向井理×勝村政信が挑む英国発ゴシック・ホラーの傑作『ウーマン・イン・ブラック』レポート

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向井理×勝村政信が挑む英国発ゴシック・ホラーの傑作『ウーマン・イン・ブラック』レポート

向井理・勝村政信の二人が出演する舞台、パルコ・プロデュース2024『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』が、6月9日より東京・PARCO劇場で上演中だ。本作は世界40ヶ国以上で上演され、日本でも9年ぶり8度目の上演となる人気作。英国発ゴシック・ホラーの決定版とも名高い本作の、レポートをお届けする。

目次

没入感が恐怖を増幅させる『ウーマン・イン・ブラック』

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』は作家スーザン・ヒルの同名小説をもとにスティーブン・マラトレットの脚色、ロビン・ハーフォードの演出で舞台化した恐怖劇だ。本国のイギリスでは2023年まで34年に渡ってロングランされ、今回の公演ではヤング・キップス役を1400回以上演じたアントニー・イーデンが、新たに演出に加わっている。

物語の舞台はヴィクトリア様式の小さな劇場。観客のいない空っぽの劇場に、中年の弁護士キップス(オールド・キップス)と、若い俳優が現れる。キップスは長年ある悪夢に悩まされており、その呪縛から逃れるため、青年時代の体験を家族に打ち明けたいと思っていた。若い俳優は告白の手助けに雇われたのだ。

そこで俳優は、”若き日のキップス(ヤング・キップス)”を俳優が、”キップスが出会った人々”をキップスが演じる芝居形式での告白を提案。当初、乗り気ではないキップスだったが、忌まわしい記憶の「上演」は次第に熱を帯び・・・という物語が展開する。

劇中劇として語られる、キップスの体験した怪異。本作では観客もまた、その二重構造の一部となる。「芝居」が進むほど観客も「劇中劇」にのめり込むが、「劇中劇」はたびたび中断し、観客はその都度「現在」に引き戻される。「過去劇」と「現在」、自分はどちらの物語を観ているのか。自身の認識が曖昧になるにつれ観客の没入感は高まり、物語の恐怖も増していく。

『ウーマン・イン・ブラック』

初演の萩原流行&斎藤晴彦をはじめ、過去にはそうそうたる顔ぶれの俳優陣が出演した本作。今回ヤング・キップス(若い俳優)を演じるのは、向井理だ。対するオールド・キップス役は、前回の2014年公演に続いて二度目となる勝村政信が演じている。ともに舞台はもちろん、映画やテレビドラマなど幅広い媒体で活躍する二人だが、本公演では好対照となる魅力をみせた。

本公演では向井の持つ知的でスマート、紳士的な魅力が最大限に発揮され、世界観の主軸となっている。向井演じるヤング・キップス(若い俳優)は、本来、片田舎の怪異とは無縁の都会的な人物で、観客はヤング・キップス(若い俳優)の視点から物語を体験することとなる。

ゆえに、どれだけヤング・キップスに共感し感情移入できるかは、本作を楽しむうえでの重要なファクターだ。向井のヤング・キップス(若い俳優)は登場の瞬間から、観る者の心を掴む。向井は”若い俳優”が、次第に”ヤング・キップス”になりきっていく様も自然に演じ、観客を物語のさらに奥、劇中劇の世界へと導いてくれる。

『ウーマン・イン・ブラック』

対する勝村は、さすがの貫禄で本作の要とも言えるオールド・キップスを見事に演じきった。悪夢におびえる物語冒頭から、劇中劇が進むにつれ変化するオールド・キップスの心情と態度。勝村はそれらを丁寧に演じる。

他方「劇中劇」では、ヤング・キップスが出会う複数の登場人物を多彩に演じ分けた。職業やコミュニティでの立場、ヤング・キップスへの警戒心の有無・・・、異なる背景を持つ様々な人物を、声色や仕草、姿勢、表情の違いにより豊かに表現し、一人ひとりの複雑な心理まで伝わってくる。役から役ヘの変化を目の前で見ても、勝村ひとりによるものなのが信じられないほどだった。

本作への出演が二度目となる勝村と初出演の向井の関係は、オールド・キップスと若い俳優にも重なる。二人の掛け合いはときにユーモラスで、それらは本公演におけるアクセントにもなっている。同時に、劇中劇の進展とともに変化していく二人の関係性にも注目したい。

本作は場面転換が非常に多く、舞台上の時代や場所が次々に変わる。それらのほとんどは、役者の演技と音響・照明演出のみで表現されるが、向井と勝村はともに、この場面変化も巧みに演じた。とくに現在から劇中劇への導入、劇中劇から現在への切り替えは見事で、観客は悪夢に入り込むように、あるいは唐突に目覚めるように、その変化を体感することになるだろう。

『ウーマン・イン・ブラック』

舞台演劇であることを最大限に利用した本作。観客に与えられる視覚情報は限定的だ。いま何が起こっているのか? それを理解するために、観る者は自己の想像力を働かせざるをえない。その想像の先に恐怖がある。

公演に先駆けて行われた会見で、演出のイーデンは本作を「演劇または劇場に対するラブレター」と評した。巧みな脚本と演出、そして演技によって産み出される至上の舞台演劇を、ぜひ「劇場」で体験していただきたい。

『ウーマン・イン・ブラック<黒い服の女>』は6月30日(日)までPARCO劇場にて上演。その後、7月5日(金)から7月8日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、7月13日(土)・7月14日(日)に北九州・J:COM北九州劇場 大ホール、7月19日(金)から7月21日(日)まで愛知・東海市芸術劇場 大ホールを巡演する。上演時間は約2時間10分(休憩20分含)予定。

(文/飴屋まこと、写真/エンタステージ編集部)

公演情報

上演スケジュール

【東京公演】
2024年6月9日(日)~6月30日(日)
PARCO劇場

大阪・北九州・愛知公演あり

出演

向井理 勝村政信

スタッフ

【原作】スーザン・ヒル
【脚色】スティーブン・マラトレット
【演出】ロビン・ハーフォード アントニー・イーデン
【翻訳】小田島恒志

公式リンク

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/wib2024


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