2023年10月26日(木)に東京・シアターサンモールにてミュージカル『THE STAR~悪魔と契約した男~』が開幕した。初日当日に公開ゲネプロと囲み取材が行われ、旺季志ずか(脚本・演出)、原田優一、緑川静香、蜂谷眞未、山本涼介、大高洋夫、秋本奈緒美が登壇した。
本作は、「ストロベリーナイト」「カラマーゾフの兄弟」「女帝」など数々のヒットドラマを執筆してきた脚本家の旺季が脚本・演出、そして製作総指揮を務める日本発のオリジナルミュージカル。ある女性ばかりの劇団を舞台に繰り広げられる愛と欲望をファンタジックに描く。
主演は、ミュージカル界の第一線で活躍し、七変化の演技でミュージカル界屈指のカメレオン俳優として知られる原田。メインキャストに緑川、蜂谷、山本、大高、秋本らが名を連ねる。作曲はミュージカル「えんとつ町のプペル」の作曲家Ko Tanaka、舞台美術に石原敬、振付をCenが務める。
物語の舞台は、女性ばかりの劇団。劇団員の乙女は実は男で、ある女優に恋をしたことからミュージカルスターの座を投げ打ち、女装して劇団に紛れこんでいた。そして、劇団が、50周年記念公演の新作として、千年に一度咲く「パキラ」という花をモチーフとしたミュージカルを企画する。
娘役トップスターの紅月(こうげつ)は当然自分がヒロインを演じると考えるが、演出家の友近が新しい試みとして主役に男優を迎え、ヒロインは男優との相性を考慮して決めると発表し、ヒロイン候補の1人に男役であまり目立たない美光(みかげ)を考えていることを打ち明ける。
波紋を呼ぶ記念公演の稽古が進み、加入した男優の蓮斗は自信のない美光と心を通わせていく。その中で、乙女はある理由から演目の内容に戸惑い、そして恋をした女優の心を欲しいがあまり悪魔に体を明け渡すという契約をしてしまうのだった・・・。
囲み取材に立った旺季は、まず本作の製作経緯について「このミュージカルは、私が舞台上の原田さんを観て、この人だったら女装して男役もできるんじゃないかという発想を得たんです。でも、最初は断られたんです。コメディーで女役はやったことはあるんだけど、シリアスで女役は危険なんじゃないかということで。それを、やってくれなかったらこの台本は封印しますとまで言って、1年かけて口説き落としまして、無理矢理に引きずり込んで今日に至りました」と説明し、「稽古をしてきまして、この素晴らしい俳優さんたちにやっていただいたことですごく手応えを感じていて、エンタメの世界を変えていきたいなと思っています」と自信を覗かせた。
乙女役の原田は、旺季の話しに「3年ぐらい前にお話をいただいたんですけど、私が断ったわけではございません。誤解なきように(笑)」と弁解すると、会場から笑いが起こった。続けて、旺季に対して「思ったことに突き進むという本当に素直な方なんだなと思っています。よく稽古場で秋本さんと、旺季さんのことを『カワイイよねぇ~』という風に話をしていたんです。ピンクがこれほど似合う方はいないと思いますし(笑)」とコメントしつつ、作品についても「作品もそういう風なことで、突き進むと言いますか、上昇していくようなそんな作品なんだなと思っています」とアピールした。
役柄について、原田は「乙女という役はとても難しい役どころでもありますけれども、お客様にどのように伝わるかというところですが、伝わり方というのは作ったお芝居というよりかは、そのエネルギーでこのお芝居の中に役として入り込むということが旺季さんの心情としてありますので、旺季志ずかの世界に入って、私も演じられたらと思っております」と意気込みを披露。
劇団のベテラン女優・瑠璃役の秋本は「乙女とは心の友と思っている役ですが、若干恋心もありつつ、ラブシーンだと思ってやっております(笑)。人間同士の愛ですとか、そういったことも盛り込まれておりますので、観る方それぞれにたくさんの愛をお届けできればいいなと思っております」と意気込みを語った。
紅月役の蜂谷は「こんなに素敵なカンパニーで、旺季さんの作品も本当に素晴らしくて、出演できることをすごく嬉しく思っています」と喜びを露わにし、演じる役に対して「紅月はすごく演劇を愛する役だと思うんですけど、すごくこの役を通して、原点に戻っているような気がしています。何が大事なのかなとか、すごく稽古をしなきゃなとか、いろんなことを考えながらやっています」と打ち明けた。
シアターサンモールが初舞台の地だという美光役の緑川は「オーディションから1年が経って、やっとという感慨深いものがすごくあります」と思いを明かし、「美光という役は自信がなくて、どんどん人に出していく姿というのをどう演じたらいいのか、そして、志ずかさんの思いをどう伝えられるのかというのを日々試行錯誤しながら稽古をしてきました。なので、お客様にこの思いがどうか届くようにと思っております」と期待を寄せた。
さらに、蓮斗役の山本は「旺季さんからは『蓮斗は王子っぽくいて』みたいに言われていたので、千秋楽まで王子様ぽくいようと思います(笑)」と冗談交じりに挨拶。友近役の大高も「僕は演出家の役なので歌も踊りもないんですけど、皆さんは歌うシーンがあって正面切って歌われるんです。だから僕も正面切って芝居をしようとするんですけど、旺季さんから『正面向かないで』と言われちゃいました(笑)」と冗談を交えて稽古を振り返り、笑いを誘った。
本作の演出で心がけたことに関して、旺季は「俳優さんたちに、この役を生きてほしいということを言っています。劇場でしか味わえないような繊細なエネルギーが、役を生きた時にだけ震えとしてお客様に伝わると思っているんです。単純に言うと、心を動かすということだと思うんですけど、私が考えているのは笑って、泣いて、絶望して、そして希望を見て、愛に溶けるみたいな“感情のジェットコースター・ミュージカル”です。そんないろんな感情を2時間の間にジェットコースターのように味わっていただけるかなと思っています」と解説。
そして、見どころとして「やっぱり男と女を演じ分ける原田さんの二役です。さらに、その二役みたいなことが他の役にも結構多くて、劇中劇の役とか、悪魔に取り憑かれた時とか、いろんな役者のすごく素敵な面を引き出せたかなと思うので、そこが見どころです」と挙げた。
その二役を演じる原田は、役作りについて「作者が稽古場にいるというのは強かったと思います。なぜこのような関係性で書いたのかとか、セリフもこういう風に取捨選択して言葉を選んでいるのかというのも直接聞けたので良かったなと思ってます。これが役づくりとしても本当に助かりました」と稽古を振り返った。
女性だけの劇団を舞台にした本作であるだけに、物語の序盤は劇団の可憐に華やかで楽しいミュージカルシーンからスタートする本作。そこからヒロインの座をかけたドラマが巻き起こり、さらに過去と現在が錯綜し、ダークで幻想的な物語へと加速度的に展開していく。
その物語に、エンターテインメント性の高いナンバーから、苦悩や、愛、欲望などの感情を繊細に描いたナンバーという幅広いミュージカルシーンと、そこに真摯に寄り添う演者たちによって、まさしく旺季の言葉どおりの“感情のジェットコースター・ミュージカル”が生み出されている。
乙女を演じる原田は序盤のコミカルな女装姿から、愛と欲望の果てに悪魔と契約してしまう男という難役を演じ歌い分け、原田の美しく切ない思いを乗せた力強い歌声が劇場に響き渡り、心を震わせる。
そんな原田を筆頭に、緑川や蜂谷らが演じる個性あるキャラクターたちが、生演奏により臨場感あふれるミュージカルナンバーでステージを彩る。さらに、Cen演じる悪魔の象徴である「黒い影」が、幻想的な物語のダークな要素を引き立てているのも印象的だ。
人間の欲望と、それに打ち勝つ愛を描く魂の舞台芸術。旺季自らが惚れ込んだ才能あふれる俳優とスタッフで贈る日本発のオリジナルミュージカルの幕が開く。
ミュージカル『THE STAR~悪魔と契約した男~』は、11月5日(日)まで東京・シアターサンモールにて上演。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
ミュージカル『THE STAR~悪魔と契約した男~』公演情報
上演スケジュール
2023年10月26日(木)~11月5日(日) シアターサンモール
スタッフ・キャスト
【脚本・演出】旺季志ずか
【原案協力】竹腰紗智
【音楽】Ko Tanaka
【振付】Cen
【美術】石原敬
【主演】
原田優一
緑川静香 蜂谷眞未 山本涼介 松本裕子 若江佳乃子 柳茉里 皆川梨奈 青柳汐音 四宮真理 西郷輝美 高嶋太一朗 西垣秀隆 平井浩基 Cen 大高洋夫 秋本奈緒美
各務立基(声の出演)
公式サイト
【公式サイト】https://thestar-devil.com/
【公式X(Twitter)】@thestar_akuma