2020年3月10日(火)に東京・Bunkamuraオーチャードホールにてチャリティーコンサート『忘れない~天国の大切なあの人へ~』が開催される。本コンサートは東日本大震災で保護者を亡くした震災遺児の学業継続を応援する「毎日希望奨学金」のチャリティーコンサートとして開催されており2018年、2019年にも人々に多くの感動を与えた。
3度目となる今回の出演者は、宝塚歌劇団OGの杜けあき、北翔海莉、遠野あすか、沙央くらま、七海ひろきの5人で、東日本大震災で亡くなられた方へ手紙を送る「漂流ポスト」に寄せられたメッセージを歌と朗読で綴る。エンタステージでは、『忘れない~天国の大切なあの人へ~』初参加となる沙央くらまに出演を決めたきっかけや東日本大震災への思いについてを聞いた。
――出演を決めたきっかけは何ですか?
宝塚のOGだけが集まる素晴らしいコンサートに参加させていただけるのであれば、できる限りを尽くしたいという一心で、お話をいただいた瞬間に「受けます!」とお返事しました。
私は3月3日が誕生日なのですが、3月は新しい年齢になると同時に、新しい何かに挑戦をすることを意識して大切にしてきました。東日本大震災で被災された方々だけでなく、震災を乗り越えたあとに亡くなられた方もいらっしゃると思いますから、このコンサートを通じて、そういう方々のことをもう一度思い出す機会にしていただきたいと感じました。
私が宝塚歌劇雪組公演『ロミオとジュリエット』の東京公演に出演している時に東日本大震災が起こりました。地震は1幕と2幕の休憩時間に起きたのですが、同期に気仙沼出身の子がいましたし、家族や親せき、友だちが被災した子もいました。当時から何かできることないかと常に感じていたんです。
私自身の話になりますが、震災が起きた同じ時期に父が闘病生活を送っていました。私の両親はシェイクスピア・シアターの役者をしていたのですが、父が最後に観た作品が、この『ロミオとジュリエット』だったんです。そういう意味でも震災があった時期は、私にとって思い出深いものです。
――ご両親はシェイクスピア劇場の俳優だったとのことですが、シェイクスピア作品に対する思いはありますか?
ちょうどこの10月に、ミュージカル『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』に出演させていただきました。毎日シェイクスピアの世界の中で過ごしていたのでとても幸せで…。でもこの作品は、重々しい古典演劇というわけではなく、現代の人たちが楽しめる作品に仕上がったんです。このように何かアレンジを加えて、分かりやすく伝えていくことに魅力を感じていますし興味があるので、「沙央くらま」という名前で活動していくかぎり、これからもシェイクスピア作品に携わっていきたいと思います。
――「漂流ポスト」に寄せられた手紙を、朗読と歌で綴っていくコンサートにですが、声で表現することにどのように挑んでいきたいと思いますか?
昨年、声優の方々と一緒に朗読ライブに出演させていただきましたし、ラジオ番組を担当していることもあって余計感じていることなのですが、言葉の力を使って声で表現し、メッセージを伝えるのは素晴らしいことだと思います。さらに歌を通してお客様に何かを伝えるというのは、タカラジェンヌ全員が通ってきた道です。言葉やせりふを通じて、舞台で表現をしてきた私たちができることを、いろいろな方々への思いを背負って舞台に立ちたいと思っています。
――「漂流ポスト」に寄せられた手紙は、リアルな思いをひしひしと感じるものになりそうですね。
私も亡くなった父や祖母がくれた手紙を今でも残していて、たまに読み返すんです。祖母が「リュウマチで手が震えてごめんなさい」と弱々しい文字で手紙を書いていた時、どんな気持ちでいたのかと思いを馳せます。
少し話がずれてしまいますが、宝塚に入って初めてボーナスをもらった時に、父がかねてから行きたいと言っていた鹿児島県にある知覧特攻平和会館へ行ったことがあります。そこには戦時中に特攻隊員として亡くなった方々の手紙や写真が展示されているのですが、その時も手紙というものの深さを感じましたね。
――今回共演される杜けあきさん、北翔海莉さん、遠野あすかさん、七海ひろきさんについてお聞かせください。
先輩から順番に申し上げますと、杜けあきさんは、宝塚を卒業されてからの舞台をたくさん拝見させて頂いております。宝塚時代、専科にいた時に宝塚OG公演『SUPER GIFT!』に、現役生として美穂圭子さん、華形ひかるさんと3人で出演させていただきました。その時、杜さんが皆さんを巻き込むパワーと『深川マンボ』を踊っている時のカッコ良さが印象的でした。卒業されて何年も経っていて素敵な女優さんなのに、ひとたび男役を演じられるとみんな無意識に「キャー!」と言ってしまうぐらい素敵な方なんです。そんな杜さんとまたご一緒させていただけるのが幸せでありがたいですね。
遠野あすかさんはご一緒させていただいたことはないのですが、宝塚にいた時期はかぶっていて、お話をしたことがあります。女性としても素敵ですし、力強さを持った芯のある本当に素敵な娘役さんです。今回初めての共演なので楽しみです。
みっちゃん(北翔の愛称)さんは、宝塚時代からいろいろな苦楽を共にしてきましたし、今年は『CLUB SEVEN ZEROⅡ』でご一緒させていただきました。
カイちゃん(七海の愛称)は、年に一度の宝塚スペシャルで一緒にやっているので、懐かしい思い出があります。この間も私の舞台を観に来てくれましたし、全く知らない間柄ではありません。宝塚スペシャル同様、一日限りのチャリティーコンサートでご一緒できるので、どんなふうになるのか楽しみです。
――『CLUB SEVEN ZEROⅡ』では、北翔さんと息がぴったりでしたよね。
みっちゃんさんがいなかったらできなかったです。いつも気持ちがしゃんとするというか、身が引き締まるというか、そんな気持ちにさせてくださる先輩ですね。生き様がかっこいいと感じていますので「また一緒にできるんだ!」と嬉しい気持ちです。
――宝塚時代は、沙央さんにとっていろいろな思い出があると思います。宝塚音楽学校時代から夢に向かってがんばってこられたと思いますが、大変だったことなどありますか?
宝塚時代は、大変だった思い出よりも大変なことをみんなで一緒に乗り越えた思い出のほうが大きいですね。宝塚にいて常に感じていたのは、団結してみんなが助け合うことができる環境だったということです。卒業した今は一人で乗り越えなければいけないけれど、宝塚時代はみんなで力を合わせて解決していくことができました。
――具体的なエピソードはありますか?
やはり東日本大震災が起きた時に公演していた『ロミオとジュリエット』ですね。公演を続けるべきなのか、節電をしている中で舞台を続けていいのか色々と考えました。でも私たちは舞台に立てるのなら一生懸命やろう、休演になったのなら次に舞台に立てる日までがんばろうとか、いろいろな苦難を仲間たちと一緒に乗り越えた思い出がフラッシュバックします。
あの時は、みんなで東北に親戚がいる子たちのケアをしたり、余震が続いたのでそれに動揺してしまう子たちを安心させたりしました。宝塚の仲間と協力しながらそういう時間を過ごせたことが、私にとって忘れられない思い出となっています。
――そのような思い出がいっぱいの宝塚歌劇団を退団してからは、変化もたくさんありましたよね。
退団して、個人事務所に所属することになりましたので、新たに責任感を持つようになりました。そして活動できることの幅が膨らんだと感じています。宝塚を卒業してからラジオや映像のお仕事をいただきましたし、舞台でも女性としていろいろな役を演じることができています。本気でやろうと思えば、形にしていけるということを実感しているので、可能性をもっと広げていきたいと思います。男役も封印したわけではないので、求められればこれからも男役を演じるつもりです。
――今後、どのようなことにチャレンジしていきたいですか?
ファンの方が喜んでくださいますので、舞台はもちろん続けていきたいですが、人に何かを届けられるような作品に出会っていきたいし、どんどんそういう舞台に出演できたらと思います。
またラジオやブログ、インスタグラムをやらせていただいて、そこで美容に関することを発信していますが、宝塚時代に得たものをさらに深めていけるように追求していきたいですし、小さい頃から映画が好きで昨年2本の作品に出演してとても楽しかったので、今後ヒューマンドラマのような作品に出演したいです。
宝塚時代は、「宝塚」という枠の中で活動する魅力がありましたが、外の世界では何でもできてしまうという魅力があります。そんな環境の中で元タカラジェンヌという看板をしょいながら、どこまで自由にできるか、どこまで幅を広げられるかというのが、これからの新しい挑戦だと思っています。杜けあきさんをはじめとする宝塚の先輩方は、後輩の私たちが卒業しても歩いていけるレールを引いてくださっているので、私たちはそれに恥じないようにきちんと進んでいきたいです。
――最後に公演への意気込みとファンの皆さんへメッセージをお願いします。
私自身、今でも2011年3月11日のことを思い出しますし、皆さんもいろいろな思いを抱えていらっしゃると思います。このコンサートを通じて未来にもう一つ新しい灯をともせるように、そんな気持ちで挑んでいきたいと思います。皆さんと一緒にいろいろなことを感じながら過ごせたらと思いますので、3月10日にぜひ会場へ足を運んでいただければと思います。お待ちしております。
◆公演情報
『忘れない~天国の大切なあの人へ~』
2020年3月10日(火)Bunkamuraオーチャードホール
開場17:30/開演18:30
【出演】杜けあき、北翔海莉、遠野あすか、沙央くらま、七海ひろき
【主催】毎日新聞社
公式サイト:https://www.mainichi.co.jp/event/culture/wasurenai/
(取材・文/咲田真菜)