2019年5月18日(土)に東京・あうるすぽっとにて、Studio Life公演『音楽劇 11人いる!』が開幕した。本作は、萩尾望都の漫画「11人いる!」(小学館)を原作とした舞台作品。スタジオライフとしては2011年、2013年に続く3回目の上演となる。今回、音楽劇としてリニューアルし、萩尾の描く青春と歌を融合させた。以下、オフィシャルレポートを紹介。
近年、漫画原作の舞台が支持を広げているが、思えばその先鞭をとって数々の名作漫画の舞台化に挑戦してきたのが、劇団スタジオライフだった。中でも、萩尾望都作品との相性は抜群で、1996年に『トーマの心臓』を初めて舞台化して以来、数々の萩尾作品に新たな息吹を吹き込んできた。
そして、この『11人いる!』もまた萩尾望都による本格SFと、脚本・演出の倉田淳の抒情的な劇作術が高いレベルで調和した、スタジオライフの自信作のひとつだ。2011年に初演。2年後の2013年に再演され、今回は音楽劇と銘打ち、新しい世界観をつくり出す。
舞台は、人類が宇宙へ進出した遥か未来。名門・宇宙大学の入学試験最終テストに臨むべく700人もの受験生が集まった。課された最後の課題は、各チーム10人編成となり、漂白中と仮定された宇宙船の中で生活すること。期間は53日間。その間に1人でも落伍者が出た場合、10人全員が不合格となる。
その中で最も優秀な人材を集めたのが、タダトス・レーン(愛称はタダ)らのチームだ。彼らはナンバーワンチームとしてテスト会場である宇宙船・白号に乗り込むが、そこにはなぜか1チーム10人のはずが11人いた。誰が招かれざる11人目なのか。謎と疑惑が渦巻く中、次々と不可解な事件が起きる。
そんなミステリー要素をはらんだ原作を、倉田は忠実に演劇の手法を使って表現した。台詞は原作で用いられたものを可能な限りそのまま取り入れ、タダやフロルベリチェリ・フロル(愛称はフロル)など登場人物のビジュアルも原作のイメージに限りなく近い。その上で舞台美術は不要な装飾は削り、コンセプチュアルに徹することで、観客の想像の中に無限の宇宙空間を創出させた。
何より、その手ざわりがあたたかく、無機質な宇宙空間のはずなのにどこか爽やかな風の匂いを感じられることに胸が沸き立った。タダたちは、緊迫した状況下で次々とトラブルに襲われ追いつめられていく。生死に関わる危機に瀕し、理性を失い暴徒化していく人間の弱さや醜さが、本作には折り込まれている。
しかし、決して単なるパニックムービー的な娯楽性に終始してはいない。萩尾望都が見据えたその先に、倉田もまた手を伸ばした。だからこそ、この『音楽劇 11人いる!』は、限られた時間の中で人と人が想いを交わし、絆を深めるまばゆさに、心の滓が清められていくような瑞々しい作品に仕上がっている。
特に胸に沁みたのが、多数決だ。物語の序盤で11人目の疑惑をかけられたタダを裁くため、チームの間で多数決が行われる。この多数決は、保身のための他者への“迫害”だ。しかし、終盤、ある決断をかけて、もう一度、多数決が開かれる。この多数決は決して自分とは違うものを敵対視し、拒絶するためのものではない。むしろ他者を守るためなら、自分の大切なものを犠牲にしてもいいという“友愛”の多数決だ。
そこに彼らの共に過ごした日々と芽生えた友情を感じられたから、まっすぐに上に伸びた10本の手に、ある種の青春劇に近い爽快な感動を覚えた。現実は、なかなかそうはいかない。同じ星に住む仲間であっても、肌の色や話す言葉が違うだけで、阻害や対立は生まれる。自分たちが勝手に引いた国境線のせいで、今もこの星では争いの火種がくすぶっている。
生まれた星さえ違うタダたちが、差別や偏見を乗り越えて手を結ぶ姿に愛しさを覚えるのは、こうありたいという願いが胸の内にあるからだ。人種や宗教なんてマクロな話をしなくても、私たちの日常にはいろんな無理解が溢れている。世代やジェンダーに端を発した他者への攻撃が、多くの人を生きづらくさせている。本当にそんな世界を未来に受け継いでいいのだろうか。今回、つけられたamo(愛)とpaco(平和)というチーム名には、そんな倉田なりのメッセージが託されている気がした。
ゲネプロで観劇したのはpacoチーム。今回が3度目となるタダ役の松本慎也に対し、フロル役を演じるのは入団3年目の伊藤清之。大抜擢と呼んでいいキャスティングだが、この伊藤が清新な存在感を見せていることが、pacoチーム最大の収穫だ。
外見的な愛らしさはもちろんのこと、気が短くて喧嘩っ早いフロルを、伊藤が若々しく迷いのない演技で体現。フロル独特のちゃきちゃきとした台詞回しにキレがあり、気にくわない相手に飛びかかるところは、とてもコミカル。それでいて、未来を夢見る語り口には溌剌とした響きがあり、若手の伊藤だからできる勇ましくもチャーミングなフロル像を打ち立てた。
もちろん、それを受ける松本の安定感も見事だ。松本が真ん中に立つだけで座組みに軸が通るような頼もしさと華やかさがある。こうした存在感は、正統派の主人公に不可欠のもの。タダの持つ苦悩や葛藤も濃淡豊かに演じていて、ドラマの盛り上がりをつくった。さらに、船戸慎士、藤原啓児らベテランがしっかりと座組みを底支えする一方で、シャワー室のくだりでは客演の宮崎卓真がユーモラスに盛り上げ、観客を和ませた。
また、今回の見どころである音楽劇という面についてもふれたい。極限状態に陥った人々の姿を描きながら、そこに希望やヒューマニズムを強く感じるのは、音楽の力によるところも大きいだろう。今回は物語の随所で俳優たちによる歌唱が挟まれる。音楽は昔日の名曲をアレンジしたもので、そこに息づく郷愁と人肌感が観客を優しい気持ちにさせてくれる。そして11人の俳優の歌声が溶け合いひとつになるところに、愛と平和への祈りがより鮮やかに浮かび上がる。倉田の書き下ろした歌詞とともにじっくりと味わってほしい。
音楽劇『11人いる!』は、6月2日(日)まで東京・あうるすぽっとにて上演。上演時間は約1時間50分を予定。
【劇団公式HP】http://www.studio-life.com/
(オフィシャル取材・文/横川良明)