舞台『暗くなるまで待って』は、1966年にフレデリック・ノットが書き下ろし、ブロードウェイで初演。その後、オードリー・ヘプバーン主演で映画化もされるなど、長く愛され幾度となく上演されているサスペンスの名作。2019年1月に加藤和樹と凰稀かなめのW主演で、約10年ぶりに日本で上演される。残忍な悪党のボス“ロート”役で本格的な悪役に初挑戦する加藤に、本作にかける想いや見どころ、役への取り組み方について話を聞いた。
――まもなく上演される舞台『暗くなるまで待って』ですが、加藤さんは以前にこの作品を観劇していたそうですね?
はい。2009年版ではなく、2007年に浦井健治さんが主演したものを観劇させていただいたのですが、それが人生で初めて観たストレートプレイでした。その時に浦井さんの存在を知り「何、この人!?」「何、この芝居!?」みたいな衝撃を受けたんです。
――“何”がきっかけで観に行かれたのですか?
お世話になっているプロデューサーに勧められたのがきっかけです。それまでは「ストレートプレイって難しそう」という先入観があったのですが、観劇後は「僕もいつかこういう舞台をやりたいです!」とプロデューサーに熱く話していましたね(笑)。とはいえ、当時はまだミュージカル『テニスの王子様』くらいしかステージを経験していない状態でしたから、ストレートプレイで主演を張るほどの実力が伴っていないことは自分自身が一番分かっていたんですが、言わずにはいられなくて。
その後、様々な舞台に出演させていただく中で経験を重ねて、昨年上演された『罠』の時に、「そろそろどうですか?」と声をかけていただき、ようやく実現の運びとなりました。演出も『罠』や『里見八犬伝』でご一緒した深作健太さんなので、とても心強いです。
――ここ数年、深作さんとお仕事する機会が何度かありましたが、印象は変わりましたか?
いい意味で初めてお仕事をした時から全然変わらないですね。真面目だし、ところどころおっちょこちょいだし(笑)。人当たりもソフトでチャーミングな方なんですけど、作品に対してのビジョンは明確に持っていて「自分はこう思う」とはっきり意見を言う方です。でも決して押しつけるようなことはせず、役者の立場で一緒に芝居を考えてくれるので絶対的な信頼と安心感があります。
――共演者についてもぜひお話を伺いたいのですが、W主演の凰稀かなめさんの印象は?
凰稀さんとはミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』でも共演していましたが、役柄的に僕が演じたロナンと凰稀さんが演じたマリー・アントワネットは一緒のシーンはなかったんですよ。凰稀さんのお芝居は大好きなので、今回の共演が決まった時はワクワクしましたね。
――凰稀さんが演じるスージーは、盲目ながら賢く勇気のある女性ですね。
凰稀さん自身も、サバサバした性格の“器が大きな姉御”・・・というか“兄貴肌”な感じの頼れる方です(笑)。元宝塚歌劇団宙組の男役トップスターとして活躍していた凰稀さんだからこそ、対比として女性の弱さ・内に秘めた芯の強さを表現できるんでしょうね。盲目の役を演じるのは大変だと思いますが、悪党3人と闘う凛とした強い女性を演じてくださるのではないかと楽しみにしています。
――高橋光臣さん、猪塚健太さん、松田悟志さんについてはいかがでしょう?高橋さんと松田さんは、以前別の作品でも共演経験がありますよね。
マイク役の高橋光臣さんは、舞台版(2014年・2016年上演)と映画版(2016年公開)の『真田十勇士』でも共演しているので、そんなに久しぶりな感じはないのですが、悪党グループの一人としてどんな“危ない男”を見せてくださるのか、個人的にも楽しみです。クローカー役の猪塚健太さんとは今回が初共演になりますが、歳も近いので積極的にディスカッションをしながら芝居を創っていけたらいいですね。サム役の松田悟志さんは2010年に公開された映画『神様ヘルプ』以来の共演なので、約9年ぶりにご一緒します。本番が楽しみですね。
――いただいた資料には「加藤和樹、本格的な悪役に初挑戦!」と書かれていました。加藤さんはロート役をどう作っていこうと考えていますか?
稽古前から、ロートの冷酷な雰囲気を漂わせるためにはどうしたらいいか、そのヒントを探すために、“何”が彼を悪人へと変えてしまったのか、想像しながら掘り下げていく作業というのをしていました。映画を観ることが主だったんですが。根っからの悪人なんていないし、生まれた時は無垢な赤ん坊だったはずの彼が、成長の過程でいかにして冷酷無比な人物になってしまったのか。そのバックボーンをイメージすることは、演じる上で絶対的に必要な作業だったと思います。お客様には見えない部分だし台本にも書かれていないことですけど、それをすることで役にリアルな存在感が生まれるはずですから。
――確かに、ストーリーには関係のない部分ですけど、観客の皆さんも加藤さんが演じるロートをはじめ、各登場人物を観て「何でこんな人になってしまったんだろう?」「一体、彼の人生に何があったんだろう?」とイメージを膨らませることで、さらに物語の中に深く入って楽しく観劇することが出来るかもしれないですね。
より感情移入して観ていただけるのではないかと思います。舞台に立った瞬間、「あれが加藤和樹なの?」と驚かせるためには自分の中にある“悪”の部分を引っ張り出さないとロートという役を演じることは出来ないと思っているので、それこそ人間やめるぐらいの覚悟で挑みます(笑)。
――加藤さんは役にのめり込むタイプなので、稽古中や本番中、プライベートがどうなってしまうのか、ちょっと心配です(笑)。
あはは!『罠』の時は、本気で人間不信になるくらい自分を追い込んでいましたからね(笑)。今回も日常生活の中でだんだん人間の温かみが欠けていくのかもしれないと想像すると怖いけれど、同時にちょっとワクワクもしています。あと個人的には劇中で変装をするシーンがあるのが楽しみです。
――楽しみに待っている皆様にメッセージをお願いします。
この舞台は本当に特殊だし、役者のスキルや資質がすごく問われる作品だと思います。今から約50年前に書かれたミステリー作品ですが、古き良き時代の空気を漂わせつつも、皆さんの背筋を凍らせられるような作品をお観せできるようにがんばります!
◆公演情報
舞台『暗くなるまで待って』
【東京公演】1月25日(金)~2月3日(日) サンシャイン劇場
【兵庫公演】2月8日(金)~2月10日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【名古屋公演】2月16日(土)・2019年2月17日(日) ウインクあいち
【福岡公演】2019年2月23日(土) 福岡市民会館 大ホール
【作】フレデリック・ノット
【訳】平田綾子
【演出】深作健太
【出演】加藤和樹 凰稀かなめ/高橋光臣 猪塚健太 松田悟志
黒澤美濡奈 丸内健太 橋谷拓玖
【公式HP】http://wud2019.com/
※高橋光臣の「高」は「はしごだか」が正式表記
(撮影/近藤明子)