『オペラ座の怪人』『キャッツ』など、メガヒットミュージカルの作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーが手掛けたソロ・ミュージカルが日本で初上演される。ヒロイン・エマを演じるのはALW作品『ラブ・ネバー・ダイ』や『サンセット大通り』でも圧倒的な存在感を見せつけた濱田めぐみ。
ロンドンからニューヨークに夢を持って移り住み、挫折を味わいながらも成長していくエマとどう向き合うのか…ソロ・ミュージカルという新たな形態に初挑戦する濱田に今の思いを語って貰った。
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――初のソロ・ミュージカルですが、なぜこの作品を選ばれたのでしょう?
『Tell Me on a Sunday』はエマという一人の女性がロンドンからニューヨークに出てきて、いろいろな経験をするうちに自分の人生を見つめ直すというお話なのですが、こういう日常的…ある意味“普通の人間”を描いた作品ってミュージカルでは珍しいんです。普通の人間が普通に生き、普通に恋愛をする中で悩み、成長していく。このお話をいただいた時に、エマという普通の女性の人生をリアルに演じてみたいと思いました。
――音楽は濱田さんにとって馴染み深いロイド=ウェバーさんですね。
今回の題材をもし“一人芝居”という台詞のみの形で上演したら、なかなか難しいと思います…サラッとし過ぎてしまうというか。でも、そこにロイド=ウェバーさんの音楽が乗ると、すごい相乗効果を生むんですよね。音楽もザ・ドラマティックな世界観と言うよりは、一人の女性の心情を丁寧に映し出すモードになっていて、心にすっと染み入るんです。
エマのことは良く分かるし、全部重なります!
――エマとご自身が重なる部分も多い?
それはね…全部です!全部重なる(笑)。福岡から東京に来て、それなりにいろいろな恋愛があって夢に向かって突き進む…みたいなところは全部一緒(笑)。もし、エマと私で大きな違いがあるとしたら、私は彼女のようにホームシックには一切ならなかったことかもしれません。エマは何か起きるとすぐに実家のパパとママのことを思いだして寂しい気持ちになるんですが、私は新しい環境への順応が比較的早いので、それはなかったです(笑)。
――こういう“普通の人”を演じるのも濱田さんにとってはレアですよね(笑)。
ねー(笑)。これまでが動物だったり死神だったり、エジプトの砂に埋められたり緑の体で生まれたりしてきたから(笑)、私にとってはそれが“普通”の状態で、エマみたいにすぐ隣で生きていそうな女の子を演じる方が“普通じゃない”んです(笑)。今まで特殊な人生や大きな運命を背負ったキャラクターを多く演じて、彼女たちを一から理解しようとしてきましたが、エマの感じることは全て分かるし理解もすぐ出来る…だけどそれをお客様が自分の友人のようにリアルな人物として感じて下さるにはどうすればいいのか…それが私にとっての新しい課題であり今回のチャレンジです。普通の女の子を演じるのがチャレンジ、ってこれも何だかすごいんですけど(笑)。エマから“普通”を学びますよ(笑)。
――翻訳・訳詞・演出を担当なさる市川洋二郎さんとの出会いは劇団時代?
そうです!彼はもともと役者と演出の両方をやっていて、劇団には俳優のオーディションを受けて入って来たんですが、初演の『春のめざめ』では演出助手の立場で作品に関わっていました。本格的に話をするようになったのは退団後で、市川さんが文化庁新進芸術家海外研修制度でイギリスとニューヨークに行く時、私が推薦文を書かせて貰ったんですよ。活動の場所が日本と外国に分かれてからもお互い情報交換をしていて、いつか一緒に作品を創ろうという話もしていたんです。将来的にはオリジナルミュージカルを作るのが大きな野望なんですが(笑)、その夢を叶えるための最初の大切な一歩が今回の『Tell Me on a Sunday』です。
――専門学校卒業後にも『Tell Me on a Sunday』を勉強されたと伺っています。
専門学校時代の講師の方がこの作品が大好きで「歌ってみないか」と、資料と音源を渡してくれたんです…訳もその方がやっていて。当時は「すごい挑戦だ~」って思いましたが、今は「やっとご縁が回ってきた」という感じです。色んな経験をした分、20代だった当時より“分かる!”って実感できる部分も多いですし、思いの深さもあの頃とは比べ物になりません。
――突然ですが、濱田さんは「サヨナラ」と簡単に言える方ですか?
言える!
――早っ(笑)!
ん、言えるのかな…?私、人と別れるのが本当はすごく嫌なんですよ…別れるのが嫌すぎて、実はもう新しく人と出会いたくないくらい…って、仕事柄、めちゃめちゃ色んな人と出会うんですけど(笑)。
理想的な人との別れ方はふわっと自然にフェードアウトすることなんですが、それってなかなか難しいじゃないですか。引き裂かれるような別れ方やぶつっと断ち切られるような別れ方は相手が誰でもやっぱりキツいですよね。この作品の主人公・エマも恋人とはふわっと別れたいんです…傷付きたくないから。そこは彼女とすごく似てるかな。
――今のお話、実はちょっと意外でした。これまで何度もお話を伺ってきて、もっとバツっと行けるイメージだったので。
パツっと行けるつもりなんですけど、結局関わった人には何かしらの想いが残ってることが多いんです。それは男性女性に関わらず、恋愛モードだった人でも友人でも知人でもそう。ボタンのかけ違いみたいなことがあって、何となく疎遠になってしまった人のことをふっと思い出すことも良くありますよ。「ああ、あの人、今はどうしているのかな…幸せだといいな」って。
もしかしたら私、人との距離の取り方があまり上手くないのかもしれないです…演技をしている時はそれこそ自分の全ての感受性を開いているけれど、普段の生活ではそういう訳にもいかないし。ある程度は吹っ切っていかないと…って、頭では分かっているんですけど…こればっかりは難しいですね(笑)。
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歌うことは私にとって特別なことではないんです
――1月の20周年記念コンサートでもロイド=ウェバーさんのビッグナンバーをお歌いになりました。特に「ラブ・ネバー・ダイ」の深化が素晴らしかったです。
不思議なんですけどこの前のコンサートでは『ラブ・ネバー・ダイ』公演の時と比べても、とても楽な状態で歌えました…気持ち良い!って思えるくらい声が響いて。実は私、発声練習ってしないんですよ。
――え、そうなんですか?
発声練習って“声を出すために声を出す”作業じゃないですか…無意味に声を発するというか。だったら普通に誰かと会話をしたり、いきなり歌う方が私にとっては遥かにウォーミングアップになるんです。1月のコンサートでは、自分にとって歌うことが特別なことではないんだな、と再認識しました。とは言いつつ、大きな…そして思い入れの深いナンバーばかりでしたので、コンサートではパツパツでしたけど(笑)。
――パツパツと言えば、3月には『ジキル&ハイド』石丸幹二さんバージョンの再演があり、6月の『Tell Me on a Sunday』を挟んで8月は新作『王家の紋章』も控えています。リーヴァイさん作曲の歌を歌われるのは初めてですよね。
初めてです!以前出演した『二都物語』をリーヴァイさんが観て下さって、地声で歌っている私のことを気にかけて下さったらしいんです。これまでなかなかスケジュールが合わず、作品に出演させていただく機会がなかったのですが、いよいよ『王家の紋章』の舞台でアイシス役としてリーヴァイさん作曲のナンバーを歌わせていただきます!
――コンサートでは「物凄く難しい曲をオーダーした」とおっしゃっていました。
そうそう!「めちゃめちゃ難しくて感動的で叙情的…そして心打ち震える曲を作ってください」ってお願いしたら、本当にその通りの楽曲が上がって来て別の意味で震えてます(笑)。
――『Tell Me on a Sunday』…濱田さんにとって大きな挑戦になるのは間違いなさそうですね。
今回は自分一人で舞台に立たなければいけないので、その部分ではいつにも増して背負うものも大きいと思いますし、演出の市川さんと呼吸を合わせていく作業も大切になってくるんじゃないかと。でも、迷った時はロイド=ウェバーさんの曲が私を助けてくれると信じています。お客様に「あー エマも目の下にクマ作って、職探しに走り回ってるんだから自分も頑張ろう!」って、友達に勇気づけられるような気持ちになって頂けるよう、彼女の人生を精一杯リアルに生きたいと思っています。
『挑戦』…この言葉をこれほど体現する人が他にいるだろうか。劇団四季在籍時には三つの作品でオリジナルキャストを務め、退団後もさまざまな作品で唯一無二の存在感を見せる濱田めぐみ…20周年を迎えたアニバーサリーイヤーに彼女が挑むのは自身初の試みとなるソロ・ミュージカルだ。
「普通の女性を演じることが私にとっては普通じゃない事態」インタビュー時にはそう笑顔で語った濱田だが、本格的な稽古に入れば福岡から東京に出てきたころの気持ちや、さまざまな経験、感情を思い出し、ある種の“傷”と向き合いながらエマという一人の女性をまた立ち上げていくのだろう。
「劇場こそ私の家」と真っ直ぐな目で言い切った彼女が濃密な空間で紡ぐ“普通の女性”の物語。濱田めぐみの“新たな挑戦”しっかり心に焼き付けたいと思う。
◆ミュージカル『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』◆
2016年6月10日(金)~6月26日(日)
新国立劇場小劇場(東京・初台)