松尾スズキの問題作『母を逃がす』がノゾエ征爾の新演出で蘇る

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松尾スズキによる人間の内面を鋭くえぐる問題作『母を逃がす』が、ノゾエ征爾による“新演出”で2020年5月に甦ることが明かされた。

本作は、来年1月にシアターコクーンの新芸術監督に就任する松尾スズキが1999年に自身の劇団「大人計画」で上演した作品(2010年に再演)。自給自足の共同生活を営んでいる架空の農業コミューンを舞台に、そこに生きる人々の切実な日常生活を痛烈な笑いで描き、1999年には、第3回鶴屋南北戯曲賞にもノミネートされている。

出演者には瀬戸康史、三吉彩花、稲葉友、山下リオ、もう中学生、町田水城、山口航太、湯川ひな、武居卓、家納ジュンコ、マキタスポーツ、峯村リエ、高田聖子、六角精児らが名を連ねている。

松尾スズキ、ノゾエ征爾

◆松尾スズキ(作)
芸術監督ともなれば、新しい演出家をコクーンに呼びこむというような仕事もあり、そうなると、真っ先に頭に浮かんだのが、ノゾエ征爾なのだった。彼が私の教え子であることを差し引いても、コクーンという劇場の空間を埋めるスペクタクル演出のできる数少ない若手演出家なのに、なぜ早くコクーンに出てこないのだと思ってすらいた。

私は、ノゾエ作品のファンだ。音楽を扱えることも含め、ノゾエ作品にはハナと、笑いと、切なさがある。不条理でわけがわからない、と思いつつ、なぜか涙が出そうな瞬間もある。それは、ノゾエが上手だからだと思う。拙作『母を逃がす』を演出してもらいたいと提言した。実力のある俳優も集まり、楽しみである。

◆ノゾエ征爾(演出)
このとんでもなくモンスターな本とどう取っ組み合おうかと、考えたところで分かりそうになかったので、ひとまず無邪気に取っ組みあってくれそうな方々を呼ばせていただきました。
揃いました、素晴らしき珍獣たち。母を逃がす。この獲物は逃がすまい。

◆瀬戸康史(雄介役)
お話をいただいた時、この世界には足を踏み入れてはいけないような気がして、何とも言えない感情になったのを覚えています。しかし、見たことのない世界って足を踏み入れたくなるものです。ノゾエさんとは初めてご一緒しますが、その場に生きる人間の心を大事に演出される印象なので、丁寧に作っていければと思います。

また、松尾さんの脚本はありえないフィクションなのに、あたかもその世界が当然にあるかの様に錯覚してしまう・・・。そこに身を任せ、この作品に集まった猛者たちと協力して、作中にもあるような何が起ころうと絶対に崩れないコミュニティを築ければと思います。

◆三吉彩花(リク役)
初めてのことは人生でそれぞれ一度ずつしかありません。また新たなる「初めて」を経験させていただくことになり、緊張と興奮で震えます。年々流行や物事の流れが早くなっている今の時代に良い意味で刺さる、そしてブレない戯曲を上書きしていけるよう、先輩方に教わりながら精一杯演じさせていただきたいと思います。

シアターコクーン・オンレパートリー2020『母を逃がす』は2020年5月7日(木)から5月25日(月)まで東京・Bunkamura シアターコクーンにて上演。その後大阪公演を予定している。

【あらすじ】
舞台は“自給自足自立自発の楽園”をスローガンに掲げた架空の農業集落「クマギリ第三農楽天」。病に倒れた父に代わり村をまとめる頭目代行の雄介(瀬戸康史)は、リーダーシップのなさに悩みながら、頭目代行としての存在感を示すために、仮想敵国との対立を演じたり、死刑を復活させようとしたりしている。

たった一つの存在価値のあかしは婚約者の蝶子(山下リオ)。今は刑務所に入っている兄・地介(六角精児)の婚約者だったが、妊娠せず、地介入所後、雄介の子供を身ごもった。後継者を産む生殖能力を有することが、かろうじて雄介の自尊心の支えとなっている。しかし住人たちは頭目代行を全く頼りにせず、妹・リク(三吉彩花)は兄に反抗して、彼が統治するこの土地を楽園だと認めようとしない。そのうえ女警備長の島森(峯村リエ)とよからぬ関係なのだ。

ある夜、集落は謎の男の襲撃を受ける。翌朝の集会でブタ吉(山口航太)とタチ政(武居卓)、経理主任の山木(家納ジュンコ)、医者の赤痢(マキタスポーツ)らを集め、雄介は敵国からの攻撃対策の自警団設立を提案するが島森は難色を示す。そんなことをよそに、捨て子のトビラ(湯川ひな)は壊された合同テレビの修理をしてほしく、外部から来る保険手続き代行人の一本(町田水城)の来訪を待ちわびるばかり。事あるごとに自信を喪失する雄介。そんな息子を、母・ハル子(高田聖子)は時には行きすぎを叱咤し、時にはやさしく心配する。元芸者で情に厚く朗らかなハル子を雄介は大切に思っていた。

ある日、集落に二人の流れ者がやって来て、仮想敵国・シカノバルからのスパイ容疑で雄介に捕まえられる。力持ちだが頭の弱い万蔵(もう中学生)と、切れ者の葉蔵(稲葉友)だ。二人はいとこ同士で、万蔵がシカノバルで起した事件のために逃げてきたという。葉蔵に奇妙な友情を感じる雄介。そしてもう一人、監獄に入っていた地介が故郷に戻ってきて・・・。

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