演劇製作会社る・ひまわりと明治座のタッグで、年末恒例となっている“祭シリーズ”が、10周年を迎える。その記念すべき作品のタイトルは、チャオ!明治座祭10周年記念特別公演『忠臣蔵 討入・る祭』(通称:忠る/ちゅーる)。平野良と小林且弥のW主演で、「忠臣蔵」を祭シリーズならではの“If・・・”の物語として描く。
上演に向けて、出演者より辻本祐樹と蒼木陣にインタビューを行った。2人が演じるのは、徳川綱吉(辻本)と柳沢吉保(蒼木)という、幕府側の人物。祭シリーズに欠かせない辻本と、2度目の参加となる蒼木だが、2人の間には3年前の共演で築いた強固な信頼関係があるようだ。息ぴったりな2人の話をお届けする。
――今年も明治座さんとる・ひまわりさんの“祭シリーズ”が開催されると発表になり、ホッとしました。
辻本:そうですよね。僕らもそうでしたけど、きっとお客さんたちもすっごくドキドキしていたと思います。僕、実は別作品に出演するこになっておりましたが、コロナ禍で中止が決まり、その後、こちらのシリーズの開催が決定して、出演させていただけることになった・・・ということもありまして。きっと、応援してくださっている皆さんも、発表を聞いて喜んでくれたんじゃないかなあ。
蒼木:僕は、祭シリーズには3年前の『ゆく年く・る年冬の陣 師走明治座時代劇祭』以来の参加なんですよ。その後もゲストで呼んでいただいたりしていたので、ずっと関わらせていただいているんですけど。改めて、出演できることがとても嬉しかったです。しかも、蓋を開けてみれば祐樹さんもいらっしゃるし、お馴染みの皆さんの名前がずらっと並んでいて、安心するな~って思いました。
辻本:キャスト表を見た時の安心感って、この“祭シリーズ”にはあるよね。
蒼木:初めて出演させていただいた時にも、ご一緒した先輩たちが「年末が来ると、なんか安心するんだよな」っておっしゃっているのを聞いて、そういうものなんだな~って思っていたのが、実感として湧きました。
辻本:もう、気持ちがこっち側にあるね(笑)。
蒼木:常連になれるって、嬉しく思います!
――この“祭シリーズ”を観ないと1年を終われないという方も多いと思います(笑)。今回の題材は「忠臣蔵」ですが、お二人が演じられるのは幕府側の人物ということで・・・。
辻本:“祭シリーズ”は10周年になるんですよね。しかも始まりの『大江戸鍋祭』も、同じく忠臣蔵が題材だったということで。僕が演じさせていただく徳川綱吉と、陣が演じる柳沢吉保、そして水夏希さんが演じてくださる綱吉の妻・鷹司信子は、赤穂浪士とは一線を画す立場の人物たちなので、うまいこと3人で物語をかき混ぜられるようにしたいですね。幕府側の色を強く出そう。忠臣蔵だけど(笑)。
蒼木:そうですね!こちら側の存在感を、負けないように示したいです!いや、でも・・・(キャスト表手に)並んでいるのを見るだけでも、メンツ濃いなあって思いますよね(笑)。
辻本:10年の中で生き残ってきた人たちだから、みんな個性が強すぎるよね(笑)。
蒼木:その中で、自分の役割というか、自分らしさ、役としての生き様をお客さんに届けられたらと思いますね。
辻本:そうだね。しっかり稽古をしてまずは自分が楽しんで、お客さんを巻き込まないと。
蒼木:ところで祐樹さん、この祭シリーズ、連続していわゆる悪役ポジションですよね。
辻本:そうなんだよ。綱吉は忠臣蔵でも、水戸黄門とかでもちょっと悪い将軍様として描かれているから・・・。でも、“悪役・辻本”という選択肢が弾かれていないというのは嬉しいですし、ありがたいよ。
蒼木:僕の演じる柳沢吉保は、綱吉を支える存在であり、「元禄赤穂事件」については調べていくといろいろな話が出てくるんですけど・・・どういう人物として描かれるんでしょう。台本を拝見してみるまで分かりませんが、何より“ゆうきさん”にお仕えできるのが楽しみです。前回も、“ゆうきさん”にお仕えしている立場を演じていたので。
辻本:前回は、松村雄基さんにお仕えしていたね(笑)。
蒼木:ブートキャンプしたり、フリップ芸とかもして、これが祭シリーズなんだ~!って思ってました(笑)。
――辻本さんと蒼木さん、お話を伺っていて息ピッタリ感がすごいです。
辻本:陣との関係は、『SENGOKU WARS~RU・TENエピソード2~猿狸合戦』をやったことが大きいですね。『猿狸合戦』は、主演で羽柴秀吉役をやらせていただいた『聖☆明治座・るの祭典』(2014年)の“その後の物語”を描いた作品だったんですが、陣は前田利家役として『猿狸合戦』から参加してくれたんだよね。
蒼木:そうです。る・ひまわりさんの作品に出させていただくのも、それが初めてでした。
辻本:陣が、真っ直ぐぶつかってきてくれるのが本当にありがたかったのをよく覚えています。俺はこうだ!みたいに凝り固まっていなくて、ひねくれずに、でも自分の持っているものをしっかり出してくるので、僕も触発されたりして。二人で役の関係性を作り上げてようって、一緒にガッツリ稽古したよね。
蒼木:お恥ずかしい・・・。今ももちろん拙いんですけど、あの頃はまだ20代前半だったので、右も左も分からなくて。
辻本:そうか、あの時そんな若かったんだ。今いくつになった?
蒼木:28歳です。陣、大人になりました!
辻本:(笑)。
蒼木:当時から、祐樹さんは僕のことをすごく気にかけてくださっていて、そこで築けた信頼関係みたいなものがあるなって思っています。
辻本:陣は、あのあとに“祭シリーズ”に参加したじゃない?これ、僕が年上だから言えるんですけど、成長のスピードがすごく早いなあって思っていました。そして馴染むのが早い(笑)。
蒼木:僕自身も、まだ1回しか出ていないのに、すでに何回も出ているような気持ちがしています(笑)。観に行かせていただいただけでも、親戚の集まりに帰ってきたみたいな感覚になるんですよ。本当にありがたい環境だなあと。
――今回、主演は平野良さんと小林且弥さんのW主演です。蒼木さんは初共演でしょうか?
蒼木:コバカツさんは、『猿狸合戦』にゲストで来てくださったり、テレビ番組のお仕事で関わりがあったりはするんですけど、ガッツリ共演させていただくのは初めてになります。なんですけど、僕、コバカツさんのお芝居がめちゃめちゃ好きで!コバカツさんが主演された『聖☆明治座・るの祭典』が特に好きだったんです。あの、周りを引っ張ってくださるようなお芝居が・・・。ご一緒させていただけることが本当に嬉しくて、とても楽しみです。
平野さんとは初めてなのですが、昨年の『明治座の変 麒麟にの・る』や他の作品でもすごく印象に残るお芝居をされているのを拝見しているので、このお二方がW主演というだけでも、絶対面白くなりそうです。食らいついていきたい・・・でも、祐樹さんがいるから安心です。
辻本:おっと、最後めっちゃありがたいところに僕の名前を出してくれた(笑)。
蒼木:いやほんと、共演できるの久しぶりなんですけど、やっぱりお顔を見ると安心するんですよ。
辻本:そういう人たちが増えていくのって、役者人生においてすごく嬉しいことだよね。僕にとっても、このシリーズに出続けているメンバーはそういう存在なんですけど。長く続けると、こういうことがあるんだなって思う。
蒼木:年に一度集まる劇団みたいですよね。
辻本:あはは(笑)。毎年、座長によって色が変わるけど、今年の座長は2人とも違うタイプで、それぞれの持ち味があるのでどういう方向にいくのかすごく楽しみ。どちらにしろ、濃厚になることは間違いないし、きっと10周年にふさわしい公演になると思います。
――“祭シリーズ”といえば、二部のショーも楽しみです。
辻本:ショーは、毎回いつも大変です。すごく濃いお芝居やった後に、超ふざけなきゃいけないから(笑)。でも、あれがないと元気が出ないんですよ。お客さんのパワーをもらわないと。
蒼木:他の作品にはないアドレナリンが出ますよね。
辻本:そうそう、その公演の達成感とか疲労感を感じる間もなく、また次の公演が始まるし。
蒼木:年越しまでの8公演全部で1公演、みたいに感じました。
辻本:恐ろしいことに、3日目か4日目に差し掛かるとデジャヴが来るんだよ(笑)。あれ?同じこと言ってる?みたいな感覚に陥っている時があるので、観ているお客さんにも「今、デジャヴ感じてるんじゃないか?」って悟られていそう(笑)。
――お客さんも、昼夜どちらも観られたり、何回も足を運んでいらっしゃる方は同じ状態が訪れているかもしれませんね(笑)。ちなみに、1部と2部の幕間ではどのように切り替えていらっしゃるんですか?
辻本:とにかく時間がありません(笑)。座長をやらせていただいた時は特に顕著で、着替えて、簡単な打ち合わせをして、舞台袖で「ふんっ!」って気合いを入れたらもう出番、みたいな感じです。
蒼木:一瞬で切り替えるんですか?
辻本:そう。気心の知れたメンバーが隣にいるからこそできる技だと思うけど、誰も何をするか分かっていないで舞台に出ちゃう時もあるから、毎回油断できません。今回も、何が起こるか分からないのでお楽しみに、ですね。
――本作では、全公演でライブ配信も決定しました。
辻本:今、どうしても劇場まで足を運べない方もいらっしゃいますから。僕も、生配信などで実際に皆さんの状況を聞いてみたりもしたんですが、やはりそういう声は多いなと感じました。配信は、今年取り組んでいる公演がものすごく増えましたけど、劇場で観ることと同じように扱っていいのではと、僕は思います。
配信が、演劇そのものを底上げしてくれるような時代になっていくんじゃないかなと。僕らも、ちゃんとそれを意識しながら演じた方が楽しめるだろうし、配信の方々も楽しいだろうし、双方向にいいことがあるといいですね。
蒼木:僕も、配信という手段が広がっていくのはいいことだと思います。劇場に来ることが勇気のいることになってしまった状況はまだ続きそうですし、選択肢があることは僕らにとって観ていただけるという意味でもありがたいことで。あとは、配信先まで劇場の熱量や、その場で今起こっているという臨場感をお届けできるよう、みんなで考えていけたらいいなと思います。足を運べないからといって、諦めなくてもいい。ネガティブに捉えるんじゃなくて、それを力に変えてどちらも楽しめるようになっていったらいいなと思っています。
――いよいよ10周年ですが、お2人は10年前というと何を思い出しますか?
蒼木:僕はまだ学生でした・・・。18歳の頃はまだこの業界にも入っておらず、大阪のスポーツ系の専門学校に通う普通の学生でした。
辻本:俳優に興味はあったの?
蒼木:中学生くらいの頃から芸能界に対する憧れはあったんですけど、僕の地元は愛媛県で、田舎の少年にとっては東京とか芸能人とか、全部遠い存在でした。20歳になって、専門学校を卒業するタイミングで東京に行って挑戦してみよう、と思ったのが、今に至るきっかけです。
――想像していた自分には、近づいていますか?
蒼木:今の僕は、当時は想像もしていなかった自分だと思うんですが、そんな今の自分が好きだと思っています。これまで出会った方々には、役者としても人としても良いきっかけをいただいてきたので、そういう出会いがたくさんあった10年で良かったなって・・・なんだか、話していてジーンとしちゃいました(笑)。
辻本:良い歳の重ね方をしているね。
蒼木:祐樹さんは、10年前ってどんなでした?
辻本:10年前くらいって、ちょうど“欲”がすごく出てきた時期で、ちょっとギラギラしてたと思う。マネージャーさんに「いろんな役がやりたい」って言うだけ言ってて。悪役とか、何なら「脱ぎたい」とか言ってた。
蒼木:え~!
辻本:難しい役に挑戦する時、最初は失敗してもいいと思うんだよ。思いっきりやって失敗するなら。次同じような機会をもらえた時できればいい、だからまずはやってみたい。そういう意欲が、一番沸いていた時期かもしれないです。
昔、ご一緒した方の中には、今の僕と違う印象を持っている方も結構いると思います。こういうことを素直に言えるようになったのは、大きな変化かな。ギラギラしすぎていてごめんなさいって思うこともあるし、自分自身が内に抱えていた不甲斐なさとかも外に出していたと思うし。これから先の10年は、そのギラギラも、ごめんなさいも、不甲斐なさも回収していく時間にしたいなと思いますね。
蒼木:肩の力を抜いてそう言えるようになった祐樹さん、かっこいいなあ。
――いろんな想いの詰まった10年目の“祭シリーズ”、どんな作品になるのか楽しみにしています。
辻本:まるまる10年間応援し続けて下さった方も、今年初めて観てくださる方も絶対的に楽しませられるように、稽古をしていきたいなと思います。配信でも、生でも必ず満足できる作品にするという気持ちでみんなで作っていきますので、皆さん、本当にとにかく体調に気をつけて!元気に笑顔で、いっぱい寝てから来てください(笑)。これは毎年言っているんですけど、観ているだけでもめちゃめちゃ疲れますので!思いっきり寝てから、劇場でも配信でも楽しんでください。
蒼木:話の中にも出てきましたけど、“祭シリーズ”って本当にアットホームなんですよね。一回しか出演していない僕が感じているこの感覚、きっとお客さんの中にもあると思うんです。舞台上と客席、全部ひっくるめて包み込むようなあの感覚。初めての方も、家に帰ってきた!みたいな感覚で劇場に来ていただければ、きっと分かってもらえると思います。そして、その空気が配信先の皆さんにも届けられるといいです。いろいろ大変なことが多いけれど、楽しかったな、来年もがんばろうって、全員で笑って年を越せるといいですね!
作品情報
チャオ!明治座祭10周年記念特別公演『忠臣蔵 討入・る祭』
2020年12月28日(月)~12月31日(木) 明治座
【演出】板垣恭一
【脚本】土城温美
【出演】
寺坂吉右衛門:平野良、大石内蔵助:小林且弥
浅野内匠頭:安西慎太郎
片岡源五右衛門:木ノ本嶺浩
柳沢吉保:蒼木陣
東山天皇:前川優希(30・31日)、松田岳(28・29日)
大高源五:大薮丘
富森助右衛門:小早川俊輔
富森喜世:井深克彦
高田郡兵衛:谷戸亮太
磯野タマ:加藤啓
堀部安兵衛:林剛史
吉良上野介:伊藤裕一
礒貝十郎:百名ヒロキ
近松門左衛門:大山真志(28・29日)・原田優一(30・31日)
徳川綱吉:辻本祐樹
鷹司信子:水夏希
【チケット一般発売】12月5日(土)
【チケット取扱】
【公式サイト】https://chu-ru.jp/