2017年8月13日(日)より東京・シアタートラムにて上演される舞台『チック』。本作は、世田谷パブリックシアター開場20周年プログラムの一つで、ドイツ・ハンブルグ生まれのヴォルフガング・ヘルンドルフが2010年に発表した「Tschick」という児童文学が原作。開幕に向け、創作が進む稽古場を取材した。
日本でも、原作は2013年に「14歳、ぼくらの疾走:マイクとチック」として出版されている。舞台としては2011年にドイツで初演され、現在でも上演の度にチケットが完売する人気公演となっている。2016年にはドイツで映画化もされ、日本でも9月に「50年後のボクたちは」という邦題で上映されることが決定。舞台版は、柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良をキャストに迎え、一足先に本邦初演となる。
物語は14歳の少年二人が夏休みに車で旅に出る、思春期特有の疾走感と切なさが詰まったロードムービー風冒険譚。退屈な学校生活を送る冴えないマイク(篠山)の日常は、転校生チック(柄本)の出現により一変。二人は、これまでの世界とは違う新しい景色と出会いに満ちた最高の夏を送ることになる―。
稽古場には、すでにステージセットが組まれていた。中央のメインステージには回転する盆が設けられている。この盆回しには役者たちも加わり、シーンを進めていくようだ。稽古開始前、衣裳のサイズ合わせをする柄本の横では、篠山と翻訳・演出の小山ゆうなが稽古に向けた確認をするなど、それぞれ持ち場で作業を進めていた。
アルコール依存症の母(あめく)と、その母と喧嘩ばかりで家庭を顧みない父親(大鷹)と暮らしているマイクは、クラスのマドンナ(土井)をはじめ誰からも見向きもされず友人は居ない。あだ名もつけてもらえない退屈な日常を送っていた。篠山はそのやりきれなさを体当たりで演じている。稽古前に篠山が「この作品は、常にマイクくんの目線で色々なことを見ていく作風になっています」と語っていたように、マイクの語りは作品の中で重要な心の叫びでもある。
対して柄本が演じるのは、そんなマイクの生活に風穴をあけることになる転校生チック。チックについて、柄本は「ロシアからの移民で風変わりな不良の男の子です。物語が進むにつれておもしろい子だということが分かってきますよ」とニヤリ。その上で、「14歳の声って何だろうとずっと考えていますね」と吐露していた柄本だが、風変りで得体のしれない雰囲気をかもし出す役柄に見事ハマっていた。
柄本と篠山を除く出演者3名は、メイン役以外の役も多数こなす。あめくについては、母役のほかに同級生などを演じ、父親役の大鷹も教師役などで様々な表情をみせる。さらに土井ケイトは少年2人が旅先で出会う女の子以外にもマイクが片想い中のクラスメイトや父親の愛人役などをキュートに早変わり、それぞれの演じ分けに注目だ。
夏休みのある日、クラスメイトのパーティに呼ばれず最悪の気分になっていたマイクの前に、チックが車を乗りつけてくる。二人は盗んだラーダ・ニーヴァ車(プーチン大統領の愛車としても知られるロシアのSUV)に乗って、チックのおじいさんが住むというワラキアを目指し旅に出ることに。
本作の大きな見どころポイントとなる、車の旅。狭い車中の演出にはライブカメラが使われ、その映像を大きなスクリーンに投影することで別空間のように表現される。車中のやり取りは、まるで密室をのぞき見している感覚になっておもしろい。さらにラジコンの車も登場するそうで、遊び心も満載だ。
少年二人を演じる篠山と柄本は、いつも一緒にいるそうで、ほのぼのとした空気に包まれていた。そんな二人にお互いについて聞くと「柄本さんはチックそのもの。とても奔放で引き出しが豊富で、いろいろ提示してくださるんです。だから小山さんもそれを活かしていると思います。素直によく見て感じて、その中から一番いいマイクくんの反応を探していけたら」と篠山。それを受け、柄本は「そうなんだ・・・!でも篠山さんのセリフ量がとんでもないから(小山さんの演出は)きっとそこから取り組んでいるのでは?」と照れ笑い。
余談になるが「二人のひと夏の思い出」を聞いてみると、「友人たちと自転車で沖縄を目指したことがありました」と柄本。すると、篠山にも同じく自転車で箱根を目指したという過去が!しかも二人共、本厚木付近で脱落しすぐに戻ってきたという共通点も発覚した。そんな息の合った二人が演じる『チック』は、この夏にぴったりな作品になるに違いない。
最後に、柄本は「27歳(柄本)と33歳(篠山)が14歳の役を演じるという舞台ならではの嘘をついているので、そこはおもしろいと思います(笑)。ぜひ観に来てください」と彼らしくアピール。篠山も「演出とお客さんの想像力でドイツを旅できちゃうはずです。一緒に旅をして、チックとマイクが何かを感じたように、旅を終えた後には皆さんも何かを感じでもらえたら」と熱いメッセージをくれた。
舞台『チック』は8月13日(日)から8月27日(日)まで東京・シアタートラム、9月5日(火)・6日(水)には兵庫県立芸術文化センターにて上演される。
(取材・文・撮影/谷中理音)