2017年9月28日(木)に東京・DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)にて開幕した『ラストダンス―ブエノスアイレスで。 聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』が上演される。本作は、アルゼンチンで最も民衆から愛された大統領夫人“エビータ”ことエバ・ペロンの33年の短い人生を、石丸さち子の脚本・作詞・演出で描いた作品。エビータ役を元宝塚歌劇団雪組トップスターの水夏希が演じ、エビータを取り巻く様々な男たちを福井貴一、伊万里有、大村俊介(SHUN)が務める。
【あらすじ】
アルゼンチンの小さな田舎町に生まれた貧しい家の少女エバ。女優を夢見て大都市ブエノスアイレスにたどり着き、より大きな夢、より高みを目指すうちに、大統領夫人の座を勝ち取る。ファーストレディーとしての領域を超えて、政治に生きた彼女は、“エビータ”と民衆から呼ばれ、聖女のように慕われた。一方、極端な政策を非難する層もおり、その者たちからは悪女とも呼ばれた。そんなエビータが今もなお崇拝されるのはなぜか。その謎にエビータ本人が答え始める。
生演奏に乗せて登場した水は、エバとしてその生涯を語り始める。福井と伊万里は代わるがわるエバに関わってきた男たちを演じていき、さらにSHUNがエバ自身や彼女に接してきた人々の心情を身体で表していく。どの場面を切り取っても一枚の絵のような美しい構図となっているのが印象的。また、最小限の舞台セットしかないステージだからこそ、観る者の想像力をかきたて、エバが生きた時代をよりリアルに目の前に浮かびあがらせていた。
エバ役の水は、幼少期から軍人ペロンと出会い、大統領夫人になるまでを、全力で走り続け、踊り続ける。さらには胸の奥底から言葉を振りしぼり民衆に訴えかける姿はエビータそのものかもしれない。エバがエビータへと徐々に変わっていく様子には、思わず民衆の一人として「エビータ!」と声をかけたくなるような感情をも抱かせた。
ドラマティックな物語にさらなる力を加えているのが、水のしなやかで情感あふれる歌声と、福井の甘くやわらかな歌声。渡辺公章のバンドネオン、大西孝明のギターに乗せ、劇場いっぱいに響き染み渡る歌声は必聴だ。ストーリーテラー役と共に、エバの兄としても活躍する伊万里の存在にも注目したい。彼がいることで、“エビータ”ではない、エバのプライベートの顔を垣間見ることができるのだ。
エバをはじめ、登場人物に様々な感情の肉付けをしていくSHUNのダンス。そこにいることで、物語の奥行が生まれる存在となっていた。
ゲネプロの終了後、水は「前回の朗読劇(『サンタ・エビータ~タンゴの調べに蘇る魂』)からキャストも増え、一気に世界が広がった分、演じる上でのエネルギーがものすごく必要な役だと改めて感じています。客様が客席に入ってくださることで、また違う世界が生まれると思います。最後の仕上げはお客様と作っていくものだと思っていますので、ぜひ劇場に足をお運びください」とアピールした。
『ラストダンス―ブエノスアイレスで。 聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』は、10月9日(月・祝)まで、東京・DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)にて上演。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)