先日発表されたばかりの第24回読売演劇大賞 最優秀演出家賞(対象作『8月の家族たち August:Osage County』)決定をはじめ、第51回紀伊國屋演劇賞 個人賞(対象作『キネマと恋人』『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』)、第68回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞(『対象作『キネマと恋人』)、第4回ハヤカワ悲劇喜劇賞(対象作『キネマと恋人』)と、今年の演劇賞各賞を総なめにし、まさしく今、演劇界を牽引する存在のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)。そのKERAの最新作として注目が集まる『陥没』が、2月4日(土)、東京・Bunkamuraシアターコクーンで、幕を開けた。
物語の始まりは、1961年。まさに56年後の今と同じ、オリンピックを3年後に控えた東京。東京は、世界的スポーツ祭典の開催都市となり、予算やインフラ整備など、国民の意識や生活の中にも開催が現実味を帯びてきた時期だった。十数年前まで、敗戦の苦しみの中にあり、焼け野原であった東京。そこから驚異的な復興と高度経済成長を遂げ、アジア初のオリンピック開催都市にまでなった。
日本中が沸き立っていたその頃、着工目前の、複合施設オリンピア・スターパークの敷地。若き専務・是晴(さだはる・井上芳雄)と、その妻であり施設のオーナーの娘・瞳(小池栄子)は、父である社長の光作(山崎一)がこれから建つはずの施設に馳せる想いを聞いていた。これから立ってゆく建物と、二人の若夫婦の将来、高度経済成長の波に乗る人々の例に漏れず、彼らもその渦中にいるように見えた。
2年後、オリンピックを翌年に控えた1963年、オリンピア・スターパークはプレオープンパーティを行ったが、それぞれの状況は様変わりを見せていた。是晴と瞳は離婚、是晴は若い恋人・結(松岡茉優)と婚約し、今は印刷会社に勤めていた。瞳は、亡き光作の事業を引き継いだ社員・大門(生瀬勝久)と再婚していた。それぞれが別の道を歩み、人生は、思わぬ展開を迎えていた。
プレオープンパーティ翌日の施設には、瞳の薦めで婚約パーティーを施設で行なうことになった是晴と結、従業員の瞳と窓子(緒川たまき)、そして瞳の夫・大門、パーティの出演者である奇術師のツマ子(高橋惠子)やテレビタレントのユカリ(趣里)、ユカリのマネージャーの下倉・(近藤公園)、是晴の母・鳩(犬山イヌコ)、結の恩師・八雲(山西惇)、是晴の風変わりな弟・清晴(瀬戸康史)、そして清晴に連れて来られた謎の男・船橋(山内圭哉)など、様々な理由で集った人々が次々と現れる。
そして、物語は、観客の予測を遥かに越える展開を見せてゆく。
KERAが「チェーホフが『真夏の夜の夢』を演出したら」とも例えたが、奇妙であったり、不穏であったり、不可思議な人々ばかりの登場で、一筋縄では行かない群像劇だが、どの人物も魅力溢れどこか愛おしく、次の展開が気になって仕方がない。
昭和初期の『東京月光魔曲』(2009年)、終戦前夜を描いた『黴菌』(2010年)と、昭和を描き続け、時代のアウトサイダー達を描いて来た、昭和三部作の完結編は、良い意味で、観客の予想を遥かに裏切る作品となったに違いない。
出演の井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優と、作・演出のKERAは。初日に向け以下のようにコメントしている。
◆井上芳雄
KERAさんは、人物の造形や関係性を解き、繊細なヒントを与えて下さいました。今回の是晴役は、今までにやった事がないタイプの男。新たなチャレンジになりそうですし、豪腕の共演の皆さんと共に、強いチームワークで、笑いながら、毎公演臨んで行きたいと思います。」
◆小池栄子
新しい事に挑戦させて頂けるのは有り難いことですし、KERAさんは私に瞳ができると信じて書いて下さっているはずですので、諦めずもがき続けなければと思います。
◆瀬戸康史
清晴は、演じていて面白いけど感情のコントロールが難しい役です。初参加の僕に普段求められるのとは違うキャラクターを任せてくださるKERAさんに心から感謝していますし、群像劇をしっかり支える存在の一人にしなければと思っています。
◆松岡茉優
これから私たちが確実に巻き込まれるであろう、東京オリンピックとそれに伴う様々な変化のうねり、56年前に味わった人々の右往左往を、この作品を通して同世代の方々に知って頂けたらと思います。舞台はまだ二作目ですが、先輩方から多くを学び、少しずつでも前に進んでいきたいと思っています。
◆KERA
この歳になっても危なっかしいところにいたい、という欲求が病気のようにあって、リスクが高いことをやりたくなるんです。まだ無邪気だった時代を背景に、妙な軽やかさを持った「バランスが良い作品ではなかなか残せない類の印象」を残すことを目指したいです。
なお、本作『陥没』の前売り指定席はすでに完売しているが、立ち見券含め当日券の発売は毎日予定されている。
<公演概要>
シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017
『陥没』
【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】
井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優、
山西惇、犬山イヌコ、山内圭哉、近藤公園、趣里、
緒川たまき、山崎一、高橋惠子、生瀬勝久
【東京公演】
日程:2017年2月4日(土)~2月26日(日) Bunkamuraシアターコクーン
主催:Bunkamura/キューブ
【大阪公演】
日程:2017年3月3日(金)~3月6日(月) 森ノ宮ピロティホール
主催:読売テレビ/サンライズプロモーション大阪
【企画・製作】Bunkamura、キューブ
【お問い合わせ】
<東京公演>
Bunkamura:03-3477-3244(10:00~19:00) http://www.bunkamura.co.jp
キューブ:03-5485-2252(平日12:00~18:00) http://www.cubeinc.co.jp
<大阪公演>
キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
http://www.kyodo-osaka.co.jp/
(撮影:細野晋司)