2023年7月2日（日）に東京・新橋演舞場にて、新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐（つきのつるぎえにしのつるのは）』が開幕した。初日前には会見と公開舞台稽古が行われ、会見には三日月宗近役の尾上松也を筆頭に６振りの刀剣男士を演じる歌舞伎俳優たちが登壇した。
原作の「刀剣乱舞 ONLINE」とは、刀剣に宿る付喪神が戦士の姿となった刀剣男士を率い、時間遡行軍による改変から歴史を守る大人気ゲーム。アニメや映画だけではなく、ミュージカル、ストレートプレイの舞台化など様々なメディアミックスで大好評を博した刀剣乱舞が本作で新作歌舞伎として上演される。
“天下五剣”と称される名刀・三日月宗近役に尾上松也。松也は、尾上菊之丞と共に演出を手掛ける。そして、三日月宗近を作刀した三条宗近が稲荷明神と共に作ったといわれる太刀・小狐丸役に尾上右近。右近は本作で鍵となる室町幕府第13代将軍・足利義輝も演じる。
そして、九州肥後の刀工、同田貫藤原正国作の刀・同田貫正国役に中村鷹之資（松永弾正の息子・松永久直と二役）。“源氏の重宝”である兄弟刀・兄の髭切役に中村莟玉（義輝妹紅梅姫と二役）、弟の膝丸役を上村吉太朗。日本刀が今の形になる成長過程にある一振りと言われる太刀・小烏丸役に河合雪之丞。そして“永禄の変”を起こしたとされる松永弾正役として人間国宝である中村梅玉が登場する。
ここで、歌舞伎の本丸が出陣する物語を見てみよう。審神者の元に歴史を改変しようとする動きが伝えられる。時は室町時代。三日月宗近（松也）たち6振りの刀剣男士は歴史を守るため過去に飛ぶ。
次期将軍である足利菊幢丸（右近）と妹の紅梅姫（莟玉）の命を奪おうと時間遡行軍が襲い掛かる。三日月宗近たちが現れ、菊幢丸らを守ることが出来たが、それをきっかけに刀剣男士たちは菊幢丸に気に入られることになる。
松永弾正（梅玉）の助力もあり菊幢丸は元服し、足利義輝を名乗り室町幕府の将軍となる。その頃、時間遡行軍を操る異界の翁（澤村國矢）と嫗（市川蔦之助）が現れ、義輝に呪いをかけ取り憑こうと目論み動き出していた。
三日月宗近は刀として義輝に所持されており、“刀時代の主”である。歴史通りに進めるためには弾正を発起させ、義輝を討つ“永禄の変”を起こさせなければならない。しかし三日月宗近は義輝や紅梅姫と心を重ねていく･･･。
本作は“新作歌舞伎”の名にふさわしく、古典歌舞伎の魅力と現代の人気ゲームが見事に融合した作品となっている。元々原作の「刀剣乱舞」が歴史を舞台にしているので親和性が高いのはいわずもがな。歌舞伎の作品の中で、登場人物が“歴史を知っている”ことで観ているこちらと同じ目線になる感覚も新しく面白かった。
今作で初めて歌舞伎を観る観客に向けた心遣いも随所に見受けられた。歌舞伎といえば古典的な言葉遣いで聞き慣れない人もいるだろうが、前説や冒頭の審神者の会話などは現代の言葉遣いから始まる。歴史上の人物たちは古典的な言葉遣いではあるが、冒頭で現代の言葉遣いから始まることで物語がより入りやすく感じられた。
また、歌舞伎で行われる様々な演出がふんだんに使用されていた。今作を観るだけでも、歌舞伎の様々な舞台装置を知ることが出来るだろう。華やかでダイナミックな舞台セットの数々も圧巻だ。そして殺陣だけではなく、舞踊の美しさにも目が惹かれる。それぞれのキャラクターに合わせた舞踊や後半戦闘中での舞踏など、歌舞伎舞踊の幅広さを感じた。
義太夫をはじめとして、音楽の数々もドラマチックで気持ちが高揚した。特に印象的だったのは琵琶の演奏。またゲームで使用されている近侍曲が作中で登場するなど、刀剣乱舞ファンへの嬉しいサプライズも。歌舞伎の持つ“なんでも受け入れる懐の深さと広さ”を感じる作品に仕上がっていた。
初日前会見でも、出演者たちが「歌舞伎の良さ」が伝わる舞台にしたいと口々に話していた。初めて演出を手掛けた松也は、役者として舞台に立っている時には気づけなかったことや学びがあったと語る。「自分が想像する世界を具現化してもらい、それを観客の皆さんにお届けすることができたことを、出演者やスタッフに感謝を申し上げたいです」と初日を迎え感謝を述べた。
また、松也は「役者と演出を兼ねていると休憩がないんですね。休憩中も役者やスタッフと話すことが多いんです」と笑って話していたが、実際に公開舞台稽古の幕間中に客席の演出卓に現れ、スタッフと話し合う姿が見られた。
右近は松也の演出に対して、役者としての目線を知っているため支援してくれている部分があったと話す。優しく力強さを持つ松也の人間性が演出面でも現れ、導いてくれたことで信頼性が築き上げられたと感謝を述べ、「役者として松也に求められているもの以上のものを返していきたい」と語った。
鷹之資からは、「知り合いに同田貫姓の人がいる」という告白が飛び出した。聞くと、正に同田貫藤原正国の末裔だったそうで、「（松也は）それを知っていて、自分に同田貫役を任せてくれたのかと思うくらい驚きました」と話すと、松也は「ええ、知っていましたよ」と飄々と答え、会場を笑わせていた。
新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐（つきのつるぎえにしのつるのは）』は、7月27日（日）まで東京・新橋演舞場にて上演。上演時間は3時間20分（休憩含）を予定。
（取材・文・撮影／一本柳歌織）
