舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』花總まりインタビュー「エピソードが全て奇想天外で、全てにびっくり」


2024年4月1日(月)から東京・日本青年館ホールにて、舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』が開幕する。カナダの同名小説を原作とした本作は、一見、突飛に思える“妻が縮む”や“夫が雪だるまになる”“老いた母が98人に分裂する”などのファンタスティックな設定が、現実社会の様々な事象のメタファ(暗喩)となっており、読み解こうとすればする程さまざまな解釈を呼び、大きな話題となった。

そんな“舞台化不可能”とも言えるファンタジー小説を、演劇界の名匠G2が10年の構想を経て世界で初めて舞台化する。主演は「エリザベート」「マリー・アントワネット」などでタイトルロールを務めた日本のミュージカル界のトップ・花總まりと俳優のみならず司会としても活躍する谷原章介。2人が夫婦役を演じる。今回は、縮んでいく妻のステイシーを演じる花總に、演じる役や本作の見どころなどを聞いた。

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』花總まりインタビュー「エピソードが全て奇想天外で、全てにびっくり」

花總まりが原作を読んでびっくりした理由

――本作の原作はファンタスティックで、大人の寓話的な物語ですが、原作の魅力についてどう感じていますか?

最初にお話をいただいた時に原作を読んだのですが、この世の中にこんな発想をする作者の方がいらっしゃったんだと思って、ちょっとびっくりしました。全く普通では想像できないようなお話でしたので、すごく衝撃を受けました。エピソードが全て奇想天外で、ステイシーが縮むのもびっくりでしたし、全てにびっくりでした(笑)。

――ステイシーを含めた13人に不思議な事件が起きるとあります。

銀行強盗に最も大切な物を奪われて、魂の51パーセントを持っていかれる13人の被害者がいて、その魂を回復する方法を自分で探さなきゃいけないんですけど、その全部のエピソードがそれぞれ違う表現なんです。中には取り戻すことができた人もいれば、残念ながら取り戻すことができないパターンもあるんです。それを1つ1つ、深読みしていくのも面白いんですけど、でもベースにはステイシーと夫との夫婦の物語がそこにちゃんと収められているんです。だから、1つ1つに衝撃を受けながらも、読み終えた時には、心がほっこりするというか、何か分からないんだけど、学べたようなものが残るという、そういうすごく奥深い作品だと感じました。

「縮んでいく妻」役へのアプローチは?

――演じるステイシーについて教えてください。

ステイシーは数学を愛してやまない、何かというと計算をして全てを測るというような女性ですね。わりと芯がしっかりしていて、数学者ではないですけど、数学を使えば全てを解き明かせるというように思っている女性です。

――ステイシーという役柄へのアプローチをどのように考えていますか?

意外と難しいです。よくありそうな家庭というか、子供がまだ小さくて、ついつい子育てで手いっぱいになって、でも子供には限りなく無償の愛があって、夫にも愛情はあるけれども、夫との関係がおざなりになっている。そんな日常の中で、でも背が縮んでいくことだけは絶対に想像ができないんです。今までの舞台だったら、経験してきたことでこんな感じかなと自分の中で落とせるんですけど。このまま縮んでいったら消えてなくなっちゃうから、縮むのを必死に止めようとするんだけど、夫ともうまくいかない。でも日にちは迫っているみたいな。自分の中で、まだ実態としてなかなか掴みづらくて、そこがすごく難しいですね。自分が実際に縮むことができたら想像しやすいんですけど(笑)。

――プレスリリースには「歌の表現にもご注目下さい」とありますが、どのような歌唱シーンになりそうですか?

まだ、その場面の稽古にはなっていないのですが、(取材は3月上旬に実施)ストレートプレイの作品ですので、ミュージカルのように歌うことはないと思うんです。この世界観の中でどんな歌が来るんだろうか、それが声なのか、音なのか、歌なのか。この作品のその一場面の中に、自分の声というのが入っていくことができるのであれば、それはすごく素敵なことだなと思います。

花總まり、谷原章介で『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』舞台化!不思議な事件と奇跡の物語

谷原章介とは初共演「しょうちゃん」「はなちゃん」と呼び合って距離縮める

――初共演となる谷原さんの印象は?

谷原さんは昔にテレビのトレンディードラマなどでお見かけしていた印象もありますし、最近はテレビで司会者をされている姿をほぼ毎日見ていたので、実際お会いした時はイメージ通りの方で、 お話をすると声がとても素敵だなと思いました。今、稽古がまだ始まって間もないので、少しずついろんなお話をして、谷原さんの裏の一面をちょっと探っている段階です(笑)。

――稽古場でお二人はどのような感じですか?

谷原さんとは同学年なんですよ。なので、今回夫婦役を演じるにあたって、一気にそれで距離が縮まったような感じがして。私も気軽にお話できています。お稽古の最初に、皆さんをあだ名で呼び合おうっていうことになって、谷原さんは「しょうちゃん」と呼ばせていただいていて、私は「はなちゃん」です(笑)。しょうちゃん、はなちゃんでグッと距離を縮めて、物語の最初はギクシャクしてうまくいかない夫婦なんですけど、いい流れを作っていけるんじゃないかと思っています。

――今回、原作の奇想天外な要素をどのように舞台で再現するのか気になるところですが、お話できる範囲で教えてください。

今、稽古場で「こうやって表現するんだ、面白いな」と思うところに早速入っています。演出のG2さんの中で、どう表現するのか明確にあるので、見事に98人に分裂する場面も出来上がるんじゃないかと思っています。でも、今回やってみて、もちろん演者である私たちも頑張りますけど、振付の方、音楽と照明とセットと、もう本当にカンパニー一丸となって、総合芸術としてすごく重要な舞台になっていくんじゃないかと思っています。

――縮んでいくステイシーはどのように表現されるのでしょうか?

今の稽古の段階で、まだ3ミリしか縮んでいないので分からないんです(笑)。ただ、G2さんもお稽古の最初の日に、「今回、それをどうするんだろう」とすごく聞かれるっておっしゃっていました。映像で表現するのは簡単だと思うんですよね。でも、舞台だからこそできる見せ方や、お客様が物語に引き込まれて見えてくるものというのもあるので、私たちができるその日その公演の舞台マジックというのは大切にしていきたいし、お客様と一緒に共有して、最後にお客様から「あの世界だったね」と言ってもらえる日々を送りたいです。

花總まり、谷原章介で『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』舞台化!不思議な事件と奇跡の物語

演出のG2は本作を10年構想「場面が出来上がるごとに喜んでいらっしゃるんです」

――演出家G2さんと一緒にやられてみての印象は?

頭の中で色々な計算をして、それがうまくいくかどうか稽古が始まる前はドキドキしてらっしゃるんだと思うんですよね。特にこういう作品なので。でも、1つの場面が出来上がると、「うわー! よかった!!」とすごく喜んでらっしゃるんです(笑)。うまくいかなかったら、「見えてこない」とはっきりおっしゃいますし、「ここ、もうちょっとこうしてほしい」と言って、見えたら「見えた! 見えた!!」とストレートにおっしゃってくださり、そういう意味では、思っていることをきちんと出してくださるので、こちらはやりやすいですね。

――G2さんは本作に対して10年もの構想をされていたそうですが、その熱みたいなものは稽古場でも伝わってきていますか?

G2さんのストレートな「見えた!」という喜びが、たぶんその10年分の熱なんじゃないでしょうか。G2さんの中でも、稽古が始まる前に頭の中で具体的に構想していることと、いざ私たち役者が来て、セットがあって、音楽が入ってという、そこを初めて合わせているので、たぶん不安と興奮が入り混じっている状態なんじゃないかと思います。

――ステイシーという役について、G2さんからどのような演出がされていますか?

ステイシーもそうなんですけど、夫とステイシーの関係をきちんと作りたいということを重要視されています。その本の中で、G2さんがお客様に感じていただきたい部分でもあるので、2人の関係をすごく演出していただいていますね。

――それを踏まえて、花總さんと谷原さんの中で、どのように作り上げようとしていますか?

うまくいってなくはないんだけれども、なんかすれ違っているという、決定的に仲が悪いわけじゃないんだけど、なんかギクシャクしているみたいな、そこの微妙なニュアンスがある関係なんですよね。だから、ついつい普通に受け答えしていると、ちょっとの言い合いでも仲の良いじゃれ合いに見えてしまうから、そう見えないように考えています。

――先ほど、ステイシーは「何かというと計算をして全て測るというような女性」というお話がありましたが、花總さんはそんなステイシーに共感できる部分はありますか?

たまたま昨日、稽古場でG2さんとお話している中で、「ステイシーはここからここまでの距離をミリ単位ですごく測る。何かを買うときにも、ここから何センチ何ミリだからって測ったりするような女性なんだよ」というようなお話があったんです。私も、カラーボックスをある場所に入れたいとなったら、きっちりはまらないと嫌なので、そこはきっちり測ります。それが綺麗にはまった時には、「ああー、気持ちいい!」と思うタイプです(笑)。だから、そこは共感できますね。でも、決して数学が好きなわけじゃありませんし、計算高いってことも全くないですよ(笑)。

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』花總まりインタビュー「エピソードが全て奇想天外で、全てにびっくり」

奇想天外な事象は現代社会のメタファー?

――本作の奇想天外な事象は現実社会のメタファーになっていると言われていますが、原作にもはっきりとこのメタファーということは書かれてないと思います。花總さんが考えるステイシーが縮むというのは、何のメタファーだと思われますか?

それが私もわかんないんですよ(笑)。大切なものとして電卓を渡すと縮んでいくんですけど、数字に関わる 現象が起きるみたいな違うパターンもありえると思うんですよ。でも、その縮むということが夫婦関係と繋がっているんじゃないかと思うんですよね。

――夫婦関係というと、心の距離みたいなものが離れているイメージでしょうか? G2さんと谷原さんとその点について話し合うことなどはありましたか?

まだ最初の立ち稽古の段階で、そこまでお話できてないんです。でも、稽古でやり取りしていくうちに、一つ一つのセリフが引っかかってきて、それで喋っているうちに、「もしかして、こういうことだったの・・・」と自分なりの解釈ができる日が来るのかなと思っています。稽古場で、G2さんと共演者の方のメタファーについてのやり取りを聞くこともあるんですけど、人によってだったり、日によってだったり、それこそ1年後とか3年後とかに、「もしかして、あれってこういうことでもあったのかな・・・」というように、そこで発見することは1つじゃないのかなと思うんです。だから、今回のステイシーの事象をどう捉える日が来るのかというのは楽しみでもあります。もしかしたら、公演中に「はっ!」と気づく日が来るのかもしれないし、終わってから気付くのかもしれませんね。

――現段階では、ひょっとしたら夫婦関係の何かのメタファーなのかなぐらいでしょうか。

そうですね。ただ、もしかしたらそれはちょっと単純すぎるのかなとも思ったりしています(笑)。お客様によっても捉え方はたぶん全然違うんでしょうね。だから、そこは楽しみです。どの作品でも、お客様からお手紙とかを頂くと、「この方はこういう風に捉えているんだ。すごく読みが深い!」と逆に教えられることも多々あるので、今回は、よりそれがいろんな方にあるのかなと思います。

――本作の始まりが、最も思い入れのあるものを差し出すということですが、花總さんご自身の最も思い入れのあるものは何ですか?

お稽古中だったら、音を取るのに使っているキーボードが長く使っていて持ち歩いているので、すごく思い入れのあるものの1つです。なんですけど、この前、自分なら何を差し出すだろうと考えたんですけど、やっぱり長年持っているものになってきちゃうんですよね。そうすると、ずっと持っている小さい薬袋かな。

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』花總まりインタビュー「エピソードが全て奇想天外で、全てにびっくり」

誕生日を迎え、花總まりが新たにチャレンジしたいこと

――先日の2月28日が花總さんのお誕生日ということで、稽古場でもお祝いがあったそうですね。

サプライズで、稽古が始まる前にハッピーバースデーの曲が流れて、みんなが歌ってくださって、谷原さんがケーキを持ってきてくださりました(笑)。ありがたいです。

――そのお誕生日を迎えられて、今年の新たな目標や、チャレンジしたいことはありますか?

そうですね、自分の体をちゃんと整えたいとずっと思っているので、体の勉強をちゃんとしたいなと考えています。舞台にヒールで長時間立って動いて、階段を上がって下がってとしているので、やっぱり自分の体がちゃんとしてないと歪みが大きく、そういう意味でも1回ちゃんと体の勉強をして、どんな状況にも対応できる体を作りたいです。今まではなんとなくトレーニングすることの繰り返しでしたけど、ちゃんと人体の構造を勉強して、筋が張っていたら、ここの筋がここに繋がっているから、ちょっとここをほぐそうみたいに、自分で自分の体を治せるようになったらいいなみたいな(笑)。それと声については、新しいボイストレーニングに通って、今までやったことのないアプローチでレッスンをして、もうちょっと声を作っていきたいなと思っています。

――最後に、本作を楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。

一言で言うと本当に奇妙な物語です。でもそこには、それをどう捉えるか、どう感じるか、全てお客様の自由な作品であり、でも、原作者が言わんとすることには、すごく大切なものがあると思うので、そこを私たち演者もお客様に感じ取っていただけるように精一杯頑張りたいと思います。どうぞ気楽にこの不思議な世界を楽しみにいらしていただきたいです。

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』公演情報

上演スケジュール

【東京公演】2024年4月1日(月)~4月14日(日)日本青年館ホール
【大阪公演】2024年4月20日(土)~4月21日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
【名古屋公演】2024年4月26日(金)~4月28日(日)御園座

スタッフ・キャスト

【原作】アンドリュー・カウフマン
【脚本・演出】G2

【出演】
花總まり 谷原章介
平埜生成 入山法子
栗原英雄

中山祐一朗 吉本菜穂子 幸田尚子 楢木和也(梅棒) 西山友貴
吉﨑裕哉 山口将太朗 山根海音 黒田勇  須﨑汐理

あらすじ

その日その銀行には、13人の人々がいた。
窓口係が2人、副支店長が1人、列に並んで待っている客が10人。
そこに紫色の帽子を被った風変わりな強盗が現れた。
天井に向けて一発の銃弾を放つと、強盗は言った。

「今持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」

先頭に立っていた男が100ドル札を差し出した。
強盗はそれを破らせ再び口を開いた。

「言葉の意味をよく考えろ。最も大切な物を差し出すんだ」
13人それぞれが思い出の品を渡すと、強盗は

「私はあなた達の魂の51%を手にした。それによりあなた達の身に
奇妙な出来事が起きる。自ら魂の51%を回復しない限り、命を落とすことになるだろう」

事件から3日後、妻は自分の身長が縮み始めていることに気づいた―。

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』は2024年4月、東京・日本青年館ホールにて上演される。

公式サイト

【公式サイト】https://www.thetinywife.com

(C)2010 by Andrew Kaufman
Used by permission of The Rights Factory Inc. through Japan UNI Agency, Inc., Tokyo

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