キャラメルボックスが伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』を舞台化!成井豊×一色洋平インタビュー

当ページには広告が含まれています

伊坂幸太郎の大人気小説『ゴールデンスランバー』が、初めて舞台化される。原作小説は2007年に出版され本屋大賞と山本周五郎賞を受賞。2010年には堺雅人主演で映画化され大ヒットした。
首相暗殺の犯人に仕立て上げられた宅配便ドライバーの逃亡劇。その作品に惚れ込み、舞台化を熱望した演劇集団キャラメルボックスの成井豊と、オーディションに合格しゲスト出演が決まった一色洋平に、舞台化への思いを聞いた。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー

関連記事:伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』をキャラメルボックスが舞台化!「キルオ」役はオーディショ1ンで決定

目次

小説でも映画でもない、舞台でしかできない表現

――『ゴールデンスランバー』、初の舞台化ですね。

成井:はい、伊坂さんの作品はほぼ読んでいるんですが、『ゴールデンスランバー』が一番好きで、ぜひ舞台化したいとオファーしたんです。伊坂さんの泣かせ方って作者の独りよがりではなく客観性があるから、安心して読める。こちらも冷静に読んでいるのにホロッとくるから、たまらないんですよ。

一色:伊坂さんの作品、良いですよね。『ゴールデンスランバー』も大好きですし、『フィッシュストーリー』も良かったです。

成井:ああ、大好きだよ!あの映画も良かったねえ。

――原作と舞台の違いはありますか?

成井:ストーリーは完全に原作のままです。伊坂さんにも読んでいただいて、褒めていただきました。問題を指摘していただいたのも台詞2つだけでしたし、それも「自分はこういうつもりだったんです」という優しいアドバイスでした。ただ、長い原作を、その魅力を残したまま2時間にまとめなければならないので、シーンと登場人物の数名をカットしています。自然と映画版と物語の構成が似てきてしまったのですが、映画にはないシーンもいくつかあるので、それは「見てろよ!」と思います(笑)。また、舞台ならではの試みとして、主要な役以外は一人で2役以上演じています。一色君にも2役やってもらうし、多い人は4役。その4役は関係がある役ではなく、まったく違うキャラクターになるようにしています。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_2

一色:役者としては、いろんな役を演じられることはやりがいがありますね。

成井:それだけでなく、今回は舞台セットがあまりなく、役者の演技で景色を表現するので、演じる人の負担が大きいと思います。というのも、この作品は多くのシーンに分かれているので、2時間公演だとワンシーンが短くなってしまうんですよ。そのたびにテーブルやイスを出したりするわけにいかないので、役者の身体で表現するしかない。映像だったら全部景色が用意できるけれど、そうはいかないのが舞台ならではですね。

一色:そのぶん台詞も運動量も多いですが、体を使うのも観せ方を工夫するのも舞台の醍醐味だと思います。それに、初めて稽古場で読み合わせをした時、出演者の肉声で台詞を聞くと、やっぱり小説とも映画とも全然違いますね。

成井:小説の舞台化とはいえ、舞台は一つの作品。原作を知っていても知らなくても楽しんでいただけるようにしていきます。

「一色くん、演出はやらないの?」

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_3

――一色さんは一般オーディションを受けてキルオ役に選ばれましたが、そもそも当時、キャラメルボックスの舞台に出演予定でしたよね?

一色:実は当時、別のお仕事のオファーもいただいていたんです。けれど、ネットで『ゴールデンスランバー』のオーディション情報を見て、「これだ!」と思いました。それで、出演予定のキャラメルボックスの舞台(『嵐になるまで待って』)の本番もまだだったのに、成井さんには何も言わず、普通に応募しました。なので成井さんは困ったと思いますよ。「これから一緒に別の舞台をやるのに、なんで一般応募してきたんだ?」って(笑)。

成井:一色くんがオーディションに応募してきたことは、スタッフがなんとなく匂わせていたんです。でも半信半疑ですよ。稽古場で主役の相手役を演じている人が黙って一般応募してくるって、普通はちょっと信じられないですし・・・。実際に封筒を見て、「本当に送ってきた!」と。正直、迷惑だな~と思いました(笑)。

一色:ですよね(笑)。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_4

成井:だってもし落としたら、稽古場でダメ出しをする時に気まずいじゃないですか!それでも、ほぼ落とすつもりだったんですよ。けれど書類で落とすのも、「書類で落とすのかよ!」と思われても嫌だし、とにかく会うだけ会おうということでオーディションしたら、ものすごく面白かった。オーディションでは、なぜこの作品に出たいのかという1分間スピーチと、書き起こしたキルオのシーンを演じてもらったんです。まずスピーチがスーパーハイテンションで面白い。ブワァーと走り回って熱く語って、シリアスなオーディション会場だったのに審査員は笑いっぱなしで、しかも芝居も抜群に良かった。

一色:ものすごく緊張しましたよ!すでに迷惑をかけているのは分かっていましたが、本当に「やりたい」という気持ちだけですべてをぶつけました。

成井:おかげで選考会議は大揉めですよ。「どう考えても実力で選ぶと一色君だけど、2本連続ゲストはマズイんじゃないか・・・」と。結局、最終的にはやっぱり実力で選んだ方が平等だということで、一色君に決めました。決まった後に一色君から「よろしくお願いします」と挨拶をいただいて、僕もいろんなわだかまりは捨てて「よし、頑張ろう!」と気合が入りました。ただ、こちらからしたら、本当に落とさなければならないような事をされるのもマズイので、しっかりと実力で受かってくれて嬉しいです。しかも、稽古の初日ではオーディションとはまったく違うキルオのキャラクターを持ってきてくれた。稽古場での方が面白かったので、これからの変化に期待しています。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_5

――キルオは謎の多い殺人鬼の役。キャラクターも濃いし、難しそうです。

一色:原作でも映画版でも謎が多いキャラクターですし、やり方はいろいろあると思うんです。僕としても、映画で濱田岳さんが演じたキルオのイメージが頭にあって、それが気になったりしていました。けれども今はむしろ、良いところだけを参考にして伸び伸びやれたらと思っています。

成井:脚本を書く時に僕が意識したのは、キルオは登場するシーンが限定的だからこそ、劇全体のリズムを一番感じられる存在にするということ。作品がエンターテインメントになるために、物語のスパイスになる面白さを出せればと考えています。

――成井さんから見て、一色さんの役者としての魅力はどんなところですか?

成井:とにかく面白くて、話しやすい。話せば話すほど物事を深く考えているクレバーな人だとわかるんですよ。役者って、役をもらうとなかなか俯瞰的に台本を見られなくなるんですが、一色君はまだ20代なのに百戦錬磨のジジイのように客観的に台本に向かう。だから、「何で役者をやってるんだろう?」とも思います。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_6

一色:舞台に立つ魅力ってたくさんありますけど・・・僕は「人を楽しませる事が好きだから」ですかね。昔から、バカなことをやったり、マジックをしたり、歌ったり、ピアノを弾いたり、とにかく人に楽しんでもらうことが好きでしたし、それで自分に自信が持てました。クラスでも普段はまったく目立たないんですが、出し物の時だけ「自分は居ていいんだ」という気持になったんです。だから舞台に立つことは、自分が存在していていいんだ、と証明する手段でもあります。ただ単純に、自分にできること、楽しいことをやっていたというだけでもあるんですけど。

成井:すごいなあ。僕は30歳まで本当にダメな役者だったので、役者さんは尊敬します。舞台に立たなくなってから12年ぶりぐらいに、久々に舞台に立った時に、改めて役者さんの凄さを実感しました。舞台に立つって、とても勇気が必要だと思います。

一色:ええ、そうですか?

成井:42歳でキャラメルボックスの特別公演に出演したんですが、本番中に台詞が飛んでしまったんです。自分が書いて何度も再演している芝居なのに台詞を忘れてしまったことが悔しくて・・・。それで、舞台の上では役者に敵わないんだな、もう役者の土俵に乗ってはいけないな、と思いました。

一色:そうか・・・僕はひとまず役者を10年続けてみてどうなるか、という感じですね。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_7

成井:まだ若いもんね。いつ役者を始めたんだっけ?

一色:2010年です。

成井:えっ!キャリア6年なの!?6年でこんなに面白いの?

一色:ありがとうございます(笑)。キャラメルボックスを初めて観たのも2010年ですよ。その時に観た芝居の最後の大仕掛けに感動して、「舞台って、視覚的に美しくて楽しくないといけないんだな」と思った記憶があります。

成井:よく考えてるなあ・・・演出家とかやりたくないの?

一色:やりたいです。

成井:やっぱり!向いてるよ。演出しながら出演もしたらいいんじゃない?

一色:すごくやりたいです!自分でこういう景色を作ってみたいという思いがあるんですよ。景色に惹かれるので、野外劇をすごくやりたいです。

成井:へえ~、野外劇?

一色:劇場って、すでに“演劇の神様”がいる場所だと思うんです。でも、そうではないただの野外にも“演劇の神様”を宿せるのか、ということをすごく考えます。だからずっと野外劇をやられていた関西の「維新派」が大好きなんです。仕込んでいないのに「ここで鳥が飛ぶか!?」とか、「ここで雲が晴れるか!?」といった偶発性の奇跡がものがすごく好きなので、それを自分でもやってみたくて。僕は鎌倉育ちなので、鎌倉の森で演劇をやってみたいです。

帰りに小説を手に取ってもらえれば、成功

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』成井豊×一色洋平インタビュー_8

――ゲスト出演の一色さんから見て、キャラメルボックスはどんな劇団ですか?

一色:普遍的なパワーと面白さがあるのが魅力ですね。成井さんの前で言うと偉そうになってしまいますが・・・一番好きなのは脚本で、構成力や時間配分で緩急をつけて、お客さんの気持ちをすごく上手く操っていると思います。お客さんにどうなってほしくて、劇空間をどうしたくて、どうやってクライマックスの興奮に持って行くかという、脚本の構成力が大好きなんです。

成井:へ~!そういえばこの前、今回主人公の青柳を演じる畑中智行も「成井さんは原作物をまとめる構成力がすごい」って褒めてくれました。普段言われないから、嬉しいね。

一色:なかでも今回の『ゴールデンスランバー』は、疾走感があるのに、その疾走感が繊細なのが特徴という気がします。走って、盛り上がって、止まって、また走る・・・というようなわかりやすいものではなく、すごく繊細に創っていかないといけないなと思いましたね。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』稽古場風景_2

成井:前半をいかにスピーディーに体感してもらうかが重要だよね。お客さんはノンストップの疾走感を感じているけれど、創り手としては実は落ち着いている。そうなるのは楽ではないよ。

一色:成井さんから演出の方針や舞台セットのイメージを聞いて、「思っていた以上に小説にも映画にも頼れないぞ」と分かったんです。小説を舞台にするには、重箱の隅をつつくように細かいアイデアから大きなアイデアまで満載にして、舞台ならではの魅力で彩らないといけない、という印象です。

成井:お客さんに舞台の世界を楽しんでいただくことで、伊坂さんの作品の魅力を伝えることも、また使命だと思います。小説「ゴールデンスランバー」を知らない方に「原作小説を読んでみたいな」と思ってもらえたら成功。帰りにロビーで小説を手に取ってもらえるのかが気になります。伊坂ファンを増やすことで、伊坂さんにこの小説をお借りした恩返しをしたいですね。

キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』

◆キャラメルボックス 2016クリスマスツアー
 『ゴールデンスランバー』公演情報

【神戸公演】2016年11月30日(水)~12月4日(日) 新神戸オリエンタル劇場
【東京公演】2016年12月10日(土)~12月25日(日) サンシャイン劇場

◆成井豊 プロフィール
1961年埼玉県生まれ。演出家、劇作家。早稲田大学卒業後、高校教師を経て1985年、演劇集団キャラメルボックスを創立。近年は東野圭吾や柳美里といった人気作家の小説を舞台化するほか、テレビや映画などのシナリオを執筆している。

◆一色洋平 プロフィール
1991年神奈川県生まれ。早稲田大学演劇研究会を経て、劇団「犬と串」、「アマヤドリ」、「DULL-COLOREDPOP」など新進気鋭の劇団公演で俳優として活躍。近年では、こまつ座『小林一茶』、漂流劇『ひょっこりひょうたん島』(演出・串田和美)などに出演。ほか、テレビなどでも活動している。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

目次