2016年5月28日(土)より開幕するミュージカル『アップル・ツリー』。前回エンタステージでは、演出に初挑戦する城田優に話を聞いた。たった7人で挑む大スケールの物語がどのように紡がれていくのか、何もかもが未知数の舞台に注目せずにはいられない。今回出演者の一人として話を聞かせてもらうのは、城田がインタビューの中でも、度々その名を挙げていた俳優・岸祐二。舞台上でも舞台裏でも“主要人物”としての役割を担う岸さんが思う、舞台、演劇とは?
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――城田さんへのインタビューでも、岸さんをとても頼りにしているとお話聞いております!『エリザベート』でのご共演が記憶に新しいですが、何か絆が深まるきっかけなどはあったのでしょうか?
方々からそんなことを聞いてはいるんですけど、彼、直接は言わないんですよね(笑)。元々、僕と彼は『エリザベート』に初めて参加したのが同じ時期だったんです。『エリザベート』は長くやっている作品っていうこともあって、カンパニーが出来上がっている感じがあったんですよ。そこに新しいキャストとして、どうやって融け込んでいこうかって思っていて・・・。
――“同士”のような感覚でしょうか?
そうですね。瀬奈じゅんちゃんとかもそうだったんですけど、初参加の人同士がお互いを心配し合ったり、情報を共有したりしていたんです。作品に向けてのウォーミングアップや、作品へ向かっていく姿勢が似ていたのかな?それで仲良くなったのかもしれません。
――先輩として相談されることもあったんですか?
いや、相談というほどじゃないですよ。若くはありますが、彼はものすごく評価が高かったですし。ただ、彼自身がそんな評価に対して「鵜呑みに信じていいのか」「調子に乗りすぎてはいけない」とか、初めてだけに戸惑う部分があったとは思います。なので、変に褒めすぎたりもしないし、逆に本当にいいなって思ったところは素直に話したりしていましたね。
――素敵なご関係ですね。今回は共演者ではなく、演出家として城田さんとご一緒されますが、どうでしょうか?何か違いはありますか?
互いに話をしやすい間柄だとは思います。それは演出家と役者という関係においてもいいことじゃないかな。僕って、適当にやってるように“見せたい”タイプなんです。家に帰らないと真面目にならないというか。もちろん、芝居に向けては100%で挑んでいるんですけど、これだけやってきた!というのを見せるのが恥ずかしいというか・・・(笑)。だから、そういう意味で気軽なのかなって思います。彼は何でも言ってくれるし、僕もそれを受け入れられる。
――話しやすいというのは、意思疎通という面でもすごく大事なことですね。そういえば、ムードメーカー部門もお任せしているとおっしゃっていました(笑)。
そんなつもりはないですよ!でも暗くやっていてもしょうがないとは思ってますね。結局、真面目な話をしちゃうんですけど(笑)、演劇ってPLAY。『レ・ミゼラブル』でもそうでしたが、稽古の時も「Let’s play!」って言うんですよ。遊んで、楽しんで、それがお芝居だから、という意味が含まれてるんですね。その感覚や考え方は、僕自身もすごくしっくりきますね。そういう意味では、そんな感覚が今回の稽古にも噛み合っていけばいいなって思いますね。
――素人からすると、楽しみながら遊びながら、お客さんの前で表現ができるってすごいことだなって思います!頭や心はどういう風になってるのかなって(笑)。
勿論、人によりけりだと思いますよ。一人一人考え方もアプローチの仕方も違いますし。僕個人としては、「恥ずかしいことをしている」って根底では思っているんです。役者って、自分の持っている感情や考え方が見えてしまうものだから。どんなにいい人の役をやったって、意地悪に見える人もいるし、どんなに悪い役をやったって、この人いい人なんだろうなって思ってしまうこともある。そういうのって“こぼれて”しまうものだと思うんです。人間だから。
――なるほど・・・。
だから、どんなに格好つけていても無理なんですよね。恥ずかしいのを承知で、人前で怒ったり、笑ったり、時には裸になったりするわけです。ちょっと頭おかしくないとできない!と根底では思ってます(笑)。でも、だからこそ開き直れる。そのスイッチを押すというか、ネジを外すというか、そのために何度も稽古をするし、学校で勉強した以上に勉強するというか。そういう作業を十分にしていればいいんじゃないかなって思っています。見せないですけどね(笑)。
――岸さんの役柄へのアプローチが垣間見られた気がします。今回の役柄についてはいかがでしょうか?三部作を通して複数の役を演じられると聞いていますが・・・。ズバリ、どんな役をやられるんですか?
一幕は『アダムとイヴ』のアダムを演じさせていただきます。それがメインの役でもあるし、『アップル・ツリー』というお話の始まりでもあるので、そういう責任は感じているつもりです。アダムという人間の起源を演じることに関して言えば、人としてゼロにしていくというチャレンジがありますね。みんなより、年齢もかなり上なんですけど(笑)。
――どちらかというと、引き算という感覚ですか?
引き算というよりも、空っぽにしてからひとつずつ拾っていくっていうようなイメージでしょうか。酸いも甘いと言いますか、汚いことも楽しいことも知ってきた人間にとって、それを全部忘れて人間をつくる、空っぽにするっていう作業は結構大変。日本語脚本を手がけられた青井先生もおっしゃってましたが、それが一番大事なんじゃないかなと。ただの入れ物でしかなかった人間という役なので。
――数ある役どころの中でも、ものすごく複雑な役になりそうですね。
きっと子どもみたいに見えたり、バカみたいに見えたりする瞬間もたくさんあると思います。そんなアダムが世の中のものに名前をつけて、イヴという人に出会って、人生を生きていく。感情、感覚、そういう人間の形というものを空っぽだった箱に詰めていこうと思います。最後に観客の方に「人間ってなんだろうね」って思ってもらえたらいいなと、漠然と思ってます。
――さらに二幕では王様、三幕では複数役、全く違った役どころを演じられるんですよね?同じ作品の中で、どういう風に切り替えをされるんですか?
僕はお芝居にこだわりがないんですね。こだわりがないというこだわり、と言えるのかな。例えばですが、すごくお金がない人を演じるために、私生活でも極貧生活を送ってみる・・・とか。そういう方ももちろんいらっしゃいますが、僕はそういうタイプじゃないんですね。演じる対象になる人がどんな考え方や生き方をしているのかっていう研究はしますが、舞台の上でスイッチを入れるタイプなんです。袖から出るときにふっとスイッチを入れるようなイメージ。
――役に応じたスイッチを押すみたいな感覚ですか?
そうですね、いろんなスイッチがあって、それを付け替えていくみたいな感じですね。今までの経験をもとに。そういう意味では、一つの作品でいくつもの役を演じるということに関しても、いつもとさほど変わらないというか・・・。経歴が長いという長所を生かしていますね(笑)。
――経験は大きいですよね。そういう意味でも頼りにされてらっしゃるんだと感じます!
ご存知の方もいると思うのですが、僕は劇団出身でもなければ、音大や芸大で勉強していたわけでもない。演劇部だったこともない人間なんです。その代わり、いろんな仕事をしてきました。イベントの司会、TV、声優やナレーション、モデル、そして舞台。そういう過去の経験が生かされることもありますね。例えば、今回のように何役もやるってなっても、声優のお仕事の時10役以上やってたなぁ・・・とか(笑)。
――様々な経験をなさっている岸さんですが、演出の方に興味を持たれたこともあったのでしょうか?
昔、一度やったことがあります。僕のお芝居や、仕事のやり方に興味を持ってくれた後輩たちが「岸さんと何かやりたいです」って言ってくれて。じゃあ私は◯◯をやる、僕は△△でお手伝いする、みたいに不思議なくらいみんなのタイミングもよく集まることができたんです。本当は演出だけと思っていたんですが、有難いことに声をかけた役者さんにも「一緒に出たい」って言ってもらって、結局演出と主演をやりました。
――ご縁を感じますね!
役者をやっていると「こうだったらもっと面白いのに」っていう自分の好みって、誰でもあると思うんです。この役はこういう表現の方が作品のメッセージがはっきり伝わるんじゃないか、とか。そういうのって、だいたいみんなで飲みながら話すんですけど(笑)。そういう気持ちが重なって「じゃあ1回やってみよう」ってなったんです。あと、99年にラサール石井さん演出の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に出たことも大きかった。そのパワーを目の当たりにして、「こういう人になってみたいな」っていう漠然とした思いがあって。だけど、舞台を演出するってすごく大変なことでしたね。
――今回の作品に関しては、ストーリーや作風などはどういった印象ですか?
これっていう決まった見方はなくて…。基本的に、舞台は物書きと演出家のものだと思っているので。自分がメッセージを持つのではなく、その人たちのメッセージを伝えるのが僕たちの仕事。だから、役者はそのメッセージに向き合って、じゃあこういう芝居にしようかなとか試行錯誤をするものだと思うんです。どんな作品でもストーリーでも、遊べるポイントをどれだけ作れるかっていうことは、役者としてすごく楽しみにしていますけどね。
――なるほど!他に演じる上で大切にしようと思っていることはありますか?
やはり、言葉ですね。今回は特にミュージカルであり、元々は英語のセリフ。そういう意味でも、言い回しやニュアンスも含めて、見ているお客さんの心にすっと入っていくような言葉の発し方ができたらいいなと思っています。それから、城田君の作品にかける並々ならぬ想い。その作品に選んでもらったということ。そして、作品自体が大きな挑戦であるということ。この3つが魅力や意気込みにつながっている部分だと思います。
――では、最後に、舞台を楽しみにしているお客さんへメッセージをお願いいたします!
大勢のキャスト、大劇場でやるようなこの演目を、たったの7人で赤坂RED /THEATERでやります。作品作りにおいて、どのカンパニーがやりたくてもできなかったことを、今やろうとしていると思っています。そこに自分がいるという幸せや意味を深く感じます。作品自体も肩の力を抜いて楽しめるものですし、他のキャストの方々がキャリアをかけて挑む熱い姿や、歌の力も素晴らしいです。この挑戦をぜひ、一緒に体感、体験して下さい!
◆ミュージカル『アップル・ツリー』公演情報
2016年5月28日(土)~6月7日(火)赤坂RED/THEATER
<キャスト>
岸祐二、上野哲也、小山侑紀、杉浦奎介、関谷春子、豊原江理佳、和田清香
<演出>
城田優
<脚本>
ジェリー・ボック&シェルダン・ハーニック、ジェローム・クーパースミス
<作詞>
シェルダン・ハーニック
<作曲>
ジェリー・ボック
<日本語脚本>
青井陽治
◆プロフィール
岸祐二(きしゆうじ)
1970年9月28日生まれ。東京都出身。『激走戦隊カーレンジャー』の主役を演じ、知名度を上げる。その後は映像に限らず、舞台や声優業など幅広く活躍。ミュージカル『レ・ミゼラブル』では2003年~アンジョルラス役を経て、2015年にはジャベール役を務めた。他にも『ミス・サイゴン』『エリザベート』『三銃士』など、ミュージカルの金字塔とも言える作品に多数出演。