2021年5月6日(木)Bunkamura シアターコクーンにて、コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』が開幕する。初日前には囲み会見が行われ、演出・美術の串田和美、キャストの中村勘九郎、中村七之助、尾上松也が登壇して意気込みを語った。
浪花の市井の人々を描いた『夏祭浪花鑑』は、コクーン歌舞伎で過去1996年、2003年、2008年に上演している人気演目。恩ある主人を守るべく奮闘する男だての心意気や、夫のために自己犠牲を厭わない女房の姿など、義理人情がふんだんに盛り込まれた物語である。
コメント紹介
◆串田和美(演出・美術)
――初日への意気込み
色々なことがありましたが、やっと幕を開けることができました。本作は、1996年に僕が初めて歌舞伎を演出した作品で、コクーンだけでなく国内外の様々な劇場で上演されてきました。最も大好きな芝居が久しぶりに幕を開けるということで、ほっとすると同時に、喜びが湧き上がっています。
――演出やみどころについて
これまで積み上げてきた大切なものを壊さないようにしたい、という思いが強くありました。色々な条件や制限がある中で試行錯誤を繰り返してその時は大変さを感じていましたが、今となってはある意味、あの努力が良かったなあと(笑)。
あの辛さを乗り越えられたのは、十八世中村勘三郎さんの遺志を継いだこの一座の力だと感じていています。長い歴史の中で、どうやらお祭りは楽しい時だけやるものではない。苦しい時も、お祭りでそれを祓おうとしたということに改めて気づかされ、そういう思いで演出をしていきました。
――改めて原作を読み直して感じたこと
どんな人間だって一生懸命生きていて、自分が生きる証のようなものをささやかながらに、色々な形で探しているんだなあ、と。主人公・団七は決して利口ではないし、つまらないことで犯罪を犯してしまったりもするのですが、それでも生きていることを一生懸命示したいという内側から湧いてくるものに忠実だったんだと思います。
――稽古中のエピソード
2時間の尺にしないといけない、というのが辛くて辛くて。ここを切らなきゃいけない、ここを急がせなきゃいけない。そんな試行錯誤が思い出されました。
◆中村勘九郎
――初日への意気込み
大変な状況の中、幕を開けることができて本当に嬉しいです。この‟祭りの灯(ひ)”が消えなかったということは、我々役者としても、次に進むステップの一つになったのではないかと思います。まだまだ油断できない状況が続いていますが、いらしてくださった一人一人の心の栄養になるように、一致団結して、超楽しいお祭りをお届けしますので、どうぞご期待ください。
――コロナ禍での舞台への思い
休業要請などがある中、本作が幕を開けられることは本当に幸せなことだと感じています。やはりお客様の安全が第一だと思っているので、安心安全に観劇できて、かつ苦しい日常を少しでも忘れていただけるような舞台空間や肉体の芸術をお届けするのが我々の使命だと思っています。ぜひ生きる鼓動を味わっていただけたら幸いです。
――中村長三郎の出演について
歌舞伎役者は「型」があってそこに心を込めていく作業を行っていくのですが、今回のようにゼロからの演出を受けたことが、彼の後々の人生に大きなプラスになるんじゃないかと思いますし、色々なことを吸収して、楽しんで自由に舞台空間に存在しているので、親としても嬉しいです。
――改めて原作を読み直して感じたこと
義理人情が薄まっている時代に、はっと思わせてくれるような作品です。体の芯からにじみ出てくるものを忘れちゃいけないな、と感じさせてくれますね。
――稽古中のエピソード
義太夫狂言なので「型」があって、そこに心を入れていく作業なのですが、串田さんが常におっしゃってくださるのは「実の部分をちゃんと持っていないと真実は見えてこない」という、歌舞伎だけ出なく役者としての基本の部分でした。なので、目から鱗と言いますか、我々も初心に戻れるような稽古期間を過ごせました。
◆中村七之助
――初日への意気込み
初日を迎えられることを幸せに思います。たくさんの思い出が詰まった本作。30日まで一生懸命に務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
――コロナ禍での舞台への思い
色々な立場での考えがあるとは思いますが、私個人としては演劇は止めてはいけないと思っています。
『夏祭浪花鑑』の稽古では、久しぶりにお祭りの音を聞き、腹の底に眠っている人間の魂の震えのようなものを体感しました。これを聞くだけで元気になります。公演は安心安全に行われておりますので、ぜひ足をお運びくださいませ。
――改めて原作を読み直して感じたこと
自分のためではなく人のために動くお話しで、これは「愛」だなと思っています。頭で考えるのではなく、腹の底から湧き上がるもので動物的に動ける人たちの、悲しくもあり、こういう風に生きなくてはいけない、という熱い魂の話だと感じています。
――稽古中のエピソード
いつものコクーンの稽古だな、と感じました。串田さんは忘れがちなことを思い出させてくださって、そしてそれを皆がすぐに修正していく様子が「久しぶりのコクーン歌舞伎の座組だな」と感じさせてくれました。
◆尾上松也
――初日への意気込み
初日を迎えられることが本当にありがたいです。串田さんの元、共演者の方々と本作に携われたことは、思い出深いものでございます。皆さんに楽しんでいただけるよう、精一杯尽くしたいと思います。
――コロナ禍での舞台への思い
大変な状況ではありますが、僕自身も休業している時にエンターテイメントや演劇に救われたので、自分たちが舞台に立てるチャンスをいただけたからには、自分が救われたように、皆さんの希望になるようなお芝居ができたらと思います。
――改めて原作を読み直して感じたこと
絆や人の繋がりを改めて感じましたし、今までも理解していたつもりだったのですが、こういう時代だからこそ思うことがありました。絆や支え合いで信じあえる、愛し合える姿勢は、今だからこそ僕たちが命がけで届けていきたいです。
――稽古中のエピソード
コクーン歌舞伎は2回目なのですが、前回も色々な発見がありました。今回も久々に稽古に入り、勢いでやってみろ、と言われがむしゃらに演じた時は、ああコクーンに戻ってきたな、、という感じがしました。
――一寸徳兵衛とお辰の演じ分けについて
見てからのお楽しみです(笑)。
それぞれ違う人物ですから、役の「実」を大切にしつつ、それをどういう風に表現できるかは追及していきたいです。なにより早拵え(=早着替え)なので、出番にに間に合うようにがんばります(笑)
『夏祭浪花鑑』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年5月6日(木)~5月30日(日) Bunkamuraシアターコクーン
【松本公演】2021年6月17日(木)~6月22日(火) まつもと市民芸術館 主ホール
キャスト・スタッフ
【出演】中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、中村虎之介、中村長三郎、中村鶴松、中村歌女之丞、笹野高史、片岡亀蔵
【演出・美術】串田和美
【公式サイト】https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_kabuki/
あらすじ
血の気は多いが義理人情に厚い団七九郎兵衛(勘九郎)は、とある喧嘩が原因で牢に入れられていたが、国主浜田家の諸士頭・玉島兵太夫の尽力で解放され、女房のお梶(七之助)、息子の市松(長三郎)と再会する。後日、団七は恩人である兵太夫の息子・磯之丞(虎之介)と、その恋人・琴浦(鶴松)の仲が悪人によって引き裂かれようとしていることを知る。そのため団七は、兵太夫にゆかりのある一寸徳兵衛(松也)と、その女房のお辰(松也)、釣船の三婦(亀蔵)らと協力して助けようとするが、団七の義父・義平次(笹野高史)だけは彼らの義侠心を踏みにじる。夏祭りの夜、散々に悪態をつく義平次に必死に耐えていた団七は・・・。
(C)松竹