『忘れない~天国の大切なあの人へ~』北翔海莉インタビュー「パフォーマーでなくメッセンジャーとして」

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毎日新聞社と毎日新聞東京・大阪・西部社会事業団が、東日本大震災で保護者を亡くした震災遺児の学業継続を応援する「毎日希望奨学金」。そのチャリティーコンサートとして、2018年3月に宝塚歌劇団のOGらによる『忘れない~亡き人へ綴(つづ)る愛の手紙~』が開催され、多くの感動を呼んだ。

そして、今年の3月12日(火)に『忘れない~天国の大切なあの人へ~』として再びチャリティーコンサートの開催が決定。宝塚歌劇団OGの杜けあき、姿月あさと、貴城けい、北翔海莉、白羽ゆりの5人と、語りに声優の豊永利行が出演する。今回は、2018年の公演に引き続き2回目の出演となる北翔に、前回公演の思い出や今回の公演について、チャリティーにかける思いなどを語ってもらった。

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――前回の公演に出演して、どのような思いを抱きましたか?

このような企画に呼んでいただけたというのはすごく貴重なことで、本当にありがたいご縁だと思いました。東日本大震災では東北地方の太平洋側に大きな被害があって、私が生まれた青森県の八戸でもかなりの被害を受けましたし、実際に自分の目で見に行って、その景色を鮮明に覚えています。そういう意味で、全てを失ってしまったような体験をされた方の心を少しでも温めたい、寄り添うことができたら嬉しい、という思いがあったんです。だから、このような企画に参加できて本当に良かったです。

――チャリティーコンサートでは岩手県陸前高田市のカフェに実在する「漂流ポスト」に寄せられた、震災で亡くなった家族や友人らに向けた手紙の朗読がされたそうですね。

朗読は、作り話ではなくて実際に寄せられたお手紙を読むということもあり、その言葉の一つ一つが本当にリアルなんです。名前を一言呼ぶだけで、ここにどれくらいの感情が込められているんだろう、その次の言葉を紡ぐまでにどれだけの間があって、どれだけの数の涙を流したのだろう、とその情景みたいなものがすべて伝わってきていました。なので、その大事なお手紙を、パフォーマーとしてではなくメッセンジャーとして読ませていただきました。

――その中で印象に残った手紙はありましたか?

印象に残るお手紙はたくさんありましたが、自分が朗読した中に、お母さんが亡くなった息子さんへ宛てたお手紙に対して、息子さんがきっとこう思っているだろうと考えたお母さんが、息子さんの代わりに返事を書いたというお手紙があったんです。その手紙を朗読した時は、自分の体を通して返事をしているような感覚で、強烈な衝撃を受けました。亡くなった息子さんにひたすら書き続けていた手紙があって、その返事が「お母さん、手紙いつもありがとう」という内容だったんです。

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――フィクションではなく、現実の思いを朗読することは難しかったですか?

難しかったと同時に、共感できる部分もありましたね。みなさんが感じていた、口に出したいけど出したらいけないんじゃないかという葛藤、みんなが同じ状況の中だからこそ、自分だけが苦しい、辛い、寂しいと言ってはいけないのではないかという思い、我慢して口に出せなかった言葉を、お手紙を通して言えるこの企画は素晴らしいものだと感じています。メッセンジャーとしてその思いを全国の人に知ってもらうことが、私に与えられた任務なのかなと思いました。

――今回2回目の出演となる本チャリティーへかける思いや伝えたいことはありますか?

前回からメンバーが全員変わると思っていたので、また出演させていただけるとは、予想していなかったです。少しでもお力になれればいいなという気持ちがあったので、本当に嬉しかったです。手紙の内容や歌の内容、それに演出も変わると思いますから、また新しいものをお見せすることができるんじゃないでしょうか。新しいものに挑戦するという気持ちは変わりませんが、前回に体験した色々なものを、今回一緒に浄化させることができたらいいなと考えています。様々な理由で訴えることができなかった、叫ぶことができなかった被災地のみなさんの思いを、もっと発信できたらいいなと思っています。

――今回の“天国の大切なあの人へ”というサブタイトルにはどんな思いが込められているのでしょうか?

もう会えない人の中に、自分の人生に大きな影響を与えた方や、たった一言で自分の人生を導いてくださった方が、みなさんにもいらっしゃると思うんですが、それが今回、お手紙の中で家族、恋人、夫婦、大親友といろいろな形で“大切なあの人”として出てくるんです。最も身近にいる人に対して、普通はそんな手紙を書いたりすることはないですよね。でも思い返すと、あの時もっと話しておけばよかった、もっと一緒に遊んでいればよかったと感じることがあると思うんです。

このサブタイトルには“大切なあの人”に対しての複雑な思いが込められているのではないでしょうか。私は昨年の出演をきっかけに、日頃近くにいる人とのコミュニケーションを改めて大切に感じましたし、何があっても悔いのないように、自分の思いを相手に伝えることの大事さを学びました。

――東日本大震災をきっかけとして、今では「漂流ポスト」に東日本大震災以外で亡くなった方への手紙も届くようになっているそうですね。

「漂流ポスト」をきっかけに、亡くなった方へ手紙を出すことによって自分の魂が救われると気づいた方たちがいらっしゃるそうです。

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――共演者の方について教えてください

前回もそうだったんですが、皆さん大先輩ばかりで、私は最下級生なんです。宝塚は卒業しても上下関係がありますし、今回も先輩方を頼りにしてくっついて行きたいな、と思っています(笑)。様々な場所でこういう活動されている方もいますし、スタンスの違いはあるかもしれませんが、思いは皆さん一緒。宝塚歌劇は、華やかな世界でお客様を楽しませる舞台かもしれませんが、その一方で出演者の誰もが、より多くの方に勇気や慰め、癒しを与えられるように、という思いを込めて舞台に立っていました。だから、宝塚を卒業後にそれぞれの道を歩んだとしても、こういう時には心が一気に集結するんです。

――宝塚歌劇団の本拠地がある兵庫県では阪神大震災がありましたし、宝塚の方々の復興支援活動やチャリティーへの意識は強いものがあるのでしょうか?

強いと思います。阪神大震災の時は、大劇場もヒビが入って建物自体にも影響が出たり、あのエリアで大変な思いをされてきた方がすごく多いですからね。

――北翔さんは故郷の八戸市に寄付をされるなど、個人でも復興支援をされているそうですね。北翔さんにとって復興支援活動やチャリティーはどのようなものなのでしょうか?

父と兄が自衛隊員であるということもあり、宝塚に足を踏み入れるまでは、世のため人のための自衛隊に入るもんだと思っていたんですよ(笑)。そういう意味では、職業として進んだ道は違えども、やっぱり人のために奉仕する精神は幼い時から当たり前として育ってきたんです。なので“チャリティー「だから」、人のために動こう”という考えはまったくなく、いつも自分が目の前の人の役に立てればいいなと思っています。

――今回のコンサートはどのような内容になりそうですか?

まだこれからの段階ですが、今回の公演でも朗読をしたり、歌を歌うことによって目の前のお客さんの心に寄り添いたいですね。また、『忘れない』というタイトルがありますが、この公演を通して今こうやって寒い中でも暖房のある部屋にいられること、温かいご飯を食べられること、家族とちゃんと話せること、日常の当たり前のありがたさを、改めて皆さんに感じていただけるようにしたいと考えています。

――このようなコンサートが開催されることによって、あの時はどうしていたのかなど、思い出すきっかけにもなりますね。

そうですね。去年のコンサートの日は寒波で、冷たい雨が朝に降ったんですよ。渋谷の駅からコンサート会場まで歩いて行ったのですが、なぜか道に迷ってしまって、30分以上きつねにつままれたみたいだったんです。寒くて寒くてガタガタと震えて「風邪をひいて今日歌えなかったらどうしよう・・・」って。でも、その時に自分が朗読するセリフ「寒かったでしょ。冷たかったでしょ」を思い出したんです。皆、辛い思いをして、死にたくないと苦しんだ中で、天に旅立ってしまい・・・。そういう方の思いの一部を、その日に体験したんです。だから、『忘れない』という題名は、私自身が「忘れちゃいけない」ということだとも思っています。

――前回の公演では愛をテーマにしたヒット曲などを歌われましたが、今回はどのような曲を歌われる予定ですか?

昨年は「Birthday」を手話とともに歌ったんです。お客さまの中には目や耳が不自由な方もいらっしゃいますし、そういう方たちが「見に行っても、私は楽しめないから」と思わないようにしたいと考えています。今回のコンサートで歌う曲は、テーマなどに沿って選んでいる最中です。

――最後に、チャリティーコンサートにお越し下さる方へメッセージをお願いいたします。

毎日希望奨学金によって、震災で残されてしまった子どもたちが自分の進みたい道を歩める支援ができるように、私たちも何か役に立ちたいという思いがあります。そして公演では“日常の当たり前がとても貴重で、奇跡に近いことなんだよ”ということを感じていただけるように、メッセンジャーとして務めていきたいと思っています。来ていただいた皆さんが、自分自身をもう一度見つめ直すきっかけにもなると思いますので、ぜひたくさんの方にお越しいただけたら嬉しいです。

◆公演情報
宝塚OG 毎日希望奨学金チャリティーコンサート
『忘れない~天国の大切なあの人へ~』

2019年3月12日(火)東京・Bunkamuraオーチャードホール

【出演】杜けあき、姿月あさと、貴城けい、北翔海莉、白羽ゆり、豊永利行

◆チケット情報
キョードー東京:0570-550-799(営業時間:平日11:00~18:00 土日祝10:00~18:00)
http://www.kyodotokyo.com

チケットぴあ:0570-02-9999(Pコード:131-290)
http://t.pia.jp/(PC&携帯)

ローソンチケット:0570-084-003(Lコード:72461)
http://l-tike.com/ (PC&携帯)
0570-000-407(オペレーター対応)

CNプレイガイド:0570-08-9999

イープラス:http://eplus.jp

Bunkamuraチケットセンター:03-3477-9999(営業時間:10:00~17:30)
MY Bunkamura:http://my.bunkamura.co.jp  ※PC・スマホ対応/座席選択可

(取材・文/櫻井宏充、撮影/青野武雄)

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この記事を書いた人

演劇、海外ドラマ、映画、音楽などをマルチに扱うエンタメライター。エンタステージ立ち上げからライターとして参加し、小劇場から大劇場のストレートプレイにミュージカル、2.5次元、海外戯曲など幅広いジャンルにおいて演劇作品の魅力を日々お伝えしています!

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