ミュージカル『十二国記』開幕!柚香光&加藤梨里香“2人の陽子”で表現する「弱さを知る強さ」【レポート】

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2025年12月9日(火)に東京・日生劇場にて、ミュージカル『十二国記 -月の影 陰の海-』がついに幕を開ける。小野不由美による壮大なファンタジー巨編がミュージカルとして初舞台化。初日前日には、公開ゲネプロと開幕直前取材会が行われた。

異世界へと連れ去られ、過酷な運命に翻弄されながらも強く生き抜こうとする主人公・ヨウコ(中嶋陽子)を演じる柚香光と加藤梨里香。そして、演出を手掛けた山田和也が取材会に登壇した。

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目次

社会現象を巻き起こした大河ファンタジー、ついに世界初舞台化

「十二国記」は、小野不由美による大河ファンタジー小説。1991年に刊行された『魔性の子』から始まり、翌年刊行された『月の影 影の海』でシリーズ化され、以降30年以上にわたり、熱烈な支持を受けながら書き継がれている。2002年にはNHKにてアニメ化もされた。2019年、18年ぶりとなる新作長編『白銀の墟 玄の月(しろがねのおか くろのつき)』が刊行された際には、社会現象ともいえる盛り上がりとなり、オリコン「2020年上半期本ランキング」1位を獲得した。世代を超え、愛され続けている日本のファンタジー小説を代表するビッグタイトルが、ついに世界で初めて舞台に。今回上演されるのは、シリーズの原点となる「月の影 影の海」だ。

どこにでもいる平凡な女子高生・中嶋陽子の日常は、ある日突然崩れ去った。目の前に現れた「ケイキ」と名乗る謎の男。「あなたこそが主(あるじ)だ」と告げられた陽子は、拒絶する間もなく異形の妖魔に襲われ、地図にない異世界へと連れ去られてしまう。

たどり着いたのは、神仙や妖魔が存在する「十二国」の世界。しかし、陽子を待ち受けていたのは、裏切りと孤独、そして命を狙われる逃亡の日々だった。なぜ自分なのか、ここはどこなのか。誰も信じられず、心身ともに傷ついた陽子は、半獣の楽俊(らくしゅん)との出会いを経て、己の運命と向き合う覚悟を決める――。

【取材会レポート】仕上がりは原作者・小野不由美のお墨付き

取材会で、開幕を目前にした今の心境を問われると、柚香は「緊張してます(笑)。でも自信はあるというか、いい作品に仕上がっています」と、緊張の中にも確かな手応えを覗かせる。一方、加藤は「この3人の中で一番緊張してます(笑)」と素直な心情を吐露しつつ、「気合も十分、緊張も十分。少しでも鍛えるぞという思いで稽古してきました」と力強く語った。

演出の山田は、本作のテーマについて原作者の小野不由美と意見交換を重ねたという。 特にこだわったのは、小説同様に「陽子の視点」で物語が進むこと。「お客さんも陽子と一緒に異世界へ行き、見たことのない冒険をする。そういう感動を一生懸命作りました」と語る。また、通し稽古の映像を見た小野から「我々カンパニーに、原作者も感動している」というメッセージが届いたことも明かされた。

シリアスな作品とは裏腹に、稽古場には意外な「癒やし」が存在していたようだ。印象的なエピソードとして柚香が挙げたのは、やはり「楽俊(らくしゅん)」の存在。「楽俊が癒やしになってくれた」と柚香が笑顔を見せると、加藤も「生きてますね(笑)」と深く頷く。

どうやら楽俊は「稽古場のマスコット」的存在だったらしく、稽古場の端に座っている楽俊に対し、キャストたちが挨拶をしていくという微笑ましい光景があったとのこと。加藤が「(舞台上でも)視線泥棒だと思います」と評すると、柚香も「ずるい(笑)!」と同意。劇中で描かれる陽子と楽俊の絆は、カンパニーの温かい関係性の上で育まれたもののようだ。

元宝塚トップスター・柚香光の新たな挑戦

キャスト自身にとっても本作は大きな挑戦の場となっている。宝塚歌劇団卒業後、初のミュージカル出演となる柚香は、「やはり『女性として歌う』というのが本当に難しくて・・・」と、男役から女優への転換における葛藤を正直に明かした。「今の自分の状態に満足はしていないけれど、今日より明日、明日より明後日、皆様に『また見たい』と思っていただけるように頑張っているところです」と、進化を誓うストイックな姿勢は、劇中で試練を乗り越えていく陽子の姿と重なる。

加藤もまた、「今までで一番歌っている作品です。どう歌を保ち続けられるかが挑戦」と言う。また、陽子としてほぼ舞台に出ずっぱりとなるため、台詞のないシーンでの「居方」についても山田と入念に作り上げてきたという。

いよいよ始まる、壮大な旅を前に、柚香は「陽子が次から次へと来る試練に立ち向かい、希望が見えたらまた次の出来事が・・・という怒涛の旅路を、皆様にも一緒に体験していただきたいです。『十二国記』を大切に思っていらっしゃる方にも、『見に来てよかった』と思っていただけるように大切に努めてまいります」と挨拶し、取材会を締めくくった。

【ゲネプロレポート】二人の陽子がもたらす視覚の「違和感とその融解」

周囲の顔色を窺う臆病な優等生から、突然異世界に連れ去られる混乱と戸惑い――。物語の冒頭、女子高生として登場する陽子は、決して「強いヒロイン」ではない。人の目を気にして飲み込む毎日から「十二国記」の世界へと引きずり込まれる混乱を、加藤が圧倒的な吸引力で観客を引き込んでいく。

そして、本作の最大の肝であり挑戦的な試みが、「現実世界の陽子」と「異世界に連れ去られた後のヨウコ」を、柚香と加藤という、印象の異なる二人の役者で演じ分けるという点だろう。二人の表面的なビジュアルの違いは、一見すると不連続なものに映るかもしれない。しかし、物語が進むにつれてその「視覚的な違和感」は、驚くべき速度で融解していく。

陽子の魅力の一つは、自身の「弱さ」を知っていくことではないだろうか。繊細な表現が求められるこの役で、圧倒的な美と華を兼ね備えたスターでありながら、陰も感じさせる柚香の芝居力も存分に発揮されていた。

二人の陽子が交差し、歌声が重なる時、キャラクターの内面的な成長を「視覚の融解」として見せる、演劇でしか成立しない表現へと昇華されていた。限られた上演時間の中で、陽子の「成長」が痛いほどに伝わってきた。

脇を固めるキャスト陣の存在感も凄まじい。相葉裕樹演じる景麒(ケイキ)は、登場の一瞬でその場の空気を変え、「麒麟」という存在の神々しさを定義づける。一方、玉城裕規は、不穏な人外は十八番と言っていい玉城裕規は、青猿として登場する度に作品に濃い影を落とす。

そして、過酷な旅路の救いとなるのが、陽子の友となる楽俊(らくしゅん)だ。今回は太田基裕牧島輝のWキャストとなっており、劇中ではパペットを用いて獣の姿を表現する。パペットの操術に加え、「声」の表現がまた面白い。甘く柔らかくどこまでも優しい太田の声と、芯が太くて不器用なほどの誠実さが滲み出る牧島の声。アプローチは違えど、どちらも極限状態に置かれた陽子の心を「温かく包み込む」説得力があり、原作でも愛される楽俊を、愛すべきキャラクターとして三次元に見事に成立させていた。

製作発表の際、演出の山田和也が「モップ」という舞台装置について言及していたが、幕が開いて驚かされた。「確かに、モップだ!」と。 現実世界と異世界、海や荒野を、舞台上に配置された「モップ」のような装置と、回り盆、そして映像を駆使してシームレスに表現していく。

非常にアナログでありながら、最先端の映像技術と融合することで、見たことのない空間を生み出していた。これぞ、演劇でファンタジーを表現する醍醐味。壮大な物語をミュージカルへと昇華させた手腕に、幕が上がると同時に驚かされ続けた。

嵐のような運命に己の足で立ち向かう陽子と共に、「ミュージカル」として果てしない旅路へと足を踏み出すカンパニー。その覚悟が、『十二国記』の新たな歴史を紡ぐ。

ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』は12月9日(火)から12月29日(月)まで東京・日生劇場にて上演後、福岡・大阪・愛知を巡演する。上演時間は3時間15分(休憩25分含)を予定。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』公演情報

公演情報
タイトル ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』
公演期間・会場 【東京公演】2025年12月9日(火)〜12月29日(月) 日生劇場
【福岡公演】2026年1月6日(火)〜1月11日(日) 博多座
【大阪公演】2026年1月17日(土)〜1月20日(火) 梅田芸術劇場 メインホール
【愛知公演】2026年1月28日(水)〜2月1日(日) 御園座
スタッフ 原作:小野不由美「月の影 影の海 十二国記」(新潮文庫)
脚本・歌詞:元吉庸泰
音楽:深澤恵梨香
演出:山田和也
キャスト ヨウコ(中嶋陽子):柚香光
陽子(中嶋陽子):加藤梨里香楽俊(らくしゅん):太田基裕・牧島輝(Wキャスト)
蒼猿(あおざる):玉城裕規 舒栄(じょえい):原田真絢 延王(えんおう):章平
景麒(けいき):相葉裕樹
チケット情報 東京公演料金(全席指定・税込)
平日
S席15,000円/A席10,000円/B席5,000円
土日祝日・千穐楽
S席16,000円/A席11,000円/B席6,000円
公式サイト https://www.tohostage.com/12kokuki/
公式SNS @toho_stage
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