現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』平岡祐太×眞島秀和インタビュー「三島由紀夫の作品を現代に置き換える、ミステリアスで不思議な世界観」

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世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎の立ち上げた人気シリーズ『現代能楽集』の第8弾『道玄坂綺譚』が、2015年11月8日(日)~21日(土)まで、同劇場にて上演される。『現代能楽集』は、能の物語をベースにさまざまな劇作家・演出家が新作をつくりあげる企画だ。今回は、三島由紀夫の戯曲『近代能楽集』に収められた短編『卒塔婆小町』『熊野(ゆや)』の2作品をまぜあわせ、劇作家・演出家のマキノノゾミがひとつの現代劇として生まれ変わらせる。
『卒塔婆小町』と『熊野』、それぞれの“現代能楽集”版のメインキャストである平岡祐太と眞島秀和に、作品に臨む思いを聞いた。

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――今回上演する『道玄坂綺譚』は、能の物語を三島由紀夫がアレンジしたものを、さらに現代劇にするんですよね。

平岡:三島由紀夫さんの『近代能楽集』を現代に置き換えた作品にすると聞いて、久々の舞台で面白そうな企画に参加できるなと思い、挑戦してみようと決めました。

――お二人とも映像作品への出演がほとんどですよね。ご自身にとって舞台とはどういうものですか?

眞島:舞台はずっとやりたかったので、今回は自分にとって挑戦できる機会をいただいたなと思いました。去年、15年以上ぶりに舞台に立ったんです。楽しかった! ゼロから作品をつくっていく過程を皆で共有することができるというのは非常に貴重で、またそんな経験ができるんだなと期待しています。でもすごく不安ですよ。

平岡:なにが不安なんですか?

眞島:まだどうなるかわからないからかなぁ。

平岡:得体の知れないものって怖いですよね。僕もオファーを受ける時にすごく不安が強かったし。

眞島:でも、常になにかに挑戦していけるのは俳優という仕事の醍醐味だよね。だからこそ、立ち向かっていかなきゃな。

『道玄坂綺譚』平岡祐太

――眞島さん演じるムネモリは、IT実業家なんですよね。

眞島:そうです。ITで成功した男なのに、これからいっさいネットとスマホを使わないという約束で少女に充分な生活を与えてあげる・・・という役。それはすごく面白そうだなと!

平岡:そういうことしたいんですか?(笑)

眞島:いやいや、共感はしないけど、興味があるな。もっともITに浸かってる人間が、それを他人に禁止するように仕向ける・・・相手に求めるところがそれだというのが面白いところ。若い女性を支配するという設定は原作の『熊野』とほぼ同じなんですが、現代版に置き換えた時にITを取り上げるのはとてもわかりやすい。それが、もう1作の『卒塔婆小町』と合わさった時に、どうなるのか。

平岡:『熊野』に登場する水田航生くんが『卒塔婆小町』の物語にも紛れ込んだりと、面白いミックス感がありそうですね。幻想の世界へ行ったり、理屈じゃない事がいっぱいある物語ですし。原作でも二転三転する展開が待ち受けていますから、お客さんとしては非常に裏切られる展開になっていくんじゃないかな。

眞島:制作発表で演出のマキノさんが「『熊野』にはコメディタッチな部分がある」と仰っていましたが、僕は原作を読んで、コメディというよりも、違和感や、ザワザワするような不安感を感じたんですね。共演の一路真輝さんは「2作ともやりきれない思いのようなものがある」と表現されていましたが、それがこの作品の魅力なのかなと思います。なんとも言い表すのが難しいような気持ちになる作品ですね。

『道玄坂綺譚』眞島秀和

――平岡さんは道玄坂らしき場所にあるネットカフェの店員・キイチを演じますが、原作では女性に翻弄される役ですよね。

平岡:「すべての女性には、わけもわからず飲み込まれるほどの魅力がある」というのはとても三島さんらしい気がして、僕もすごくわかる感覚です。女性や死が美しいという三島由紀夫の世界観は、今回の舞台にもちらついてくるのではないかなあ。

眞島:三島さんは美意識が高い方ですよね。

平岡:ボディビルで肉体改造をしたり、すごい人ですよね。作品にも不気味な面白さがあるのですが、僕は三島由紀夫さんという人にすごく興味があるんです。官僚の父のもとに生まれ、自分も官僚をしながら小説を書き、ヨーロッパの文学に影響を受けて美しさを求め、ボディビルをやり、ボクシングをやり、最後は政治活動をして自決する・・・そんな三島さんの生き方自体がすごく不思議だなあと惹かれます。

眞島:美しさって、男性なら「生き方」かもしれないし、女性は「見せ方」かもしれない。三島さんはその両方の美を追求していますよね。そして誰もが感じられる、人間としての普遍的なドラマが作品のなかにある。

平岡:『現代能楽集』の企画・監修者である野村萬斎さんも、日本語の響きの美しさに意識を置かれている方だと思うので、三島由紀夫さんの作品を選んだのかもしれないですよね。
(注:現に、野村萬斎は2012年に三島由紀夫作『サド侯爵夫人』を手掛けている。“言葉による緊縛”に主眼を置いた演出に挑んだ。)

――それがマキノ版として現代風にアレンジされるんですね! 平岡さんはマキノさんの舞台は2度目ですが、どんな演出をされる方ですか?

平岡:2011年に中村獅童さんと共演した舞台『淋しいのはお前だけじゃない』をマキノさんが演出してくださったのですが、その時は演出を受けた感覚がなかったんです。ただ、「何かできる?」と聞かれて、「ギターが弾けます」と言ったら「じゃあギターやろう!」とギターを弾くシーンが追加されました。そんなふうに、僕たち役者がお客様に見せられるものを出すのを待っていたような気がします。非常にインテリジェンスを感じる方ですね。怒ったところは見たことがないんですけれど、あの真剣な目にはすべて見透かされているような感覚になります。

『道玄坂綺譚』インタビュー

『道玄坂綺譚』インタビュー

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――平岡さんと眞島さんは、2004年の映画『スウィングガールズ』で初めて共演されていますよね。お互いの役者としての魅力はどんなところでしょう?

眞島:ミステリアスな部分があるところが魅力かな。

平岡:えっ、僕、ミステリアスな部分ありますか?

眞島:あるよ。

平岡:本当ですか? 自分じゃわからないですけど……言うことが日々変わるからですかね。何を考えているのかわからなくて、ミステリアスに感じるとか。

眞島:そういうのって魅力的だと思うよ、僕は好きだな。でも『スウィングガールズ』の頃は平っちもデビューしたてで、今とは全然違って初々しい感じだったな。

『道玄坂綺譚』眞島秀和

――平っち・・・って呼んでるんですか?

眞島:そうです。あれ、みんな平っちって呼ばないの?

平岡:『スウィングガールズ』の人たちだけです。

眞島:そうなんだ!

平岡:当時は眞島さんにいろいろ教えてもらいましたよね。眞島さんは役者として出演しながら、山形弁の方言指導もされていましたから。眼差しがいつも真剣な方だなと思っていました。おちゃらけた目を見たことがないです。だからか、僕の眞島さんのイメージは、絶対に裏切らなさそうな方。誠実で、紳士で・・・。

眞島:え、サムライってこと?

平岡:サムライってどういう意味ですか(笑) というより、硬派で、嘘をついてないように見えます。最近、ドラマの『ハゲタカ』にハマってDVDを見ているのですが、眞島さんの演技にすごく説得力があるなって感じます。眞島さんが言うことは、全部信じちゃいそうです。

眞島:あー、それは騙されてるね。

平岡:ええっ!?(笑)

眞島:真面目な役柄を戴くことが多いんです。今後、もっといろいろな役にも挑戦してみたいですね。

平岡:実際はどうなんですか? 真面目ですか?

眞島:プラップラしてるよ! ペラッペラだよ!

平岡:そうなんですか(笑)これから一緒にご飯に行くことが増えるとわかってくるんですかねえ。

眞島:そうね。平っちがご飯ツアーしてくれるんでしょ?

平岡:ええ、世田谷パブリックシアターの近くで三軒茶屋ご飯ツアーしましょう。僕、けっこう詳しいですよ。

――ちなみに、観劇の前後に食べられる、おすすめのお店はどこでしょう?

眞島:カレー屋の「チャナ」は絶対行ったほうがいい! 日本一美味しいキーマカレーがあります。おすすめです。

――お二人とも三軒茶屋に詳しそうですね! 世田谷パブリックシアターにはよく来られるんですか?

眞島:何度も来ました! だからこの劇場の舞台に立てるのが嬉しいんです。素晴らしい劇場だと思います。

平岡:天井の模様が空になってますしね。巨大すぎず、小さすぎず。

眞島:舞台上もそんなに広すぎることもなく、絶妙な感じだよね。

平岡:今回、舞台を張り出して能楽堂のような舞台を作るらしいですよ。

眞島:いいねいいね! ちょっと恐ろしい気持ちもありますけど。

平岡:恐ろしいです。

眞島:恐ろしいけど、やるしかないね。

平岡:そう、やるしかない。

『道玄坂綺譚』平岡祐太

――やるしかない・・・そのために今準備してることはありますか?

平岡:発声や演技レッスンに行っています。でも、いかに自分が今まで何もせず、駄目だったのかを気づかされました。「そもそも声の出し方が違う、もう少し、しっかり相手に話してください」と怒られ……。今の僕にとっての課題は“声問題”です。

眞島:“声問題”?

平岡:この前パブリックシアターで演劇を観た時にも、改めて、やっぱり声ってすごく大事だなあと気づかされたんです。声の響き方や大きさって、とても重要ですよ。小さな声だとお客さんにとってすごくストレスだし、かといってずっと大声で喋っていてもセリフのニュアンスが全部同じになってしまうし……これからクリアしていきたいですね。
あとは、道玄坂のネットカフェに行ってみないとなあ。昔はよくネットカフェに行っていたのですが、最近ではシャワーもついているらしいです。

眞島:すごいみたいだね。何日も泊まってる人もたくさんいるとか。

平岡:研究しなきゃなあ。眞島さんの役はベイエリアに住む実業家ですけど、お金持ちの研究しないんですか?

眞島:お金持ちってどうやって研究するの?(笑)

――期待が膨らみます!(笑)では最後に、観に来られる方へメッセージをいただけますか。

平岡:『現代能楽集』と聞くと、すごく難しいんではないかというイメージがあるかもしれません。ですが今回の作品では、三島由紀夫さんの作品を現代に置き換えることでとても観やすくなります。ミステリアスで不思議な世界観の、面白い作品になるのではないかと思います。

眞島:出演者も個性的な方ばかりですし、さらに、野村萬斎さんとマキノノゾミさんがタッグを組んだ作品なので、相当期待して来ていただければと思います。

平岡:ぜひ多くの方に来てほしいです。お待ちしています。

『道玄坂綺譚』インタビュー

◇平岡祐太 プロフィール◇
1984年生まれ。広島県生まれ、山口県育ち。2002年第15回「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞。2003年テレビドラマ『ライオン先生』で俳優デビュー。2004年、映画『スウィングガールズ』で第28回「日本アカデミー賞」新人俳優賞受賞。その他出演作に映画『いま、会いにゆきます』『しあわせのパン』、『キッズ・リターン 再会の時』テレビドラマ『ゴッドハンド輝』(主演)『龍馬伝』、『家族狩り』など。

◇眞島秀和 プロフィール◇
1976年生まれ、山形県米沢市出身。李相日監督作品『青~chong~』でデビュー。主な作品は映画『スウィングガールズ』『HERO』『悼む人』、テレビドラマ『海峡』『ゲゲゲの女房』『なぜ君は絶望と闘えたのか』『シンデレラデート』『失恋ショコラティエ』など。ほか、数々の映画、ドラマ、CMで幅広く活躍中。

◇現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』◇
<あらすじ>
渋谷・道玄坂らしき場所のネットカフェ。従業員のキイチ(平岡祐太)は、長期滞在する年齢不詳のコマチ(一路真輝)に興味を抱き、彼女の過去を聞くことに……。また、同じネットカフェでその日暮らしをしている家出少女ユヤ(倉科カナ)のもとに実業家のムネモリ(眞島秀和)が現れる……。

<公演スケジュール>2015年11月8日(日)~21日(土) 世田谷パブリックシアター

撮影:高橋将志

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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