暴力と恐怖が渦巻く今、“届けなきゃいけない”――『マーキュリー・ファー』配信は4月3日 から

当ページには広告が含まれています
暴力と恐怖が渦巻く今、“届けなきゃいけない”――『マーキュリー・ファー』配信は4月3日 から

2022年1月から3月にかけて上演された『マーキュリー・ファー』。本作は、吉沢亮と北村匠海という今をときめく美しい2人の俳優が兄弟役を演じ、チケットが即完売するほど大きな話題をさらった作品で、4月3日(日)からPIA LIVE STREAMにて配信が行われる。

『マーキュリー・ファー』はイギリスの劇作家フィリップ・リドリーが2005年に書き下ろした戯曲。日本では2015年に上演され、今回7年ぶりの再演となった。演出は2015年と同じく白井晃。吉沢と北村は、映画『さくら』(2020年)に続く兄弟役を演じた。

吉沢は2015年に同作を観劇しており、マネージャーに「マーキュリー・ファーのような舞台をやりたい!」と言い続け、待望の出演を果たした。また、北村やローラ役の宮崎秋人も2015年に観劇していたそうで、当時受けた衝撃から本作品への意欲も高く向き合ったという。本記事では、その公演の模様を紹介する。

荒れた部屋のような光景が広がる舞台。そこに2人の男が忍び込んでくる。片足を引きずって歩く兄エリオット(吉沢)。記憶が混濁し、ぼんやりとした様子の弟ダレン(北村)。この部屋でパーティを行うため準備が必要だが予定より前倒しになったスケジュールに部屋の電気もつかないなどエリオットは終始イライラしている。

そこへ同じフロアの住人の男ナズ(小日向星一)がやってくる。ナズは幻覚作用を持つ「バタフライ」の売人であるエリオットに取り入りたいためパーティの準備手伝いはじめる。その後「パーティプレゼント」を飾るためにローラ(宮崎秋人)が到着。

さらに、パーティの首謀者スピンクス(加治将樹)が自分のことをお姫様だと思っている婦人(大空ゆうひ)を連れて部屋にやってくる。夕方に差し迫ったころパーティゲスト(水橋研二)が到着しパーティの目的が明らかになる。しかし「パーティプレゼント」に異変が起き、事態は思わぬ展開へと進んでいく・・・。

ストーリーはほぼ荒れた部屋の中のみで展開される。各々の過去の話やパーティでの役割、「バタフライ」について、部屋の外の様子が残虐で暴力にあふれた世界であることが登場人物たちにより饒舌に、時に唐突に語られていく。彼らを取り巻く世界や部屋の外の様子は会話からしか読み取れないが、あまりに悲惨かつ残虐で胸を打たれることが多い。

しかしながら登場人物たちには兄弟や家族、恋人、友人がいて、平穏な世界と同様に“愛”と“情”が生まれている。また、客先の前方席はまるで荒れた部屋の一部であるように椅子も舞台上の物に似ている。この世界で起きていることへ客席も巻き込まれ、より身近で現実的に考えてしまう。大事な人を守るためにどうすればこの残酷な世界を生きていけるのか。そんな悲しい問いかけをまとう作品である。

吉沢はイライラした様子で粗野な部分がありながらスマートで頭の良さが見えるエリオットを好演。力強くも悲しさを湛えた瞳に、エリオットの内包するあたたかさが見える。引きずる足と共に、作品の重さを背負ったように歩く姿が脳裏に強く残る。

北村は本作が舞台初出演とは思えないほどのびのびとした印象を受けた。大きな目と細く長い手足で動く様子はダレンの少年っぽさや弟であるかわいらしさがみえた。北村の目には感情をストレートに観客に伝える力があり、胸に響くものが多かった。鼻歌程度ではあるが歌声も聞けるのがポイントである。

他にも包み込むような優しさと繊細さで安心感を与える宮崎のローラや底抜けに元気で明るさをもった小日向のナズなど、緊張感を持ちながら進むストーリーの脇を固めるキャストたちの全体バランスが素晴らしかった。

演出の白井は、上演前に以下コメント(一部抜粋)を残している。

「演劇作品の場合、劇作家が意図したことが、上演される場所や時期によって思いがけない広がりを見せることがあります。演劇がコンテンポラリーな表現である所以でしょう。この作品がシアタートラムで初演された時がまさにそうでした。2001年以降の不安定な世界情勢を反映して生まれたこの作品は、不安感が拡まる初演時の社会状況とシンクロして、とてつもない臨場感を呼ぶことになりました。まさに劇場で起こっていることと、劇場の外の世界の境目が無くなる感触がありました。

あれから6年が経ちましたが、世界は危機感がなくなるどころか、不安は益々増幅し恐怖はいたるところで慢性化してしまったようです。それだけに、今回の再演で、作品にどのような意味が加わるのか、正直、予想がつきません」

1月末からの上演期間中に世界は大きく変わり暴力や恐怖がより身近なものになってしまった。吉沢は大千秋楽翌日のTwitterにて「『届けたい』という思いだけで開幕したものが『届けなきゃいけない』に変わってしまった」(※2021年10月発表のコメントより一部抜粋)と投稿している。

ショッキングな作品だが、今観て、考えるべき作品である。本作品のラストシーン後の暗転で震えが止まらなくなり、上下の歯が鳴らないように早くカーテンコールを迎えてほしいと願ってしまった。この時に生まれた感情は説明するにもあまりに膨大だ。そして日々ニュースをみてその感情が浮かび上がり、あの荒れた部屋を思い出してしまう。それぞれ自分の目で観劇後に何を思い感じたかをぜひ考えてもらいたい。

PIA LIVE STREAMでの動画配信は、4月3日(日)10:00から4月9日(土)23:59まで。配信チケットは3,500円(チケット販売は4月9日23:59まで)。

目次

配信情報

【配信期間】2022年4月3日(日)10:00~4月9日(土)23:59
【配信サイト】PIA LIVE STREAM  https://w.pia.jp/t/mercuryfur/

【配信チケット発売期間】販売中~4月9日(土)19:00
※配信チケットの購入には、ぴあへの会員登録が必要
※世田谷パブリックシアターチケットセンターでの取り扱いはなし
【配信チケット価格】3,500円

(取材/一本柳歌織、提供写真/細野晋司)

『マーキュリー・ファー Mercury Fur』公演情報

上演スケジュール(全公演終了)

【東京公演】2022年1月28日(金)~2月16日(水) 世田谷パブリックシアター
【長野(松本)公演】2022年2月19日(土)・2月20日(日) まつもと市民芸術館主ホール
【新潟公演】2022年2月23日(水・祝) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
【兵庫(西宮)公演】2022年2月26日(土)・2月27日(日) 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
【兵庫(神戸)公演】2022年3月2日(水) 神戸文化ホール中ホール
【愛知公演】2022年3月5日(土)・3月6日(日) 刈谷市総合文化センター大ホール
【福岡公演】2022年3月10日(木)・3月11日(金) 福岡市民会館・大ホール

スタッフ・キャスト

【作】フィリップ・リドリー
【演出】白井晃
【翻訳】小宮山智津子
【出演】
吉沢亮 北村匠海
加治将樹 宮崎秋人 小日向星一 山﨑光
水橋研二 大空ゆうひ
【作】フィリップ・リドリー
【演出】白井晃
【翻訳】小宮山智津子
【出演】
吉沢亮 北村匠海 加治将樹 宮崎秋人 小日向星一 山﨑光 水橋研二 大空ゆうひ

【公式Instagram】mercuryfur2022
【世田谷パブリックシアター公式Twitter】@SetagayaTheatre
【世田谷パブリックシアター公式サイト】https://setagaya-pt.jp/

暴力と恐怖が渦巻く今、“届けなきゃいけない”――『マーキュリー・ファー』配信は4月3日 から

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

エンタステージは、演劇初心者からツウまで、演劇に関する情報、ニュースを提供するサイトです。サイトを訪れたユーザーの皆さんが、情報をさらに周囲に広めたり、気になる作品や人物などを調べたり・・・と、演劇をもっと楽しんでいただける情報を発信していきたいと思います。

目次