「カーテンコールの度に思います“今日も幸せだ!”と」劇団四季『クレイジー・フォー・ユー』松島勇気にインタビュー<後編>

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(前編はこちらから)

――松島さんは元々、クラッシックバレエ界にいらした訳ですが、なぜ劇団四季に入ろうと思われたのですか?

最初のきっかけというか、衝撃を受けたのは5歳の時に新宿西口のテントで観た初演の『キャッツ』です。その後、日生劇場で『クレイジー・フォー・ユー』を観劇して、いつか劇団四季の舞台に立ちたいと強く思うようになりました。

松島勇気

――ご自身が舞台を観て憧れた二役(『キャッツ』のミストフェリーズと『クレイジー・フォー・ユー』のボビー)を実際に演じられるって、凄い事ですよね。

特にボビーに関しては、まさか自分が演じられる日が来るとは思っていなかったので、「勉強しておくように」と言われた時は驚きました。1993年の『クレイジー・フォー・ユー』初演から2011年までの18年間、劇団四季では3人しかボビー役を演じていないんです(筆者注:加藤敬二、荒川務、田邊真也の3人)。加藤さん、荒川さんのお二方から田邊さんのボビーデビューまでも10年以上間が空いています。そんな大役というか、皆が憧れていながら、なかなか実際の舞台で演じるというハードルを越えるのが難しいボビーという役を自分が演じられるのはとても幸せなことです。

――松島さんがこれまで劇団四季で演じて来られて、特に思い入れの深い役やターニングポイントとなった作品は何でしょうか?

(しばらく考えて)色々ありますが、やはりミストフェリーズ(『キャッツ』)ですね。5歳の時に舞台を観て以来、ずっと憧れていた役でしたし、”ミストフェリーズを演じたい!“と強く思って四季に入団しましたので。

僕はクラシックバレエをずっと続けていて、四季に入る頃にはプロのバレエダンサーとして活動してもいたんです。あえて新しい世界に身を置くことはないんじゃないかとも思ったのですが、丁度大きな賞を頂いた時に、劇団四季でミストフェリーズ役のオーディションがあるというお話を頂き…迷った末に決断しました。

バレエの世界は発表会も多くて、その場にゲスト出演させて頂くと「先生、先生」と持ち上げられることもあり、僕みたいな若造がこれでいいのか、何か勘違いをしているんじゃないかと自分に問いかけ、ダンサーとして…演者として変わりたいという気持ちを胸にミストフェリーズ役のオーディションを受けました。ですので『キャッツ』という作品、そしてミストフェリーズという役が大きな転機になっているのは間違いないと思います。

――松島さんと言えば、作品中で強いリーダーを演じているイメージもあります。『キャッツ』ではミストフェリーズに続いて、マンカストラップも演じられました。

実は横浜公演でミストフェリーズを演じていた時に勉強しておくようにと言われたのは当初、ラム・タム・タガーだったんです。結局タガーとしてデビューする事はなかったのですが、縁あってマンカストラップの勉強を始めることになりました。この時、いい機会かもしれないと思ったんです。と言うのも、ミストフェリーズはいつまでも出来る役ではないし、若い世代にバトンタッチしていかなければならない。そんな時に猫たちのリーダー的存在であるマンカストラップを演じる機会を頂き、真摯にこの役と向き合ってみようと思いました。

――2012年の『ウェストサイド物語』ではリフとベルナルドの二役を担当されましたね。

それぞれ敵対する2チームのリーダー役でしたね。開演前のウォーミングアップや稽古の時は普通なんですけど、ジェット団とシャーク団の楽屋は別々で、メイクをした後は気持ちを作る為に、別グループのメンバーを演じる俳優同士が顔を合わせないよう気を付けたりもしました。

2012年の公演では二役をやらせて頂いて、勿論演技やダンス、歌の部分など大変な事も多かったのですが、リフとベルナルドでは髪の色が金髪と黒髪で全く違うので、役が変わる度に髪の色を変えるのもなかなか大変でした(笑)。

――こうしてお話を伺っていると、改めて松島さんの明るさや前向きなパワーが伝わってきます。四季に入られて大きな挫折を体験なさったことはありますか?

ありましたね、体力的にも精神的にも少しキツくなってきた時期が…。若い頃は自信もありましたし、勢いで突っ走れる部分もあったのですが、ある時からそれが難しくなってきたんです。それでこのまま続けていっていいのだろうかと悩んだりもしました。

――それをどう乗り越えられたのか伺いたいです。

それがハッキリ“乗り越えられた”と実感した瞬間があったというより、日々の稽古や本番の舞台を務める中で、『キャッツ』のマンカストラップという役に出会えたりという事もあり、いつの間にか「よし!頑張れる、大丈夫だ」と、自分を信じられるようになったという感じでしょうか。

――そういう松島さんご自身の精神的なステップアップが今回のボビー役に繋がっている気がします。

舞台を観てそう感じて頂けたなら本当に嬉しいです!(笑顔)

――『クレイジー・フォー・ユー』の中でご自身が1番好きな場面はどこでしょう?

やはり「Nice Work If You Can Get It」ですね。「Nice Work~」のシーンはずっと一人で舞台を背負うという事もあって凄くキツいんです。でも3時間の舞台を頑張って務められるのはこのシーンがあるから、と言っても過言でない位大好きな場面です。

――この作品を1日2回演じる日があるのは本当に大変だと思います。公演中のリフレッシュの方法や、エネルギーチャージの秘訣がありましたら教えて下さい。

『クレイジー・フォー・ユー』は凄くHAPPYな作品で、悪い人間は誰も出て来ないし、誰一人死んだりもしません。登場人物全員が最高に幸せな状態で幕が下りるミュージカルってなかなかないと思うんです。体力的には確かに大変な部分もありますが、カーテンコールも満ち足りた気分でいられるので終演後も凄く清々しいんですよ。「今日も幸せだ!」と。だからあえてリフレッシュしようとは意識していないんです。

松島勇気

『クレイジー・フォー・ユー』マチネの終演後、疲れた様子を微塵も見せず、松島勇気は私たちの前に現れた。明るいオーラを放ちながら、笑いを織り交ぜ彼が語る言葉の数々…その端々から自らが演じるボビーという役を常に進化させようと稽古場でもがく彼の姿が見える。カーテンコールの度に“幸せだ”と思えるようになるまでどれだけの孤独な戦いがあっただろう。「4人目のボビー」が更に輝く様子をこれからも客席で見続けたいと思う。


<松島勇気 プロフィール>
中学生の頃からクラシックバレエを始め、全国舞踊コンクールのパ・ド・ドゥ部で第1位を受賞するなど受賞歴多数。2002年8月オーディション合格。『アンデルセン』ニールス、『コーラスライン』リチー、『キャッツ』マンカストラップ、ミストフェリーズ、『コンタクト』召使い、ウェイター長、『ウェストサイド物語』リフ、ベルナルド、『クレイジー・フォー・ユー』ボビー、『ウィキッド』フィエロ等を演じている。

◆劇団四季 ミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』
~5月6日(水)まで四季劇場[秋](東京・浜松町)にて上演中

『キャッツ』撮影:下坂敦俊
『ウエストサイド物語』撮影:上原タカシ

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