演劇企画「グッドディスタンス」の第8回公演『人という、間』が、2024年11月7日(木)より幕を開ける。今回上演されるのは、深井邦彦が描いた男女の二人芝居。演出を藤井ごう(R-vive主宰)が手掛け、津村知与支(モダンスイマーズ)と、オーディションで選ばれた増田有華が出演する。開幕まで煮詰める稽古場の様子を取材した。
「グッドディスタンス」とは
「グッドディスタンス」は、本多劇場オーナー本多一夫の娘で、俳優の本多真弓がプロデューサーする企画。2020年、コロナ禍で演劇を続けるため、リスクの少ない少人数・短時間で濃密な芝居作りに挑戦し、演劇だけでなく、狂言、落語、コンサートなど幅広いエンターテインメントを送り出してきた。2024年以降は、作品の質を高め、丁寧に作品を完成させる“グッドディスタンス”を目指していく。
『人という、間』は、2021年に「風吹く街の短篇集 第四章」の一篇として一度上演されている(出演:和田啓作、薩川朋子)。その際は、戯曲を書いた深井自身が演出していたが、新たな座組で再び“間”を追求している。
『人という、間』あらすじ
物語の舞台は、とあるラブホテルの一室。男が一人、酒をすすりながらそわそわしている。しばらくして、部屋を女が訪れる。男の依頼で呼ばれたデリヘル嬢だ。事務的な事項を淡々と伝え、希望のあった制服姿に着替えてきた女は、そこで初めて男と顔を合わせる。
男は、5年前に妻を亡くしていた。女は、妻の妹だった。久しぶりの再会。いぶかしがる妹に、元旦那は「制服姿が似合っている」「高校生に見える」と告げる。しかし、妹はバツイチ子持ちの35歳だと、現実を真っすぐにみつめている。
仕事を辞めるように促す元旦那に対して、現実の厳しさを突きつける妹。どちらも「大切な人を失った」ことは同じだけど、互いに抱える悲しみや辛さは同じじゃない。どうしようもなく二人を隔てる“間”の中で繰り返される、喪失と再生の行く先は――。
『人という、間』稽古場レポート
通し開始前、稽古場にはいい緊張感が流れていた。観劇に行く際は、少し早めに着席しておくことをおすすめする。きっと、その“いい緊張感”を共有しながら物語に突入していけると思う。
この戯曲にはほとんど説明台詞がない。二人の会話の中から、それぞれが置かれている立場や過去を察していく。その過程がすごくリアルで、日常で自分たちがいかに“共通認識”に頼っているのかに気づかされる。しかも、その“共通認識”は時にズレたり、一方通行であったりもする。その“間”を埋めようと、人は必死に言葉を紡ぐのだろう。
津村は「ものすごくそぎ落とされた台本です。芝居って、共通認識への誘導でできているんだなって気づかされました。むき出しの台詞しかないので、 普通に演じてしまうと何がどうなっているのか、関係性もよくわかんなくなっちゃうんですよ(笑)。やってみてびっくりしました」と、台本の持つ力を語る。
増田も「ミュージカルとか、作り込まれた設定がないから、つむさんがおっしゃるように、 シンプル故にヒントが本当に少ないんです。最初で滑っちゃうと、もうどこにも掴みどころがなくて溺れちゃうような本。演出のごうさんがたくさん支柱を立てて、私たちが溺れないように泳がせてくれている感じです。すごく自由性が高い本ですけど、怖い本でもあるなとは思っています」と、底なしの台本を表現した。
演出の藤井は「人間のきれいな部分も汚い部分も散乱するお芝居ですけど、人って誰しも表の面と裏の面を持ち合わせていて。3人でその一つ一つに気づきながら、僕としては丁寧に同じことを言い続けながら、一歩ずつ進めていっています」とコメント。おそらく、台本を書いた深井自身が演出したものと、藤井の演出ではまったく違うものになるのではないだろうか。それぐらい、人間は多面的な“イキモノ”なのだと思わされる。
津村と増田の間からは、互いへの強いリスペクトが見えた。数々のドラマ・映画などで名バイプレーヤーっぷりを発揮している津村だが、全身からほとばしるその熱量をすべて享受できるのは、やはり舞台の醍醐味だ。「デリヘル嬢として亡き妻の妹を呼び出す元旦那」というぶっ飛んだ男の思考に、滑稽かつ実直に向き合っている。
増田はどっしりと構えながらも、津村の芝居をリアルに楽しんでいるようだった。「私の視点からだと、物語の3割ぐらいがこの男の“観察”なんです。すっごい変な姿勢でずっと詰め寄られていて、目もギンギンで怖い(笑)。でも、ふとした瞬間に俯瞰して見ると、なんか変なこと聞かれてるなっておもしろくなったり、急に冷静になったり。女性は子どもが産める存在だからかな、後半、男のことが息子に見えてくるような感覚にもなるんですよね」と増田。元アイドルであり、高い歌唱力も持つ華やかな印象の増田だが、酸いも甘いも嚙み分けた小劇場が実に似合う。
妹役ではオーディションで選出された。津村演じる元旦那と妹の関係から、台本の可能性を探る中、漠然とした投げかけから見えてくる、その俳優が“大切にしているもの”。藤井は「稽古は、台本の台詞は変えずに本を書き直していく、再検証していく作業なので、津村さんと有華さんの組み合わせが、一番この作品の奥行や広がりを創れると思ったので、お願いをしました」と語った。
津村は、増田について「すごく助けられています。安心できる存在」と評する。「どんどん殻をやぶって純度が増しているのに、軽やかで自由だから、ちょっとうらやましいぐらい。なかなかそこまで自由を獲得できないのがお芝居だから」という津村に、「(相手が)つむさんだからですよっ」と、ニコニコと笑顔を向ける増田。
「つむさんと私、たぶん向かっている先が同じだから、例え途中でコケたとしても、もう一回手を取り合って走り直すことができるし、そのペースが同じだから、フルマラソンも完走できる気持ちでおります」と全幅の信頼を寄せていた。
少人数だからこそ、生まれるグルーヴ感。開幕に向けて、「行き詰まりの空間で、2人のガチバトルを楽しんでもらえたら。劇場に入ってきた時と出ていく時、ちょっと違った風景が見えるといいなと思っています」と藤井は言う。
津村は「1時間ちょっと、むき出しの人間模様が嫌というほど滲み出る作品だと思います。かといって難しいことは全然ないので、肩の力を抜いて見に来てもらえたら嬉しいです」とコメント。
増田も「いろんな人間の要素が詰まっている作品です。私たちがバトルしながらステージ上で躍動していますので、ストレス発散しに来てください」と呼びかけた。
だんだんとむき出しになってくる本心に、あなたは何を感じるだろうか。みんな、世界の中心は自分であり、誰かに分かってもらいたいと叫んでいる。100%分かり合うことは絶対にできないけれど、分かりたいと思う、エゴとエゴのシーソーゲーム。その狭間にあるのは愛か哀か。人間って本当に「おもしれ~!」と思わせてくれる作品だ。
グッドディスタンス vol.8『人という、間』は、11月7日(木)から11月17日(日)までOFF・OFFシアターにて。上演時間は約70分を予定。
公演情報
【公式サイト】https://www.gooddistance.net/vol8
【チケット】
グッドディスタンスチケット販売(事前決済)
https://www.gooddistance.net/ticket
カンフェティチケットセンター(事前決済)
電話予約 050-3092-0051(平日10:00~17:00)
http://confetti-web.com/@/gooddistance8
CoRich 舞台芸術!(当日精算)
https://ticket.corich.jp/apply/335840/
(取材・分・撮影/エンタステージ編集部 1号)