古川雄大&大野拓朗が磨きあげた新たなロミオ像――ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』レポート

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東京公演を終え、愛知・大阪公演に向けてミュージカル『ロミオ&ジュリエット』。2011年、2013年、2017年に続いて4度目となる今年の公演では、ロミオ役の古川雄大と大野拓朗、ジュリエット役の木下春香と生田絵梨花をはじめとする前公演からの続投組に、トリプルキャストとしてジュリエットを演じる葵わかならの初参加組が加わった。今回は、古川と葵、大野と木下の組み合わせの公演を元としたレポートをお届けする。

(※この先、物語の核心や演出などについて触れています)

Wキャストのロミオ役は、2013年と2017年に続いて3度目のロミオを演じる古川と、2017年から続投の大野。共に再演ならではの安定感があり、それぞれのロミオ像がよりブラッシュアップされた。

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古川によるロミオは、繊細で儚い印象だった2013年、大人っぽさを兼ね備えた2017年に比べ、今回、最も少年っぽさを感じるロミオ像に仕上げてきた。前半の無邪気さがあるからこそクライマックスへと向かう感情のコントラストが色濃く、くるくると変わる表情の豊かさにも魅了される。ジュリエットと恋に落ちる時の高揚感は、観ているこちらも思わず笑顔になってしまう微笑ましさで、黒い感情を吐き出すシーンでは会場の空気を瞬時に張り詰めたものへと変えてしまうほど爆発的な力を持つ。悲愴感を存分に漂わせる古川の演技はどの作品においても際立つが、本作でも手の指先の一本一本にまで精神の動揺が伝わる細やかな演技で観客を物語へと惹き込んだ。

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大野によるロミオは、2017年の公演で築き上げた真っすぐなロミオ像にますます磨きをかけてきた。あどけなさのある笑顔で少年っぽさを感じさせながらも、ただ感情に流されるのではなく、一つ一つの物事に正面からぶつかっていくような真面目さがある。中でも、バルコニーで「月が姿を変えるように、貴方の愛も変わってしまうのでは?」と不安を吐露したジュリエットを諭すようにゆっくりと首を振ってみせた姿が印象的で、穏やかに包み込むようなその姿勢に、大野にしかできないロミオ像が凝縮されている気がした。

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ジュリエット役として今回から参加している葵は、ミュージカル初出演とは思えないほどに堂々とした振る舞いと美声を披露。ロミオに恋焦がれたり両親へ反発したりと感情の振り幅が大きいジュリエットだからこそ、数々の映像作品で培ってきた葵の演技がぴたりと重なり、新たなる情熱的なジュリエット像をつくりだした。

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再びジュリエットとして舞台に立つ木下にとって、2017年の公演は女優デビューを飾った本作品は思い入れの深いもの。この2年間で磨きのかかった歌唱力が木下の武器であることに変わりはなく、今回の公演では感情表現もますます豊かになり、ロミオに見せる幸せいっぱいの笑顔も印象的だ。もう一人のジュリエット、生田は東京公演と大阪公演のみの参加だが、数少ない公演の中で得た経験は、きっと彼女にとって今後の糧となっていくだろう。

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ロミオの親友であるベンヴォーリオ役は共に今回が初参加の三浦涼介と木村達成、マーキューシオ役は続投組の平間壮一と初参加の黒羽麻璃央が、それぞれWキャストで演じる。取材したのは「古川・三浦・平間」「大野・木村・黒羽」の組み合わせだが、キャストの組み合わせによって3人の関係性の見え方が変わるであろうことも楽しみの一つ。

三浦が演じるベンヴォーリオはしっかり者の印象が強いからこそ苦悩が引き立つし、木村が演じるベンヴォーリオはエネルギッシュでありながらも一歩引いた感覚があり、仲間との調和性を保つ上で大切な立ち位置であることを教えてくれる。

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平間が前回の公演で築きあげた危うげな雰囲気を持つマーキューシオも健在で、その尖った言動に物語の核心とも言える本心が隠されているから観る者は心を打たれる。黒羽によるマーキューシオもまた別の危険な香りを纏っていて、ティボルトとの決闘シーンを熱量たっぷりに魅せてくれた。

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ロミオたちの敵であるティボルトは、渡辺大輔と廣瀬友祐による続投で抜群の安定感。渡辺演じるティボルトは仲間の中心に立つ絶対的存在であることを納得させるのに十分で、たくましくて男気にあふれ、廣瀬演じるティボルトはさらに脆さだけでなくどこか儚さすら感じさせる。

そして、今回改めて感じたのは、大貫勇輔が演じた“死”の存在感が圧倒的だということ。静かに身をひそめていたはずの死は一歩、また一歩と忍び寄り、次第にロミオとジュリエットたちが生きる現実世界をも飲み込んでいくようで、常に死の影が纏わりついているロミオにもはや主体性はなく、すべてが死に操られた物語であると錯覚するほど。なかでもロミオとジュリエットが一夜を共にする場面へと導く過程では、2017年版の演出よりも自然な流れで死が現れるため「現実」と「幻影」の境界が薄れたようにも感じた。大阪公演から参加となるもう一人の“死”、宮尾俊太郎(Kバレエカンパニー)が、どんな新たな“死”の存在を見せてくれるかも楽しみだ。

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そして、シングルキャストの続投組、乳母役のシルビア・グラブ、モンタギュー夫人役の秋園美緒、キャピュレット卿役の岡幸二郎、新たに参加したキャピュレット夫人役の春野寿美礼、モンタギュー卿役の宮川浩、パリス役の姜暢雄、大公役の石井一孝、そして
大公役から神父役へとコンバートした岸祐二と、確かな実力派たちが物語を支える。

「愛か、死か」――究極の恋の物語は、小池修一郎の新演出をさらに深め、観た者の心を掴んで放さない。

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ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』は、3月22日(金)から3月24日(日)まで愛知・刈谷市総合文化センターにて、3月30日(土)から4月14日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて上演。上演時間は、第一幕85分、休憩20分、第二幕75分の計3時間を予定。

なお、8月1日(木)には、DVD(BLACK Version/WHITE Version)が発売されることも決まっている。

【東京公演】2019年2月23日(土)~3月10日(日) 東京国際フォーラム ホールC
※終了
【愛知公演】2019年3月22日(金)~3月24日(日) 刈谷市総合文化センター
【大阪公演】2019年3月30日(土)~4月14日(日) 梅田芸術劇場メインホール

◆ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』DVD
<BLACK Version(4月3日収録)>
古川雄大、葵わかな、木村達成、平間壮一、廣瀬友祐、大貫勇輔
<WHITE Version(4月2日収録)>
大野拓朗、木下晴香、三浦涼介、黒羽麻璃央、渡辺大輔、宮尾俊太郎

【発売日】2019年8月1日(木)
【価格】BLACK Version/WHITE Version 各12,000円(税込)

【収録内容】本編映像、特典映像(アフターイベント映像、生田絵梨花公演ダイジェスト映像、ほか)、カラーブックレット
※特典映像およびカラーブックレットの内容はBLACK Version/WHITE Versionで異なる部分あり
※発売日は前後する場合あり
【劇場予約特典】オリジナルノベルティ(DVD送付時に同梱)、送料無料

【公式HP】http://romeo-juliette.com/

(取材・文・撮影/堀江有希)

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