2017年2月16日(水)から2月19日(日)まで東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて空想組曲vol.14『どうか闇を、きみに』が上演される。これまでの空想組曲では、少女漫画のような世界の中にリアルな現実をつきつけるダークファンタジーが描かれてきたが、本作ではテイストを一転。
闇の広がる密室の中に監禁され、不条理な暴力を受け続ける“少年”と、少年を拉致して「教育」の名のもと恐怖を植え続ける“男”の超ダークストーリーが描かれる。上演にあたり、出演者の三浦涼介、内藤大希、そして脚本・演出を手掛けるほさかように、作品への意気込みや演じる心境を聞いた。
――本作では、空想組曲として未だかつてない「恐怖」が描かれると聞きました。
ほさか:去年まではエンターテイメントに特化した作品を作っていたんですけど、お客様が「笑う」のと「悲鳴をあげる」のは、そんなに大差がないように感じてはいたんです。なので今度は、とことんまで観ている人の心をえぐってみようと考えたんですね。
「闇」って、言葉にすると漠然としていますけど、どこまでも侵食していくような広がりがある。演劇的な仕掛けでいうと、物語で描かれる「闇」がお客さんの中に広がって、それぞれ個別の具体的なイメージを引き出す・・・そんな広がり方ですね。なので、極端に研ぎ澄ました「闇」をお客さんに渡したく、シチュエーションを限定して、登場人物も3人とシンプルな設定にしました。
――それぞれ、脚本を読んだ印象を教えてください。
三浦:まず、かなりハードな話だなって思いましたね。でも、人間の繊細さや弱さ、優しさを闇に例えるほさかさんの、なんというか・・・感性に圧倒されてしまって。僕は、人間の闇なんて聞きたくも見たくもないんだけど、もしその闇の部分を知ってしまったら、もうその人の虜になってしまうんじゃないかって思うんです。それほど「闇」って、魅惑的なものでもある。ただ、「闇」と向き合うというのは並大抵のパワーじゃ描けないものだから、これを真っ向から舞台にしようと決めたほさかさんはすごいなって。
内藤:僕は、読みながらどんどん舞台上のイメージが湧いてきました。東京芸術劇場のシアターイーストって、お客さんと密度のある演劇が行われているイメージがあるので、台本を読んでピッタリの劇場だと思いました。
それから、演じる役が自分とちょっと似た印象を覚えましたね。普段生活をしていて「死」の恐怖を感じることって、あまりないじゃないですか?でも、ニュースを見ていると、毎日のように人は理不尽な死の危険に晒されている。日本ってすごく平和な国なので、自分は大丈夫だって「死」を他人事のように考えてしまいがちだと思うんですが、もちろん僕もその一人として、“少年”の心理と近いものがあるんじゃないかなって感じたんです。
ほさか:僕も、お客さんに一番近しい役が内藤さん演じる“少年”だと思いますね。
――三浦さんの演じる人物は、そんな少年に暴力で恐怖を植えつける“男”の役ですよね。
三浦:そうですね。自分の中に深い闇があるからこそ、人を痛めつけることでしか心も身体も発動できない狂った人物だと思っています。ただ、演じる人物のことを想像すればするほど、登場する3人の中で一番人間っぽいような気もしていて。
ほさか:うん、確かに。
三浦:これまでは、自分の見た目も関係してなのか(笑)、傷つけられる側を演じることが多かったんです。でも、今回は痛めつける側ということで、改めていただいた役について考えると、肉体的な暴力や言葉の暴力を加えるってかなりの精神力が必要なんだって分かったんです。
ほさか:理不尽な暴力ってそんなにパワーがいらないことだと思うんです。ただ、少しでも関係のある人に対する暴力って、例えば「愛の告白」をするくらい精神的に消耗することだと思う。「お前のことが好きだ!」と「お前なんか死ね!」というのは、意味が違っても同じくらい心のコストがかかる。今作で描く暴力は一見不条理な暴力に見えて、コストを支払う暴力になるのだと思います。
――内藤さんが演じられる役も、心も身体もしっかり消耗しそうですね。
内藤:大人になればなるほど、暴力を受ける機会って減っていくじゃないですか。若い頃は、不良なんかと遭遇して理不尽な暴力を受けるなんてこともあったりしたんですけど(笑)。なので、実際に舞台の上でどうなってしまうのか、まだ想像できませんね。
――三浦さんも稽古場では相当消耗するでしょうね。
三浦:まあ、毎晩良いお酒が飲めると思います(笑)。稽古での集中が高まるほど、オフのメリハリもつく気がしていて。それは楽しみのひとつです(笑)。
ほさか:心の切り替えができるのは大切なことだよね。この作品のような消耗する作品って、公私混同しちゃうと逃げ道を失くしちゃうんですよ。役者さんが役とリンクしていくのはとても大事な作業なんだけど、あくまで演じ手としての客観性も持って欲しいと思います。こういう密な設定の演劇は、ナルシスティックに陥りがちだから、特にオンオフの切り替えは大事だよね。
――今作は「恐怖」にフォーカスされている作品なので、それぞれ恐怖に感じることを教えてください。
内藤:身体の大きい人はそれだけで怖いですね~。
ほさか:え、なにそれ?(笑)。
内藤:勝てないなって。
ほさか:何、内藤くんはいつも戦いを想定して人と会ってるの(笑)?
内藤:いや、そんなつもりはないんですけど・・・(笑)。あ!あと、痛みを待っている瞬間が怖いです。
ほさか:それは分かる(笑)。例えば、痛みの想像が膨らむ時間は脳内に恐怖が無尽蔵に広がるから、殴られる瞬間とかより痛みを待っている時間の方が遥かに怖いよね。
三浦:僕も、今の話聞いていて、確かに待っている時間の恐怖ってあるなと思いました。例えば、初めての顔合わせとか本読みまでの期間って、めちゃくちゃ怖いんですよ。上手くできるかなとか考えると際限がない。あとは・・・、最近自分が怖いです(笑)。
――というのは・・・?
三浦:お酒が好きすぎて・・・。
一同:(笑)!!
三浦:飲みだすと、具合が悪くなるほど飲んじゃうんですよ。いつも「もうお酒は飲まない!」って思って寝るんですけど、次の日にはしっかり飲んでる自分がいる(笑)。
――お酒を飲まれると雰囲気も変わったりするんですか?
三浦:多少変わりますよね(笑)。元気が良くなると思います。
ほさか:よし、酒を稽古場に置こう!
三浦:(笑)。
――ほさかさんは恐怖と聞いて何が思い当たりますか?
ほさか:僕は、本当に性格が良い人が怖いなあって思います。性格の良さを人に押し付けたり、明らかに威圧的な人って、なんとなく背景の心理が読み取れるから安心できるんですね。
でも、目的の分からない性格の良さって時に狂気さえ感じてしまったりするんです。目的の不明な善意って怖いですよ。
――それでは最後に、一言、今作への意気込みを教えてください。
三浦:今回、ほさかさんとご一緒させていただいて、初めて“演劇”に触れるんだろうなって思います。これまでも演劇作品に出演させていただいていますし、怠けたことなんてないのですが、もっと踏み込めたんじゃないかと、後になって後悔することも多くて。この悔しさは演劇作品に関わらずともあるのですが、今回は意識的にもっと役に踏み込んで、“演劇的”な人間になれたらいいなって考えています。後は、観に来てくださるお客様に、何か感じてもらえるよう自分なりの表現で作品の魅力を伝えられたらいいなって思います。
内藤:中学生の頃に映画『バトル・ロワイヤル』が流行したんですけど、多分にもれず僕もハマっていて。いつか自分もそんな作品に出会えたらとずっと思っていました。そうしたら今回、このお話をいただいて、当時と同じ興奮を覚えたんです。なので、出演できることがすごく嬉しいです。ただ、俳優としての夢が一つ叶う作品なので、その分プレッシャーも感じています。気合を入れて、しっかりと演じきりたいと思います!
ほさか:『どうか闇を、きみに』は、見ていてシンドイ作品だと思うんです。お客様の精神状態によっては、途中で席を立ってしまいたくなるほど嫌悪感を覚える場面もあるかもしれません。ただ、そこに耐えていただけたら、深い闇に灯る光が現れてくるので「観てよかった」と思える何かをしっかり渡せるよう、稽古に集中していきたいと思います。劇場にて、お待ちしています!
◆公演情報
空想組曲vol.14 『どうか闇を、きみに』
2月16日(水)~2月19日(日) 東京・芸術劇場 シアターイースト
【作・演出】ほさかよう
【出演】三浦涼介、内藤大希、山下容莉枝
(撮影/大宮ガスト)