2023年11月3日に東京・有楽町よみうりホールで開幕したミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』。約30年ぶりに日本で上演される本作は、演出を元吉庸泰、主演をミュージカル初主演となる河下楽が務めている。開幕直前に行われた本作の公開ゲネプロと、河下楽をはじめとするメインキャストが登壇し見どころや意気込みを語った会見の様子をレポートする。
舞台は1960年代のイギリス、とある地方都市の人気店『CLUB A Go-Go』。そのクラブのサタデーナイトには、恋の悩みや葛藤を抱えたティーンエイジャーたちが集っていた。ポップなファッションとミュージックで陽気に歌い踊り交流をしながら、関係性を変化させていく若者たち。個性豊かな彼らが一夜に巻き起こす、青春模様が描かれる。
主人公はシャイで無邪気なリック。彼は心優しいシャロンと好き合っているが、互いに想いを言い出せないでいた。リック演じる河下楽は本作がミュージカル初主演であったが、初とは思えない安定感だ。真っ直ぐでひたむきなパフォーマンスはリックというキャラクターを象徴するようで、そのリアリティのある芝居は会見で他キャストからも絶賛の嵐であった。熊谷彩春演じるシャロンとの掛け合いと、彼女の優しくゆたかな歌声とのデュエットは必見、必聴である。
気弱なスー(ゲネプロでは黒沢ともよが演じた)は崇拝するゲリーと付き合っているが、ハンサムで自信家のゲリーは移り気で、セクシーかつ物知りで魅力的なペニーや他の女の子にもちょっかいをかける。自分に自信がない一方で曲げられない信念を貫く力強さを感じさせる黒沢の演技力と歌唱力は圧巻。そんな彼女と対照的な、普段は自信家だがいざというときに臆病になってしまうゲリーを、持ち前の華やかさと人間らしい可愛らしさを滲ませるパフォーマンスで演じきった神里優希からも目が離せない。
粋がるチンピラだが憎めないエディは、クールで人気者なリーダー的存在のブリジットを、閉店までに口説き落とすよう周りの男の子たちに挑発されている。コミカルな役どころだが、ここぞという場面の男らしさにドキッとさせられるそのギャップは、エディ演じる一色洋平の実力の為せる技であろう。彼が縦横無尽に客席を駆け回る姿も印象的で、客席全体が『CLUB A Go-Go』であると思わせてくれる。高田夏帆演じるしっかり者のブリジットはすらりとしたスタイルにオーラあるたたずまいだが、その中にキュートさをも感じさせるところが魅力だ。
セクシーで物知りな女の子のペニーを演じるのは田野優花。生意気だが愛らしさ溢れる彼女を余すことなく披露した。そして、テリーを演じる石川新太は、歌・芝居・ダンスとマルチな才能をもって存在感を放つ。メインで歌うナンバーはもちろんのこと、作品の随所で目を奪われずにはいられないだろう。
クラブオーナーのエリックと常連客のボビーは、からかいつつも彼らを優しく見守る。エリックを演じるのは、1992、1993年の上演時にも本作に出演している川平慈英。今なお第一線で活躍する彼が、要所でティーンエイジャーの彼らを、そして舞台をまとめてくれる。またHideboHはなんといってもタップダンスが見逃せない。ストーリーのスパイスとなるクールでスタイリッシュな彼のダンスは、会場全体を熱狂させる。
本作の見どころは数多くあるが、その中でも欠かせないのは圧倒的なナンバー数を誇るファッショナブルなショー、そして客席を巻き込んだ賑やかでエキサイティングなパフォーマンスである。30曲を超えるロックナンバーはそれぞれ魅力的で、観客を決して飽きさせることがない。カラフルなファッションに楽しげなロックミュージックは、目にも耳にもとても楽しい。しかも、その光景は決して舞台上にとどまらない。
彼らはたびたび客席を訪れ、ときに観客を巻き込みながら歌い踊る。舞台と客席に境界線はない。会場全体が『CLUB A Go-Go』なのだ。そこにいる人はみな等しく、クラブでのサタデーナイトを楽しんでいるのである。だからこそ、観客自身も没入せずにはいられないし、スポットの当たっていない登場人物からも目が離せない。何度でもその世界を訪れたくなってしまう、そんな作品である。
公開ゲネプロの後に行われた会見には、主演の河下楽をはじめとしたメインキャストが登壇した。河下は、「素敵な共演者さんと演出家さん、スタッフさんたちと作り上げたこの最高の作品を信じて挑みたい」「見に来てくださる方には後悔させない自信がある、楽しませる」と力強く語り、初主演ながら頼もしい様子を見せた。
唯一初演にも出演していた川平は「一人でも多くの人に観てもらいたい」と繰り返し強調し、本作の見どころについて「全部でしょ」と答え、会場を沸かせた。その上で、リックとシャロンの恋模様や、30曲以上にのぼるナンバー一曲一曲、そして30年前の公演ではなかったHideboHのタップダンスを挙げた。それに対しHideboHは、「気持ちや感情を表現するタップとしてやらせてもらった」と話す。
会見では他にも稽古場や公演の裏話が語られ、給水のタイミングの難しい本作では舞台上のバーカウンターで実際に水を飲んでいることが明らかに。観劇の際は、給水用のボトルのラベルにも注目したい。会見は終止和やかに進行。キャスト陣の仲が良いこと、そして河下がキャスト陣に愛されていることが伝わってくる。その様子は、いかにも作品とリンクしているようで印象深かった。
ミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』は、11月3日(金・祝)から11月19日(日)まで東京・有楽町よみうりホール、11月21日(火)から11月23日(木・祝)まで大阪・松下IMPホール、11月28日(火)に宮城・電力ホールにて上演予定。上演時間は2時間20分(休憩20分を含む)。
『CLUB A Go-Go』のサタデーナイトは、青くて熱くて多幸感に溢れている。是非出かけてみてはいかがだろうか。
(取材・文・撮影/矢島春花)
開幕に向けた意気込み
◆河下楽
ほんまに素敵な共演者さんたちと演出家さん、スタッフさんたちと作り上げたこの最高の作品を信じて挑みたいと思います。観に来てくださる方には、絶対に後悔させない自信があります。足を運んでくだされば、絶対に楽しませて帰らせます! よろしくお願いします!
◆神里優希
ようやく本番の日が来たなという感じで、めちゃくちゃ楽しい気持ちでいっぱいです。今回は客席も舞台というか、劇場全体がステージになっていますので、皆さんと一緒に楽しい空間を過ごしていきたいなと思っています。
また僕としては、二人のスー(Wキャスト)がいらっしゃるので、たくさん観にきていただきたいなとも思います!
◆一色洋平
この作品はお客様がいないと完成しないというか、いないときつい!(笑)だから、僕はまだこの作品の本当の楽しさを知らないんだろうなと思っています。ステージ数もありますので、是非ともこの作品を皆さんと一緒に育てていただけたらと思っています。
◆石川新太
こんなに、早くお客様が入ってほしい、早く初日の幕が開いてほしいと思うこともなかなかないなと思っています。お客様ありきのこの作品、お客様が入っての化学反応がどうなるのかがとっても楽しみです。頑張ります!
◆黒沢ともよ
今回やらせていただくスーは結構振り切った役なので、思いっきり楽しんでできたらいいなと思っていますし、共感してくれる側面があるみんなのためにも、丁寧に大切に演じていきたいと思います。超楽しみです!
◆ダンドイ舞莉花
ダブルキャストならではの、演じることと観ることの両方の楽しみを味わうことができて、本当に本当に毎日楽しいです。今日も客席でぶち上がろうと思います(笑)(初日は黒沢がスーを演じた。)
◆熊谷彩春
こんなにお客さんと一緒に作っていくような作品に出演したことがないので、アトラクションみたいな感覚で楽しんでいただけたらなと思っております。個性豊かなキャラクターたちがいっぱい出てくるので、毎回毎回、今日はこの人!というようにフォーカスを置いたら楽しいんじゃないかなと思います。頑張ります!
◆高田夏帆
本当に大胆で自由で、こういう作品こそもっともっとたくさん出るべきだなって思っていたので、ここから皆さんの目に留まって、どういう風な反響があるのかっていうのがすごく楽しみです。初ミュージカルなので、ブリジットとしても私としても、楽しめたらいいなと思っています。頑張ります!
◆田野優花
こんなミュージカル観たこともないし、こんなミュージカルがあったんだなと感じたことも今まで生きてきて無かったので、そんなミュージカルに出られて本当に光栄に思います。本当にみんなの仲が良くて! 楽くんが愛されるキャラクターで、スタッフさんからも共演者のみんなからも愛される素敵な人柄があってこそ、真剣にふざけるっていうこの作品の良さを皆さんに伝えられると思います。皆さんも全然ふざけてもらって全然良いので! 楽な気持ちで楽しんでいただけたらなと思います。
◆HideboH
アトラクションとか、自由って言葉が出ているんですけど、これは本当に珍しい形だと思っていて。どこからどこまでが舞台や客席なのか自分らでもわからないというような、楽しめる作品になっております。そして本当に、出演者のみんなのムードが良いですから! 僕と慈英さんは世代が離れておりますけど、それをまったく感じないで、楽しくやらせていただいております。男前が多いですけど、僕もイケメンとして(笑)そういう気持ちで、楽しくやらせていただいております。楽しんでください!
◆川平慈英
物凄くハッピーなキャストのみんなに感謝しています。今は自粛とか規制だらけの社会で、息苦しいというか、生きるのが大変な毎日なんですけど、この『CLUB A Go-Go』というステージは、そういうのは一切ありません。気が付いたら、あなたが私たちのメンバーになっているかもしれません。皆さん是非ともここにいらしてください。日頃のストレスから何から、溜まったものを私たちが全部出させますから!
一人でも多く劇場に足を運んでくださいますよう、是非ともよろしくお願いします。素敵な仲間がお待ちしております。
ミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年11月3日(金・祝)~11月19日(日) 有楽町よみうりホール
【大阪公演】2023年11月21日(火)~11月23日(木・祝) 松下IMPホール
【仙台公演】2023年11月28日(火) 電力ホール
スタッフ・キャスト
【作】ザ・ヘザーブラザーズ
【翻訳・訳詞】小田島創志
【演出】元吉庸泰
【音楽監督】大嶋吾郎
【振付】原田薫
【出演】
河下楽 神里優希 一色洋平 石川新太
黑沢ともよ・ダンドイ舞莉花(Wキャスト) 熊谷彩春 高田夏帆 田野優花
HideboH/川平慈英
伊藤広祥 黑田陸 山口ルツコ 深瀬友梨 齋藤千夏 秋野祐香
あらすじ
イギリスのとある地方都市のサタデーナイト。
地元の人気店「CLUB A Go-Go」は人生の学校、青春の世界。ティーンたちが集い社会のすべてを知る為に学ぶ場所。
無邪気なリックと優しいシャロン。シャイな二人は互いに好き合っているのに恥ずかしくて言い出せない。
気弱なスーは崇拝しているゲリーと付き合っている。
けれどハンサムで自信家のゲリーはセクシーで魅力的なペニーや他の女の子にもちょっかいを出す。
男の子たちは、粋がっているエディに、クールなリーダー格の女子ブリジットを閉店までに口説き落とせと挑発している。
個性豊かなティーンエイジャーたちが織りなすロマンスや葛藤をクラブオーナーのエリックは揶揄いつつも励まし、見守っている。まるで家族のように。
さあ! 土曜の夜は『CLUB A Go-Go』へ!!
公式サイト
【公式サイト】https://slice.of.saturdaynight.jp/
【公式X(Twitter)】@a_sosNIGHT