2021年6月7日(月)に東京・Bunkamuraシアターコクーンにて、COCOON PRODUCTION 2021 DISCOVER WORLD THEATRE vol.10『夜への長い旅路』が開幕した。本作は、英国気鋭の演出家フィリップ・ブリーンの指揮のもと、大竹しのぶ、4年ぶりの舞台出演となる大倉忠義、初舞台の杉野遥亮、池田成志らが家族の“愛憎劇”に挑む。
『夜への長い旅路』は、ノーベル文学賞受賞、ピュリッツァー賞4回受賞など経歴を持ち、“アメリカ近代劇の父”と称される劇作家ユージン・オニールの遺作。戯曲冒頭には「血と涙で綴られた、古い悲しみの劇」と記され、悲劇的な家族の歴史を人間の真実を突く普遍のドラマに昇華させ、自らの人生に“赦し”を与えたオニールの自伝劇と言われている。
演出を手掛けたブリーンは、シアターコクーンでの舞台作りはこれが4作目。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、イギリスより来日することは叶わなかったが、稽古は英国をリモートで繋いで実施された。
描かれる時代は1912年。夏のある日の朝、アイルランド系移民の俳優ジェイムズ・タイロン(池田)の別荘の居間で、家族が朝食後の団欒を楽しんでいるところから始まる。しかし、その会話から徐々に明らかになるのは、彼らの実像、家族を覆う暗い陰。
父ジェイムズ(池田)は金銭に対する異常な執着の持ち主で、母メアリー(大竹)は麻薬の常習者で精神が不安定、長男ジェイミー(大倉)は父親の脛かじりで酒と女にだらしない放蕩息子で、次男エドマンド(杉野)は肺を病んでいる。メアリーは昔、幼い息子ユージンを亡くしたことで罪の意識にさいなまれていた。
その後、エドマンドを出産し、産後の病気をきっかけにモルヒネ中毒に陥ってしまったのだ。家族の確執が次第にあぶり出されていく中、再びモルヒネに手を出したメアリーが幻覚に襲われ始めて・・・。
オニール家をほぼ忠実に再現したとされるタイロン家の、夏のある一日の物語は、オニール自身が投影された次男エドマンドの視点のみならず、家族4人の個々の内面が深く掘り下げられいる。それぞれの抱える哀切や怒り、後悔や絶望、そして家族間の愛憎、確執が、巧みな会話の応酬の中から見事にあぶり出されていく。
COCOON PRODUCTION 2021 DISCOVER WORLD THEATRE vol.10『夜への長い旅路』は、6月7日(月)から7月4日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーン、7月9日(金)から7月18日(日)まで京都・京都劇場にて上演。
コメント紹介
◆大竹しのぶ
ある日の稽古場で、画面越しに初舞台の(杉野)遥亮くんにアドバイスするフィリップの言葉を聞いて、気が付けば私が深く頷いていたり、稽古場最終日、稽古が終わり「まだまだダメだ」と落ち込む遥亮くんに「私も一緒だよ」と慰めていたら、それを見ていた大倉くんが「俺もだよ、どうしよう」と三人でため息を吐いていると、もうモニターを切ってもいいのにフィリップがまたマイクをONにしてくれて「どうしたの?」と聞いてくれる。6000マイル離れていても、いつもそこにいてくれるんだと思えた瞬間でした。
思っていた以上に大変な戯曲であることが分かり、そして毎回のことですが、フィリップの戯曲の深い理解に感動しながら、稽古を重ねてきました。
それぞれが苦しみや、悲しみや絶望を感じていても、それぞれが大きな愛を持っている。だからこそ切なくて、そして美しい物語です。こんな状況の中でも来て下さることに、本当に感謝です。
◆大倉忠義
段々と家族のような絆が生まれていくような感覚を味わいながらも、馴れ合いではないプロの役者さん達の集中力で稽古が進んでいったことが思い出深いです。そして、稽古を経ても、まだまだこの戯曲の大きさ・深さに驚かされています。
愛憎劇という、なんでこんなに愛しているのに悲しいことばかり起こるのか・・・と思いながら演じています。こんな形の家族を見て、お客様へ何でもいいので何か宝物になるような経験を持って帰っていただけるように頑張りますので、どうぞ愛を持って見守ってください。
◆杉野遥亮
皆さんと稽古をする中で、演技とは芸術で、俳優とは芸術家なんだと学ぶことができました。俳優や演技に対する自分の中の意識がガラッと変わりました。何もかも初めてのことで、こんなに長い時間役と向き合うことが今までになかったから、自分と役との境目がわからなくなったこともありました。自分がどこにいるのか分からない時もあって、これが役に向き合うということなのか・・・初舞台で毎日素敵な経験をさせていただいています。劇場に入り初めて舞台上から客席を見た時はすごくワクワクして、もっともっと稽古をしたいという気持ちもあるけれど、早く観ていただきたいという気持ちも湧いてきました。物語はとても暗く、残酷にみえますが、そんな物語を今この時代に、この瞬間に上演することに意味があり、希望があると思っています。一緒に楽しんでください。
◆池田成志
演出家と海を挟んだ遠く離れてのリモート稽古で、空気感などがお互いうまく伝わっていない部分もあったなとも感じていて、もっと稽古をしたかった・・・。
僕の役は、奥さんのモルヒネ中毒や、息子の病気という心配ごとが多いので、単純な苛立ちに感情をフォーカスしがちになってしまい、治る、きっとうまくいく、というような家族としての基本的な気持ちになかなかたどり着くことができなかった。作品を通して、家族って単純ではないんだな、難しいなと改めて感じました。
この作品は台本が分厚くてものすごい情報量です。身に染みたとか、わからないとか、ここが響いたとか、観てくださった方それぞれに、色々な感情がわいてくると思います。それだけ複雑な内容なんだと僕たちも実感しています。とても苦しくなると思うので、休憩中にいっぱい深呼吸してください(笑)。終わったら、少しだけ気が晴れるような作品にもなっていると思います。
COCOON PRODUCTION 2021
DISCOVER WORLD THEATRE vol.10『夜への長い旅路』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年6月7日(月)~7月4日(日) Bunkamuraシアターコクーン
【京都公演】2021年7月9日(金)~7月18日(日) 京都劇場
スタッフ・キャスト
【作】ユージン・オニール
【翻訳・台本】木内宏昌
【演出】フィリップ・ブリーン
【美術・衣裳】 マックス・ジョーンズ
【出演】
大竹しのぶ 大倉忠義 杉野遥亮 池田成志
土居志央梨
【公式サイト】https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_yoru/