ふたり芝居『家族熱』インタビュー!ミムラ×溝端淳平「男性と女性の違いがはっきり出ておもしろい」

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ミムラと溝端淳平が、濃厚なふたり芝居に挑む。作品は向田邦子のドラマ『家族熱』を元に、その3年後に再会した継母と息子を描いた。母と息子として、男と女として、二人の再会は甘く危険なものになるのか・・・。

企画・台本・演出を手掛ける合津直枝は、これまでふたり芝居『乳房』(原作:伊集院静、出演:内野聖陽×波瑠)、『檀』(原作:沢木耕太郎、出演:中井貴一×宮本信子)と評価を得てきた。今年はさらにふたり芝居『悪人』(原作:吉田修一、出演:中村蒼×美波)も決まっている。今回、ファンの多い向田作品、かつ、逃げ場のないふたり芝居に挑む出演者の二人に話を聞いた。

ミムラ×溝端淳平、ふたり芝居『家族熱』インタビュー

目次

共演経験があるから、信頼できる

――出演が決まった時はどんな気持ちでしたか?

溝端:「やるぞ」という気持ちもありますけれど、不安の方が大きかったです。人前でお芝居することは体力もいるし、たくさんのファンがいらっしゃる向田邦子さんの作品を二人だけで演じるのも怖い。でも、不思議な恐怖なんです。ただ怖いだけではなく、稽古をするのも作品の世界に入るのも楽しみなんですよ。

ミムラ:実は私、溝端さんと逆なんですよ。まったく不安はなくて、楽しい!って気持ちだけ。初舞台の時もその後の舞台も怖さを感じたことはないんですが、それでは楽しいばかりでバランスがおかしくなっちゃう。だから溝端さんのような方が隣にいてくれると冷静になれるので良かったです。

溝端:いや、僕もバランスは良くないですよ。熱がある時と冷めている時が両極端で、稽古をしていて「この作品すごくいいなぁ」と思っていても、急に「何だコレ、面白いの?」と冷める瞬間もあるんです。その冷めた後におもしろさを見つけると、すごく良くなるんですけどね。

ミムラ:きっと客観性があられるんでしょうね。

――お二人はドラマ『昨夜のカレー、明日のパン』(作:木皿泉)で共演されていましたね。お互いの俳優としての印象は?

ミムラ:私は、溝端さんはシリアスもコメディもきっちりなさる方だなと思っているんです……って、ごめんなさい、上から目線で!

溝端:いやいや、とんでもないですよ。

ミムラ:木皿さんの作品では「こんな人居たらいいな」というキャラクターがコミカルで素敵でしたし、『家族熱』で溝端さんが演じる杉男は「こんな人と結婚したいな」と思わせるような男性なので、そんな実在感のある人を演じる裏地は絶対にお持ちだと感じます。リアリティを軸にされた溝端さんも楽しみです。

溝端:僕もミムラさんに対して似た感想を持っていますよ。コメディもできるし、普段もものすごく明るい方なので、さっきの「舞台に楽しみしかない」という思いにはすごく合点がいきました。普段明るい女優さんほど、シリアスで業が深い女性を演じたら素晴らしいことが多いなと思っています。

ミムラ:無意識のうちにお腹に毒が溜まっていたりして(笑)。お芝居はその毒を発散するのが楽しさでもありますしね。

溝端:なるほど。相手役としてその溜めた毒を浴びるのが楽しみですね。

ミムラ×溝端淳平、ふたり芝居『家族熱』インタビュー_4

二人に合わせ、台本を書き変えていく

――この舞台は、向田邦子さんの同名ドラマ『家族熱』の3年後を描いた物語です。台本を読まれていかがですか?

溝端:義理の母と息子の再会を描いているのですが、ものすごくジリジリと胸が締めつけられる作品です。二人を見ていると心をかき乱されて、胸がぎゅっと締め付けられる。1978年の作品をもとにしているのに、とても新鮮なんです。

ミムラ:若い男性・杉男くんは3年を経ても地続きに過去を引きずっているけれど、年上の女性・朋子さんは「もう過去なのよ」と言いながらも実は強く縛られている。少し似ているところもある二人だけれど、3年経ってまったく違う変化が起きている様子が見えてきます。台本を読んでもっとも強く感じたのは、男性と女性の過去への立ち回り方の違いですね。

溝端:そこの男性性と女性性の違いはおもしろいですよね。

ミムラ:よく「女は上書き保存」と言われますけれど、それって本当なのかしらって。

――杉男と朋子、それぞれどんな役ですか?

溝端:最初に読んだ時、杉男は男くさいなと思いました。ミムラさんが言うように、男は過去に縛られても生きていけるんですよ。むしろ縛られていることにちょっと酔ってる男もいるんです。杉男は、過去に対して悩んでいるんだけど甘えたい気持ちもあるし、男の馬鹿げたロマンみたいなものを持っている人です。

ミムラ:そんな感じありますね(笑)。

溝端:男って過去を糧に生きていけるんですよ。女性は現実的だから無理かもしれませんが・・・。でも僕は「杉男、もっと行けよ」と思いましたね。朋子に伝えたいことがあるなら、もっと素直に気持ちを伝えて、それからどうなるかなんてもう考えなくていいじゃないか、と。でもそうやってもどかしく感じている時点で、僕はもう『家族熱』の虜になっているんでしょうね。

ミムラ:私たちが読み合わせをした時、合津さんも「杉男、もっと行け!」って思ったらしくて。台本に杉男の熱量を足したり、朋子さんにSっ気を加えたりと、さらにエキサイティングに書き直してくださっているそうです。

――お二人だからこその『家族熱』になるんですね。では、ミムラさんの演じる朋子はどんな女性ですか?

ミムラ:朋子は、同性として友達になりたいかと言うと、ちょっと遠慮したいタイプかも。たぶん恵まれた環境で過ごしてきて、少し思い上がっているところがあった女性なんじゃないかな。それが杉男たちの家に後妻として嫁いでから、人生の初挫折のような体験をする。この部分を現実的な実感に沿ってご覧いただけるよう、しっかりと演じたいですね。

ミムラ×溝端淳平、ふたり芝居『家族熱』インタビュー_3

向田作品には“毒”がある

――ふたり芝居であることについては、どんなお気持ちですか?

溝端:ふたり芝居は初めてなので未知の世界です。三人芝居はやりましたが、三人なのか二人なのかというのは全然違う。二人の場合、うまく緩急や見せ場をつけないときっとお客さんもつまらなくなっちゃうでしょうね。

ミムラ:そうですね。例えば、二人で徹底的にぴったり合わせるところは合わせてから、思いきり崩すとか。色々試してみたいですね。

――没後36年の今なお多くの方に愛されている向田作品ということで、期待も高まります。向田邦子さんの作品の魅力はどういうところでしょう?

ミムラ:私は向田ファンで話し始めると止まらなくなるので、先に溝端さんお願いします(笑)。

溝端:じゃあ先に・・・僕は向田さんはすごい作家さんだというイメージはあったんですが、作品を見たことがなかったんです。でも台本を読むと、強い熱量を感じます。台詞の一言一言やト書きも、さらっと書くのではなくとても洗練されている。綺麗なものの中に毒がたくさんあるから、皆、惹かれるのかな。

ミムラ:合津さんは「溝端さんが向田作品について知らないのがすごくいい」とおっしゃっていましたね。「向田さんを知っている人にしかわからない作品ではおかしい。知らない人もその世界を楽しめるかは、溝端さんが大事なんですよ」と。

今感じている向田さんの魅力は、ご自身についてかなりあけすけに書いているようで本当のことは何も言わないでいなくなっちゃったところかな。だから皆が「彼女は本当は何を思っていたんだろう」と気になる、ミステリアスな存在。作品も同じで、親切な描写が多くて「すごく分かるなぁ」と思っていたら、急にポンと注釈がないものを放り込まれる。この置いてきぼり感に中毒性があって、胸に残る。溝端さんをはじめ向田作品にあまり触れていない人にも「癖になるな」と思ってもらえたら嬉しいです。

それから、向田さんは仕事人として男性にも認められて実は男性ファンも多い。舞台のお客さんは女性が多いけれど、女性はもちろん男性もたくさん観にくるような作品になったらいいな。

溝端:向田作品を知らない世代の方や、普段あまり舞台を見られない方など、いろいろな方に足を運んでいただきたいですね。劇場に来られた人の世界が広がると嬉しいです。

ミムラ×溝端淳平、ふたり芝居『家族熱』インタビュー_5

◆公演情報
ふたり芝居『家族熱』
2018年5月29日(火)~6月5日(火) 東京芸術劇場 シアターウエスト
【原作】向田邦子
【企画・台本・演出】合津直枝
【出演】ミムラ 溝端淳平

【チケット一般発売】2018年3月18日(日)10:00~
チケットぴあ

【公式HP】http://www.tvu.co.jp/product/stage2018/

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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