2019年10月から11月にかけて、スペクタクル時代劇『里見八犬伝』が4度目の上演を迎える。主演に抜擢されたのは、映画やドラマで頭角を現してきた旬の若手俳優の一人、佐野勇斗。佐野は、自身2度目の舞台で主演に挑む。前々回・前回で主演を務めた尊敬する先輩、山崎賢人から得たことや、大作に向けた現在の心境などを語ってもらった。「僕は不安がないとダメなんですよ」と語る佐野の目は、その言葉に反して鋭く前を見つめていた。
――佐野さんにとって、これが舞台初主演となりますね。
初舞台は、上京したての18歳の頃に踏ませていただいたんですが、もう3年前になりますね・・・。右も左も分からない状態から時を経て、主演をやらせていただけるということになりましたが、正直めちゃくちゃ不安です(笑)。
――映画では、すでに何度か主演をご経験されていますが、また違うものですか?
舞台と映画では、相当心持ちが違う感じがします。例えるなら、違うスポーツをする感じで。サッカーをやっていた人が野球をやる、みたいな感覚ですね。映画では何度か主演を経験させていただきましたが、舞台で、まだまだ未熟な僕が演じ切れるのか、未知数だなと・・・これは、デビュー当時とか、初ライブの時の感覚に似ていますね。
――この『里見八犬伝』は、これまでに何度か再演されています。前々回・前回は山崎賢人さんが演じられていますが、ドラマなどでご共演されてきた山崎さんの姿は、佐野さんの目にどう映りましたか?
賢人くんとはドラマ『トドメの接吻』や映画『羊と鋼の森』でご一緒させていただいて、主演としての姿を見てきました。主演っていうと、サッカー部でいうところのキャプテンのような感じで「がんばっていこうぜ!」ってみんなを引っ張っていくのかなと思ったんですけど、賢人くんは、いい意味でフランクだったんです。あんなに有名なのに、スターな感じを出さない。スタッフさんともしっかりコミュニケーションを取っていて、人間性で作品をつくりあげていく感じで、すごく尊敬できる人だなと思いました。僕自身も、そういう賢人くんの人間性にすごく惹かれています。
――山崎さんが演じられた『里見八犬伝』も、映像でご覧になったと聞きました。
僕がどうこう言える立場ではないと思うんですが、すごく引き込まれました。何度も再演されているのは、演じる皆さんの熱いお芝居や、本当にあの時代に自分がタイムスリップしたような気持ちにさせられるような魅力ある物語だからだろうなと思いました。信乃を演じる賢人くんを観て「すごいな・・・これを自分もやるのか・・・」って、圧倒されました。
――ビジュアル撮影時に、演出の深作さんとお会いになったそうですね。何かお話はされましたか?
短い時間しかなかったんですが「一緒に、先輩とはまた違った新しい『里見八犬伝』を作れたらいいね」と声をかけていただき、寄り添ってくださる印象を受けました。稽古が始まったら、分からないことはとにかく聞いて、挑戦していきたいなと思いました。あと「料理する?」って聞かれたんですよ。
――それは、どういう意図だったのでしょう?
この作品の時代は、刀で人と人が斬り合うことがありましたよね。現代ではありえない話ですし、僕が殺陣をやるのも初めてということで、「肉や魚料理をすることで“斬る”という感覚はこういうことなんだ」ということを、体感しておくといいよと教えていただきました。えぐい話ですが、日常の中でも学べることがたくさんあると。普段、あんまり料理はしないんですが、深作さんのアドバイスを受けてこれからやっていこうと思っています。なので、舞台が終わる頃には料理上手に・・・(笑)。
――(笑)。殺陣稽古も始められたそうですが、実際に体験してみてどうでしたか?
賢人くんの映像を観た時は、皆さん、刀を軽々と振り回しているように見えたんですが・・・相当体力と下半身を使うことを実感しました。皆さんすごい。あんなに軽々、スマートに・・・。
――ボーカルダンスユニット「M!LK」としても活動されていることも、活かせるのでは?
ダンスをやっているので、動きを「真似る」ことは普段からやっているので、活かせる部分があるといいなと思うんですが、お芝居が加わるとまた難しさがありますね。「何のために」刀を振るうのか、そういった背景も理解しながら殺陣を学んで、信乃を力強く表現できたらと思います。
――ビジュアル撮影で、実際に信乃の姿になって、どう感じられましたか?
スイッチが入る感じがしましたね。初めてメイクをしてもらって、衣裳も着せていただいて、いよいよやるんだなと。暗めの照明だったので、舞台に立つイメージも膨らんで、身が引き締まる思いがしました。舞台は、お客さんの目の前で芝居をする分、演じる難しさもあると思うんですが、その分、感動を与えられることも大きいと思うので、そこはちょっと楽しみです。自分ががんばった分だけ、きっと成果が見えるんだろうなと。
――佐野さんは、普段どうやって役にアプローチしていますか?
いつもは、台本の裏とかに「こいつは、こういう性格だ」みたいに、全部書き出すんですよ。台本に書かれている以上に「こういう人生を歩んできたんじゃないか」とか「親にはこういう口調で話すんじゃないか」とか、バックボーンを考えて書き出すんです。自分と似ているところは置いておいて、違うところにどうアプローチしていけばいいのかを重点的に考えていきます。今回は時代劇なので・・・それをどうやろうか、今ちょっと困ってます(笑)。
――違っているところに対しては、自分から寄っていくタイプですか?役を引き寄せるタイプですか?
どっちだろう・・・寄っていくタイプですかね。あまり強く意識をしたことはないんですけど。映像の時は、カメラが回っていないところでは「佐野勇斗」です(笑)。普段から入り込んで役作りをされる方もいらっしゃるんですけど、僕はそういうタイプではないかな。でも、舞台だとどうなるんだろう。本当に未知すぎて。稽古を通して、自分なりのアプローチ方法を見つけられたらと思います。
――時代劇というものについては、どう捉えていらっしゃいますか?
実は僕、歴史があまり得意ではなくて(笑)。社会が苦手で理系に進んだ人間なんですけど、この世界に入ってから物語として触れる機会が増えて、興味がわきました。こういう偉大な方たちがいたから、今の時代があるんだなと分かって。僕にとっては、これが初めての時代劇なので、これを機にもっと好きになれたらいいなと思っています。
――そんな佐野さんが演じる信乃、どんな青年になりそうですか?
信乃は、複雑な感情が入り混じっている役ですよね。儚さもある反面、熱さも感じます。演じきれたら相当おもしろいだろうなって思っています。そして、主演・・・座長なんですよね。初舞台の方もお二人いるそうですが、僕自身も未熟ですし、まだ全然分かっていない状態ですし、周りの皆さんに助けていただくことも多いと思うんです。でも、座長の存在は、作品の雰囲気を作る上でとても大事なものだと思うので、経験が少ないことにとらわれすぎずに、全力で取り組む熱い姿勢だけは、最後まで忘れずに貫きたいなと思います。
部活をずっとやってきたこともあり、男ばかりの現場ってすごく好きなんですよ。だから、共演者の皆さんそれぞれ年齢も経験も違うと思うんですけど、仲良くなって、高めあっていけたらいいです。一緒にお酒を飲みながら、じっくり話せたらいいなと思います。
――きっと、本作で初めて舞台を観る方も多くいらっしゃるでしょうね。
舞台観に行ったことないけど大丈夫かな・・・と思っている方にこそ、観に来てほしいです!絶対、楽しいと思います。僕自身も作品に触れて時代劇に興味を持ったので、馴染みのない方が興味を持つきっかけにしてもらえたら嬉しいです。長く愛され続けている作品を、最後まで熱く、気持ちを届けたいと思います。
◆公演情報
『里見八犬伝』
【脚本】鈴木哲也
【演出】深作健太
【出演】佐野勇斗 松田 凌 岐洲 匠 神尾楓珠 塩野瑛久 上田堪大 結木滉星 財木琢磨、宮﨑香蓮、町井祥真、山口馬木也、白羽ゆり ほか
【館山公演】10月14日(月・祝) 千葉県南総文化ホール 大ホール
【東京公演】10月17日(木)~10月21日(月) なかのZERO 大ホール
【大阪公演】11月2日(土)・11月3日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
【福岡公演】11月12日(火) 福岡サンパレス
【愛知公演】11月23日(土)・11月24日(日) 名古屋文理大学文化フォーラム 大ホール
【東京凱旋公演】11月30日(土)~12月8日(日) 明治座
【公式サイト】https://satomihakkenden.jp/
※山崎賢人の「崎」は、「大」の部分が「立」が正式表記