2015年に初演され大ヒットした『スーパー歌舞伎II ワンピース』。市川猿之助演出・主演によるこの作品で、初演時より注目を集めている若手歌舞伎俳優が、坂東巳之助と中村隼人だ。上演のたびに進化を遂げてきた舞台は、大阪松竹座(4月)、御園座(5月)公演でさらにバージョン・アップの兆し。これまで、そしてこれからの『ワンピース』ついて、二人に聞いた。
――今も連載が続いている大人気漫画「ONE PIECE」(作:尾田栄一郎、集英社)を原作とする作品ですが、原作ファンも歌舞伎ファンも、またそのどちらもよく知らない人も、老若男女、子どもまで楽しめる舞台として大評判ですね。
巳之助:本当に得難い経験をさせていただいています。満員のお客様があんなに喜んでくださっている姿を目の当たりにするなんて、そうそうあることじゃありませんから。
隼人:本当にそう思います。
――巳之助さんはゾロ、ボン・クレー、スクアードの3役。隼人さんはサンジ、イナズマ、それに2017年の東京・新橋演舞場公演では若手を抜擢した企画「麦わらの挑戦」でマルコも演じました。お二人とも、それぞれまるで違うキャラクターですね。
巳之助:はい。でも、歌舞伎俳優にとってそれは特別なことではないんです。歌舞伎には1日の公演で違う演目をいくつも上演する“見取り”という形式があって、別の作品のまったく違う役を演じるのはいつものことなんです。
――切り替えが大変ではないのですか?
巳之助:そういうことはいちいち考えないよね?
隼人:考えないですね。
――歌舞伎俳優だからこそ成り立っていると言えそうですね。
巳之助:というより、歌舞伎として創ってあるから、なのだと思います。同じ人が違う姿で出てきて別の人物を演じるという歌舞伎のハコに収まっている。それをスーパー歌舞伎IIとしてやったらこういう作品になった、ということであって。
隼人:お客様には、役としてそれぞれを楽しんでいただきたいです。
――ボン・クレーとイナズマ、それぞれの役でお二人揃って大活躍となるのが本水(ほんみず)の立廻り。客席に水しぶきを飛ばしてのエキサイティングなシーンは、最高に盛り上がるところですね。
巳之助:あそこはルフィの宙乗りへとつながる大切な場面。ですから、その使命を全うしなければ、という思いでやっています。
隼人:僕も同じ気持ちです。初演の頃、あのような大切な場面で大きな立廻りを任せていただけたのは自分にとって初めてのことでした。ですから、チャンスをくださった猿之助のおにいさんの期待に応えなければと必死でした。しかし、お客様に喜んでいただくことができたのは自信につながりました。その後、古典でも立廻りで重要な場面をさせていただく機会に恵まれたことを思うと、『ワンピース』のおかげで役者として成長させていただいたように思います。
――お二人とも古典でも活躍の場は増え、「新春浅草歌舞伎」など若手の公演では大役に挑まれていますね。
隼人:それは僕らだけのことでなく、出演者全員が様々な舞台でいろいろな経験を積まれています。年齢の若い僕が言うのも生意気ですが、稽古場で再会するたびに、周りの方すべてが大きくなっているように感じます。『ワンピース』をやっていない間に得たものをみんながこの舞台に持ち帰っているんです。だから、すごく頼り甲斐が増している。
――海賊と海軍が激突する第三幕、ストーリー展開上のキーパーソンとなるのがスクアード。そこでマルコがスクアードに声をかけるシーンの台詞は、巳之助さんの提案によるものだそうですね。
巳之助:あれは原作にもともとある台詞なんです。(2016年の)大阪公演から、マルコの役が膨らんでいい役になったので、マルコというキャラクターがもっと印象に残る、“立つ台詞”があったほうがいいと思ってのことです。
――隼人さんは、前回の東京公演で初めてマルコを演じられました。
隼人:それまで僕は三幕には出ていなかったので、初演からずっと三幕を作り上げて来たメンバーのなかにポンと、それもすごくいい役で入ることになったわけですから責任を感じました。それまでに積み上げて来たものを壊さないようにしなければいけないと。以前にマルコを演じて来た方と比べられるということもあり、そういうところは古典と似ているなと思います。
巳之助:新作がそういうものになって来ている。
隼人:きっとご覧になる方それぞれにとって“好きなマルコ”というのがあると思います。そんな中で自分自身は、なるべく原作に近い感じでやりたいと思っています。
――そして今度の大阪公演からは、A、B、C、Dの4バージョンのキャストでの上演となります。
隼人:どうなるのか僕らも予想がつかないです。
巳之助:新たに下村青さんが加わってくださいます。自分自身が演じる役は初演からまったく変わりませんけど、下村さんのイワンコフは浅野和之さんのバージョンとはまた違った演出になると聞いています。
隼人:歌やダンス、下村さんがこれまでに培っていらしたものを活かした舞台になるのではないでしょうか。
――そして、怪我で休演された猿之助さんのルフィが戻って来ます。新橋演舞場では、若手公演としてカテゴライズされていた「麦わらの挑戦」のキャストも横一線に並んでの4バージョン。猿之助さんの留守を、しっかりと守った成果だと思います。
巳之助:僕らは全力を尽くしてやるべきことをただ黙々と千秋楽までやり遂げる。それしかありませんでした。
隼人:あの時はみんな本気で猿之助のおにいさんのことを心から心配し、そしてこの作品を成功させようという気持ちがより一層強くなっていました。それが千秋楽まで誰一人ブレることがなかった要因だと考えると、おにいさんのカリスマ性を改めて感じます。
――その舞台を客席からご覧になった猿之助さんが、作品としてのおもしろさを改めて実感したとおっしゃっていましたね。
巳之助:作品としての完成度を再認識なさったようです。
――そうした経緯を経て迎える今度の公演ならではのポイントを教えてください。
巳之助:大阪松竹座は舞台と客席が近いですから、立廻りや宙乗りのシーンの臨場感や客席との一体感はまた格別だと思います。
隼人:下村さんが参加され一部のキャストが変わっての初演が大阪松竹座、それが御園座の千秋楽に向かってどう充実していくか見届けていただきたいです。
――初めての人もリピーターもそれぞれに楽しめる、多様性のある公演になりそうですね。
巳之助・隼人:はい。皆様のお越しを劇場でお待ちしています!
◆公演情報
『スーパー歌舞伎II ワンピース』
【大阪公演】4月1日(日)~4月25日(水) 大阪松竹座
【愛知公演】5月3日(木・祝)~5月27日(日) 御園座
◆衛星劇場 放送情報
CS衛星劇場では、2016年から劇場公開されたシネマ歌舞伎版を放送!
<シネマ歌舞伎>『スーパー歌舞伎II ワンピース』
【放送日】3月31日(土)午後9:00~11:00
2015年上演・2016年上映/新橋演舞場/原作:「ONE PIECE」尾田栄一郎(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)/脚本・演出:横内謙介/演出:市川猿之助/スーパーバイザー:市川猿翁
出演:市川猿之助、市川右近、坂東巳之助、中村隼人、市川春猿、市川弘太郎、坂東竹三郎、市川笑三郎、市川猿弥、市川笑也、市川男女蔵、市川門之助、福士誠治、嘉島典俊、浅野和之(俳優名は公演当時のもの)
<坂東巳之助丈、市川隼人丈の出演演目を放送!4月「新春浅草歌舞伎特集」>
『元禄忠臣蔵~御浜御殿綱豊卿』(げんろくちゅうしんぐら~おはまごてんつなとよきょう)
2018年1月/浅草公会堂
出演:尾上松也、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村歌女之丞、中村錦之助
『操り三番叟』(あやつりさんばそう)
2018年1月/浅草公会堂
出演:中村種之助、中村隼人、中村梅丸、中村錦之助
(取材・文/清水まり)
(撮影/宍戸ヤスオ【ADMission】)
(C)尾田栄一郎/集英社・スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」パートナーズ