東京・浜松町の四季劇場[秋]にて上演中のミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』。1993年の初演以来、常に再演リクエストがやまない劇団四季の超人気作品だ。舞台は古き良き時代のアメリカ。銀行の跡取り息子で踊ることが大好きな青年・ボビーが、債権の取り立てに出向いたネバダ州・デッドロックでじゃじゃ馬娘のポリーに恋をして、ショービジネスでの成功とポリーへの恋心を成就させようとあの手この手で大活躍…果たしてボビーはショーを成功させ、ポリーのハートを射止める事が出来るのか!?
主人公のボビー・チャイルド役を演じる一人、劇団四季の俳優・松島勇気に話を伺った。
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――開幕してから2回拝見したのですが、作品の“進化”が凄いと思いました。ボビー役を演じるにあたり、特に気を付けている事を教えて頂けますか?
『クレイジー・フォー・ユー』はミュージカルの中でもコメディの要素が非常に大きく、笑いが3分に1度起きる…とも言われる作品です。間合いや呼吸、俳優同士のコンタクト等が少しでもズレると笑いのリズムも崩れてしまう訳で、その中でどうリアリティを持ってボビーという役をお客様に見せていくか…そこは毎回考えますね。
コメディという事で「ハイ、ココが笑いどころですよー」みたいな芝居をしては、絶対にお客様には楽しんで頂けません。いかに“実感”=“実”のある言葉を表現していくかという点も常に意識しています。いや、本当にお笑い芸人の方の呼吸やテンポの作り方は凄いと思いますよ。
――『クレイジー・フォー・ユー』ほどダンス・歌・芝居の三位一体感があるミュージカルはある意味珍しいですよね。
演出スーパーバイザーの加藤敬二からは稽古中に「テンポ、テンポ!」と何度も言われました。ミュージカルの中でもこれだけテンポが速く一定のリズムを持って進んで行く作品はなかなかないので、他の作品から『クレイジー・フォー・ユー』の稽古に入ると一瞬戸惑います(笑)。「(気持ちを)もっと上げて、もっと上げて!」「いや、ちょっと待って、まだ準備が追い付いてないです~」みたいな(笑)。特に体力的には大変なことも多いのですが、少しでも多くのお客様に楽しんで頂けたら嬉しいですね。
――今日、後ろの席に仙台から来た女子高生のグループが座っていたんですが、「上手い!」「カッコいい!」「綺麗!」「凄い!」って皆さん物凄く楽しんで観劇してましたよ。
それは嬉しいです!うわあ、良かった!!
――松島さんがボビーを演じられるのは2011年以来4年振りになりますが、前回と比べていかがですか?
実は「ボビーの稽古をしておくように」と言われたのが2010年で、そこからずっと一人で稽古をしていたんです。と言っても、他の作品に出演しながらですので、台本や過去の資料を確認するところからのスタートでした。
一人稽古から『クレイジー~』のカンパニーに合流して、やっと皆と一緒に稽古が出来るようになった所でまた別の作品に出演することになって…という過程を経て、今度こそ!と思った時に東日本大震災が起き、『クレイジー~』は上演が中止になってしまったんです。そんな中、何とか上演のめどが立って、2011年に初めてボビーとして舞台に立たせて頂くことが叶いました。色々な意味でギリギリの中での(ボビー)デビューでしたので、最初の頃は本当に大変で、その時は自分のボビー・チャイルドを演じるというよりは、先輩方が作り上げたボビー・チャイルドを何とか自らの中に入れ込んで演技をするという状態だったと思います。
――そんな事があっての今回ですから、やはり思いも深まりますよね。
松島: 本当にそうですね。ですから2015年のボビーはまたゼロからのスタート!という思いで役と向き合い、演じさせて頂いています。
――松島さんのボビーには出てきただけで場をぱあっと明るくする力があると思います。
本当ですか?初日前の稽古中も開幕してからの稽古でも演出スーパーバイザーの加藤敬二からは「まだ暗い!」と声が飛ぶんですよ(笑)。え、まだ?まだ暗いの?と思いながら更にテンションを上げていってます(笑)。
でも確かに、ボビーの明るさってちょっと面白い所があって、彼はハーバード大学卒でとても頭がいいし、きっとIQも相当高い。だけど中身が“子ども”なんです。それが突き抜けていて、子供のままの“明るさ”をそのまま持って大人になった人なんですね。だから彼にはデッドロックで体験することの全てがキラキラ輝いていて見える。
ボビー・チャイルドという名前の通り、”チャイルド“が持つ無垢の明るさや、子供のままのテンションが特に必要な役なんだと思います。
――そんなボビーの“成長”が見えるのが、ラスト近くのナンバー「Nice Work If You Can Get It」ですよね。
一人の人間としてポリーに恋をしてショーを成功させるために色々やってはみたけれど上手くいかなくて、挫折を味わってNYに戻ったボビーが、ザングラーが恋人のテスの為にした事を目の当たりにして、自分の気持ちを確認し、考え、行動に繋げるという場面…ボビーにとって大きな転機と成長を現すナンバーで、僕も大好きなシーンです。
――あの場面で松島さんが踊るボビーのダンスは本当に“演劇的”だと思いました。
ありがとうございます。それはスーザン・ストローマンさんの振り付けがとても“演劇的”だからだと思います。未だに加藤敬二からは「まだ踊ってる! “Actしろ、Actだ!」と言われます…ここはダンスじゃないんだ!と。求められる技術のレベルが高いので「そこのステップが違う、荒い!」って細かい箇所もちゃんと注意されたりするんですけど(笑)。やはりただ”踊る“のではなく”演じる“意識が特に必要なナンバーなんですね。
今回、加藤敬二には「ボビーを演じる上で絶対に“嘘”を吐くな」とも言われました。その言葉を胸に常に実感を持ってボビーの台詞を口にするようにしていますし、それはダンスにも通じることだと思います。
撮影:荒井健