グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

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グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

2022年3月31日(木)から4月6日(水)まで、東京・新宿シアタートップスにて、グッドディスタンス「風がつなげた物語『珠子が居なくなった』『月と座る』」の2作品が同時上演される。今回、両作品の稽古場を取材し、その取り組みを探った。本記事では、『月に座る』についてご紹介する。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

「グッドディスタンス」は、コロナ禍で演劇の灯を消さないための企画として2020年7月に立ち上げられた。「―風吹く街の短篇集―」と名付け、少人数かつ40~60分の短編として、下北沢の劇場で紡がれてきた。

コロナ禍になって、早2年。いまだ出口は見えないけれど、劇場は「物語と観客、人と人が出会う場所である」という根底は変えようがない。自分の目で、直接見たいものを見る。そうすることでしか感じられないものが、確かにある。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

「グッドディスタンス」は、コロナ禍で良い距離感を探りながらここまで小さなお芝居たちをつなげてきた。今回は、前に進むために探り続けた工夫を持って、下北沢から新宿の新たな劇場に飛び出し、「短編集」から「物語」として歩みを進める。

今回上演される二作品は、「今」を生きる人たちへの思いを込めた、書き下ろしの新作。まったく違うアプローチで描かれる2作品だが、「バス停」をモチーフにしている。誰かの出発地であり、誰かの目的地であるその場所を、どのように物語として描くのか。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

『月と座る』(作:大岩真理/演出:西山水木)は、バス停で交わる女性たちの人生の物語。2020年の11月に幡ヶ谷のバス停で、ホームレスの女性が殺害された事件をモチーフになっている。出演は、旺なつき、野々村のん(青年座)、鬼頭典子(文学座)、根本大介、後東ようこ。

深夜のバス停のベンチで、朝になるまでひっそりと夜を明かす――ただ静かに座っていただけの女性が、男に殴り殺された。邪魔だという理由で・・・。そんな場所で、2人の女性が出会う。一人は傘と本だけを手に、一人は缶ビールと合わない靴を履いて。傘と本を手にした女性は家族のいる主婦で、ヒールの女性は仕事を辞めたばかりのようだ。

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深夜のバス停という場所で偶然出会った2人は、噛み合わない会話ながらも心を通わせていく。そんな中で、主婦はバス停で殺されたホームレスは「友達だった」と言い出す・・・。

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さらにバス停には、大きなキャリーケースを引いた若い女性、仕事帰りに編み物をしながら一休みする女性、その家族など、様々な事情を抱えた人たちが集い、去る。仕事、家庭、生きがい・・・それぞれの日常を生きる女性たちの、一瞬その人生が交差する中で、その“不確かさ”が浮かび上がっていく。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

「事件を“他人ごと”とは思えなかった」ことが、脚本の大岩が本作を書くきっかけになったそうだ。裕福な60代の専業主婦も、仕事一筋のキャリアウーマンも、バス停で殺されてしまったホームレスとは遠い存在に思えるが、何が起こるか分からない人生の中で、その距離は一気に縮まりかねない。

実際、被害にあってしまった女性もコロナ禍で仕事を失い、家を失い、路上で被害にあってしまった。大岩は「登場人物たちは、観てくださる方の身近にリンクしたり、近いものを感じたりして、“自分ごと”として引っかかりを見つけてほしいと思って書きました」と語った。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

実際の事件をモチーフにしていると書くと、社会派な作品、メッセージ性の強い作品なのではと思いがちだが、本作では、ハッピーエンドもバッドエンドもない人生を、「生」へのエネルギーに溢れた物語として描いている。

出演者たちにも、話を聞いた。旺は「演じ方次第でどうとでも化ける戯曲で、結論をお客様に提示するというよりも、観てくださった方がご自分の人生を考えてくれたタイミングがゴールかなという気がしています。今の時代、同じような悩みを抱えている人は結構多いと思うんです。観る人、演じる人ではなく、寄り添って一緒に時間を過ごしてもらえたら」と言う。

野々村も「人の心配ばかりしている人も、自分のことより人の世話を焼いてしまう人も、何かしら抱えてるものがありますよね。そういうことをよく考えながら、一回一回発見があるといいなと思っています」とコメント。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

鬼頭は今回の役は「あまりやってこなかった感じの役」だそうで、「うまくやろうと気負う必要はないと思うんですが、自分のものにできたらいいなと思ってやっています。女性を取り巻くいろんな要素がいくつも入っているので、私ごととして考えてもらえたら」、後東も「あまりにも過酷な役なので、私の想像が追いつくのか最初は恐怖もあったんですが、大人になるにつれ忘れようとしてしまうこととちゃんと向き合ってみたいと思う気持ちが、今は勝っています」と意気込んだ。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

唯一、男性キャストとして本作に参加する根本は「僕のイメージでは、バス停の明かりに虫が引き寄せられるように、そこに引力が発生しているようでおもしろいですよね。僕が演じる青年が、母と対峙する瞬間にぶつけているものをどう呼ぶのか。僕自身は、劇中に登場する言葉のようには言わないでほしいなと思うんですよ。皆さんにも考えてほしいなと思います」と語っていた。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

本作は、グッドディスタンスを保つため、一つの場面に全員が集まらない作りになっている。何の関わりもなかった登場人物たちは、それぞれに「バス停」という人生の交差点で出会い、ぶつかり、寄り添い、また歩き出す。自立と解放と困難は、背中合わせだ。でも、登場人物5人のダメだけど愛おしい「人生」の隣に座ることはできる。

次に踏み出す一歩のことを、少しでも“自分ごと”として考えることが、きっと、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、自分自身の人生を照らしてくれるような気がした。

グッドディスタンス『月と座る』稽古場レポート――「バス停」で交わる女性たちの人生

グッドディスタンス第5章「風がつなげた物語『珠子が居なくなった』『月と座る』」は、3月31日(木)から4月6日(水)まで東京・新宿シアタートップスにて上演される。上演時間は90~100分を予定。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

目次

グッドディスタンス 風がつなげた物語
『珠子が居なくなった』『月と座る』」公演情報

『月と座る』

作:大岩真理
演出:西山水木
出演:旺なつき、野々村のん(青年座)、鬼頭典子(文学座)、根本大介、後東ようこ

『珠子が居なくなった』

作・演出:深井邦彦(HIGHcolors)
出演: モロ師岡、ししどともこ(カムヰヤッセン)、若狭勝也(KAKUTA)、田口朋子、益田恭平(HIGHcolors)、鈴木朝代 /

上演スケジュール・チケット

2022年3月31日(木)~4月6日(水) 新宿シアタートップス

<チケット>
前売:5,500円
当日:6,000円
https://ticket.corich.jp/apply/116388/
http://confetti-web.com/kazegatsunageta/

3月31日(木)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

4月1日(金)
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月2日(土)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

4月3日(日)※配信あり
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月4日(月)
14:00『珠子が居なくなった』19:00『月と座る』

4月5日(火)
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月6日(水)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

ライブ配信

※4月3日(日)2作品・ツイキャスにて有料ライブ配信(アーカイブ2週間)。
購入期間:4月17日(日)まで

<アーカイブ視聴期間>
※ライブ配信購入者もアーカイブ視可能
視聴料金:3,000円

『珠子が居なくなった』
配信期間:4月3日(日)14:00~4月17日(日)23:59
https://twitcasting.tv/c:gooddistance/shopcart/125705

『月と座る』
配信期間:4月3日(日)19:00~4月17日(日)23:59
https://twitcasting.tv/c:gooddistance/shopcart/125706

【公式サイト】https://www.gooddistance.net



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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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