2023年2月、ナイロン100℃本公演としては26年ぶりに下北沢ザ・スズナリで上演された結成30周年記念公演第1弾『Don’t freak out』。前売りチケットは早くから完売、当日券にも連日列ができた本作が、9月30日(土)にCS衛星劇場でテレビ初放送される。その放送を前に、本作の見どころをお伝えする。
30周年記念公演の第1弾として、劇団主宰であり、作・演出を担当するケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が書き下ろしたのは、濃密なレトロホラー。時は大正から昭和初期頃、脳病院の院長・征太郎(みのすけ)が当主である天房家の屋敷で住み込み女中として働いている姉のくも(村岡希美)と妹あめ(松永玲子)を中心に話が展開していく。
くもとあめが女中として住込みで働く天房家は、当主が長男の征太郎からいつしか次男の茂次郎(岩谷健司)に変わり、征太郎の妻だった雅代(安澤千草)は茂次郎の妻となっていた。そして、征太郎との娘・颯子(松本まりか)、茂次郎との息子・清(新谷真弓)が共に暮らすという複雑さといびつな闇を抱えていた。
さらに、颯子の婚約者・ソネ(尾上寛之)や、昔馴染みの警官・カブラギ(藤田秀世)、葬儀屋のクグツ(入江雅人)など、屋敷に出入りする人々も絡み合い不気味な闇が浮き上がっていく。
そんな天房家が抱える暗部や秘密、そして女中姉妹の人生の影と秘密を描いた本作。スズナリの狭い舞台空間を明快な仕掛けで上/下界に変貌させ、精神的力関係の構図を炙り出す手法は実に鮮やかだ。併せて紗幕と照明、プロジェクションマッピングを駆使した演出も非常に緻密で雄弁だった。演者の「ナマ」感をあえて一層覆い熱を封じ込めるような白塗りメイクの果たす役割も大きい。この世のものとは思えない記号的美しさが、陰鬱で咽せ返る人間臭さより、各々人物達の心情そのものに目を向けさせる。
そして、劇中曲『行方知れず』の中で物語が大きく展開するシーンや、特殊効果を用いた幻想的なシーン、劇中曲のバグパイプの響きが「異世界」感に拍車をかけていく。物理的な驚かし、伝染病といった典型的な恐怖も随所に散りばめつつ、通奏低音にあるのは人の業、支配や所有欲求の底知れなさだ。抑圧された意識が不意に波打つ瞬間の輝きと危うさ、一転打ち砕かれる希望の儚さ。姉妹の意識が屋敷の外へ向かう度、非情な運命がそれを拒む。
混沌とは真逆の緻密なストーリー展開で、征太郎の言う「怖いもの見たさ」に身を委ねるうちに、天房家の均衡崩壊や、ソネと颯子の間に生じる新たな関係を目の当たりにし、終盤再び姿を見せる時の颯子と姉妹の顛末を甘んじて受け入れている自分自身に気づきハッとする。それが何よりのホラーであり、「レトロ」という設定を一枚剥がせば途端に迫り来るリアリティの力に愕然とさせられるだろう。
纏わりつく怨念、悲劇に塗り潰されていく世界の中でいつものように茶をすすり他愛ない話に花を咲かせる姉妹の底なしの明るさ、どうしようもない業に囚われた人間達の物語が最後どう映って来るのか、ぜひその目で確かめて頂きたい。
(文:蕨 根子)
(舞台写真撮影:桜井隆幸)
ナイロン100℃ 48th SESSION『Don’t freak out』放送情報
スケジュール
2023年9月30日(土)18:00~ CS衛星劇場
【衛星劇場詳細ページ】ナイロン100℃ 48th SESSION「Don’t freak out」
https://www.eigeki.com/series/S75686
スタッフ・キャスト
【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】
松永玲子 村岡希美/
みのすけ 安澤千草 新谷真弓 廣川三憲 藤田秀世
吉増裕士 小園茉奈 大石将弘/
松本まりか 尾上寛之 岩谷健司 入江雅人
【キューブHP】https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon48th
【ナイロン100℃HP】https://sillywalk.com/nylon/