2021年11月から東京・明治座で舞台『本日も休診』が上演される。その製作発表会見が10月21日(木)に東京・第一ホテル東京で行われ、柄本明、花總まり、佐藤B作、笹野高史、ラサール石井(演出)が登壇した。
本作は、実在した医師・見川鯛山による人気エッセイ『田舎医者』シリーズを下敷きに書き下ろす新作舞台。昭和40年代の那須を背景に、個性豊かな登場人物たちの交流をユーモラスに描く。見川鯛山役に柄本、その妻・テル子役に花總、村の警察官・茶畠巡査役に笹野、ホテルの主人・楠田役には佐藤といった実力ある俳優陣が顔を揃える。脚本は舞台を中心に名作を生み出してきた水谷龍二。演出はジャンルをこえて多くの作品を手がけるラサール石井が挑む。
会見では、まず挨拶に立ったラサールが「柄本さんからこういうのがやりたいんだということで、ご指名を受けました。素晴らしい豪華キャストで、このまま大河ドラマの発表といっても不思議じゃないぐらいのメンバーです」と称賛。「学生時代に観ていた東京乾電池、東京ヴォードヴィルショー、自由劇場の憧れていた皆さんと、まさかこうやって演出としてご一緒できるとは、学生時代の自分に言ってあげたい気持ちでいっぱいです」と感無量の表情を浮かべた。
続けて、柄本は「見川さん作の素敵なエッセイがたくさんあるんですけど、それがお芝居になります。“戦友”と言える笹野高史、佐藤B作さん、ラサール石井、3人とも自由劇場というところの仲間で、ベンガルさんは東京乾電池の仲間、魁三太郎さん、佐渡稔さんが東京ヴォードヴィルショーの方ということで、同窓会みたいに楽しく稽古させていただいています」と挨拶。
花總は「大先輩の皆さんとご一緒するということで、緊張しております。毎日、稽古場でも緊張しつつ、たくさんのことを勉強させていただきながら、テル子という役を作り上げてまいりたいと思います」と意気込んだ。
笹野は「平均年齢がかぎりなく70歳に近いということもあり、稽古場で今とても心地よく癒やしと安心を感じています。50年も昔に知り合った人たちと、舞台に立てることはすごく嬉しいです。長生きしていたらいいこともあるんだなと思います」と喜びを露わにすると、「こんなに揃って一つの舞台に立てるということで、20代30代の演劇を志している方々に見ていただきたい、恥ずかしくない芝居をしたいです」と思いを述べた。
佐藤は「えもっちゃん(柄本)、笹野とは20代の食えない頃に、六本木の自由劇場でバイトをしながら演劇をしていた仲間で、それが明治座という大きな舞台でできることにびっくりしております。こんなチャンスは最初で最後だなと思っておりますので、精一杯務めさせていただきたいと思います」と意気込みを語り、「本番でこのじじいどもが、どんなアドリブをするのか(笑)それが、ラサールさんには失礼ですけど、ほのかな楽しみですね」と期待を寄せた。
ラサールへ演出を依頼した経緯について、柄本は「昔、新橋演舞場で『浅草パラダイス』シリーズに(中村)勘三郎さんから声をかけていただいて、そこで、シリーズの最後に演出をしていただいたりした関係もあり、そういったところでお願いいたしました」と説明すると、「古くから知ってますし、それにラサールさんも俳優ですから、あうんの呼吸みたいなものがあって、通常の演出家の方よりもやりやすいところがあります」と信頼を寄せていることを明かした。
さらに、見川の魅力に関して、「やはり見川先生の文章がいいですよね。それと昔、森繁久彌先生がTBSで『田舎医者』シリーズをずっと朗読されていて、それ聴いていたんです。見川先生が那須の山の麓に開いた診療所に僕も行ったこともあるんですけど、その村の人たちをモデルにして、面白おかしく、ちょっとエッチなお話から悲しいお話まで、どこか日本の民話を思わせるような、人間というものを俯瞰して、性善説で人たちを見ているという、非常にゆったりとした時間が流れるお話です」と解説。
ミュージカル界のトップを走り続け、本作が明治座初出演となる花總。その印象について、ラサールは「一人一人が座長級の皆さんの中に、花總さんが出ていただいて、一輪の可憐な花のような感じです。その周りでおじいさんが頑張っていて、白雪姫と7人のこびとみたいな感じですね」と笑いを誘うと、「とにかく凛としていて、出てきて立った時に、ライトが当たっていないのに光っているんです。それがさすがですね」と褒めたたえた。柄本は「今まで、マスクをされた花總さんにしかお会いしていなかったので、マスクをしていないお顔に『あぁ宝塚だな・・・』と非常に感動しております」と照れ笑い。笹野も「掃き溜めに鶴ですよ(笑)」と、全員が笑いを交えながら絶賛した。
そんな言葉を受けた花總は「今回ご一緒させて頂いている方は、幅広い世界で演劇というものをやっていらっしゃる大先輩ばかりですので、最初からどういう風に作り上げていくのか、どういう風に役に向き合っていくのか、お芝居の仕方というのをすごく勉強したいので、稽古場では食い入るように見させていただいています」とコメントし、「役柄として鯛山を包み込むように見守る役なので、密かにそういう心づもりで稽古場でも柄本さんを見つめていけたらいいなと思っております」と微笑んだ。
すでに始まっている稽古場の雰囲気を質問されたラサールは「冒頭のシーンの稽古をやっていただいた時に泣きそうになるぐらい感動しました。面白くなるのは間違いないので交通整理を頑張って、一本の面白い作品に仕上げたいと思います」と決意を露わにし、舞台の見どころを「少しですけど花總さんに歌ってもらいます。柄本さんたち3人には踊っていただくので楽しみにしていてください」とアピールした。
20代の頃から50年来の親友である柄本と佐藤と笹野。その仲を“戦友”と表現した柄本は、「本当に戦友ですよ。極端な話、舞台の初日に台詞を言ったら泣いちゃうかもしれませんね」と感極まりながら胸の内を明かした。その言葉に思わず涙ぐんで言葉に詰まってしまった笹野は「歳取ると涙もろくなってしまってね(笑)。俺がここにいてもいいだろうかと思える幸せな安堵感とか癒やしを毎日味わえる稽古場で、初日はなんとか泣かないようにがんばります」と涙を見せながらも笑顔を浮かべた。
佐藤も「20代の3人でいろいろしていたことが昨日のことのように思い出せるんですよね。今日まで、演劇人として生きてこられたことが本当に嬉しいです。また、こういう風に一緒に芝居を作るということができる関係になったのは、怖い面もありますけど、これを最後に死んでもいいかなと思っています(笑)」と冗談を交えてはにかんだ。
最後に、柄本は「1940年代、高度成長期の都会から離れた栃木県の那須ののんびりした村のお話でございます。浮き世離れしたところもありますが、コロナなも含めて、日本というものが忙しい時代ですが、のんびりゆったりした時間というものをお客様に観ていただけたらと思っております。同窓会プラス宝塚の華やかさをぜひご堪能いただけたらと思います」と呼びかけて、会見を締めた。
明治座『本日も休診』は、11月12日(金)から11月28日(日)まで東京・明治座にて上演される。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
明治座『本日も休診』公演情報
上演スケジュール
11月12日(金)~11月28日(日) 明治座
キャスト・スタッフ
【出演】
柄本明 花總まり
渡辺大輔 能條愛未・中島早貴(ダブルキャスト)
佐藤B作 松金よね子 ベンガル/笹野高史
伊藤裕一 佐渡稔 魁三太郎 有薗芳記 谷川昭一朗 菅原大吉
宮下今日子 稲村梓 かんのひとみ 星野園美 仲坪由紀子 ただのあっ子
西村喜代子 上原奈美 西本竜樹 諫早幸作 附田瑞姫
【原作】見川鯛山「田舎医者シリーズ」
【脚本】水谷龍二
【演出】ラサール石井
【公式サイト】https://www.honjitsumokyushin.com/