ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿と今拓哉にインタビュー!「その場で流れが決まる場面は“男気じゃんけん”のつもりでやってます!」

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2016年4月4日(月)にシアタークリエで開幕した舞台『エドウィン・ドルードの謎』。トニー賞を5部門受賞し、観客の“投票”で288通りもの結末が訪れるという異色のミュージカル・コメディだ。日本版の上演台本と演出を担当するのは鬼才・福田雄一。本作でアヘン窟の女主人、プリンセス・パファーを演じる保坂知寿と、聖歌隊の指揮者、ジャスパー役の今拓哉に話を聞いた。開幕後ならではのエピソードも炸裂する二人のトークはどうなるのか!?

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー

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目次

稽古場では毎日がプレゼン!それなのに…放置?

――シアター1010のゲネプロに続いて、シアタークリエでの公演も拝見しましたが、客席の熱量が凄いことになっていると思いました。

保坂:ありがたいことです…まだ開幕して間もないのに。

今:皆さん、チャレンジャーですよね…新作って幕が開くまで内容が分からないでしょ。それなのに前売りの時点でほとんどチケットが売り切れになって!今日はスイスからのお客さまもいらしたようですね。

――前説の段階で劇場内もざわついていました(笑)。こういうアドリブや笑いのテイストが多い作品は、通常のミュージカルに比べてお稽古の様子も違ったりしますよね。

今:それはもう…毎日が福田(雄一)さんへのプレゼン状態でした。

保坂:台本をいただいて、各自それを読み込んで稽古場に入ってからは、ほとんど放置状態でしたね(笑)。通し稽古ではそれぞれが考えてきた芝居を毎回福田さんに見せるんです。で、福田さんは誰よりも笑ってくれるんですが、その場では特に良い、悪いのジャッジもなくて。私は以前『フル・モンティ』でご一緒していたので、何となく稽古の雰囲気も分かっていたものの、今さんは不安だったみたいで(笑)。

今:そう!一度保坂さんに「これ、いつまで続くんですか?」って聞いたくらい(笑)。本当に放置状態で…だって福田さんは僕たちがやっていることを見てとにかく笑い続けているんですよ。それで段々自分がやっていることが正解なのかそうでないのか不安になっていって。

保坂:福田さんはこちらが1回やったことは絶対全部覚えているんです。それでいろいろなアプローチを探っていくんですが、笑いのアイディアは泉のように湧き出るものじゃないし…かと言って、一度ウケたことを毎回繰り返す訳にもいかないので、稽古期間中はかなりのプレッシャーでした。

今:久々の脳内超フル回転で…“演劇青年”だった頃の気持ちを思い出しましたよ(笑)。

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_3

――こういう作品を小劇場の俳優さんたちで上演したら、きっと軽々とやれちゃうと思うんです。そこを敢えてミュージカルの王道を歩いてきた方たちがトライされることに一つの“肝”があるんじゃないかと。

保坂:それは福田さんの狙いの1つだったと思います。これまでミュージカルを多くご覧になっていた方が『エドウィン・ドルードの謎』を観たら「え、そんなことやっちゃうの?」って絶対驚くと思いますし(笑)。

今:福田さんの中には「これまで彼らに誰もやらせなかったことを僕がやる!」って思いもあったと思いますよ。

保坂:稽古場でも本当にオープンな方で、出演者全員をきちんと見てくれましたし、皆に見せ場を作るんだ!ってテンションはひしひしと感じました。

今:誰に対しても態度が変わらないんですよね。福田さんはお肉が大好きなので、皆が疲れてくるとお肉を食べに連れて行ってくれたり、お肉の差し入れをして下さったり…愛ですね。

保坂: え、そこ(笑)…肉?

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_9

――お二人への福田さんからの“愛”は客席にいても強く伝わりました!今作ではその場にならないと決まらないことも多いですが、舞台上で1番ドキドキするのはどの場面でしょう?

保坂:うーん、どこかなあ…例えばお客様の投票や拍手で流れが決まる場面は“ロワイヤル音楽堂出演者”の“保坂知寿”としては「やりたくて仕方がない!」って姿勢でいる訳ですよ。

今:その場で決まる場面に関してはほとんど“男気じゃんけん”の心境です(笑)。内心はドキドキしていても、とにかく攻めの姿勢で行ってやる!みたいな。福田さんからは「台詞は間違っても噛んでも全然問題ないです。でも必ず笑いに転化して下さい」と、優しいんだか怖いんだかわからないお言葉もいただいてますし。

――“誰が犯人か”は、観客に配られる投票用紙で決定しますが、あの集計ってガチですよね?

今:100%ガチですよ!スタッフさんはもちろん、関係者も手が空いてたら集計作業に参加してます(笑)。たまに主演女優も一緒に数えてますから。

――壮(一帆)さんが?

今:エドウィン役の彼女としては、誰が自分を手に掛けたのかが気になるらしいんですね(笑)。それで集計結果が分かると舞台裏でスタンバイしている僕らのところにふらーっと来て「なるほど、今日の犯人はアイツか…ふふっ」みたいに素敵なプレッシャーをかけてくれたりします(笑)。

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_2

――舞台裏で犯人決定投票の集計が行われている中、舞台上ではプリンセス・パファー役の保坂さんがローザ(平野綾さん)との深いお芝居をなさっています。

保坂:最初は「集計の時間稼ぎ~」なんてふざけていたんですが、プリンセス・パファーはチタ・リヴェラさんが演じられた役なんです。あのシーンは作品の中でもちょっと他とは空気感が違うので、少し戸惑いもあって福田さんに「ここは真面目にやって大丈夫なんでしょうか?」って聞きました。福田さんからは「大丈夫です、この場面はストレートにやってください」と言って頂いたので、そのつもりで演じています。

――今さん演じるジャスパーは、今日の公演でプリンセス・パファーとカップルになり…ヤラれてましたね。

今:はい、とあるシーンでパファーに手錠をはめられ、ムチで打たれました(笑)。実は今日、両親が観劇していたんですが、保坂さんファンの父は「保坂さんに叱られていたね」という言葉を残して帰りました…本当はアレはジャスパーにとっての“悦び”なんですが、それを両親に説明する時間はなく…“叱られた”ということで(笑)。

保坂:大切な息子さんに大変失礼なことをしてしまいましたと、お父様にお伝えください(笑)。

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_4

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_5

“支配人”山口祐一郎さんが土台を作ってくれた

――劇団時代からお二人との共演も多い“支配人”山口祐一郎さんはどんな存在でしょう。

今:取りやすく投げ返しやすい(表現の)ボールを投げてくれる頼れる“支配人”です。この作品で、役者があそこまで振り切っていいんだという“土台”を作ったのも山口さんなんです。本読みの段階であの作曲家の名前が出てきた途端、稽古場を走り抜けてましたし…(笑)。それを僕たちが見て「あー これはもう走っちゃう勢いでいいんだ」とがっちりスイッチが入りました。

保坂:走ってたね、本読みだから全員が台本持って座ってたのに(笑)。幕が開いてからも、皆、アドリブ部分をいろいろ変えて来るんですが、特に打ち合わせもなく、どんな球が来ても投げ返せるようにスタンバイしてます…本当、こんなお芝居なかなかないですよ!

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_7

――ゲネプロで保坂さんとカップルになったネヴィル役の水田(航生)さんが、山口さんを“壁”に見立てて“壁ドン”をした場面は衝撃的でした(笑)。

保坂:ありましたね、そんな場面(笑)。航生さんもかなり色んな手を出してくるんです。シアター1010で彼とカップルになる流れが2回あって、2回目も壁ドンが来るかな…と思ってたら、見事に違うことをしてくれました(笑)…山口さんは壁をやるつもりでスタンバイしていたのに(笑)。

――そのシチュエーションもめちゃめちゃ面白いです!カンパニー全体の信頼関係は客席で拝見しても良く分かりました。そんな中、お二人の信頼関係は特に強そうです。

今:いやいや…それは畏れ多いです!僕が劇団に入った新人の頃、保坂さんはすでに看板女優で圧倒的な存在でしたから。

保坂:やめてー(笑)。確かに先に入ったけどそういうのやめてー(笑)。でも真面目な話、お互いが退団してから一つの作品でここまでがっちり絡むのは初めてなので心強いです。今さんの“こういう姿”も初めて見ましたし(笑)。

今:“こういう姿”って…(笑)。保坂さんは本当に多くのキャラクターを演じられていますが、今後やってみたい役柄ってありますか?

保坂:んー 難しい。最近、普通の人を演じた記憶があまりないので、その辺りも気になるけど…でも、常に多面体でいたいし、その作品の中で自分がどういう役割を全うすればいいのかをちゃんと考えながら作品創りに参加していきたいと思います。そういう意味では『エドウィン~』はとても色がはっきりしているし、こういう舞台は初体験なので大変だけど面白いですよ。私、本当はアドリブって凄く苦手なんですけど(笑)。

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_8

覚醒のきっかけは“金太郎”?

――あのお姿を拝見した後だと、アドリブ苦手宣言はちょっと信じられません(笑)。今さんは今回とても濃いキャラクターを演じていらっしゃいますが、お目覚めになったのは昨年の『HEADS UP!』小山田先生からですか?

今:お目覚めになったって(笑)…まあ、そういうお年頃なのかもしれませんね(笑)。実は最初にああいうキャラクターを演じたのは金太郎なんです。

保坂:え、金太郎?

今:そうなんですよ。『テキサスブロンコをぶっ飛ばせ!!』(見上げたボーイズ)って作品で演じさせていただきました(笑)。容れ物が割れると、昔話で良く見る金太郎と同じ衣装を着た僕が立っていて、後ろから光がぴかーって当たって…ってほぼ出落ちの役で(笑)。今回もそうですが、元々そういうはっちゃけたキャラクターは大好きですし、全然抵抗もないんです。でも、なかなかそういうオファーが来なかったんですね(笑)。

『HEADS UP!』の小山田も登場と共に女の子のお尻は触るし、プロンプターに「声が小さい!」って大音量でダメ出しするし、台詞を忘れると「お前たちは次に俺が何を言うか分かっているんだろう」とか堂々と誤魔化すし、とんでもないキャラでした(笑)。

保坂:若い頃から今さんのことは知っているけど、私の中にもそこまではっちゃけたイメージはなかったかも。どちらかというと真面目で爽やかな好お…青年。

今:ちょっと、今“好おじさん”って言い掛けましたよね(笑)?でも確かに、劇団時代は真面目な面を求められる役が多かったです。今回は舞台に出てすぐ「暑苦しい~!」って思いっきり言われる役柄ですから、迷わず全てを吹っ切る気持ちでやらせていただいています。一幕の最初の方で、ジャスパーがローザに楽譜を渡したあと、彼女の香りが残った自分の手の匂いを嗅ぐ芝居をしているんですが、先日、客席でご覧になっていた福田さんの近くにいらしたお客様がそのシーンを見て「気持ち悪い~」ってつぶやいたらしいんです(全員爆笑)。そしたら後で福田さんが「今さん、凄い!あの段階であそこまで言って貰えたら最高ですよ!」って伝えに来てくださって…このまま頑張ります(笑)。

保坂:ここまでお客様参加型のミュージカルってなかなかないですし“ロワイヤル音楽堂支配人”の山口さんを始め、キャスト全員が新しい挑戦をしていると思いますので、一緒に劇場でこの世界観を楽しんでいただければうれしいです!

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』保坂知寿×今拓哉インタビュー_6

劇団四季在籍時からさまざまな役柄を演じ、大きな評価を得てきた保坂知寿と今拓哉。その二人が満を持して「どこまでが台本でどこからがアドリブなのか分からない」最高にスリリングなミュージカル・コメディに挑んでいる。

内輪受けにならず、その日の客席の熱量をも取り込んで大きな“笑い”に転化する…と書いてしまえば簡単だが、舞台上でこの技が成立しているのは、出演者全員が“超”が付く実力派揃いだからだろう。

そのコメディエンヌぶりが以前から高く評価されていた保坂と、“金太郎”をきっかけに“小山田”で完全に覚醒した今…ミュージカル界の王道を歩いてきた二人が魅せる『エドウィン・ドルードの秘密』の勢いはまだまだ止まらない!

◆ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』
4月25日(月)までシタークリエにて上演中

大阪公演 4月28日(木)~5月1日(日)サンケイホールブリーゼ
愛知公演 5月4日(水)~5月7日(土)中日劇場
福岡公演 5月14日(土)~5月15日(日)福岡市民会館

(撮影:原地達浩)

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