『キネマの天地』章平インタビュー!「自分を停滞させないことが道を拓く」


2021年6月10日(木)に開幕する『キネマの天地』(6月5日・6月6日にプレビュー公演あり)。本作は、井上ひさしが映画人を描いた作品で、映画出演のために集められた4人の女優たちが巻き込まれる、殺人事件をめぐる“井上流”推理劇。

「助監督」島田健二郎役を演じる章平は、今回演出の小川絵梨子が「独自の目線から物語の中でさらなるドラマを辿ろうとしている」と言う。演劇への愛を描いた作品に、章平自身は役者としてどのように向き合っているのか?自身の様々な体験の話を交えながら、語ってもらった。

――まもなく『キネマの天地』が開幕しますね。

今回、稽古期間を1ヶ月半ぐらい取っていただけたんです。すごく濃厚な時間でした。ご一緒してみたかった役者さんたちに囲まれながら、僕も求められるものに応えられるようにがんばりましたね。

演出してくださる小川絵梨子さんとは、稽古が始まる前からいろいろとお話をしていたので安心感がありましたし、すごく愛を持って役者に寄り添って演出してくださる方なのですごくいいペースで、本番までこれたと思います。

――井上ひさしさんの戯曲は、『天保十二年のシェイクスピア』に続いてですね。

『天保十二年のシェイクスピア』は、シェイクスピアの全戯曲の要素を盛り込むという井上さんらしい遊び心のある戯曲でしたが、この『キネマの天地』は、もっとストレートに井上さんの伝えたいことが描かれている気がしたんですよ。形式は「推理喜劇」なんですけど、それは井上さんにとっては一つの手法にすぎなくて、役者や演劇への愛情を語っているような、愛の詰まった作品だなと感じました。

――この作品、映画が先にあって、その続編として日生劇場で上演されたんですよね。

そうです。しかも、映画が公開されたのと同じ年に。すごいスピード感ですよね。少し話が脱線してしまうんですが、僕、『キネマの天地』の初演舞台のパンフレットを見つけたんです。出演するにあたって、参考になればと思って。

でも、読んでみたら全然舞台のことが書かれていなかったんです。きっと、井上さんの台本がまだ出来上がっていない段階で作らなければいけない状況だったんでしょうね。著名な方からの寄稿や、出演者の方の話も載っていたんですが、書いてあったのは、井上さんのお人柄のことや、映画のことだけで、誰一人舞台の内容には触れていなくて。

すごく読み応えのある内容だったので、おもしろいしお得だなと思ったんですが、舞台の『キネマの天地』のことは全然分かりませんでした(笑)。でも、当時のことや、きっとこういうことを考えて、こうしたかったんだろうなというヒントは感じることができたので、稽古場に「みんなで読みましょう」って持っていきました。

――当時の井上さんの様子が、そこから読み取れますね(笑)。

井上さんの作品を調べたりしていると、蜷川幸雄さんと『ムサシ』をやった時は、台本が全然上がってこないから殺陣稽古をやったとか、台本設定の鎌倉に社会科見学に行ったとか、台本が遅いので、井上さんのお家にみんなで伺ったとか、そういうエピソードが残っていたりするじゃないですか。『キネマの天地』も、そんな感じだったのかなって。

でも、それは井上さんが一言一言を絞り出して、一文字一文字にこだわって書かれているからこそだと思うんですよね。もうお会いすることがかなわないので、エピソードを聞くことから想像するばかりですけど、井上さんの作品が愛され続けている理由はこういうこだわりにあるのかなって、追体験できた気がしました。

――今回、章平さんが演じられるのは?

僕は「助監督」の島田健二郎という役を演じます。映画では中井貴一さんが演じていらっしゃった役ですね。映画は、「田中小春」という女優と助監督の恋愛が物語の中心に描かれていたんですが、舞台はまったく違うテイストです。

映画出演のために集められた4人の女優さんたちが、殺人事件に巻き込まれるという騒動の中で、「監督」のある企みがうまく機能して運んでいくようにと立ち振る舞うバランサーのような立場・・・なのですが、今回は、演出の小川絵梨子さんが独自の目線から物語の中でさらなるドラマを辿ろうとしています。

井上さんが書かれた意図に、小川さんが独自の解釈を加えながら「こういう見方でも作品が成り立つのではないか」という挑戦をしながら、僕らと一緒になって作り上げてくださっています。

――初演が1986年で、2011年にもこまつ座さんで上演されていますね。

約10年ぶりの上演なんですよね。初演やこまつ座さんでの公演をご覧になった方には驚かれるぐらい、これまで上演された『キネマの天地』とは全然違ったものになっているんじゃないかなと思います。

こまつ座さんで上演される時は「これぞ井上ひさしさんだ!」と思える良さがあるんですよね。最近、『日本人のへそ』を観に行って、それを体感してきました。そして、この『キネマの天地』に取り組んでみて、違う解釈でも作品が成り立つという演出のおもしろさも感じています。小川絵梨子さんの解釈の中で、島田健二郎という人物がどう成長していくのか、日々考えながら取り組むのがすごくおもしろいですね。

――7人という少人数のお芝居というのも、密度を上げてくれそうです。

皆さん、素晴らしい方ばかりですし、すごく仲が良いので稽古場もとても雰囲気がいいです。絵梨子さんに「仲がいいのはすごくいいことだけど、舞台上では仲良くないからね」って言われるぐらい(笑)。

絵梨子さんは、いろんな感覚を掴むために、よくシアターゲームをやってくださるんです。同じシチュエーションで即興劇を繰り返す、とか。『キネマの天地』と同じく、“犯人を追求する”というシチュエーションでやった時は、刑事役の佐藤誓さんを中心に即興芝居をやったんですけど、女優さんたちの肝の座り具合がすごかったです(笑)。

劇中でも、厭味ったらしくツッコみあったり、喧嘩する様がかわいらしく愛おしくもあったり。僕も、島田健二郎としていろんな感情が与えていただいています。こういう方たちとご一緒できているというのは、すごく幸せだなと噛み締めています。

――千葉哲也さんとも、再びの共演ですね。

千葉さんと役者として共演するのは『BLUE/ORANGE』と、リーディングSTAGE GATE VRシアター『Defiled-ディファイルド-』に続いて3回目です。演出をしていただいた『BIRTH』を入れるとご一緒するのは4回目なんですけど。

『BLUE/ORANGE』では医者と精神病患者、『Defiled-ディファイルド-』では爆弾仕掛けたテロリストと、刑事でしたが、今回は「監督」と「助監督」なので、今までで一番親しい役どころです。

千葉さんはセッションを好んでくださる方なので、毎晩考えて思いついたことを次の日に「千葉さん、僕はこう思ったんですけど・・・」ってお話して、千葉さんのお考えも聞いて、演出の絵梨子さんと一緒に向かう方向を探っていくという感じで取り組んできました。二人三脚で取り組む相手が千葉さんで良かったなってすごく思います。

――『BIRTH』を取材させていただいた時にも感じましたが、千葉さん、章平さんのことをすごくかわいがっていらっしゃる印象を受けました。

『BLUE/ORANGE』でご縁をいただけたことが、すごく大きかったです。千葉さんは、俳優として辿ってきた道、演出家さんとしての視点、どちらも持ち合わせている方なので、いつも貴重な意見というか、千葉さんにしか言えないだろうなって思う助言をくださるんです。

千葉さん、若手がもがいている姿が好きなんでしょうね(笑)。きっとご自身もそうやって経験を重ねてこられたんだと思いますし、その中で生み出されるものが大きいことを知っているから、いいヒントの出し方をしてくださるんですよ。『BIRTH』で演出していただいた時が、特にそうでした。

『BIRTH』で演じた役は「裏社会の商売助けを仕事にしている男」という役柄だったんですが、自分の中に揺るがないものがある機械のようなアプローチを試してみた日があったんですね。その時に、千葉さんが「相手との関係を完全にシャットアウトしてしまうと、自分のキャラクター一つでそこに立ってしまっている。それは“生”じゃないんだよ」とおっしゃっていたんですね。

それを聞いて、僕はそのチャレンジをしてすごく良かったなって思ったんです。やっぱり、台詞が頭に入っていると関わっている気になっちゃっているんですよね。すごく感覚的な話なんですけど。特に、会話劇だと関わってないことがすぐに露呈するんです。サイコパスのような感じは出ているかもしれないし、言葉を交わしているように見えるけど、生きていない。それは観ている人を冷めさせてしまうよという意味で、千葉さんは言ってくださったんだと思うんですけど。

その時、「自分の気持ちを出していいんだ」って、単純なんですけどすごく大事なことが分かった気がしたんです。『キネマの天地』でも、絵梨子さんに教えていただきながら表現方法をいろいろ模索させていただきました。

人と関わっていく。自己完結しない。当たり前のことなんですけど、実際にやるのはとても難しい。千葉さんが気づかせてくださったことは、多分これからの僕の役者人生においても指標になっていくんじゃないかなって感じています。

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――章平さんは、もがくの好きですか?

・・・もがいている最中は、嫌いです。ははは(笑)。トンネルを抜けた!と思えた瞬間は何回かあって、その時に見える景色は最高なんです。でも、そこまでの道のりは暗中模索というか・・・そういう時って、“暗中”の文字のイメージ以上に、暗くて何にも見えないんですよ。同じところを堂々巡りしていて、飛び出さなきゃいけないという思いは自分の中であっても、なかなかできない。

一番良い例が、2018年に『Take Me Out』の再演をやらせていただいた時だったんです。僕の役は、メジャーリーグのスタープレーヤーだったんですが、演出の藤田俊太郎さんから「章平、それじゃあダメだ。全然スター感が出ていないし、そこに立つ人間としていられていないよ」と言われ続けていてどうすればいいのか分からず、すごく悩んだことがありました。

もう、よく分からなくなりすぎて、ある日、髪型を普段は絶対やらないようなオールバックでビッシビシに固めて稽古場に行ったんです。何か変えなきゃダメだ、と悩みまくった末の苦肉の策だったんですが、その日の稽古で俊太郎さんから「いいじゃないか」って言ってもらうことができました。

吹っ切れるきっかけって、ちょっとしたことなんですよね。本当に繊細なことをやっている芝居って、少しの変化が客観的に観たら全然違って見えるのかもしれない。例えば、稽古場への行き方を変えてみたり、稽古前に飲むものを変えてみたり、そういうちょっとした新しい風を吹き込むことで、自分を停滞させないことがいろんな道を見つけて切り拓いていくことに繋がるのかなって思いました。思いましたけど、やっぱりもがいている時間は嫌いです(笑)。

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――それを素直に言えるって、いいことですね。

どの作品でも、100%じゃなくて、150%、200%と、自分の想像し得る範囲以上のことにどんどん挑戦していかないと。口では簡単に言いますけど。ははは(笑)。それが毎回できるような作品作りをしていきたいなと常々思っています。そのためには、もがくことは絶対に必要だし、絶対に今の自分以上のものを手に入れなきゃいけません。稽古中は苦しいですけど、それができて、お客様に見ていただけた時に快感に変わりますから。だから続けていられるんだなって思います。

――『キネマの天地』でも、章平さんのもがいた結果を楽しみにしています。

『キネマの天地』は、役者とは“どんな生き物なのか”というところを見ていただけるような、一つのドキュメンタリーのような楽しみもあると思います。今お話してきたような、普段の僕たちが取り組んでいる、作品作りの裏側というか。いろんな媒体が出来て、最近はそういった部分も見えることがあると思うんですけど、昭和の役者たちがどんな風にものづくりをしてきたのか考えながらご覧いただいても、楽しいんじゃないかなって思いま8す。ぜひ、楽しみに足をお運びください。

※今年で30歳、デビュー10周年を迎える章平さん。インタビューでは、今までの章平さん、これからの章平さんについて、様々な角度からお話を伺いました。この模様は別途パーソナルインタビューとして公開します。お楽しみに!

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部1号)

人を思うちから 其の参『キネマの天地』公演情報

上演スケジュール

2021年6月10日(木)~6月27日(日)
※プレビュー公演:2021年6月5日(土)、6月6日(日)
※6月10日(木)19:00、11日(金)19:00、18日(金)19:00公演は開演時間を18:00に変更

スタッフ・キャスト

【作】井上ひさし
【演出】小川絵梨子

【出演】
高橋惠子 鈴木杏 趣里 那須佐代子
佐藤誓 章平 千葉哲也

【公式サイト】https://www.nntt.jac.go.jp/play/kinema/

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