2025年、日本のミュージカル史に金字塔を打ち立てた『エリザベート』が、東宝版上演25周年という記念すべき節目を迎える。その製作発表が都内で行われ、新たなカンパニーの顔ぶれがお披露目された。
新キャストとしてタイトルロール、エリザベート役を務めるのは、元宝塚歌劇団雪組トップスターの望海風斗と、元宝塚歌劇団花組トップスターの明日海りお。そして、黄泉の帝王トート役として、古川雄大、井上芳雄(東京公演のみ)、山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ)という盤石の布陣が再び集結した。
製作発表には、エリザベート役・トート役のキャストと共に演出・訳詞の小池修一郎、主催の東宝株式会社・池田篤郎専務執行役員も登壇。帝国劇場の一時閉館のため、新天地で新たな歴史を紡ぐことへの熱気と期待、そしてユーモアに満ちた会見の模様をお届けする。

時を経て、なお輝きを増す伝説のミュージカル
ミュージカル『エリザベート』は、脚本・歌詞ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲シルヴェスター・リーヴァイのゴールデンコンビによって、1992年にウィーンで誕生した。オーストリア=ハンガリー帝国最後の皇后エリザベートの波乱に満ちた生涯に、彼女を愛した黄泉の帝王“トート(死)”という幻想的な存在を絡ませた独創的なストーリー。そして、クラシカルな旋律からロック、ポップスまで、多彩で一度聴いたら忘れられない珠玉の楽曲の数々で、世界中の観客を魅了し続けている。
日本では1996年に宝塚歌劇団雪組で初演。空前の大ヒットとなり、再演を重ねる宝塚歌劇団の代表作の一つとなった。そして2000年、小池修一郎による新たな演出で東宝版が帝国劇場で開幕。以来、日本のミュージカル史に燦然と輝く大ヒット作として、上演のたびに社会現象ともいえる熱狂を巻き起こしてきた。
今回の2025年公演は、東宝版初演から四半世紀というアニバーサリーイヤーを飾る、まさに記念碑的な公演となる。
小池修一郎、井上芳雄の“25年前の事件”を回顧
会見はまず、エリザベート役を務める望海と明日海による新ビジュアルのアンベールからスタート。本作を象徴する純白のドレスに身を包んだ、気高く美しい2人のエリザベートと、それぞれのスタイルで表現されたトートたちの姿がお披露目された。
望海が「少しドキドキしましたが、いよいよ始まるのだなということをこのお衣裳を着て感じました」と感慨深げに語れば、明日海も「皆様の中にある美しい(エリザベートの)姿に近づけるよう、スタッフの方々と相談して作りました。無事にお披露目できてほっとしています」と、大役への真摯な思いを覗かせた。
まず、東宝の池田氏が「記念すべき年を飾るにふさわしい豪華なキャストでお届けします」と力強く宣言。続いて登壇した演出の小池が「25年前の製作発表は、オーストリア大使館で行ったんですね」と当時を振り返った。その中で「井上芳雄くんデビューのお披露目だったのですが、彼が“オーストリア大使館”ではなく、“オーストラリア大使館”に行ってしまったんですよ…」と、まさかの思い出話を聞かせてくれた。
井上が「覚えていてくださったんですね?!でも、幸いなことにオーストラリア大使館とオーストリア大使館は結構近所にありました!」と反応すると、小池は「そんなに抜けているとは思っていなかったのですが・・・みんなで心配したことを思い出しました(笑)」と笑ってみせた。
そして、25年の時を経てなお、井上が作品を支えてくれていることを讃え、25年前はまだ学生や宝塚入団前だった他のキャストたちにも触れながら、「(時を重ねる中で切磋琢磨してきた)そういった方々が成長して、ここにいる。この作品は、2025年という現代に観ることで、社会や歴史、個人と時代とのつながりをよりビビッドに感じさせる深みを持っていると思います。古びたものではなく、新たな『エリザベート』の進化を皆様に感じていただけるはずです」と、作品への変わらぬ愛情と自信を語った。
その言葉を受けて、新エリザベートとなる望海は「エリザベート役としてここにいることが、数ヶ月前まで嘘ではないかと思うくらい今でも不思議な感じがします。初日までに、一つ一つ丁寧に役を作り上げていきたいです」と、静かながらも確固たる決意を表明した。
同じく明日海も「私もまだ信じられていないところがありますが、とにかく精一杯、それ以上のつもりで挑みたいと思います」と、緊張感を漂わせながらも力強く語り、二人のトップスターが挑む新たな頂への期待をにじませた。
そして、3度目のトート役となる古川は、「正直、すごく不安です。この役は本当に難しいので・・・」とストイックな表情で吐露しつつ、「僕はよく自分が寝言を言っているのに気づいて起きるのですが、今日の朝、人生で初めて、夢の中で『愛と死の輪舞』を歌っていたんです。いっくん(山崎)が出てきて、『どうぞ!』と振っていただいて…」と驚きのエピソードを告白。まさかの夢の中での共演話に、登壇者からも笑いが起こる中、「寝ている時も稽古をしているので、きっと大丈夫だと信じています!」と彼らしく(?)意気込んだ。
古川のまさかの話の展開に、井上は「寝言って自分で分かるものなの?」とすかさずツッコミを入れつつ、「小池先生もおっしゃっていましたが、25年前に出演していて今も出演しているのは僕だけなので・・・おかげで皆が丁寧に接してくれる気がしています(笑)。今年、ルドルフ役の二人(伊藤あさひと中桐聖弥)は25歳なんですよ。初演の年に生まれた子たちが、当時の僕がヒーヒー言いながら歌っていた歌を軽々と歌っているように見えるんです。豊かな人材がたくさん生まれてきているという証。25年という時間を実感しますね」と感慨深げ。
そして「前回の上演時は博多座だけの参加だったので、本格的に稽古から参加するのは久しぶり。どっぷり浸かれて嬉しいです。この作品がここまで大きくなったことには驚くばかりですが、一旦全てを忘れて、真っさらな気持ちで今年のエリザベートをお見せできたらと思っております」と、新たな『エリザベート』を作る意欲を見せた。
ツアー公演からの参加となる山崎は「僕が初日を迎えるのは、東京公演から約2ヶ月後。こんなに空いて一人でスタートするというのは初めての経験で、すごくドキドキします」と率直な心境を語る。山崎は、初めてトート役を得た2020年は全公演中止、2022年の上演時には途中中止という経験しただけに、その思いはひとしおだ。「自分としては本当に悔いが残りやりきれていない気持ちがあったので、今回は自分の持てる全てを出し切りたいです。個人的にも、今年は30代最後の年なので皆様に感謝を届けたいです」と、並々ならぬ覚悟を滲ませた。
宝塚時代の経験は活きている?エリザベート役へのアプローチ
カンパニーは現在稽古の真っ最中。小池は「今回の演出で新たに挑戦したいことは?」という問いに、「近年、ドイツ語圏でエリザベートに関する映像作品が2本(映画『エリザベート 1878』、Netflix『皇妃エリザベート』)作られました。これらは、1992年のミュージカル版で描かれてきたこととかなり重なる部分が多く、おそらくミュージカル版を元に作られたのだろうと想像しています。初演当時、ハプスブルク家の暗部を描いたとして1『悪趣味だ』というご意見もありましたが、今やそれがスタンダードになっている。今回エリザベートを演じるお二人が、女優としてのキャリアを重ねた上で役に臨むことで、皇室に馴染めなかったという単純な物語ではなく、一個人がどう社会や世界と向き合うかという、シリアスで現代的な側面がより際立ってくると思います。稽古をしていても非常にスリリングで面白いです」と今回の稽古での新しい感触を語った。
新エリザベートとなる二人は、奇しくも2014年の宝塚歌劇団花組公演で共演している(明日海がトート役、望海がルキーニ役)。また、望海は『エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート』でトート役を経験。
その経験が活きているかと問われると、明日海は「『エリザベート』という作品を深く知った上で今回参加できているのは、あの時の経験があって良かったなと思います」と語りつつも、「ただ、宝塚版と東宝版では歌詞や解釈が全く違うように感じますし、トートとして出演していた場面に今回はシシィが出ていなかったりして、逆に新鮮です」とコメント。井上が「この作品は、やる役によって見える景色が全然違うからね」と相槌を打つと、「はい。なので、初めて取り組む作品という気持ちです」と頷いた。
望海は、小池からの演出について「捌け際(はけぎわ)」の話が印象的だと触れ、「舞台中央で起きていることだけでなく、ちゃんと舞台から去るまでどう生き様を見せるかが、エリザベートはすごく大事なのだなと感じています」と語った。一方、明日海は「明日海さんが内に持っているのと同じぐらいの強さを出していい」と言われていると、目下役作りに奮闘中の様子を明かした。なお、望海と明日海は「じゃんけん」で稽古の順番を決めているという。
ツアーの楽しみは“グルメ”と・・・!?
話は、山崎を中心にツアー公演に及んだ。山崎は、地方公演で「雄大と食事に行きたい」と古川に視線を送る。「昔は誘っても断られていたんですが、最近は来てくれるようになって。この前に共演した舞台では、ほぼ毎日一緒に食事をしました」と距離が縮まっていることを匂わせながら、「ただ、前回の舞台の時は僕がいつも全額払い・・・「食事が終わるとお財布を握りしめてニコニコしてるんです(古川:『いいよ、いいよ』を待っているんです)。だから今度は雄大にご馳走してもらいたい!」と暴露。
古川は後輩ポジションを満喫していたようだが、山崎は「雄大は僕を年上みたいに扱いますけど、1歳しか変わらないんですよ?」と主張した。すると、古川は「学年で言うと二つ違います」「芳雄さんと同じ、ミュージカルを築き上げた人側だから」と絶妙な“リスペクト返し”で応戦。
「育三郎はいないけど、東京で3人で行こうよ」と提案した井上だが、「でも、そうなると支払いは・・・?無理にとは言いませんっ!」。すかさず、山崎が「芳雄さんは変わらないですよね。どうしてそんなに若々しいんですか?」と持ち上げると「・・・今回は奢ろうかと思います!」としっかりオチを作り、大きな笑いを誘った。
そんな仲良しトート三人衆は、望海と明日海の新シシィにも太鼓判を押す。井上が「お二人が新鮮に試行錯誤されている姿を見て、私たちも新しい風を感じさせていただいています」と語れば、古川も「お二人のエリザベートがもう全然違う。そこから生まれるものがあると思います」と、新たな化学反応への期待を口にした。
山崎は、稽古場で二人が『私だけに』を歌っている姿を見て思わず泣いたそう。「二人が色々なものを抱えて戦ってきた姿、そしてトップスターとして、覚悟を持って舞台に立ち続けてきた二人の生き様が、エリザベート役を通じてすごく伝わってくるんです。この二人のエリザベートは、本当に素敵になります。間違いありません!」と熱く語り、新たなエリザベート誕生を予感させた。
25年の歴史の重みを携えて、新たなキャストが新鮮な息吹を吹き込む。『エリザベート』の新たな一歩に期待高まる、静かな熱を秘めた製作発表となった。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
ミュージカル『エリザベート』公演情報
公演情報 | |
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タイトル | ミュージカル『エリザベート』 |
公演期間・会場 | 【東京公演】2025年10月10日(金)~11月29日(土) 東急シアターオーブ 【北海道公演】 2025年12月9日(火)~12月18日(木) 札幌文化芸術劇場 hitaru 【大阪公演】2025年12月29日(月)~2026年1月10日(土) 梅田芸術劇場メインホール 【福岡公演】2026年1月19日(月)~1月31日(土) 博多座 |
スタッフ | 脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ 音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ 演出・訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団) |
キャスト | エリザベート 役(Wキャスト):望海風斗、明日海りお トート 役(トリプルキャスト):古川雄大、井上芳雄(東京公演のみ)、山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ) フランツ・ヨーゼフ 役(Wキャスト):田代万里生、佐藤隆紀 ルイジ・ルキーニ 役(Wキャスト):尾上松也、黒羽麻璃央 ゾフィー 役(Wキャスト):涼風真世、香寿たつき ルドルフ 役(Wキャスト):伊藤あさひ、中桐聖弥 ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ 役:未来優希 マックス 役:田村雄一 ツェップス 役:松井工 エルマー 役:佐々木崇 シュテファン 役:佐々木佑紀 ジュラ 役:加藤将 リヒテンシュタイン 役:福田えり ヴィンディッシュ 役:彩花まり 少年ルドルフ 役(トリプルキャスト):加藤叶和、谷慶人、古正悠希也トートダンサー:五十嵐耕司、岡崎大樹、澤村亮、鈴木凌平、德市暉尚、中村拳、松平和希、渡辺謙典 <アンサンブル> 朝隈濯朗、安部誠司、荒木啓佑、奥山寛、後藤晋彦、鈴木大菜、田中秀哉、西尾郁海、福永悠二、港幸樹、村井成仁、横沢健司、渡辺崇人 天野朋子、彩橋みゆ、池谷祐子、石原絵理、希良々うみ、澄風なぎ、原広実、真記子、美麗、安岡千夏、ゆめ真音<スウィング> 三岳慎之助、傳法谷みずき |
チケット情報 | 料金(全席指定・税込)※東京公演 平日:SS席20,000円/S席18,000円/A席12,000円/B席7,000円 土日祝日・千穐楽:SS席21,000円/S席19,000円/A席13,000円/B席8,000円 一般前売開始:2025年9月13日(土) |
公式サイト | https://www.tohostage.com/elisabeth/ |
公式SNS | 東宝演劇部X(Twitter):@toho_stage |


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掲載日時点での情報です。 最新情報は各公式サイトをご確認ください。
【キャスト】
エリザベート(Wキャスト):望海風斗、明日海りお
トート(トリプルキャスト):古川雄大、井上芳雄(東京公演のみ)、山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ)
ほか
【公演スケジュール】
東京公演
期間:2025年10月~11月29日
会場:東急シアターオーブ
札幌公演
期間:2025年12月9日~18日
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru
大阪公演
期間:2025年12月28日~2026年1月18日
会場:梅田芸術劇場メインホール
福岡公演
期間:2026年1月24日~31日
会場:博多座
公式サイト:https://www.tohostage.com/elisabeth/