『熱海殺人事件 ラストレジェンド』荒井敦史インタビュー!「常に崖っぷちのような戦い方をしているのが、俺」

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2021年1月14日(木)に東京・紀伊國屋ホールにて『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』が開幕した。耐震工事に入る紀伊國屋ホール、現在の姿で最後に上演されるのは、長年、同劇場で“春の風物詩”として上演され続けてきたつかこうへいの代表作。

今回は、“ダブルスタンバイ”というサブタイトルのとおり、全登場人物がWキャストとなっている。木村伝兵衛部長刑事役を演じるのは、ここ数年同役を演じ続けている味方良介と、昨年『改竄・熱海殺人事件』ザ・ロンゲストスプリングを経験した荒井敦史。『熱海殺人事件』に並々ならぬ想いを抱き続けていた荒井は、念願の舞台を前に何を思うのか?

――荒井さんは、昨年の(以下、『改竄・熱海殺人事件』)で、念願の木村伝兵衛役を経験されましたね。

荒井:震えました。緊張しました。それまでさんざんでかい口を叩いていたので(笑)。あんなに心臓出そうになったのは、人生3回目じゃないかな・・・。

――ちなみに、1回目、2回目は?

1回目は、やっぱり初舞台の時でした。当時、16歳か17歳だったかな?ヒロインとのシーンで「ハイ、A。違う。次、B」って、Zまで色んな芝居のパターンを求められたんですけど、当時の俺は芝居なんてやったこともない田舎者でしたから、できるわけがない。もう「B」を求められた時点で引き出しなんてないから、すぐガス欠です。その時、稽古場の隅で吐きそうになってました(笑)。

2回目は、今回の演出をしてくださる岡村(俊一)さんと初めてやった早乙女太一主演の『神州天馬侠』で。もうね、椅子の位置まで覚えてる(笑)。なんかいろいろダメだった日に、共演者だった山下翔央くんと帰りながら、嗚咽してました。それ以来の、形容詞しがたい状態になっていましたね。

――荒井さん、木村伝兵衛役はずっとやりたかった役でしたよね?

そうです。でも、いざやることが決まると、いろんなこと考えちゃったんですよね。決まるまでは、有言実行にしてやると思って、言い続けてたんですよ。それこそ、岡村さんにはお会いする度に「熱海やりたい!」、今回Wキャストになっている味方(良介)にも会う度に「熱海やりたい!」って言ってましたし。でも、いざ「熱海がやれる!」ってなると、人間、「どうしよう」ってなるもんなんですね(笑)。人間というものは、意外と「やりたいものは向いてない」んじゃないかなと思ってしまいました。

――えぇ~!そんな?!

例えば、歌の仕事をやりたくてがんばったけど売れなくて、でも、芝居の現場に行ったらめちゃめちゃ大成した、みたいなパターンもあるじゃないですか。だから、やりたいことと向いてることは、実は裏腹なんじゃないか・・・と、寝ながら考えてしまったりしてね。

俺も、ちゃんと出来ているのかな、“それっぽく”しか出来ていないんじゃないかな、そんなこと考えていたら、『改竄・熱海殺人事件』の初日、(『熱海殺人事件』のオープニングで必ず流れるチャイコフスキーの)「白鳥の湖」が流れた瞬間、緞帳の裏でガタガタ震えが止まらなくなってしまって。舞台が始まる前に、舞台に仕込んでいた水が半分くらいになってました(笑)。

――拝見しましたが、期待以上、そして納得の木村伝兵衛でしたよ。

緊張してましたけど、嬉しかったです。コロナの影響で、最後までは出来ませんでしたが、それでも、自分が憧れ続けた作品に、しかも紀伊國屋ホールに立てたということは感慨深かったです。観ていて難しそうだなと思っていたことを、自分のこととして体験することもできましたし・・・いろんな感情が動きましたね。

――堂々としたお姿の裏には、そんな心の揺れが・・・。

ばーちょんさん(馬場徹)が木村伝兵衛を演じているのを観て、初座長は『熱海殺人事件』でやりたいと思ったんですよ。実は、これまで何度か座長(主演)のお話をいただいたこともあったんですけど、でも、やらないことを選択していたんです。とっておいたんです。だから、決まった時嬉しい反面、不安の方がでかくなっていたんですよね。

――荒井さんの中に、そんな確固たる目標があったんですね。

若いうちにすごい人に出会いすぎちゃったんですよね。同世代だけど、「この人たち、ヤバいのでは?!」と気づいたのが、23歳になった頃だったんです(笑)。だって、その頃一緒にやってたのって、日本で1番殺陣がすごい早乙女太一と早乙女友貴、劇団朱雀のメンバー、山崎銀之丞さん、馬場徹、矢崎広、真剣で居合斬りできる市瀬秀和さんとかですよ。

――荒井さんは10代でデビューされているので、ずっと知っている気がするのに年齢を聞くとまだお若くて、いつもびっくりします。

15歳でデビューさせていただいて今27歳なので、13年目になりますね。でも後からデビューした人より、舞台のステージ数でいうと、全然場数を踏めていないんですよ。D-BOYSのメンバーでも、俺より後に加入した人に比べて半分以下とかなんじゃないかな。いろいろ経験するにつれて、やっぱり場数って大事だなと思うこともありますし、数は少なくても濃密だったなと思うこともありますし・・・。

――いろんな想いを抱えての、本家『熱海殺人事件』ですね。

去年、『改竄・熱海殺人事件』を「やります、バージョンはザ・ロンゲストスプリングです」って聞いた時に、実は、どこかほっとした自分もいて。『熱海殺人事件』をずっとやりたいと思っていたけれど、自分が観ていたものにそのまま突っ込んでいったら、たぶん、味方のモノマネになってしまいそうだなと思っていたんです。だから、改竄版をやったことが、今、『熱海殺人事件』を観てくれる方に「味方と荒井でちゃんと違う色がある」という自信の根拠になっています。

――今回、Wキャストの味方さんも、大山金太郎役のお二人も、同世代の方ですね。

荒井:実は、池岡と味方とは高校が一緒だったんですよ。池岡は途中から転入してきたんですけど。味方は、1個上の先輩。でも、当時は一般人でした。ミュージカル大好きな、イケイケ一般人(笑)。でした。芸能コースじゃないのに、とんでもなく顔の整っている人がいて「なんだあの先輩は?!」って有名でした。

――当時から交流あったんですか?

いや、高校時代はほぼ接点はなかったんですよ。でも、なんか知ってた(笑)。それぐらい目立ってたから。一個上の先輩って、染谷将太とか仲野太賀とか、すごい人いっぱいいるんですけど、それでも味方のことが一番印象に残っています。一方的に。

――接点はなくても、ミュージカル好きというコアなことまで知ってたんですね(笑)。

そう、なんでだろう?舞台が好きで、その中でもミュージカルが好きって、何故か記憶にあって、実際、つかさんの七回忌の時にやった『新・幕末純情伝』で共演した時に聞いたら、「ミュージカルが好き」って言ってたから、俺の記憶は正しかったって答え合わせしました。

――ちなみに、味方さんは荒井さんのことはご存知だったんですか?

共演するまで知らなかったって言ってました。俺は知っていたけど向こうは知らない、そんな先輩後輩の関係性です(笑)。

――(笑)。

『新・幕末純情伝』をやっていなかったら、出会っていなかったんじゃないかとも思うし、味方自身も、あの経験がなかったら、そんなに役者としての幅も広がっていなかったんじゃないかなあって勝手に思ってます。巡り合わせってあるんだなと。

――高校の先輩であり、『熱海殺人事件』の木村伝兵衛役においても先輩の味方さんは、今の荒井さんの目にどう映っていますか?

そうですね・・・。芸歴でいうと俺の方が先輩だし、『新・幕末純情伝』で一緒にやった時は同じくらいのレベルにいると思ってたんです。さっきも場数の話をしましたけど、経験を重ねると人って変わるものなんだなということを、まざまざと感じました。俺、味方がこれまでにやってきた『熱海殺人事件』の稽古場を見せてもらったりもしていたんですけど、見る度に存在がでかくなっていっているのを感じたんですよ。物理的な意味じゃなくて。そういう感覚を抱いたのは、味方が初めてだったので・・・。

ふざけてよく言うんですよ。「たぶん俺は、味方良介の一番の贔屓だと思うよ」って。お前が「来い」って言ったら全部観に行くし、言われなくても行くし(笑)。自分的に、ずっと視野に入れておきたい役者なのかなと思います。芝居ってどっちがすごいとか言うものじゃないけど、形だけでも「競ってる」って見えた方が、自分たちも楽しいし、観てるお客さんも楽しいと思うんですよね。だから、そういう関係でいたいです。

――今言える、荒井さんならではの強みは?

荒井:それは・・・分からないっ!分からないけど、舞台に立っている時は、自分が一番輝いてると思っています。自分でハードルを上げて、逃げ場をなくして。うまくいかなかった時は半端なく落ち込むこともありますけど、それはそれで。常に崖っぷちのような戦い方をしているのが、俺です(笑)。

――だんだんとつかさんを知らない世代の俳優さん、観客が増えてくる中で、『改竄・熱海殺人事件』を観た時は、味方さんに続いてスピリッツを受け継いでくれる方が増えたと思いました。

俺は、残念ながらつかさんのことを知らない。でも、幸運なことにつかさんを知ってる人を知ってる。俺にとってのつかこうへいさんは、実在の人物なんだけど、空想の人物でもあるんです。岡村さんから伝え聞いたイメージが、俺の中の「つかこうへい」。それは間接的でしかないけれど、それでも全く知らないよりはプラスなんじゃないかなって思っています。

つかさんに師事していたり、つかさんの元でお芝居をしていた人たちは、いわゆる純血。誰かに伝えられた人はハーフ。だから俺らはハーフみたいなもの。でもいつか、最後の愛弟子と言われるばーちょんさんや、俺らハーフの世代が「つかこうへい」を伝える世代になるんですよ。ハーフは「お前ら、つかこうへい知らないだろ!」って言われる可能性もあるけど、知らないから『熱海殺人事件』やっちゃダメとか、つかこうへい作品をやっちゃダメとか、ないし。

もちろん、ばーちょんさんとかが観たら味方にも言いたいことあると思うし、俺には「違うだろ」って言いたくなることがあるでしょうけど、そういうものがあってこその、今の『熱海殺人事件』だと思うので。ちなみに、批判は全て受け入れます(笑)。

先のことは想像でしかありませんが、つかさんを知っている方たちが「つかさんはここらへんでスッと引く人なんだよ」と言ったらそうなんだと受け入れますし、継承していくべきとなったら、みんなでやっていくのもありだと思いますし。今、任せてもらったからには全力でやるだけです。

――荒井さんが立つ『熱海殺人事件』、楽しみにしています。

俺は、自分がばーちょんさんの『熱海殺人事件』を観た時に感じた「カッコいい」「面白い」という興奮と直感を、誰が何といっても大事にしたいと思い続けて、ようやくこの場に立てます。世の中の全てに感謝です。とは言え、実際にお客さんを目の前にしてみないと本当のところは分からない。日程的に、味方で始まり味方で終わるので、その間に入っていく俺をちゃんと観てもらえるように、精一杯がんばりたいと思います。よろしくお願いします!

作品情報

『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』
2021年1月14日(木)~1月31日(日) 東京・紀伊國屋ホール

【作】つかこうへい
【演出】岡村俊一

【出演】
木村伝兵衛部長刑事:味方良介・荒井敦史
婦人警官水野朋子:愛原実花・新内眞衣(乃木坂46)
犯人大山金太郎:池岡亮介・松村龍之介
熊田留吉刑事:石田明・細貝圭

【公式サイト】http://www.rup.co.jp/

チケット購入など:https://enterstage.jp/wp/database/2021/01/80102.html

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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