2005年にブロードウェイで開幕し、トニー賞・最優秀ミュージカル賞を始め、グラミー賞、ローレンス・オリヴィエ賞など全世界で57部門もの賞を獲得したミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。伝説の舞台が2016年夏、いよいよ日本で開幕する!
ニュージャージー州の貧しい片田舎で出会った若者たちが、コーラスグループ「ザ・フォー・シーズンズ」としてデビューし、華やかな音楽業界で経験した栄光と挫折とは――。
本作で“天使の声”を持つリードヴォーカル、フランキー・ヴァリを演じる中川晃教に話を聞いた。
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中川晃教“第三の声”=トワング
――『ジャージー・ボーイズ』のプロモーション映像を拝見して、音源も少し聞かせていただきました。これまで聞いたことのない中川さんの“声”に出会った気がします。
そうですよね…きっとそう思われている方も多いと思います。もちろん、芝居や演技の中で、役のキャラクターを考え、少し低めの声で喋ったり、高い声を多めに使ったりということはこれまでもありましたが、歌声に関してそういう意識をしたことがあまりなかったので、最初はどうしようかと思いました(笑)。結果、発声法を変えてみることで、僕が演じるフランキー・ヴァリの“声”が産声を上げたような気がします。
ある程度、声の方向性が定まったら、次はその精度を上げていく作業に入ります。精度を上げていくことで声をコントロールできるようになりますから。今はまだその発展途中なのですが、自分なりの課題も見えてきました。新たに得た声とどう付き合っていくのか…そう考えると、今の僕にとってフランキー・ヴァリという役に出会えたことは本当に大きな出来事です。
――「ザ・フォー・シーズンズ」のナンバーを歌われている時は頭の後ろからスコーンと突き抜けるような高音ですよね。これが“トワング”と呼ばれる歌唱法なのでしょうか。
実はトワングというのは発声をする上で、エクササイズとして用いられることもあるんです。ですから僕もこれまで一部この唱法を使って歌うこともあったんですが、今回のようにここまでトワングを多用する作品や役と出会ったのは初めてなんですよ。トワングに関して意識的に向き合ったのは、フランキー役のオーディションを受ける際のデモテープ作成前で、重点的にトレーニングをしたのは3回くらいじゃないかな。
――たった3回のトレーニングであの声が出せるところが中川さんの凄いところですよね。『ジャージー・ボーイズ』が日本で上演されると決まった時、多くの人がフランキー役は中川さん!とイメージしたと思うのですが。
わあ、本当ですか?それはとても嬉しいことですが、その反面大きなプレッシャーですね(笑)。実は僕自身が『ジャージー・ボーイズ』に触れる前から、色んな現場で「アッキーにぴったりの役だと思うよ」と言っていただいてはいたんです。その時は漠然と「ああ、男性で高音が出る俳優が演じる役なんだな」くらいに思っていたのですが、実際にフランキー・ヴァリ役を…というお話をいただいて、音楽や内容としっかり向き合ってみるととんでもなくて…高音が出ればいいってレベルの役じゃ全然ないんですよね。
深いメッセ―ジと人間ドラマに溢れた作品で、4人のメンバーの青春と共に音楽業界の光と闇も描かれていますし…シンガーソングライターとしてやってきた自分とリンクする部分も多いんです。今、フランキー・ヴァリという役を演じるということがどれだけ自分の人生に影響するか…僕ね、15年間舞台に立ったり歌ったりしてきた中で、今、この役に「呼ばれた」と思っているんですよ。
REDとWHITE…2つのチームの個性の違い
――役に「呼ばれた」ってとても深い言葉だと思います。今回「ザ・フォー・シーズンズ」は中川さんのみシングルキャストで、あとの三役はWキャストという編成ですが、プロモーション映像撮影の時もすでに2チームで個性の違いが明確にあったそうですね。
これはね、面白くなると思いますよ!稽古に入ったら益々その面白さが加速していく気がします(注:4月初旬の取材)。REDに関していうと、藤岡(正明)君と吉原(光夫)さんという、不器用で武骨な面もありながら、作品に対して自らの人生を懸けて立ち向かう人達がいてくれます。彼らは常に戦っているんですよね…良い意味で媚びないというか。藤岡君とはデビュー時期も一緒ですし、音楽の世界からスタートしてミュージカルの舞台に立つようになったという共通点もあり、普段からとても仲が良いんです。お互い、音楽がスタート地点だということに強い思いもあって、ミュージカルの世界で新しい風を吹かせたいという気持ちを常に抱いている…彼がいてくれるのは非常に心強いです。
吉原さんは唯一、演出の藤田(俊太郎)さんと仕事をしてきた方で、すでに藤田さんとの間に強い信頼関係もある。そういう意味でも頼りにしています。そして一番若い矢崎(広)君!良い感じにとんがっている気がしてそこがたまらないです(笑)…ああ、自分にもあんなにとんがってた時期があったなあ…なんて思い起こさせてくれる存在ですね。
――REDチームは一筋縄ではいかないメンバーが揃っている気がします(笑)。
確かに!でも、実際に稽古が動き出すと、パンチの利いた要素が混じり合って、とてもまろやかで深みのある芝居になるような気もしているんです。更にコーラスになった時は、聞いていてとても気持ちのいいハーモニーが作れるのではないかと。
――変わってWHITEチームにはどんな印象を抱かれていますか?
僕ね、WHITEのキーマン…実は福井(晶一)さんじゃないかと思っているんですよ。共演が決まってから、福井さんのブログも拝見しているんですが、ライブの選曲に歌謡曲が入っていたり、リハの模様を自撮りで撮影していたりして、かなりチャーミングな方なんじゃないかと。
僕、実は結構“気にしぃ”なんですね(笑)一度気にしだすと色んなことにどんどんつられていっちゃって。変な例ですが、例えばコーラスの時に誰かが音を少しでも外そうものなら、一緒にとことん外れていく…みたいになると思うんです(笑)。今回、ガウチ(中河内雅貴)には思いっきり暴れて欲しいし、むしろいろいろ飛びぬけて欲しい。そんな振り切りを見せるガウチを福井さんが温かい眼差しで止める…みたいな関係性をWHITEでは勝手に想像しています(笑)。
――状況を思い描くだけでも楽しいです。
そしてそのやり取りをキーボードを弾きながら真っ直ぐな瞳で爽やかに見つめる海宝(直人)君の姿も想像できますよね。僕はそんな海宝君をあえて揺さぶりますよ…「こっち来いよ!」みたいに(笑)。そうですね、WHITEは福井さんと僕が他の二人をどうグローアップして全体の熱量を上げていくかというところがキーになりそうです。
――2チームそれぞれの化学反応…いいですね!「ザ・フォー・シーズンズ」そしてフランキー・ヴァリの代表曲でもある「Can’t Take My Eyes Off You」(君の瞳に恋してる)をプロモーション映像で歌う中川さんの姿から”祈り”を感じました。
そこを感じ取っていただけたのならうれしいです!「Can’t Take My Eyes Off You」は深いドラマを秘めた曲ですし、本当の意味で名曲だと思うんです。あの映像を撮った時はWOWOWの撮影隊の皆さんがかなりこだわってくれたんですけどね(笑)。この曲、お年を召してからのフランキー・ヴァリさんが歌っている動画があったんですけど、4人組でやっていた頃よりむしろ声が伸びやかに出ていて、ちょっと驚きました。
――フランキー、そして「ザ・フォー・シーズンズ」のメンバーは栄光と挫折とを両方体験します。この辺り、ご自身とリンクすることはありますか?
挫折に関して言えば、僕自身が倒れて立ち上がれなくなったというよりは、いろいろな事情の中で夢が潰えてしまったり、やりたいと思っていたことが出来なくなってしまったりということはありました。でも、そういう場面を経験したことで僕自身が自分の無力さをはっきり自覚しましたし…変わったと思うんです。ある時から「最後は“人”」ということを本当に強く胸に置くようになりましたし、何でもやってやろう!ってすごく前向きになりましたね。
『ジャージー・ボーイズ』でも、シングルキャストとしてフランキー・ヴァリ役をやらせていただきますが、作品の中で自分がどう貢献できるか、どうすれば役割を全うできるかということを考えつつ、2チームそれぞれで個性の違う世界を立ち上げていければと思っています。デビュー15周年という年にこの役、そして作品に巡り会えたことに感謝しながら、精一杯務めます!
『ジャージー・ボーイズ』日本版が上演されると発表があった時、多くの人が「フランキーヴァリを演じるのは中川晃教しかいない!」と確信したことだろう。デビュー15周年を迎え“音楽”に拘った作品に参加していきたいと常に語る中川が、この夏また新たな“伝説”を創る。
音楽の天使に愛され、ミュージカル界の天才と称される彼が自らの体験と重なる部分も多いと話すフランキー・ヴァリ役。唯一のシングルキャストとして二つの世界を生き、第三の声=トワングで華麗に歌うその姿を観るのが今から楽しみでならない。
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◆ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
2016年7月1日(金)~7月31日(日)シアタークリエ(東京・日比谷)
※プレビュー公演 2016年6月29日(水)~6月30日(木)
◆2016年3月9日 リリース 中川晃教 ニューアルバム『decade』
(撮影:原地達浩)