舞台初挑戦の船越英一郎が主演を務める明治座創業150周年記念『赤ひげ』。11月12日まで東京・明治座で上演され、12月には大阪・歌舞伎座でも幕を開く本作には、船越の他、新木宏典、崎山つばさ、猪野広樹、高橋健介(Wキャスト)、菅井友香、山村紅葉らが出演。今回、東京公演の初日の様子と会見の模様をお伝えする。
山本周五郎の傑作小説「赤ひげ診療譚」の舞台化となる本作は、江戸時代の小石川養生所を舞台に、武骨で謎めいた医師「赤ひげ」と青年医師、そして貧しい患者や市井の人たちとの魂の交流を描いている。
患者に医術を施すだけでなく、患者の抱える事情にも踏み込み献身的に面倒を見る新出去定(にいで・きょじょう)通称「赤ひげ」役を、芸歴41年にして初舞台となる名優・船越が演じる。
そのほかのメインキャストには、長崎遊学を終え、小石川養生所に医員見習いとしてやってくる保本登役に新木、同じく小石川養生所で医員として働いている若き医員の津川玄三役に崎山、森半太夫役には猪野と高橋がWキャストで出演している。さらに、とある患者を献身的に看病する女中・お杉役を菅井、女中の取りまとめ役として随所で盛り立てるお光役を過去テレビドラマなどで船越と多くの共演経験を持つ山村が務めている。
初日の公演を終えて会見に登壇した面々。船越は、初舞台の初日を終えた心境として「初舞台の初日にお客様から大きく温かい拍手と、スタンディングオベーションまで頂いて感激しました。本当に今日はいいお客様に恵まれて、我々も気持ち良く舞台を務めさせていただいたと思います」と安堵の声を漏らすと、「今日、一番嬉しかったのはご覧になったお客様の皆様から全員が印象に残ったと言っていただいたことです。これは医療ドラマですから、皆様の体を治すわけにはいかないですけど、ちょっとでもご覧になった方たちの心に何か温かい種みたいなものを我々が植え付けられたらと思います」と感無量の面持ちで語った。
新木は「1ヶ月半しっかり稽古をして、やっとこの作品の産声が上がったような、そんな初日を迎えることができて、本当に感謝しています」と述べ、「医療ドラマなので、命がテーマに入ってくる作品だからこそ、重くなってしまうかなというところで、ズッシリした空気のまま幕を終えるのかなと思っていましたが、こんなにも温かい拍手を頂けたことで、この作品が皆さんにとっても必要なものだったんだなということを感じることができました。今日、この作品が終わってから頂いたあの空気感というものを、全公演いつ観に来ていただいても維持できるように最後まで精一杯務めて参りたいと思います」と意気込んだ。
﨑山は「稽古場から船越さんと紅葉さんがいて、何かサスペンス的な事件が起こるかなと思ったんですけど(笑)、何事もなく無事に初日を迎えられることができて本当に嬉しく思います」と“サスペンスの帝王”船越と、“サスペンスの裏女王”山村をネタにしてコメント。続けて「個人的な事件としては、船越さんに美味しいものをたくさん食べさせていただいたことと、紅葉さんを“もみちゃん”と呼べるようになったことが僕の中では一番の事件だなと思っています(笑)。このカンパニーの力、座長・船越さんの温かさ、最後までついて行って怪我なく終われるように頑張りたいと思います」と意気込みを語った。
Wキャストとして初日公演に出演した猪野は、「初日が無事に終わりまして、本当に大変な稽古だったんですけど、最後にお客様の顔を見た時にやって良かったなと思いました」と初日を振り返り、「どんちょうが降りた時にしばらくキャストが舞台上に残ったんですけど、その中で船越さんが『一生忘れられない日になりました』とおっしゃってくださったことがすごく嬉しくて、このカンパニーにいることができて、本当に幸せだと思いました」と喜びをあらわにした。
猪野とのWキャストとして遅れて初日を迎える高橋は「今日は一観劇者として観させてもらったんですけど、やっぱり船越さんの初舞台を初日一緒に立てなかったということで、猪野くんに嫉妬しています(笑)」と冗談を交えつつ、「ですけど、袖から見たあんな満面の笑みの船越さんの顔が忘れられませんでした。最後にどんちょうが降りてくる時に、スタッフの方から『みんな一歩下がって』と言われていたのに、船越さんだけ気持ちが行き過ぎて、誰よりも前に立っていました(笑)。すごい光景でしたし、とても素敵な場だったんだなと思いました」と初日公演を振り返った。
船越は、カーテンコールで前に出すぎていたことについて尋ねられると、「全然気づきませんでした、隣にいるんだから言えよ!」と新木に逆ギレして笑いを誘うと、新木は「前に出てるなと思いました(笑)」と返して、和気あいあいとしたカンパニーの仲の良さを見せた。
初日を終えて安堵の様子を見せた菅井は、「私にとっては初めてづくしで、本当に目まぐるしい日々の稽古だったんですけど、今日は船越さんに何度も肩を叩いていただいて、そして『頑張ろう』と言っていただいて、そのほかの皆様にも声を掛けていただいて、なんとか今日、走り切ることができました」と吐露すると、「日々、赤ひげという作品から私自身も生きる力をいただいているなと思っております。先輩方と共に私も精一杯食らいついて頑張って参ります」と気を引き締めた。
山村は「大きな拍手とスタンディングオベーションを頂いて、本当にもう今は感無量でございます」と開口一番に胸の内を明かした。さらに「お稽古が1か月半もあるんだと思って、出演を辞めておこうかなと思ったんですけど(笑)、長年、船越さんとはお世話になっている仲ですし、お稽古では、船越さんがみんなや私にも気を使ってくださって、美味しい食べ物だけじゃなく、声をかけていただいて、本当に温かいお稽古場でした。それが作品にも出たのかなと思います」と稽古を振り返った。
そして、山村は自身の役について「作品のテーマが“病と貧困”ということで重いですけど、今にも通じることだと思いますので、いろいろ考えさせられました。その中で、私の役は明るくちょっと皆さんがホッとしてもらったり、クスッと笑ってもらえる場面になればいいなと思いました。ですが、笑う場面でもみんながそれぞれのイケメンばっかりジッと見つめて、まったく私のほうは観ていないことが多かったんですけど(笑)」と新木らをジョークのネタにしながら役柄の魅力を語った。
舞台上で大きく目を引くのが、中央の盆と、その盆を囲むように半円形で舞台の天井にまで伸びる大型の回転セットとなる外盆だ。中央の盆には小石川養生所の診察室など赤ひげたちの活躍の場が設けられ、外盆には長屋の住人の住まいとなっている。
そのセットについて、新木は「セットがすごく大きな建物になっていて、お盆と人力によっていろんな転換で、いろんな形で、いろんな角度からお見せすることができる」と魅力を挙げながら、大きなセットだけに稽古場にはなかったことから「頭の中であのセットを想像しながら稽古をしなきゃいけないというところで、セリフは落とし込んだ上で、稽古場で転換をイメージしてどういう風にお客さんに見えているのかというところを想像しながら作らなければいけなかったんです」と稽古での苦労を明かした。
保本が小石川養生所に医員見習いとしてやってくるところから始まる本作。保本という外部の目から見た赤ひげと小石川養生所の姿、そして“病と貧困”というものを、巨大で迫力もありつつ、当時の風土などを緻密に感じさせる豪華なセットが様々な角度から舞台上に映し出し、その印象的な舞台上で、保本ら若き医師たちが赤ひげと、そして市井の人々と魂の交流をかわしながら物語が紡がれていく。
赤ひげ演じる船越は初舞台とはいえ、大ベテランの俳優。独特の風貌で、病だけでなく、患者の事情にも向き合う姿を、厳しさと、優しさ、そしてユーモラスさを複雑に混ぜ合わせながら、重厚な演技で赤ひげを魅力あるキャラクターとして舞台上に存在させている。
そんな船越は、本作の出来栄えに「今回、私が『赤ひげ』をやらせていただく一番のテーマは、稽古場と、現場と、そしてこの小石川養生所がまったく同じ世界観になることです。稽古場での我々の関係が、そのまま去定と、若い医師たち、そして療養所で働く皆さんと同じ空気感になりたい。これがお客様にこの空気感、この僕等の信頼関係が伝播していくということが、リアリティーだと思っています。そんな風に一人一人の力を合わせて、これが今、実現できているんじゃないかなというのが大きな喜びです」と喜びと共に自信を覗かせた。
さらに本作は、若き医師たちの成長物語でもある。青年医師たちの中で中心人物として描かれている保本を演じる新木は、世間知らずで頭でっかちの若造という役柄で序盤は笑いも交えつつ、赤ひげや市井の人々との交流を通して、人間として大きく成長していく姿を丁寧に、そして真摯に演じきっている。
そんな青年医師たちを演じる4人のキャストについて、船越は「新木くんは非常に誠実です。ちょっと誠実で真面目すぎます。俳優はもっと不良でいいんじゃないかという気がします(笑)。ホントにナイスガイです。つばさは、一番頼もしいです。ちょっと兄貴分的な感じで本当に頼りになる存在。広樹はとってもナイーヴで、とても頭がいいクレバーな青年ですね。だけど、ものすごく秘めたる情熱があります。健介は、広樹をそんなに怒らせたいのかというぐらい、広樹をイジることに命を賭けてます(笑)。健介が最年少なんですが、それをいいことに先輩たちに甘えています、一番やりたい放題、言いたい放題(笑)。わざとこのカンパニーの中で天真爛漫な役割をしてくれています」と褒めたたえた。
最後に、船越は「この舞台は時代劇で、江戸時代のお話でございますが、僕たちは現代のお話だと思って取り組んでおります。今日のお客様の素晴らしいお顔を拝見すると、1人でも多くの方にこの舞台を観ていただいて、そして少しでも皆さんがこの大変な3年間を乗り越えて、そしてこのアフターコロナをどうやって生きていこうか、そんなヒントがこの舞台にはものすごく詰まっていると思いますので、それを見つけに、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います」とメッセージを送り会見を締めくくった。
明治座創業150周年記念『赤ひげ』は東京公演を終え、12月14日(木)からは大阪・新歌舞伎座にて上演予定。上演時間は約3時間(途中休憩あり)。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年10月28日(土)~11月12日(日)明治座
【大阪公演】2023年12月14日(木)~12月16日(土)新歌舞伎座
スタッフ・キャスト
【原作】山本周五郎「赤ひげ診療譚」(新潮文庫刊)より
【脚本】堤泰之
【演出】石丸さち子
【キャスト】
船越英一郎
新木宏典 崎山つばさ 猪野広樹・高橋健介(Wキャスト)
河相我聞 久下恵美 田淵累生 成清正紀 武岡淳一 瀬野和紀 塚本幸男 宮川安利
菅井友香
高倉百合子 麻生かほ里 名越志保 中山義紘 飯塚三の介 吉橋航也
柿澤ゆりあ・浅沼みう(Wキャスト) 岩崎祐也 山口竜央 山﨑タカヤス 竹中友紀子 佐藤玲羅
加藤岳・橋本偉成(Wキャスト) 小川向日葵・長田葵(Wキャスト)
深沢敦 山野海 真凛
山村紅葉
【公式サイト】https://www.meijiza.co.jp/info/2023/2023_10/
【公式X(旧Twitter)】@akahige_stage