2021年8月に東京・大阪で上演されるミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-。原作は19世紀末のイギリスを舞台に、階級制度による悪を取り除き、理想の国を作ろうとする若き天才数学者にして犯罪相談役(クライムコンサルタント)のウィリアム・ジェームズ・モリアーティと、鋭い観察眼で真実に迫る名探偵シャーロック・ホームズの活躍を描く大人気クライム・サスペンス。
シリーズ3作目となる今回は、世界的に有名な未解決事件「切り裂きジャック」を題材に、ウィリアム率いる“犯罪卿”チームと犯罪組織による攻防戦、スコットランドヤード(※ロンドンを管轄する警察組織)と市民による自警団の対立などが描かれる。
魅力的な登場人物たちの心理を歌いあげるドラマチックな楽曲の数々や、スピーディーなストーリー展開と迫力あるアクションシーンに期待が高まる今作について、主演のひとりである鈴木勝吾に、ミュージカル『憂国のモリアーティ』(=モリミュ)の魅力とウィリアムへの理解を自己分析してもらうと共に、歌の奥深さやミュージカルへの想いなども語ってもらった。
(取材・文・撮影/近藤明子)
初演から2作目にかけて少しずつ増した“腑に落ちる”感覚
――初演から約2年が経ち、その間に鈴木さんの中でウィリアム・ジェームズ・モリアーティに対するイメージや演じる上での心境の変化などはありましたか?
大きな心境の変化というよりは、演じていくうちに少しずつですが“腑に落ちる”感覚はありましたね。特に昨年夏の「Op.2 –大英帝国の醜聞–」公演中に「ジャンプSQ.」(集英社)で連載されている最新話を読んだ時には、自分の中で一つの答えが出たような気がしました。
それまでは、ウィリアムたちのやっていることは、どんなに立派な大義名分を掲げようと所詮は犯罪。「彼らの正義感と狂気、果たしてどっちが“表”なのか?」とすっきりしない想いを抱いていたのですが、漫画の中の「人が人を裁く権利など無いと思っている」「僕の手は既に緋色に汚れ切ってしまっている」という台詞を見て、“元も子もない理論”が好きな僕としては、その解釈がすごく気持ち良く思ったんです。
――理想も罪も、全部を自分の中で受け止めた上で、「すべてを失うことになっても自分の中にある正義を信じて貫きたい」というウィリアムの信念?
まぁ、その正義も正義ですらないけれど・・・。でもその台詞から「うん、僕がやっていることは矛盾しているけど、それが何か?」って微笑むウィリアムが想像できて、そこに得心したんですよ。だからこそ彼はシャーロック・ホームズに出会い、最初は犯罪を暴くために彼を利用する計画だったのが、いつしか「自分を“終わらせて”くれる存在」として、好敵手として彼を認めるに至ったと思うんですね。
――今回のOp.3のストーリーは「切り裂きジャック」事件を軸に描かれますよね。
まだ台本は拝見していないのですが、原作漫画では読んでいたのでストーリーは分かっています。でも読んだのは結構前なので細かい部分は忘れていることが多いし、稽古が始まる前には読み返そうと思っています。
――今回のストーリーは、ちょっと前にアニメでも放送されていました。スコットランドヤードと自警団を相手にした犯罪卿チームの信頼感とチームワーク、敵と対峙した時のウィリアムとルイスの息の合ったアクションなど見どころが満載だったので、それがステージ上でどう再現されるのか今から楽しみです。
言ってもそんな若いカンパニーではないですからね。セバスチャン・モラン役の井澤勇貴とフレッド・ポーロック役の赤澤遼太郎以外のメンバーはオーバー・サーティーなので、体力勝負の激しいアクションはそろそろキツイ(笑)。
僕的にはルイス役の(山本)一慶への“信頼”と“愛”でアクションを乗り切っていこうかなと思っています。もちろん脚本・演出の西森英行さんも魅せる演出を考えてくださっていると思いますし、期待していただいて大丈夫です!
歌い方、変わった?本作が積極的に曲を理解して歌う転機に
――今まで多くの作品で歌ってきましたが、その中でもこの『モリミュ』の歌に対しては、どんな印象を持っていますか?
僕はすごく好きです。初演の時、稽古前に仮歌の段階の曲を聞かせてもらって「めっちゃカッコイイ!」と思ったのを鮮明に覚えています。
――日ごろからボイストレーニングに通われたり、稽古前には集中して歌の練習をしているんですか?
僕はボイストレーニングにはそんなに頻繁に行かないタイプです。最近は歌のある作品が続いているのでボイトレに行く時間もなかったりしますし・・・。発声など家でできる練習は欠かしませんけどね。
――音楽担当のただすけさんからは、歌に関してどんなお話がありますか?
ただすけさんからは特に注文されることはないですが、稽古に入る前に演出の西森さんも加わって「この楽曲では、ウィリアムのこういう感情を表現したい」「だったらこのキーがいいかな」といった相談をして、何度か歌いながら微調整が入ることはあります。ただすけさんは僕の声質や音域も全て把握したうえで曲を作ってくださるので、僕から「こうしたい」とお願いすることはないんです。
――ところで、ここ3~4年くらいで鈴木さんの歌い方が変わったように感じます。
3~4年前っていうとミュージカル『薄桜鬼』のHAKU-MYU LIVE 2(2016年8月)の後くらい?その後は『スタミュ』(2017年4月~)があって、しばらくストレートプレイが続いてからミュージカル『憂国のモリアーティ』(2019年5月~)があって・・・。
――久しぶりに『モリミュ』で鈴木さんの歌を聴いて「こういう歌い方をする人だったかしら?」と衝撃を受けたんですよ。
ミュージカル『薄桜鬼』は歌うシチュエーションも限られていたし、僕が演じる風間千景の歌詞はほぼ「誰かをブッ倒しに行く!」でしたからね(笑)。しかも殺陣をしながら歌うシーンが多いので「芝居がこうだからこの音が入る」「この音があるからこういう感情を込めて歌う」といったことを考える余裕もそれを反映させる余地もなかった。積極的に曲を理解して歌うようになったのは、確かにここ数年・・・それこそ『モリミュ』との出会いが転機だったかもしれないです。
――さっきもおっしゃっていたように、最近の鈴木さんはミュージカル作品に出演される機会が本当に増えましたが、ミュージカルはお好きですか?
ん~、実は僕はミュージカルが本当に苦手で・・・(笑)。でも「歌うからには!」みたいな気持ちは当然あるし、毎回試行錯誤しながら、共演者や演出家と相談しながら「どう聞こえるべきか」っていうのはすごく考えて歌っています。ミュージカルも芝居である以上、ひとりでやるものではないし、芝居も歌も両方が出来て初めて成立するもの。そういう意味で、ミュージカルはストレートプレイよりも要求される技術が多い芸術作品だと思います。
ミュージカルを名乗るからには「歌は上手いんだけど、芝居が響かない」「歌はちょっと下手なんだけど芝居は響く」のどちらでもいけない!観てくださる人の期待に応えられるように、そして何より自分自身の決めた合格点を維持し続けるためにも、日々芝居や歌の技術を磨き続けなければいけない、サボっちゃいけないなと思っています。
しっかりと芯に持って届けることが僕ら表現者の使命
――今作から新たに加わるキャストもいますが、Op.3で楽しみにしていることは?
全部が楽しみでしかないです!僕はこの―カンパニーが大好きですし、共演者には絶大の信頼を寄せています。初演からのメンバーはもちろん、Op.2から“犯罪卿チーム”に加わったジェームズ・ボンド役の大湖せしるさんも「さすがだな」というか・・・。僕が言うのもおこがましいのですが、ひとつの山を登ってきた人間だから出来ることがあるというのをお芝居で見せていただきましたし、とても心強く思っています。
今作の新キャストのうち、ザック・パターソン役の輝馬とチャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン役の(藤田)玲くんは過去に共演したことがあるので、どんな芝居をするのかよく知っていますが、ジャック・レンフィールド役の石坂勇さんとアータートン役の奈良坂潤紀さんとは今回が初共演になります。多くの大舞台や映像作品で活躍されてきたベテランお二人の参加でOp.3は確実にパワーアップする自信がありますし、先輩方のお力を貸していただくからには稽古の段階から恥ずかしくない芝居をしていかなければと思っています。
――ミュージカル『憂国のモリアーティ』は階級社会に対し反旗を翻す社会派の作品という一面もあって、「大人も楽しめる2.5次元作品」という印象ですよね。
僕らが出演する作品は、どうしても「2.5次元作品」って言われますよね。ライターさんがニュース記事を書く場合も、俺や平野良くん、ヒデくん(久保田秀敏)、(山本)一慶、井澤(勇貴)、(赤澤)遼太郎、ケンケン(鎌苅健太)、輝馬とか、(藤田)玲くんとか、しゅんりーさん(髙木俊)を紹介する時には、ほぼ100%“2.5次元(ミュージカル)俳優”って肩書を付けるでしょ?(大湖)せしるさんだったら“元・宝塚”って絶対に書かれるだろうし。
――弊社はなるべく避けているんですが、分かりやすくご紹介しないといけない時はどうしても・・・。
まぁ、普段あまり舞台を見ない方たちが読んだ時に、そういった肩書のある方が分かりやすいのも理解しているから僕はいいんですけどね。でも2.5次元だからといって内容が劣っているわけではない!実際に観ていただいた方には「ミュージカル『憂国のモリアーティ』ってすごいね」と言っていただけると自負しているし、そういう作品を創り上げるという思いでカンパニー一同、全力を注いでいきます。
――最後に、鈴木勝吾さんの哲学で読み解く『モリミュ』の一番の面白さを教えてください。
「国を憂う」って、今の日本に最も足りていない言葉だと思うんですよね。国=人だし、人々に希望がなければ国の未来は変わらない。死んでしまったらその人の人生は終わりですけど、自分がいなくなった後もこの国が続くことを信じて「今、変えなきゃ!」という想いで動くことが、歴史の流れの中で何度も繰り返されている・・・。
話がちょっとずれちゃったけど、2.5次元ミュージカルである以上、「カッコ良さ」や「原作の再現性」はもちろん大事ですけど、ミュージカル『憂国のモリアーティ』という作品を通して、それぞれの役者が、演出家が、音楽家が“何”を届けたいのかを、しっかりと芯に持って届けることが僕ら表現者の使命。今作では、登場人物や演じる人たちの人間哲学が垣間見えるのを楽しんでいただけたらと思います。
公演が行われる8月も、まだまだ油断できない状況は続くと思いますが、当たり前のように劇場でエンターテイメントに触れる日常を取り戻すためにも、感染症対策を万全に無事初日を迎えられたらいいなと思っています。
ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊- 公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年8月5日(木)~8月15日(日) 品川プリンスホテル ステラボール
【大阪公演】2021年8月19日(木)~8月22日(日) サンケイホールブリーゼ
スタッフ・キャスト
【原作】構成/竹内良輔 漫画/三好 輝
『憂国のモリアーティ』(集英社「ジャンプSQ.」連載)
【脚本・演出】西森英行
【音楽】ただすけ
【出演】
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ:鈴木勝吾
シャーロック・ホームズ:平野良
アルバート・ジェームズ・モリアーティ:久保田秀敏
ルイス・ジェームズ・モリアーティ:山本一慶
セバスチャン・モラン:井澤勇貴
フレッド・ポーロック:赤澤遼太郎
ジョン・H・ワトソン:鎌苅健太
ジェームズ・ボンド:大湖せしる
ジャック・レンフィールド:石坂勇
ジョージ・レストレード:髙木俊
ザック・パターソン:輝馬
アータートン:奈良坂潤紀
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン:藤田玲
荒川湧太 荒木浩介 伊地華鈴 大澤信児 木村優希 熊田愛里 白崎誠也 田上颯志 永咲友梨 蓮井佑麻 福冨玄刀 若林佑太
Piano:広田圭美
Violin:林周雅
チケット発売スケジュール
【マベメン先行(抽選)】
6月13日(日)23:59まで
マーベラスメンバーズ https://www.marv-m.jp/
【LEncore先行(抽選)】
6月14日(月)12:00~6月20日(日)23:59
ローソンチケット:https://l-tike.com/m-moriarty-op3/
【オフィシャル先行(抽選)】
6月21日(月)12:00~6月27日(日)23:59
ローソンチケット:https://l-tike.com/m-moriarty-op3/
【プレリクエスト先行(抽選)】
6月28日(月)12:00~7月4日(日)23:59
ローソンチケット:https://l-tike.com/m-moriarty-op3/
【一般発売(先着)】7月17日(土)12:00~
ローソンチケット:https://l-tike.com/m-moriarty-op3/
【チケット価格】
一般席:9,000円(税込/全席指定)
プレミアムチケット(※)¥12,000(税込/全席指定)
※プレミアムチケットとは・・・
劇場にてプレミアムチケット限定グッズ(非売品)をプレゼント
【公式サイト】https://www.marv.jp/special/moriarty/
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