLACK
8月10日(日)に初日を迎えた「Team BLACK」は、フランキー・ヴァリ役を演じる中川晃教をはじめ、トミー・デヴィート役の藤岡正明、ボブ・ゴーディオ役の東啓介、ニック・マッシ役の大山真志と続投キャストのみで構成されている。2022年公演の「Team BLACK」から続投となるメンバーで構成されるこのチームは、安定したハーモニーと揺るぎない絆を感じさせ、円熟味を増していた。

Team BLACK
初演から本作にフランキー役で出演する中川にとって、フランキーはまさに「当たり役」だ。ニュージャージーの片田舎でトミーとニックが、フランキーの”声”と出会った瞬間の衝撃と感動。その降り注ぐような“天使の歌声”は、まさにその瞬間に居合わせたかのような感覚をもたらしてくれる。

Team BLACK
一方、繊細な台詞やモノローグの場面では、静かな語り口の中に激流に翻弄されるフランキーの感情が豊かに宿り、重ねて織り込まれるミュージカルナンバーと合わさり強く胸を打つ。特に、ある悲しみに暮れる場面で歌われる「Fallen Angel」は、涙なしには聴けない魂の叫びのようだった。同役を演じ続けているからこそ、中川の芝居力が一層豊かになっているのが伝わり、ますます心を揺さぶるのだ。

Team BLACK
そして、フランキーの兄貴分であるトミー役の藤岡はその複雑な人物像を巧みに演じた。ザ・フォー・シーズンズの創設者であるプライドと、フランキーの才能を見出した自負が言動の端々から強く感じられ、彼がいなければこの物語は始まらなかったのだと観客に強く印象付けながら、成功の裏に芽生える不安や、仲間との間に生じる小さな亀裂への気づきが交差した瞬間は切なさが漂う。

Team BLACK
場面ごとに変化する細やかな表情や身体表現が、トミーという役を雄弁に物語り、盟友である中川との阿吽の呼吸が二人の関係を一層色濃く見せていた。

Team BLACK
そしてグループの作曲家であり、「ジャージー・ボーイズ」らしからぬ都会的な感性を備えるボブ役を、東は実に魅力的かつ爽やかに演じた。東演じるボブは、登場と同時に場の空気を一変させる強い存在感を放つ。

Team BLACK
後から加わったメンバーでありながら、グループの中核にすぐに収まった説得力があり、カリスマ性を漂わせる中川のフランキーと並び立つ姿は、まさに運命のパートナーという風情。

Team BLACK
個性派揃いのフォー・シーズンズの中で人間的にも音楽的にもバランサーの役割を果たすのが、ニックという存在だ。大山が演じるニックは穏やかな包容力に満ち、優しさ、温かさ、メンバーへの愛情を強く感じさせる。

Team BLACK
深く響き渡る豊かなバスボイスはハーモニーの土台となるだけでなく、非常にセクシー。口数が少ない役柄だからこそ、自己の感情を爆発させるシーンではその重みが際立ち、彼らの均衡がいかに危ういものであったかを痛感させられた。

Team BLACK
「Team BLACK」の公演は、絵巻物のように物語が流れ、全体が一つの美しい旋律を奏でるかのようだ。一方、誰もが知る名曲誕生の場面では、爆発的な感動が客席を包み込み、世界観に圧倒される。その円熟したパフォーマンスは、観客に「これぞジャージー・ボーイズ!」という絶対的な熱狂をもたらしてくれる。
明るく勢いのある物語運びが光る「Team YELLOW 」

Team YELLOW
8月11日(月・祝)に初日を迎えた「Team YELLOW」は、フランキー役に小林唯を迎え、フレッシュな顔ぶれがそろった。トミー役のspiは本作の常連だが、トミー役としての出演は今回が初。ボブ役の有澤樟太郎は2022年公演からの続投で、ニック役の飯田洋輔は初キャスティングとなる。力強く明るく、遠くアメリカの風景がにじむような新たな「ザ・フォー・シーズンズ」が誕生した。

Team YELLOW
Team YELLOWで新たなフランキー像の誕生を鮮烈に印象付けた小林は「片田舎の少年」が名実ともに大スターへと成長していく道のりを、全身で体現した。その歌声は、透明感と芯の強さを併せ持つクリスタルボイス。物語の進行とともに原石から宝石へと磨かれ、立ち振る舞いや仕草も風格を増していく。クライマックスでは、物語の冒頭からは想像もできないほどの貫禄を漂わせ、力強い自信に満ちた”フランキー”の歌声に観客は圧倒されることだろう。

Team YELLOW
spi演じるトミーは、ビッグマウスで憎めない調子の良さと、兄貴分としての頼もしさを前面に出しながらも、自ら安定を破壊してしまうような、どこか闇を抱えた危うさも漂わせる。圧倒的な推進力を持ちながら、豪胆さと卑小さを同居させ、「田舎」的な思考から抜け出せない人物像は現実味が際立つ。ともすれば嫌味な存在にもなりかねないが、spiの軽やかな演技がそれを和らげ、この男と一緒にいれば「何か」を得られるのではないか・・・そんな予感を抱かせる魅力的なトミーを演じ上げた。

Team YELLOW
そんなトミーと対をなすのが、有澤演じるボブだ。有澤はまっすぐな演技とパワフルな歌声で素直かつ溌剌とボブを見せてくれた。作中ではやや“すかした”印象のあるボブだが、有澤演じるボブは末っ子的な人懐こさがあり、少年のような明るさが際立つ。天才的な作曲センスと未来を見据える目を持ちながらも年相応の青年らしい喜びや情熱を真っすぐに表し、場を明るく照らす。フランキーはもちろん、他のメンバーとの距離も近く感じられ、舞台全体の温度を引き上げる存在となっていた。

Team YELLOW
飯田が演じるニックもまた、非常に親しみやすい空気をまとっていた。トミーとは相棒のような関係を築きつつ、フランキーやボブに対しても“兄貴分”というよりは横並びに近い距離感でフラットに接する。時には一緒になって悪ふざけする軽やかさは特に魅力的で、下積み時代のバックコーラスでふざけ合い、笑い合う姿は実に楽しげだ。豊かな才能を持ちつつも「普通の人」の目線を失わないニックの存在が、舞台の空気をやわらかく保っていた。一方、劇場を震撼させるバスボイスはもう異次元。劇団四季で大役を歴任してきた歌声は伊達ではない。

Team YELLOW
「Team YELLOW」の公演は、明るく勢いのある物語運びで、テンポの良い展開やコミカルなやり取りが観客を引き込む。キャラクターたちは等身大で、観客は自然と彼らの思考や葛藤に共感してしまう。それゆえ、二幕で訪れる落差は鮮烈。クライマックスに向けより大きな感動を呼び起こすものとなっていた 。
受け継がれ、進化する『ジャージー・ボーイズ』
左右に積み上げられたレトロなテレビモニターや、舞台上カメラを巧みに織り込んだ映像演出、そしてセットに掲げられたFOUR SEASONSのネオンサインが放つ、60年代アメリカの薫りも心地よい。最後は観客も一体となって盛り上がれる構成になっており、劇場という限られた空間の中で当時の熱狂を追体験しているような気持ちになる。

Team YELLOW
そして、経験を重ねてなお進化する円熟したチームと、その背中を追いながら新たな輝きを放つ新たなチームは、同じ物語をなぞりながら、全く違う景色を見せてくれる。これが、今年の『ジャージー・ボーイズ』における最大の醍醐味だろう。

Team GREEN
この2チームに加え、前回公演で中川とWキャストを務め、その実力で観客を唸らせた花村想太率いるTeam GREENも控えている。そして特筆すべきは、大音智海、加藤潤一、石川新太、山野靖博で構成する「New Generation Team」の存在だ。

Team BLACK
「ザ・フォー・シーズンズ」の周辺を支えてきた面々が、メインキャストとして「ザ・フォー・シーズンズ」を演じる。この試みは、日本のミュージカル界の未来にとっても大きな意味を持つのではないかと思う。夢を求め、ステージに立ち続ける「ボーイズ」たちが栄光を掴む瞬間を、限られた公演数ではあるが、ぜひ目撃したいものだ。

Team BLACK
どのチームも、それぞれの“ジャージー・ボーイズ”が観客を鮮やかに物語の世界へと連れ出してくれるに違いない。
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、9月30日(火)まで東京・日比谷シアタークリエにて。
(取材・文・撮影/飴屋まこと、写真/エンタステージ編集部 1号)
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』公演情報
公演情報 | |
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タイトル | ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』 |
公演期間・会場 | 2025年8月10日(日)~9月30日(火) 東京・シアタークリエ |
スタッフ | 脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス 音楽:ボブ・ゴーディオ 詞:ボブ・クルー 演出:藤田俊太郎 |
キャスト | 【Team BLACK】 中川晃教 藤岡正明 東啓介 大山真志 加藤潤一 阿部裕 戸井勝海 ダンドイ舞莉花 原田真絢 町屋美咲 柴田実奈 LEI’OH 山野靖博 杉浦奎介 石川新太 【Team YELLOW】 【Team GREEN】 【New Generation Team】 |
チケット情報 | 【料金】(全席指定・税込) 平日:13,500円/土日祝日・千穐楽:14,000円/New generation:12,000円 |
公式サイト | https://www.tohostage.com/jersey/ |
公式SNS | @JerseyBoysJP |


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