今年7月、東京・銀座に西田大輔率いるディスグーニーがプロデュースするレストランバー「DisGOONieS」が誕生した。これまで、舞台、映画、ドラマと、数々の作品を生み出してきた西田は、この空間を「船」と例えた。
開店以来、過去の上演作品の映像上映会や衣裳展などが行われてきたが、初めてのショープログラム『エイリアンハンドシンドローム』も行われている。西田は、この場所でどんなことをやろうとしているのか?話を聞いてみた。
――ディスグーニーさんがレストランをオープンすると聞いた時はとても驚いたのですが、どういう経緯でこの場所は誕生したのでしょうか?
ありがたいことに、大きな劇場でやらせていただける作品が続くようになってきたのですが、その状況に甘んじることなく、新しい挑戦をしたいと思ったことがきっかけでした。シンプルで小さな空間を濃密に埋める芝居作りがしたい、でもそれは、小さな劇場で公演をするという単純なことでもない気がして。
僕らにとって、今、「冒険」となるのはどういう活動だろう?という考えを突き詰めていった結果、イマーシブな空間づくりなのではという考えにたどり着いたんですね。観ることと体験することを兼ねた作品作りには、無限の可能性がある。そう考えた時に、一つの“船”と捉えられる場所を作って、この空間でできることに対してアイデアを膨らませてみようというのが始まりでした。
――自分たちならではの空間を持ちたい、というお考えは、いつ頃からお持ちだったのですか?
たぶん、ディスグーニー作った時から、野望の一つとして持っていたと思います。とはいえ、中途半端な形ではできない。思い描いているものが実現できない限りやりたくなかったから、やっと、当初の思いが結実したという感じですね。自分たちの世界が広がったからこそ、内に向く目にも変化が訪れた結果かもしれません。
――銀座という場所にも驚きました。
どうせ、大きな航海に出るならば日本のど真ん中に出よう!という意味で、銀座にしました(笑)。
僕は「創ることは出会うこと」だと思って、今まで作品を作り続けてきました。僕は、いわゆる師匠もなく、誰に教わるでもなく船を漕いできた身だけれど、きっと、自分の才能を信じているけれど世の中への出方が分からない役者もクリエイターもたくさんいると思います。そういうヤツには、「とりあえずここに来いよ」と言える場にしたいんです。例えば、脚本家だったら作品を持ってここへおいで、おもしろかったら一緒にやろうぜって。そんな出会う場所にしたいんです。
――ショープログラム第1弾では、2006年に上演された『美しの水』3部作(White、Blue、Red)を上映されていましたよね。
これは、このレストランでやりたかったことのもう一つの軸でした。ここに集わなければできないことをやっていきたいと思っているんです。例えば、『美しの水』はパッケージ化していない公演ですが、映像として作品自体は残っていて。ここに集わなければ観ることができないというのは、舞台と一緒。ここで一緒に観ることで生まれる空気もまた、ここでしか生まれないもの。そんな、過去と今の架け橋になるようなイベントができるんじゃないかと思って企画していきたいなと思っています。
――直近では、舞台『PANDORA』の衣裳展も行われていましたね。
実は、衣裳展も過去作の上映会も、足を運んでくれた皆さんの意見を取り入れてやってみたんですよ。皆さん、ものすごく楽しそうに、嬉しそうに参加してくれて、手応えを感じました。自分がおもしろいことを言えばそれが実現できるんだ、という喜びにも溢れているというか。これから来てくださる方も、案や意見を持ってきてくれてもいいし、そうやって、お客さんとどんどん仲間になっていきたいです。
――まさに、人と人との触れ合いの場ですね。
観に来てくださる方もみんなディスグーニーの仲間だ!って口で言うのは簡単なんだけど、それをちゃんと具現化したいんですよね。観客の皆さんとも、これから新しく出会う役者やクリエイターたちとも、「一緒の船に乗っていこうよ」「ガチンコ勝負しようぜ」って言い続けていったら、ものすごい航海ができると信じています。
――店内を拝見させていただきましたが、一歩足を踏み入れた瞬間、違う世界に入り込めるようなとてもラグジュアリーな空間だなと思いました。
船の中のレストランみたいになったらいいな、と思ってるんですよね。今、こういうご時世ですのでアクリルボードで仕切ったり、入店できる人数の制限をさせていただいたりと、対策もしっかり行っています。テーブル席やソファ席、個室などもあるので、いろんな席から楽しんでもらえる空間を作っていきたいですね。ここでできることは無限にあると思っています。
――9月13日まで、この場所で初めての演劇公演『エイリアンハンドシンドローム』が上演されていますが、どのような公演なのでしょうか?
この場所でしか生まれない、この時勢でしか生まれなかった物語です。世界は分断されてしまっていて、今、世の中はどうなっているのか分からない。そんな船内のレストランから始まる8人と、席に座っている皆さん全員のお話です。
――お客さんも出演者になるのですか?
そうです。でも、いわゆる演劇ではないのかもしれないなあとも思ってるんですよ。いつの間にか目の前で繰り広げていく物語に、皆さんと一緒に没入する・・・同時に、座る席によってまったく印象の違うお話にもなると思って書きました。
俳優は、もう、ずっと店内をうろうろしています(笑)。毎回通してやってみると、お芝居の立ち位置も何もかも、すべてが変わっていくんですね。毎日違うんです。それが僕らもとても新鮮でおもしろくて。もちろん、演出家としてのタクトを持つのは僕なんですが、それだけでは生まれないおもしろさを、今すごく感じていますね。
――ディスグーニーでは、役者・西田大輔を見れるのも魅力の一つです。
ははは(笑)。ありがとうございます、そう言っていただけて光栄です。猛者たちが揃っているので、僕もガチで。本番、ガチで挑もうと思っています。
――レストランとしては、お料理や飲み物も楽しみです。
お料理も公演ごとに変えていって、選んでいただけるようにもなっているので、ゆっくり食事を楽しんでもらえたら嬉しいですね。飲み物は、劇中に出てくるものと同じお酒をご用意していたりします。今回の『エイリアンハンドシンドローム』は、お酒が作品のテーマでもあるので。すべてが仕掛けになっています。もちろん、ノンアルコールでもご用意していますから安心してくださいね。終わったあと、特に飲んでみたくなるんじゃないかな(笑)?
――までに、ここでしかできないものを作り続ける場所ですね。
100席ちょっとしかないこの空間に、お客様もそうですし、一線級の仲間たちが集ってくれているのも、みんな一緒にこの航海を楽しんでくれているんだなと。愛しているお芝居をいつもと変わらず作っているんですけど、この公演の準備もいい大人たちが文化祭前みたいにああだこうだとやってきたんですよ(笑)。なんか、そういうのって夢があるなって。そうやって、作品を作り続けていきたいなと改めて思いました。
――今後の構想などもありますか?
たくさんあります!ここから、さらにいろんなことを仕掛けていこうと思っていますよ。僕のほかにも強力なクリエイターの仲間がたくさんいるので、僕がプロデュースに回ってやっていく公演もできると思いますし。普通のメインストリートは違うけれど、こういう荒波もおもしろいぞ、ということをみんなに知ってもらえたらなと思っています。
ちなみに、この『エイリアンハンドシンドローム』もDVD化をする予定はないんですよ。今回、来れなかった方もいるかもしれない。でも、俺たちまた集まるから、DVDで記録を観るよりも、その時に同じ船に乗ってみない?という気持ちがあるので。
――可能性しかないですね。
まさに。ここだけでなく、同時にディスグーニーとして劇場でやる公演も考えていますし、もっと大きな仕掛けも考えていたりします。上に上に歌舞いていく場所と、下に下に尖っていく場所。その両極をやりたかったんですよね。それが今、やっと始められた気がしています。そして、一番尖ったものが観られるのがここだと思います。
――西田さんの大航海の目指す先を、一緒に楽しませていただきたいなと思っています。
常に、新しいことをやろうと集う場所です。今すぐは足を運べない方もいらっしゃると思いますが、僕ら、走れる以上はずっと走っていくので。時勢が変わってからでもいいので、ぜひ一度、この船に乗船しに来てください。新しい体験をしたい人、夢を持った人、ぜひここに集って、一緒におもしろいことをやりましょう!
店舗情報
レストランバー「DisGOONieS」
住所:東京都中央区銀座3-3-1 ZOE銀座 B1F
TEL:03-5579-5649
メール:info@disgoonies.jp
営業時間:火・水・木・金・土・祝日/17:30~23:30(Food. Drink Lo.22:30)
公演情報
『エイリアンハンドシンドローム』
2020年9月2日(水)~9月13日(日) 銀座・DisGooNieS
【作・演出】西田大輔
【出演(50音順)】
北村諒、鈴木勝吾、田中良子、谷口賢志、西田大輔、萩野崇、宮下雄也、村田洋二郎
【店舗HP】http://disgoonies.jp/