戯曲が50年愛され続ける理由――『熱海殺人事件』バトルロイヤル 50ʼs 岡村俊一×多和田任益インタビュー

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戯曲が50年愛され続ける理由――『熱海殺人事件』バトルロイヤル 50ʼs 岡村俊一×多和田任益インタビュー

2023年8月4日(金)より東京・紀伊國屋ホールにて『熱海殺人事件』バトルロイヤル 50ʼsが開幕する。つかこうへいが生んだ、名作戯曲が誕生して50年。『熱海殺人事件』は、つかこうへい没後も様々な形で上演され続けている。

「バトルロイヤル」と銘打った今年は、「スタンダード公演」、「エキサイト公演」「フレッシャーズ公演」を用意。荒井敦史・池田純矢、元乃木坂46の新内眞衣、高橋龍輝・三浦海里、多和田任益に、オーディションにて選出された佐々木ありさ(エキサイト公演)、小日向ゆか(フレッシャーズ公演)、北野秀気(フレッシャーズ公演)を加え、役者たちが板の上でぶつかり合う。

上演を前に、演出の岡村俊一と、今回で『熱海殺人事件』に登場する男役制覇となる多和田に、『熱海殺人事件』が愛され続ける理由について語ってもらった。

目次

現代をとらえ続ける『熱海殺人事件』

――『熱海殺人事件』の戯曲誕生50周年になりますが、岡村さんはずっと傍でご覧になってきて、この作品が長く上演され続ける理由はどこにあるとお考えですか?

岡村:『熱海殺人事件』は、文学座に書き下ろした作品として生まれて、最初は文章だけを渡していたんだけど、つかさんがご自分で演出するようになってからは、目の前にいる俳優によって内容が少しずつ変わっていったんだよね。つかさんがご存命の時代を観ていた方は、「三浦洋一さんがすごかった」とか、「風間杜夫さんがすごかった」とか、それぞれ胸にあると思うんだけど、ご覧になった戯曲自体は、結構違うんだよね。

つかさん自身も、20代前半で『熱海殺人事件』を書いているから、考えも少しずつ大人になっている。とにかく、考えていることによって話の流れを変化させたり、目の前にいる俳優がどう見えるかによってどんどん書き換えていった。そして、日本という国がどうあるかによってまた作品を変えていったのが、まず一つの長く生き延びた理由だと思います。

昔、野田秀樹さんが「戯曲の射程距離」という言葉をよく使っていたんだよね。シェイクスピアが400年上演し続けられるように、そういうものが今の日本の文学にあるだろうか?そういった意味では、この『熱海殺人事件』はまだこの戯曲の射程距離が続いている、まだ現代を捉えているというのが大きいんだと思います。

つかさんがお亡くなりになった後も次々にいい俳優が現れて、 ある時期は馬場徹が支えてくれ、その後、味方良介や石田明(NONSTYLE)が支えてくれた。これからはきっと多和田や荒井の時代になっていくんだろうな。今はもう少し、つかさんのご存命の頃を知っている僕らが「昔はこうだったんだよ」と言えるけれど、ここからまた20年が経った頃には、彼らがそれを伝える世代になっていくのかもしれないね。

――多和田さんは2017年に初めて『熱海殺人事件』という戯曲に携わられましたが、戯曲の捉え方に変化はありますか?

多和田:僕は、2017年の『熱海殺人事件 NEW GENERATION』に熊田役で初めて参加させていただいて、その後、2021年の『新・熱海殺人事件』で同じく熊田を演じましたが、面白い発見があったんです。2017年の多和田にしか分からなかったことがあったり、逆に、当時理解できなかったことが2回目に熊田として立った時に奥行を持って感じられたり。シンプルに「めっちゃ楽しい役じゃん!」って思えたり(笑)。自分が出てない時も観に行かせていただいたりするんですけど、 戯曲の力にちゃんとその時出ている役者たちの魅力が乗っかって、また新たな『熱海殺人事件』になっていると感じるので、マジで「可能性無限大」だなって思いました。

多和田任益は「どの役でもできる」その言葉の真意は?

――ちなみに、全部の役をやることになる役者さんは、多和田さんが初なんですよね。

岡村:多分、他にいないはず。伝兵衛と大山をどちらもやった例があるけれど、熊田までやった人はいなかったと思うな。

多和田:お話をいただいた時は、僕が初めてになるって知らなくて。驚きはありましたけど、役者としてはすごく光栄なことで、自分の糧にもなるので嬉しいなって思いました。僕、岡村さんに聞きたいことがあったんですよ。

岡村:何?

多和田:2017年に声をかけていただいた時、岡村さんが僕のマネージャーに「多和田はどの役でもできるな」みたいなことを言ってくださったって聞いていたんです。このエピソードはもういろんなところで言ってるんですけど(笑)。岡村さんって、いつも役者の奥深くを見てくれている印象があるので、どうしてそう思ってくださったのか聞いてみたくて。

岡村:2017年の時は、味方がいて、黒羽麻璃央がいて、多和田がいたじゃない。3人を並べると、ちょっと強引な印象のする味方、当時はベビーフェイスだった麻璃央、堅実そうな多和田、というように見えたんだよ。あの3人だったから、多和田は熊田になった。伝兵衛と大山は、嘘つきな役じゃない。向いている方向は違うけれど、嘘つきばかりな中で、熊田だけが常識を言う役だから。だから、そもそも熊田は一番常識的な人間がやる役なのよ。当時は一緒にやるの初めてだったけど、何かが歯抜けても多和田はどこへでもいけるって予感があったんだな。

エンタステージ
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――そして、中屋敷法仁さん演出の『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(2020年・2021年)で多和田さんは伝兵衛役を演じられましたが、岡村さんはご覧になって予感は確信に変わった?

岡村:あれは本当に面白かった!そもそも、モンテの伝兵衛は奇怪だから、多和田の奇怪さがよく出ていてとてもよかった。中屋敷がやっていた作品だから、俺は見ていただけだけど、もっと奇怪な、もっと深淵な世界に突っ込んでいける、まだいける可能性を感じたな(笑)。

多和田:岡村さんに「誰でもできる」って言ってもらった時、正直に言うと、喜びつつ、当時の自分は「えっ・・・できないんだけど・・・」って思っていたんです。モンテは、中屋敷さんから「これだけは絶対やってほしい!」って言われて。戯曲を読む会(戯曲探訪「つかこうへいを読む 2019春」)から始まったんですけど、最初はモンテについては阿部寛さんがやっていたことぐらいしか知らないし、映像も観たことなくて。

戯曲を読んだ時も「なんじゃこりゃ~!」と思いながら取り組んでいたんですけど、岡村さんや久保田創さんが観に来てださった時に「よくできるね、ちゃんとできてる」「観たことあるの?」といった声をかけてくださってまた、岡村さんの言葉を思い出しました。

――その時の手応えはご自身にもありましたか?

多和田:すごく可能性が広がった気がしました。熊田をやらせていただいたことは、「役者としてもっとがんばっていきたい」と思えた本当にいい経験であり、「もっとがんばらなきゃいけない」と突き付けられた瞬間でもありました。その漠然と感じていた課題や、自分の限界をモンテの伝兵衛に出会って突破できたというか、そこから僕は、すごく変わった気がします。

「何でも来いや!」みたいな気持ちになれたし、気づいたら芝居をそれまで以上にめちゃくちゃ楽しんでいました。ノーマル熱海の伝兵衛もやりたいなと思ったし、今振り返ると岡村さんの言葉どおり、堅実に自分の中に“積み重ね”ができていると感じることがすごく嬉しいです。

大山という役の印象をいい意味でぶち破っていきたいなと思っています

――今回の大山役も、気合い十分ですね。

多和田:「ついにその時が来た!」みたいな感じでした(笑)。なんだか不思議です。少し前の自分だったらきっと、これまでやった役とは違う立ち位置で同じ作品に向き合うことに不安になったりしていただろうけど、今は全然そんな気はしなくて。むしろ、どうやって自分の積み重ねてきたものを出そうかって考えられています。

でも、僕が大山役をやると聞いて驚いた方も多かったと思うんですよ。ファンの方も、喜びつつ驚いていました。今まで大山役をやってきた方々とは、結構印象の違うタイプだと思いますけど、その印象をいい意味でぶち破っていきたいなと思っています。

岡村:最終的には、水野もやってもらわないとな(笑)。

多和田:あはは!完全制覇したいですね(笑)。

――大山の役作りは?

多和田:不思議なんですけど、今回、あんまり役作りを意識していないんですよ。まずは書かれていることを覚える。やっぱり、つかさんの作品はリズムを掴んで、歌うように台詞が出てくるようになってからがスタートなので。その上で、自分が放った言葉、相手からの言葉を受け取りたいという気持ちです。

だって、自分の心に嘘をつかず、素直に湧き出る気持ちで書かれている台詞を言えば、ちゃんと成り立つ素晴らしい役なんですよ。ある意味で『熱海殺人事件』はすごく役者に優しい。特に大山役は、多分、新人の子がやってもちゃんと良さが出ると思うんです。それぐらい台詞や戯曲にパワーがあるので、それを信じて。あとは自分が発したもので、相手と会話していくことを、今回特に大事にしていて。

大山役なので、アイちゃん(アイ子:水野扮する被害者)を演じてくれる、新内ちゃんやありさちゃんに全力で愛を注ぎたいと思ってやっています。だから(演じる時)めちゃめちゃ目を見てるんですよ。今日、すごく嬉しかったことがあって!新内ちゃんに「たわちゃんってあんまり汗かかないよね」って言われたんですけど、僕、結構かく方なんですよ(笑)。そのあと、よくよく見て「確かに・・・」って言ってましたけど、「汗をかいている」という情報が後追いで目に入っていないぐらい、新内ちゃんもしっかり僕の目を見てくれて芝居をしてくれているから、そういうことを言われたんだと思って。すごく嬉しかった。

まだまだですけど、1つ通じ合えているものがある、受け取ろうとしてくださってるんだと実感できたので、引き続き愛を伝えていきたいなと思いますね。そして、ちょっと面白いシーンでは全力で弾けます(笑)。

戯曲が50年愛され続ける理由――『熱海殺人事件』バトルロイヤル 50ʼs 岡村俊一×多和田任益インタビュー

3バージョン+シャッフル公演!真夏の『熱海殺人事件』は盛りだくさん

――今回は、「スタンダード公演」「エキサイト公演」「フレッシャーズ公演」と3つのバージョンがありますが、お稽古をしていてどんな感じですか?

多和田:稽古は、あっちゃん(荒井)たちとの「スタンダード公演」を中心に進んでいるんですけど、「これがスタンダードだ!」っていう感じが強いです。そうそう、僕、今回の熊田役を演じる高橋龍輝くんのお芝居がすごく好きで。以前、つかさんの『いつも心に太陽を』(2015年)に出ているのを観た時に、この人のお芝居すごくいいなって印象に残っていて。いつかご一緒したいとずっと思っていたので、ようやく叶うという嬉しさがあります。

そして、あっちゃんとは『新・熱海殺人事件』や『改竄・熱海殺人事件』で一緒に戦ってきたし、喜びも悔しさも分かち合いながら一緒にがんばろうとやってきた仲なので、お互いに信頼感が強くて。たぶん、お互い役としてめちゃくちゃ愛し合ってるんですよ(笑)。だから、いい意味で「大山だからこうやろう」とか小手先のことを考えることは一切なく、ガンガンいってやろう!みたいな気持ちです。龍輝くんもバーンと来てくれるから、そのぶつかり合いの中で「今、つかさんの作品やってるな~!」って噛みしめています。

岡村:もともと年少チームだった役者たちが、今や年長チームになってるよな。そうやって、新しい子たちに引き継いでくれたらいいと思ってる。「自分はこう」と思うようにやってもいい部分と、譲っちゃいけない部分、ここを押さえておかないと『熱海殺人事件』にならないという“感覚”を引き継いでもらえば、その人なりの『熱海殺人事件』ができていくから。時代や人に合わせて変化していくことが、この作品が50年上演され続けている理由だから、そこだけは引き継いでいけるように見ていたいね。

――『熱海殺人事件』って、台本を文字で追っているだけでは分からないことがいっぱいありますもんね。

岡村:台本には、書いてないからね(笑)。本人が昔、ガイドブックというか、ト書きでいろんなこと書いたものもあるんだけど、その内容は、世間を煙に巻こうとして書いているだけだから。台詞は特に、嘘ばっかり。書いてあることと意図していることはまったく違う。その“本心”を知らないと、『熱海殺人事件』にはならないからね。

多和田:つかさんのことも、『熱海殺人事件』のこともまったく知らない方が見に来ても、伝わるものがめちゃくちゃあると思うんですよ。めちゃくちゃなシーンもあるんですけど、人間の底にある大事なものだったり、それこそ愛だったり、今の時代に必要なもの、なくなりかけているものがいっぱい散りばめられている作品だと思うので、お客さんにもたくさん伝えていきたいし、知ってほしいです。役者仲間にも、先輩後輩関係なくいろんな人に観てほしいです。観たら、絶対やりたくなるだろうし、悔しくなると思う。作品に帰ってきたら、帰ってきた時の意味があると思うので、今まで培ってきたものを全部出して伝えたいです。

――各バージョンのほか、シャッフル公演もありますね。

岡村:シャッフル公演は、まだ何も決まってない(笑)。

多和田:僕が水野を演じることも・・・?

岡村:あるかもしれない(笑)。

多和田:あっちゃんも、僕の水野で伝兵衛やりたいって言ってました!やる気満々だから今回実現しなくてもいつかは…(笑)。

岡村:3チームの公演でも、その日の出演予定のないキャストが、出られる時に乱入してきたりするかもしれないんだけど、その想定でこの前稽古をしてみたら、多和田が本当に面白くてね・・・(笑)。詳しくは言えないんだけど、見事だったから、ぜひそれも観てもらいたいよね。

多和田:出る予定のなかった人が出てくる可能性がありますからね(笑)。どうなるか?楽しみにしていてください!

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

50周年記念特別公演
『熱海殺人事件』バトルロイヤル50ʼs 公演情報

上演スケジュール

2023年8月4日(金)~8月20日(日) 紀伊國屋ホール

8月15日(火)18:00公演 50周年記念イベント
※通常公演は行わず/キャストは全員出演
8月16日(水)18:00公演 シャッフル公演
※誰がどの役で出るかは、幕が開くまでのお楽しみ
8月8日(火)・9日(水)・13日(日)・18日(金)は、開演前「解説セミナー」付き

スタッフ・キャスト

【作】つかこうへい
【総合演出】河毛俊作
【演出】岡村俊一

【出演】
木村伝兵衛部長刑事:荒井敦史・池田純矢
婦人警官水野朋子:新内眞衣(スタンダード公演)
佐々木ありさ(エキサイト公演)
小日向ゆか(フレッシャーズ公演)
熊田留吉刑事:高橋龍輝・三浦海里
犯人 大山金太郎:多和田任益・北野秀気(フレッシャーズ公演)

チケット
【チケット料金】
7,500円(税込/全席指定)※未就学児童入場不可
学生料金3,000円(学生証提示・当日引換・8月15日・16日除く)
熱海50周年記念割引5,000円(8月8日・9日・13日・18日のみ)

公式サイト

【公式サイト】http://www.rup.co.jp/




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