2020年夏、『スーパー歌舞伎II(セカンド)ヤマトタケル』が、360度回転する劇場IHIステージアラウンド東京で上演されることが決まった。本作は、古事記を題材に、哲学者の梅原猛が三代目市川猿之助(現:猿翁)のために書き下ろした作品。今回は脚本・演出に横内謙介、スーパーバイザーに市川猿翁を迎え、四代目市川猿之助と中村隼人が主演として交互出演。市川猿之助は演出にも参加。2019年6月21日(木)には、同劇場で記者発表とプレゼンショーが行われた。
第1部の記者発表には主演の猿之助、松竹株式会社代表取締役社長・迫本淳一、同社副社長・安孫子正、TBSテレビ代表取締役社長・佐々木卓の4名が登壇。最初に「神がかった奇跡的なプロジェクトが実現する」と佐々木氏。「オランダ・アムステルダムと東京・豊洲の2ヶ所しかない360度回転する劇場で、まったく新しい歌舞伎を上演できるということで、日本の歴史や文化の奥深さを世界中のお客様に届けられると期待している」と意気込んだ。
続けて、迫本氏は松竹が120年以上にわたり日本文化の伝統を継承・発展させ、世界文化に貢献することをミッションとして掲げていることを語った。IHIステージアラウンド東京のオープン前、当時のTBSテレビ社長・武田信二氏の「将来、世界でもまれな360度回転する劇場を作り、2020年に歌舞伎を世界に発信していきたい」という話に賛同し、TBSと共同でスペシャルプロジェクトチームと立ち上げたことを明かした。
安孫子は他の舞台に押され歌舞伎が苦戦していた時代、新しい歌舞伎として出てきたのが『ヤマトタケル』だったと説明。1986年に三代目猿之助(現:猿翁)が現代目線で新しい歌舞伎を作り上げなければいけないという思いから誕生させたのが、スーパー歌舞伎だった。分かりやすいストーリー、スピーディーな話の展開が支持され、以後9作続くことになったが、これが大きな源流となり新しい歌舞伎の誕生を促進していったとした。
主演の猿之助は「2020年の夏、世界が日本に注目している時にこそ日本文化の持つ力を知ってもらう良い機会。日本の伝統文化の代表である歌舞伎をIHIステージアラウンド東京で上演できることは役者として嬉しいことです」と語った。猿之助の伯父である猿翁が創造したスーパー歌舞伎の第1作『ヤマトタケル』は、歌舞伎界の歴史にとっても記念すべき作品。今回再び上演されることで「新たな歌舞伎の歴史、日本文化の歴史の1ページに加えられるような作品にしたい」と力を込めた。
また、来年に向けていろいろな人たちと協力をし「“これが歌舞伎なのか”という作品を作りたい」とし、「世界中の役者が歌舞伎に参加したらどうなるのだろうという思いも抱いているので、そういうことが実現できるように準備を重ねていきたい」とコメント。
第2部では、歌舞伎や市川猿之助系譜、スーパー歌舞伎の歴史についてVTRで紹介され、その後鮮やかなステージングのプレゼンショーが行われた。実際に劇場が180度回転したあと、光の中から市川猿之助が再登場。このプレゼンショーは全世界に同時配信され、米国・ニューヨークとタイの歌舞伎好きの人たちとやり取りをする場面も見られた。
猿之助はプレゼンショーの感想を「まさにかぶいている感じだ」とし、来年上演するにあたっての構想が湧いてくる素晴らしいものだったと語った。劇場が動くというだけなく、スピーカーも素晴らしく音がいいので「音楽の部分でもおもしろいことができるのではないか?」と早速何か思いついた様子。ただ、360度回転する劇場には戸惑いがあるようで、役者人生で初めて体感する不思議な感じだったことも加えた。
最後に、かつてスーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者―若き仏師の物語―』に出演した俳優の佐々木蔵之介と猿之助と共に来年の公演で主演を務める中村隼人からの応援メッセージが紹介された。
「兄さん」と呼んで親しくしている佐々木のメッセージに対し、猿之助は「ぜひ、観るのではなく出演していただきたい」とポツリ。しかし、前回の公演後に「しばらくええわ」と言われたそうで、「真摯に歌舞伎の世界に向き合ってくださったので体力的にとても大変だったようです」とそのやりとりを明かした。
中村隼人は、自身がWキャストとして出演することになったことに驚きとともに喜びを感じていると笑顔で語り、「精進して良い舞台を作りたい」とコメントを寄せた。これに対し猿之助は「歌舞伎は人から人へと伝わってきた伝統芸。『ヤマトタケル』を次の世代にバトンタッチしつつ自分自身も活躍していきたいので、橋渡しの現場を皆さんにお目にかけようと思っている。フレッシュなエネルギーが吹き込まれると思う」と期待を寄せた。
2020年夏、360度回転する劇場でどのような新しい歌舞伎に出会うことができるのだろうか。
【公式HP】https://www.tbs.co.jp/stagearound/superkabukisecond/
(取材・文・撮影/咲田真菜)