『オイディプス王』三浦涼介×石丸さち子インタビュー「出会った、という感じがした」

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2023年7月8日(土)に開幕した、三浦涼介主演・石丸さち子演出の『オイディプス王』。パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念として上演される本作に、三浦のほか、大空ゆうひ、新木宏典、今井朋彦、浅野雅博をはじめ魅力的な俳優陣が、コロス役として悠未ひろ、大久保祥太郎ら16名が集った。

石丸は、蜷川幸雄の演出助手としてなど、これまでにも何度もこのギリシャ悲劇に触れている。しかし、今回3度目のタッグとなる三浦を主演に迎えたことで、本作の捉え方に大きな変化があったと語った。三浦と石丸に、その過程を語ってもらった。

――今回の『オイディプス王』は、三浦涼介さんのご出演が決まったことで、物語が一気に立ち上がってきたと伺いました。

石丸:そうですね。プロデューサーから『オイディプス王』をやりませんか?というお話をいただいき、オイディプスは三浦涼介さんで、と提案いただいたことから始まりました。『マタ・ハリ』で三浦さんと初めてご一緒した頃かな。

ギリシャ悲劇って様式的に演出されることが多いんですが、私はこの『オイディプス王』を、過酷な運命を背負った一人の人間としてリアルに捉えてみたかったんです。そして、三浦さんと出会ったことで、今まで何度も『オイディプス王』のクリエイションに参加してきた私の記憶を覆すような新しい演出ができるんじゃないかなと思いました。何より、『マタ・ハリ』でアルマン役を演じていた三浦さんが本当に素敵だったので、もう一度この人とやってみたいという気持ちが強くあったんですよね。

三浦:ありがとうございます・・・。石丸さんとの出会いは、自分にとってもすごく大きな出来事でした。俳優というお仕事を続ける中で、いつも「これでいいんだろうか」という悩みがつきまとっていたのですが、石丸さんとご一緒した時に「もっとやりたい」という気持ちが芽生えたんです。すごく勇気づけられましたし、お尻を叩いてくれました。

――すごくいい出会いだったんですね。

三浦:はい。以前蜷川幸雄さんの演出作品に出演させていただいた時に、僕の芝居を見た蜷川さんから「お前はこうやって苦しんで、1人寂しく生きてきたんだな」と言われたことがありました。石丸さんも同じように、僕の芝居に涙を流してくれたことがあったんです。その時、「何かがこの人に伝わっているんだ」という確信が生まれて。

舞台って、本番のステージで、お客様の前に立った時に初めてリアクションを感じられるものですから、そこまでのお稽古期間は不安な毎日を過ごすんですね。だから、石丸さんのその反応を見た時に「この人を信じてついていけば大丈夫」と思えたので、この作品のお話をいただいた時は、作品名よりも何よりも、「演出・石丸さち子」ということに惹かれてお引き受けしました。

――一緒に創作を始めてみて、お二人の期待は確信に変わりましたか?

石丸:私は自分でも脚本を書きます。だから、2500年前に書かれたこの作品が今も生き続けているというその力を、本当に実感しました。こんなに良く書けていて、こんなにも言葉が残酷で、それでいて美しくて、読み方によってどうにもなる謎もある。過去にコロス役で参加したり、蜷川幸雄さんの演出助手として携わりしましたが、俳優として出ている時は自分の台詞や自分の役のことを中心に考えていましたし、演出助手の時は演出家の想いを叶えることを一番に考えて本を読んでいたんですね。

それが今回の本読みで、三浦くんが、まだ分からないこともいっぱいある中、それでも台本に書いてあることにまっすぐに反応をしながら読んでくださった時に、今まで見えていなかったこの作品の偉大さを知り、また涙してしまったんです。オイディプス王が辿る運命を、三浦くんはすべてリアリティを持って体験してくれた。その時「私、なんて読めていなかったんだろう」「想像力が欠けていた」と衝撃を受け、改めて演出家として1から『オイディプス王』に向き合っていかなければいけないという思いを抱きました。

本読みの時にも言ったんですが、私は「泣く」ということがそんなに良いことだと思っていないんです。でも、オイディプス王だけでなく、人間はなんて不条理で、不合理で、不公平な中で生きているんだろうか。運命を背負って生まれてしまった人、運命を背負って生きている人は、どれだけ辛いんだろうか。最近、身近で起こったことなども思い起こされて、涙が止まらなくなってしまったんです。休憩中にも「あれはなんだったんだろう」と思うぐらい(笑)。

稽古に入って、三浦くんはこの大作と向き合って本当に苦労してきたと思うし、私もどう向き合っていったら私たちの想いを形にできるんだろうと必死になってきましたけれど、読み合わせから素晴らしいスタートだったんです。出会った、という感じがしました。

三浦:本読みの日など、初めてご一緒するキャストの皆さん、スタッフの皆さんと出会うその日は、やっぱりすごく緊張するんです。怖いし、楽しいの「た」の字もない(笑)。でも今回は「石丸さんがいるんだ」という安心感がどこかにあって。すごく難しい台本なので、最初は詰まってしまうところもいっぱいあったんですけど、三浦涼介としてすごく通じる部分や、分かってしまう部分がまっすぐに先へと進ませてくれた気がしました。だから、最後まで気持ちを途切らせることなく歩めたという感覚があります。

――再び石丸さんの涙を見た時は、どう思われましたか?

三浦:逆に不安にもなりました(笑)。素直に読んだんですけど、足りていないことは自分が一番分かっていましたから。実際にお客様の前に立つまでにどこまでたどり着けるか。稽古の中でいろんなことを学んで、全部知った上でこの素直な気持ちにまた戻れるのか、とか。

石丸:不安に思うことはないです。演出家はサバ読みするんですよ。稽古をしてどこにたどり着けるか、それをサバ読みできないと演出はできないですから。演劇として、俳優がやることって、基本嘘じゃないですか。嘘なんだけれど、そこに真実もある。この「真実と嘘のバランス」を考えるのが稽古だと思うので。あの時(本読み)で出会った真実を上手に嘘にできるように。そして、演劇の本番って「真実」を呼んでくる力があるんですよ。三浦くんは、心が動いた時に一番素敵な発見をする俳優だと思っているので、また私が泣いても不安に思わないでください(笑)。

三浦:はい、ありがとうございます(笑)。

――今回の座組の印象は?

三浦:本当に皆さん素晴らしい役者さんです。お話させていただく中でもとても尊敬できる部分がたくさんあって、僕はそれに日々触れながら、たくさん学ばせていただいています。

石丸:本当に良い俳優たちが集まってくれました。人間の心情を、リアルを根拠に作ろうととても繊細な芝居をされています。大きく拡大するのではなく、ものすごく丁寧にこの台本を読み解いて、一人の人間の話を作り上げてくれました。三浦くんと良いチームになれる方が集まってくれた、という手応えがあります。

――本作は、パルテノン多摩のリニューアルオープン1周年記念として上演されます。広いホールですが、どのような使い方を?

石丸:ギリシャ悲劇って、中心に館があって、その前にステージがあって、上手下手に訪れる人たちが出てくる、というのが基本なんですね。その基本は守りながらも、今回の舞台美術では、「天に上る、神に繋がるような階段」をイメージしました。その階段の中腹からオイディプスが現れる、というイメージにしたかったんです。飢饉の中で救いを求める民衆たちにとって、オイディプスは神と自分たちの間の立つ人というイメージを強く持たせたくて。とても素敵なセットになっています。

――三浦さんは、古典中の古典、悲劇の代表作の一つであるこの物語に触れて、新しく気づいたことはありますか?

三浦:僕も「悲劇」という部分にすごく囚われていたんですが、絶対的に「希望」を持って、最後に舞台を去りたいと思っています。一番の希望は、やはり「生きている」ことだと思います。過酷な運命を背負っているけれど、死では終わらない。僕自身も、残された者でも生きているから出来ることがあると感じることがあります。生きてるから、そこに希望があるはず。悲劇を見て、「すごく悲しい話だったな」という思いを抱えてお客様が帰るのではなく、何か一つ、希望を持って帰っていただけるようなところにたどり着けていたらいいなと思っています。

石丸:オイディプスが選ぶ最後を、三浦くんが演じているのを見て「なんて強い選択をしたんだろう」と初めて気づきました。これまでにも、何度もこの作品に出会っていたのに。私は今、現代劇を読み解くみたいに、オイディプス王の心理について分析しているんです。このキャスト陣と共に、オイディプスがどう成長し、何が見えるようになり、何に気づき、どこに達するのか。劇場で知るのが、私自身も楽しみです。

――最後に、お客様へメッセージをお願いします。

石丸:ギリシャ悲劇というと難しい印象を持たれるかもしれませんが、とても分かりやすい、とある運命のいたずらで自分のことを知っていく一人の男の物語であり、極上のミステリーでもあります。三浦くんという俳優をオイディプス役に得たことで、私は新しく、すぐそこにある物語として演出できるような気がしています。

劇場に来て、すごくいい歌を聞くとか、たくさん笑ってスッキリするとカタルシスを得ると思うんですが、悲劇の後に迎えるカタルシスに、お客様を案内したい。ギリシャ悲劇の醍醐味を、リアルな感覚で描きます。よろしくお願いします。

三浦:この作品の初日の幕が開いたということは、僕がオイディプス王としてステージに立っているということなので。それだけでも「希望」があります。それをぜひ観に来ていただけたら嬉しいです。

(取材・文/エンタステージ編集部 1号、舞台写真/オフィシャル提供)

目次

パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念
『オイディプス王』公演情報

上演スケジュール

【作】ソポクレス
【翻訳】河合祥一郎
【演出】石丸さち子

【出演】
三浦涼介 大空ゆうひ 新木宏典(荒木宏文改め)/
浅野雅博 外山誠二 吉見一豊 今井朋彦/
悠未ひろ 大久保祥太郎 相馬一貴
岡野一平 津賀保乃 林田航平 小田龍哉
丸山厚人 福間むつみ

ほか

公式サイト

【公式ホームページ】https://www.oedipus.jp/




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