2016年4月に上演され、開幕と共に口コミで話題が話題を呼んだ衝撃の喜劇、~崩壊シリーズ~『九条丸家の殺人事件』から1年。観客を崩壊の渦に巻き込んだシリーズの第2弾として、~崩壊シリーズ~『リメンバーミー』が2017年4月に東京・俳優座劇場で上演される。作・演出は、前回に引き続き、バナナマンや東京03など数々の人気芸人の傑作コントはじめ、人気バラエティー番組『ゴッドタン』等で知られる構成作家のオークラが手がける。
キャスト陣は、山崎樹範、松下洸平、上地春奈、大水洋介(ラバーガール)、伊藤裕一、彩吹真央、梶原善が続投。加えて、新たに味方良介が参戦する。今回も主演を務める山崎に、前回公演のことや、新作にかける想いなどを語ってもらった。
――原作『The Play That Goes Wrong』をロンドンで事前に観ていたのですが、日本版は原作よりも崩壊具合がスケールアップしていましたし、何よりも劇団員としてのストーリーの存在に、原作にはない面白みを感じました。
ありがとうございます。原作には、ストーリーがほとんどないですよね。前回は台本の権利だけを取って、演出の権利は取っていないから、イギリス版の舞台を誰も観ていないんですよ。だから、イギリス版の台本だけを読んでも、これをどう演じたのだろうかと思うことが多かったですね。
――原作の台本には崩壊する内容がト書きとして書かれていますが、確かに文字だけではあの内容をイメージしづらいですね。
分からないですよね。原作版には、何でこのミスをするのかという理由がなかったりするじゃないですか。だから、最初に台本をもらった時に感じたのは「これを日本人の前で演じても笑ってくれるのだろうか?」ということでした。それを全部、オークラさんが稽古中に色々と変更してくれたので、最終的に最初の台本の形はまったく、なくなってしまいましたね(笑)。
――そんな不安も抱えつつの初演だったと思いますが、公演中はどのような心境だったのでしょうか?
この舞台は「笑い」ということに特化していますよね。ストーリーはうっすらとあるものの、とにかく笑いを取るというのがメインで、それしかないという舞台を演じるのは初めてでした。結果、感情面の扱いが普通の舞台とは違うんですよ。感動というのは、目に見えないし、お客さんの受け取り方もそれぞれ違いますよね。でも、笑いは明確に笑い声というはっきりした答えがあるので、舞台上のメンバーもそこだけに向かえばいいから、皆が同じ方向を向けるんですよ。だから「俺はこう思うからこうしたい」とかではなくて「どうしたらもっと笑いが起きるか」ということだけを考えれば良いので、その点ではすごく演じやすかったですね。
皆で同じゴールを見ているんですよ。皆で楽しく探求しながら「じゃあここの笑いもっと引き出すためには、その前にリアクションはいらないんじゃないか」とか、「ここで俺がもっと距離をとって、真ん中の人がより見やすいようにしたほうがいいんじゃないか」とか、試行錯誤を本番中もずっとやっていて、笑いの質を上げていこうとしていました。
――前回公演のプログラムで、山崎さんが「ストーリーや気持ち以外にも把握することがある」とおっしゃられていたことですね。
そうですね。自分の感情のままに動くと、その笑いを邪魔することがあるんです。お客さん全員の目線を、笑いが起きる方向に向けさせなきゃいけない時に、その前に自分が一歩動いたら目線をこっちに向けさせてしまうので、そういうところを避けようということなんですよね。その瞬間、何にフォーカスを当てるのかということを全員が共通認識として持ってないと、散漫になってしまうんです。どこを見てもおもしろいというのも良いのかもしれないし、個人で演じる部分はそれでもいいんです。でも、全員で一つの笑いを作っていくという瞬間には、余計なことを基本はしないということですかね。だから、どうしても我が出てしまったりとか、役者の本能で動いてしまったりする部分を、削っていく必要があるんですよ。皆が共通で「この瞬間がおもしろいよね」というところを、皆が同時に思っていないと、できないことなんです。それが、それぞれ違う部分があったので、そこをすり合わせる作業がありましたね。
――そのような作業は稽古段階で完成していたのでしょうか?
これはお客さんが入って分かったことなんです。これで笑いが起きるのかどうか分からない不安な部分がいっぱいある中で、お客さんが今は何を見ているのだろうかと、客席のリアクションを見ていました。舞台上だけでなく、頻繁にお客さんの顔を見ていましたね。狙いがハマったときは気持ち良かったですよ~。当然ウケない部分もあるし、それをどうしたら、ちゃんと笑い声になるのだろうかというのは、福岡公演の千秋楽まで、ずっと試行錯誤していましたね。それでも、もうちょっとできたな・・・という思いのままで終わってしまいましたけど。
――その“もうちょっと”の部分は、新作で期待ですね。
お客さんが目の前にいないと分からないことがたくさんあるんですよね。自分個人で好き放題やるみたいな場合は、自分で修正すればいいだけなので、どうとでもなるんですよ。でも、全員で笑いを作るという時は難しいので、そこに時間は割かれると思いますね。
――最初に崩壊シリーズの新作が上演されると聞いた時は、原作のスピンオフ作品で、ピーター・パンが崩壊する『Peter Pan Goes Wrong』を日本風にアレンジするのかと思っていました。
そうですね。ただ、それだとちょっと面白みに欠けると思うかな。これだけ色々なものがある世の中で、桃太郎のパロディを観たいですかという話ですよね(笑)。キジ役が3人揃っちゃった、みたいなね。ちょっとはウケると思うけど。
――最近、日本昔話のパロディで好評のテレビCMもありますね。
あれに勝るモノはないじゃないですか。全員が知っているというのは、入り口としては良いと思いますけど、それを90分間も続けるのは、かなり難しいと思うんですよね。そういった意味では、「崩壊シリーズ」には達者な役者さんが揃っているし、オークラさんも現役バリバリでバラエティーを作っている人ですからね。オークラさんの頭の中にあるものから生み出したほうが、たぶんおもしろいと思うんですよ。原作を付けてしまうと、逆に変な制限になってしまうと思いますね。
――新作については、オークラさんと事前に何かお話をされていたのでしょうか?
実は、再演説もあったんですよ。オークラさんが新しい話を思いついたら新作、思いつかなかったら再演という、ふわっとした感じの流れがあったんです。去年、NHKでたまたまオークラさんとすれ違った時に、何か思いついたか尋ねたら「へへっ」と笑ってどこかに行ってしまって(笑)。その時点では、まだ分からなかったと思うんですけど、新作になるので、オークラさんの中でこれならイケるというのがその後に頭に浮かんだと思うんですよ。
――現段階での新作の見どころは?
見どころはとにかく、くだらなくてどうしようもない人たちが、一生懸命に汗をかいているのに、滑稽だという姿だと思います。このシリーズは本当にメッセージなんかありませんし、世の中に何かを訴えかけることも一切しない芝居ですから、とにかくリラックスして観てもらいたいというだけですけど、こういうのを続けていきたいんですよね。こんな中身のない演劇があってもいいじゃないかと。「演劇とは?」という難しいテーマを考える人たちももちろんいるし、僕もそういう芝居に出ることもありますけど、その真逆で、何も考えずにただ楽しいだけの舞台があってもいいなと思うんですよ。正直に言えば、第2弾が決まったので、さらに第3弾、第4弾と続いていくようなシリーズになればいいなと思っています。
――大道具などの舞台美術の崩壊も第2弾でスケールアップさせるのか、違う方向を目指すのか気になります。
どうするんですかねえ。結局、やっていることはザ・ドリフターズのコントに近いじゃないですか。センスとかもあるんですけど、やっぱりベタの笑いって、おもしろいんだなと思うんですよ。それこそ、ドリフの『8時だョ!全員集合』みたいに、舞台袖から鳩が飛んできたり、階段が全部崩れて坂になって落ちてくるとか、そういうのは絶対におもしろいので、やりたいんですけどね。最終的には、そういう劇場を作らないとできなくなるかもしれませんね。客席がガタッと揺れたりする、映画の4Dみたいなね(笑)。
――新作について、現在の段階でこういうことをしてみようかという考えはありますか?
僕自身は、台詞が無くても笑いが取れるような部分が、それほど前回はなかったと思うので、動きで見せるものを何かやりたいなと思っています。どうしても、言葉の数に頼っている部分があったと思うので、それがなくても笑いを取ることができたらいいなと。だけど、まだ分からないですね~。稽古場は、本当に何を試しても許される場なんですよ。だから、自分の中で考えついたことは、とりあえず稽古場で一度チャレンジしてみて、自分だけでジャッジしないように、全部さらけ出してみようと思っています。そうすると、また違う形に生まれ変わる可能性も出てくるんですよね。稽古の間は、笑いに関して思いついたことは全部やってみて、ずっと「何がおもしろいのか」を探し続けたいと思います。
――ちなみに、最近崩壊してしまったことや、崩壊させたくないことなどはありますか?
崩壊してしまったことに関しては、個人的な経済が破綻したことぐらいですかね(笑)!事務所の移籍に伴って固定給から歩合給に変わったんですけど、歩合だとギャラが数か月先に入ってくるので、空白の期間があるんですよね。それで「今月からよろしくお願いします!」と言った月末に、うっかり「すみません、お金貸してください」という状態になってしまって、生活が崩壊していました(笑)。もうきちんとお返ししていますけど、さすがに笑っちゃいましたね。僕自身がダメな人間なので、崩壊シリーズの栗須という役はぴったりで本当に演じやすいです(笑)。
崩壊させたくないことについては、今は本当に夫婦関係ですね。結婚したばかりなので、夫婦関係は絶対に崩壊させないぞ、という思いでいます。
――最後に、新作を楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。
とにかく何も考えずに、何も構えずに観ていただける舞台だと思いますので、劇場に足を運んで、リラックスして観てもらえたらと思います。自分より下の人間がいるんだな、と思っていただける舞台になっています(笑)。これといった強いメッセージはないですけど、それが売りです!
◆公演情報
~崩壊シリーズ~『リメンバーミー』
4月13日(木)から4月30日(日) 東京・俳優座劇場
【作・演出】オークラ
【出演】山崎樹範、松下洸平、味方良介、上地春奈、大水洋介(ラバーガール)、伊藤裕一、彩吹真央、梶原善
(撮影/櫻井宏充)