「第50回菊田一夫演劇賞」授賞式レポート!明日海りお「人と関わりながら作品を創り上げていくことが生きがい」

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第50回菊田一夫演劇賞

「第50回菊田一夫演劇賞」の授賞式が2025年5月21日(水)に東京・東京會舘で行われた。

授賞式には、演劇大賞を受賞した栗山民也、演劇賞を受賞した明日海りお長澤まさみ甲斐翔真上田一豪、特別賞を受賞した伊東四朗林与一が登壇し、喜びを見せた。

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栗山民也「演劇の力によって、世界のあり方というものを問い続けた」

第50回菊田一夫演劇賞

栗山の受賞対象作となったのは、ヴァージニア・ウルフの同名小説を舞台化した『オーランド』と、韓国創作ミュージカルの日本初演『ファンレター』。両作の演出を務めた栗山の成果が評価され、見事大賞に選ばれた。

受賞に際し、栗山は約35年前のロイヤル・ナショナル・シアターで参加したテネシー・ウィリアムズの現代劇『やけたトタン屋根の上の猫』の記憶を思い出したと言う。そこで栗山が出会ったのは、シェイクスピア俳優として知られるエリック・ポーター。
初めての通し稽古で「おじいちゃんの叫び声が聞こえる」と書かれたト書きを受けた彼は、舞台袖から役とは異なる「リア王」のような叫び声を出してしまい笑いが起きたというエピソードや、若手だけの場面がうまくいかない時に、何もない舞台の真ん中で「ここは海です」と彼が一言放った瞬間に、その場にいた全員が海を感じたというエピソードを挙げ、「演劇の力、本質と出会った瞬間」を振り返った。

さらに、受賞作の『オーランド』と『ファンレター』は「演劇の力によって、世界の在り方を問う作品」だと述べ、稽古を通じて自身も言葉から勇気を得たそう。

最後に、ノーベル文学賞作家ハン・ガンの「どうやったら世界を抱き締めることができるか?」という問いを胸に、「もうしばらくがんばってみたい」と今後の抱負を述べた。

明日海りお「人と関わりながら作品を創り上げていくことが生きがい」

第50回菊田一夫演劇賞

 

名作ミュージカルの新演出版『王様と私』のアンナ・レオノーウェンズ役、雲田はるこの漫画を原作に舞台化されたミュージカル『昭和元禄落語心中』のみよ吉役の好演が評価され、演劇賞を受賞した明日海。

これらの役を「人生のこのタイミングで出会えて良かった」と表現し、役として舞台に立った時の思いや、役を作り上げる過程で多くの人と話し合った時間すべてが「心の宝箱にしまっていた」ほど愛おしいと語った。
そして、今回の受賞で「その宝箱を堂々と開ける機会をいただき嬉しく思っています」と微笑んだ。

本当に舞台が大好きなようで、「人と関わりながら作品を創り上げていくことが生きがい」とし、感謝を忘れず精進したいと締めている。

長澤まさみ「演劇学校に通うような日々だった」

第50回菊田一夫演劇賞

長澤は、ロンドンでも上演された野田秀樹作・演出のNODA・MAP『正三角形』に出演。長崎の原爆投下という題材をカラマーゾフの兄弟の物語に落とし込んだ本作での演技が評価を受け、演劇賞を受賞した。

約4カ月に渡る作品への取り組みを「演劇学校に通うような日々だった」と振り返った長澤。映像作品からキャリアをスタートし、かつて演劇を遠い存在と感じていたものの、「舞台に立ってみたいと1歩進む勇気を出したことが、今こうして自分自身に返ってきている」と感慨を抱く様子を見せた。

「まだまだやらなくてはいけないことが多い」としつつも、受賞を勇気に変え、「最後まで演じきれる役者であれるよう精進していきたい」と語った。

甲斐翔真「僕は“ド根性シアター俳優”」

第50回菊田一夫演劇賞

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』にて、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」のスターであるサティーンと恋に落ちる作曲家志望のアメリカ人青年クリスチャン役、『next to normal』にて、双極性障害を抱える母親の心の中にのみ存在する今は亡き長男ゲイブ役を務めた甲斐。これらの演技が評価され、演劇賞を受賞するに至った。

甲斐はコロナ禍の2020年に初舞台を踏んだ経験を挙げ、発声が制限された環境はまるで「サイレントシアター」のようだったと振り返る。そしてパンデミックが収束へと向かっていた2024年。自身の受賞作である『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が、「日本のミュージカル演劇界に新たな炎を灯したような作品」だと語った。

さらに、「僕は“ド根性シアター俳優”」と笑顔を見せ、同作を通し、「舞台の“生”の世界が好き」と改めて実感したとのこと。「これからも“真実の空間”である生の舞台に身を置き、その空間をより多くの皆様と共有できたら」と力を込めた。

上田一豪「非常に皆様と一緒にいただけた賞」

第50回菊田一夫演劇賞

上田は、こうの史代の漫画を原作としたミュージカル『この世界の片隅に』と、アメコミ漫画家を目指す少年にフォーカスした『HERO THE MUSICAL』での演出が評価され、演劇賞を受賞。また、上田は甲斐の受賞作である『next to normal』の演出も担当している。

子供時代に児童劇団へ所属していたという上田。その経験から当初は俳優を志していたそう。そして憧れの『レ・ミゼラブル』や東宝演出部所属後の『モーツァルト!』のオーディションへ参加し、あえなく落選した過去をユーモラスに語った。
その上で「(オーディションに落ちた)おかげでここに立てている。ありがとうございます」と当時の演出家たちに向けて述べ、会場の笑いを誘った。

最後に「私一人では演劇作品を形にできない。非常に皆様と一緒にいただけた賞なんだ」と受賞への想いを、周囲への感謝とともに口にした。

伊東四朗「“長年の舞台に対して”ということが、とても嬉しかった」

第50回菊田一夫演劇賞

伊東は1937年に東京で生まれ、劇団「石井均一座」で舞台俳優として活動を開始。三波伸介、戸塚睦夫らと「てんぷくトリオ」を結成し、舞台、映画、テレビドラマ、バラエティと幅広く活躍している。

昨年は新橋演舞場にて『熱海五郎一座 スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~』に出演。こうした長年の功績に対し、特別賞を受賞することとなった。

コメント開始直後、「こんにちは、ご覧の通りのじいさんです」と挨拶し、会場を和ませた伊東。「“長年の舞台に対して”ということが、とても嬉しかった」と語るその芸歴はもうすぐ67年にものぼる。
年に一度は舞台に立ち、二十代には400日連続で出演したことなどを振り返った伊東は、「まだまだ元気にやっておりますので、どっかで転んでるのを見たら助けて」と笑いを誘いつつ、「受賞は長年舞台を観に来てくれた皆さんのおかげ。この賞は伊東家の誇りです」とコメントした。

林与一「激励の賞であり、私個人にいただいたもの」

第50回菊田一夫演劇賞

林は1942年に生まれ、曾祖父様は歌舞伎の名優・初代中村鴈治郎、祖父はその長男で歌舞伎俳優の二代目林又一郎という役者一家。大阪の歌舞伎座で初舞台を踏み、関西歌舞伎で修業後、東京に活躍の場を移した。数多くの帝国劇場の舞台に立ち、映画にも出演を果たしている。

昨年は前進座公演『雪間草 -利休の娘お吟-』で千利休役を演じるなど、これまでの功績に対し、特別賞が贈られた。

歌舞伎俳優として初舞台を踏み、東宝に入社した経歴を紹介した林。賞の名前にもなっている菊田一夫との親交を振り返り、「この菊田先生には、もう褒められたことは一度もない」と明かし、俳優仲間の間で「菊田先生のことをこれからは“親父”って呼ぼうぜ」と話していたなど、お茶目なエピソードを披露した。

過去にも菊田一夫演劇賞を受賞している林は、良い作品・役に恵まれたものとしつつ、今回の特別賞は「『今まで一生懸命頑張った。これからも頑張りなさいよ』という激励の賞であり、私個人にいただいたものと思っている」と喜びを見せた。

「人生100年、200年に寿命が延びようとしています。ますます精進し、あと100年は舞台に立ちたい」と締めくくった。

温かな拍手に包まれた「第50回菊田一夫演劇賞」受賞式。登壇者たちの更なる活躍を今後も期待していこう。

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