「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」。親しみやすい俳風で後世に渡りその名を残した江戸の名俳人、小林一茶。2015年4月6日(月)より、東京・紀伊國屋ホールでこまつ座が送る『小林一茶』は、そんな彼の生き方を大きく変えたと考えられる1つの事件を軸に描いた作品。名俳人の半生を追いながら、事件とともに彼の姿を紐解く推理要素を内包した類を見ない評伝劇なのだ。“容疑者・小林一茶”をめぐって、次第に浮かび上がる誰も知らない姿とは…?小林一茶を演じる、主演・和田正人さんにお話を聞いてきました。
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――歴史に名を馳せる名俳人という役どころを演じてみてどうでしょうか?
井上先生の戯曲はとても面白く魅力的です。今回は俳諧という特殊な世界を題材にしているので、自分が生きたことのない時代を演じるために身体に取り込んでいくこと、言葉や文字の伝え方など、あまり馴染みのない状況であったり、言葉であったりしますから、最初に一読した時は、これから難しい作品に挑むんだな、というのは思いました。
――稽古に入られてから、この戯曲をどのように感じられていますか?
分からない言葉はその都度意味を調べて理解をしていくようにしたのですが、意味が分かるとだいぶ見え方が変わっていきました。これは今の時代でいうこういう事に置き換えられるのか!と。初見の時、特に書面で見ると、より分からない言葉がどんどん連なっていくので正直困惑してしまいましたが、そうした理解を重ねていくことで、物語を自分の中に取り込むことが出来ました。戯曲って設計図みたいなものなので、いざこれを役者が芝居として演じて立体化してみると、『あれ、こんな分かりやすく伝わってくるんだ』っていうのもありますしね。
――「あまり世に知られていない小林一茶を演じられるということが何より楽しみ」と仰っていましたが、今の和田さんから見える小林一茶像を教えて下さい。
小林一茶については学校の歴史や国語でちらっと習ったくらいで、人物像の知識としてはあまりありませんでした。勿論、容疑者となった小林一茶なんて、聞いたことがありません。今回の作品は、井上先生が様々な史料を読み込まれて書かれた“史実を元にしたフィクション”。それに描かれた表面だけで追っていくと、一茶って人間的に立派な人とかいい人ってわけでは決してないんじゃないかなと(笑)。でも、逆に言えばとても人間味があるんですよね。
――なるほど!例えば?
人って生まれてすぐの頃は本能の赴くままに生きているじゃないですか、お腹がすいたら食べて、やりたいことが出来なかったら泣いてって…。それが親や周りから教育を受けて、大人に向かっていくにつれて、やってはだめなことを学習する、自分で自分を抑制することを覚えていくんですよね。理性が生まれるっていうのかな。彼はある種、そういった理性の部分を取っ払って、俺はこれだっていう一つのものに貪欲になっている。そんな姿に、生きている躍動感や生命力の強さを感じるんです。それって大人になってしまうと、やろうと思ってもなかなかできるものじゃないですから。
――他の登場人物はどうですか?
逆に言うと、心の優しさや人の痛みを分かるという点に関しては、石井(一孝)さん演じるライバルの竹里の方がまだ親近感沸くと思います。というより、一茶みたいにはなかなか生きられない。俳句か女性かどちらを取るかの選択の仕方とか、「自分の方が絶対にすごい」と声高に言えることとか。それって自分の能力に対して、どこまでも可能性を信じているってことなんです。彼はプレイヤーでありながら、自分の才能を売っていける営業マンでもあるんです。
――石井さんとの濃いやりとりがたくさんありそうですが、何か話し合ったりされるんですか?
(インタビュー時)まだ稽古序盤なので、今はそこに向かっているところです。稽古していく中で、演出の鵜山さんとプランを練ったりしていますが、俳優同志ではこれからという感じです。有り難いのは公演期間が長いことですね。もちろん気持ちの面ではいつでも変わりませんけど、とにかく“初日を迎えてみて”というところはあるんですよね。実際にステージに立って、お客様が入ってみないと分からない部分は絶対にあります。本番が一番の稽古ですから。演劇ってそういうものかなと感じています。
―最後に、ズバリ見どころをお聞かせください!
今回のお話は、先ほども少し触れましたが、小林一茶と竹里が軸になって物語は進みます。その間におよねという女性が存在するんですが、およねを通じて一茶と竹里の二人の大きな生き様の違いが見えるんですね。時代こそ昔だけれども、こういうのって今を生きる僕たちにも、そのまま通ずるところがあると思います。生き方という大きな意味合いで。この作品を通して、どちらの生き方に共感できるかとか、自分の生き方を投影して感じていただけるものもあるんじゃないかなと思います。登場人物の生き様に大いに触れて感じてもらえたらと思います。
<プロフィール>
和田正人(わだまさと)/高知県出身。俳優集団D-BOYSのメンバーで、映画やドラマ、舞台など幅広く活動中。平成26年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。井上ひさし作品には『小林一茶』が初出演となる。舞台『新・幕末純情伝』、Dステ15th『駆けぬける風のように』、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』TBS『ルーズヴェルト・ゲーム』WOWOW『天使のナイフ』映画『アシンメトリー』『鴨川ホルモー』『コドモ警察』『起終点駅ターミナル』(2015年秋公開予定)など。
<『小林一茶』あらすじ>
“容疑者、その男の名は小林一茶。”
大金の盗難事件に容疑者として捕らえられたのは、江戸を代表する俳人・小林一茶。同心見習い(下級の役人)の五十嵐俊介が事件を紐解いていくと、浮かび上がってきたのは、俳諧を究めようともがき、一人の女性を命懸けで奪い合った一茶と宿敵・竹里の壮絶な生き様と事件の真相だった。
一茶の半生をたどりながら、観客もろとも巻き込む推理劇の要素を持ち合わせた井上ひさしの傑作評伝劇を、俊才・鵜山仁の新演出により、10年ぶりに待望の上演。
主役の小林一茶には今注目な俳優、和田正人、ライバルの竹里には実力派俳優、石井一孝を迎える。
<出演>
和田正人、石井一孝、久保酎吉、石田圭祐、小嶋尚樹、大原康裕、小椋毅、植田真介、川辺邦弘、松角洋平、一色洋平、荘田由紀
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
こまつ座第108回公演・紀伊國屋書店提携
『小林一茶』
2015年4月6日(月)~4月29日(水・祝)
新宿東口・紀伊國屋ホール
お問い合わせ:こまつ座 03-3862-5941
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