『子午線の祀り』成河インタビュー!「険しく、高い山を登る気持ちで挑みたい」

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1979年の初演より、幾度となく上演を重ねてきた木下順二作の『子午線の祀り』。「平家物語」を題材に、天の視点から、源平合戦に関わった登場人物たちを躍動感をもって浮き彫りにし、人間たちの葛藤をもあぶり出したスペクタクルな歴史絵巻として描かれた本作。昭和戯曲の金字塔と言われ、演劇史に確固たる地位を築いてきたこの名作が、世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演として2017年7月に、野村萬斎演出で新たに幕を開ける。

演出のほか、話題となっているのが新キャストの面々。これまで古典芸能の俳優の役どころであった源義経を現代劇の俳優として初めて演じるのは、幅広くさまざまなジャンルの舞台で活躍し、観客を魅了してきた成河。上演に向けての覚悟と意気込み、演劇への強い想いを聞いた。

『子午線の祀り』成河インタビュー

目次

誰よりも萬斎さんの前で恥をかきたい

――今回のご出演のお話を受けた時の心境を振り返っていただけますか?

野村萬斎さんから初めてこのお話をいただいたのは、もう2年前くらいになるのかな。世田谷パブリックシアターで上演した『春琴』以降、萬斎さんとお話をさせていただける機会は時々あったのですが、ようやくご一緒できる、ご縁が実ったという、ありがたい気持ちでした。

――野村萬斎さんの演出をお受けになるにあたって、役者としてこういう風にぶつかりたいという想いはありますか?

義経を僕に任せていただいているということ自体がありがたく、だからこそ、たくさん話し合いながら作りたいと思っています。いろんな寄り道して、失敗して、恥もかいて・・・。誰よりも萬斎さんの前で背伸びしたり、カッコつけたりしないでやっていけたらと思っていますね。萬斎さんが2017年に『子午線の祀り』をどのような想いで観客に届けたいか。そういうところも共有したいですし、お話もたくさん聞きたいです。僕は萬斎さんのお話が大好きなので。そんなやり取りの稽古ができたら幸せだなと思っています。

――新演出に新キャスト、新たな歴史を楽しみにしています。初めて脚本を読まれた時、どう感じられましたか?

僕自身、お話をいただくまでこの作品を知らなかったので、まずは己の無知を呪いましたね。正直に話すと、恐怖しかないです(笑)。今回に限らず、稽古に入る時はいつも「まず恥をかこう」っていう気持ちでいます。恥を書くっていうのは、己を知るということです。今回もより強く、そういう想いでいます。

『子午線の祀り』成河インタビュー_2

“言葉の源流”に触れたという感覚

――出演決定の際、「この作品には演劇の原点が詰まっている」とコメントされていたのが印象的でした。どういった部分でそう感じられたのでしょうか?

いろんな言い方ができるとは思うのですが・・・。今思うと、源流っていう方がしっくりくるかもしれません。演劇には「様式」っていうものがあって、僕はその演劇のいろんな様式に興味があり、それぞれの手法で織りなされる様式美が好きで、学生時代からの観劇も含めて演劇に関わってきました。今になって分かることは、様式って「言葉」が決めているんですよね。この言葉をしゃべるために、こういう身体になろう。そんな思いの中で、この『子午線の祀り』を読んで、“言葉の源流”がここにあるなと感じたんです。

――なるほど・・・点ではなく、遡った先に流れているものを感じられたのですね。

僕が好きだったのは、つかこうへいさんであり、野田秀樹さんであり、唐十郎さんであり、井上ひさしさん。ほかにも、魅了されてきた多くの方の言葉があります。そういった方々の日本語というものに触れてきて、「この日本語をしゃべる身体っていうのは何が一番いいんだろう」という気持ちを持って、今まで役者をやってきました。そして今、そういう方々が紡いできた言葉をずっと遡ったところにあるものに、この『子午線の祀り』という本戯曲を通して触れた気がしたんです。ですので、この作品の稽古は、言葉の源流を辿る旅だと思っています。険しく高い山になると思います。

――成河さんの演じる義経役は、これまで野村万作氏、市川右近(現在は市川右團次)さんなど、古典芸能の役者さんが演じてこられましたが、現代劇の俳優が担うのは初めてなんですよね。

源流である言葉を語るための身体というのは、とてつもなく強い身体でなければいけないということが、これまで演じられてきた方々がすでに提示されているんです。一つの様式として。その様式を持たない僕が、この台本に書かれている言葉をしゃべる時に「僕の中の何が使えるんだろう」ということと、とことん向き合う、とんでもない時間を過ごすことになると思います。

――1978年の戯曲発表、翌年の初演から39年、7度上演を重ねてきた歴史ある作品に対する、成河さんの覚悟と意気込みを感じました。

この作品のすごいところは、語る言葉と対話が共存していることだと思うんです。それは、日本の演劇では水と油のようなもので、ある意味それまでなかったもの。木下先生は、いろいろなジャンルの俳優が一緒につくる一つのドラマとして上演される作品を書きたいと考えて、この作品を書かれ、色々な様式を持つの人たちが集まって喧々諤々としながら作られたんだと感じるんです。そういうことも、同時に感じています。

『子午線の祀り』成河インタビュー_3

能動的に舞台を観ることの意味を痛感する作品

――物語としても、平氏と源氏の戦いだけでなく、「天」の視点から人間の営み、その興隆と衰退、葛藤を描き、普遍的で時代を超えた強いメッセージを感じる作品ですよね。

そうですね。宇宙の視点があったり、すごく俯瞰して見ていると思ったら、ぐっと寄っていったり・・・。人間がいて、言葉があるだけで、ズームイン、ズームアウトがここまでできるという演劇が持っている本質、そういった突き詰められたものを感じています。読むだけでゾクゾクしてくるような言葉や、衝撃的な展開、それらを駆使した演劇的な瞬間が詰まっています。日本に生まれて、これを知らないのは損、もったいないことだって、素直に思うんですよね。「分からないものはつまらない」っていうのは貧しいことだと思うんです。だけど、今、そういう風潮を感じることもあって・・・。

――確かにそうですよね。これが、伝統芸能や歴史や史実にまつわる作品などに触れるきっかけになればいいなとも感じます。

僕自身、日本の伝統や歴史、古典にそこまで知識があったわけじゃないですよ。でも、読んでみたら分かるわけですよ。それを伝えるための言葉が深くて美しくて幅があるということを、僕は学びましたし、伝えたいと思っています。だから、こういう作品を観てこなかった方や、観られなかった世代の方たちにもこの世界に入ってみようとしてほしいですね。

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――確かに、そういう感度を持つだけで、その後の幅もぐっと広がりますよね。没入するおもしろさというか・・・。

そうなんですよね。演劇に限らず、いろんな文明が発達して「何もしないで楽しめる」っていうことが多くなってきていると思うんです。でも、本当は自分からその世界に入っていくことで、もっと楽しめる。そういうエンターテイメントの真髄みたいなものが、この作品にはあります。舞台を能動的に楽しむ。言葉で言うと簡単ですけど、今すごく先細っていることだと僕自身は感じています。だから、そういうエンターテイメントの形を、今提示するということは、非常に意味のあることだと思います。

例えば、僕は360度回転劇場のIHIステージアラウンド東京で、劇団☆新感線さんの『髑髏城の七人』Season花に出ていました。『子午線の祀り』とは、対極のものです。でも、劇団☆新感線さんで僕を知ってくださった方が、今度は『子午線の祀り』を観に来てくれるかもしれない。それって、すごくおもしろいことだと思うんです!演劇を観てくださる方には、そういう極端な経験もぜひしてみてほしいと思うんですよね。

――それこそ「様式」が全然違いますもんね。

いい悪いではなくて、どちらも演劇であり、それをやっている僕たちの目的は同じなんですよね。そこに座っている人を、どこかに連れて行きたい。そういうことなんです。「分かりやすいものがエンターテイメント」なんじゃないんですよね。

――連れて行かれる側の覚悟みたいなものも問われたような、熱いインタビューでした!

舞台の上に人がいて、言葉をしゃべって、いろんなところに連れて行ってくれる。さらに、自分から入っていこうとするだけで、楽しさは2倍にも3倍にもなる。エンターテイメントってそういうことだと思うんです。演劇“初心者”の方、そういうことを体験したことがなかった人にも、この作品を観ている時間を贅沢なものだと感じてもらえたら嬉しいです。

『子午線の祀り』成河インタビュー_5

◆公演情報
世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『子午線の祀り』
7月1日(土)~7月23日(日) 東京・世田谷パブリックシアター
※ 7月1日(土)~7月3日(月)はプレビュー公演
【作】木下順二
【演出】野村萬斎
【音楽】武満徹
【出演】野村萬斎、成河、河原崎國太郎、今井朋彦、村田雄浩、若村麻由美 ほか

『子午線の祀り』成河インタビュー_6

(撮影/関口佳代)

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